企業法務2010年06月14日 会社の目的はどの程度具体的にすべきか 執筆者:堀明子
登記上の株式会社の目的とは会社の事業内容のことをいいますが、その事業内容として登記実務上、①適法であること、②営利性を有すること、③明確性があること、④具体性があることの4要件を備えていなければならないといわれています。
【適法であること】
文字通り法に適っている必要があるということですが、端的に表現すると「会社は強行法規または公序良俗に反する事業を目的とすることができない」ということです。例を挙げると、「債権の取立業務」は弁護士法第72条に抵触し、かつ、会社法上、商行為ではないため、会社の目的とはなりえない(昭35.11.26民甲2966)等です(弁護士法の特例として許可を受けた株式会社を除きます。)。
【営利性を有すること】
株式会社は利益を上げ、その利益を株主に分配することを目的とする法人であることから、逆にいうと利益を株主に分配できない事業内容の法人は株式会社たり得ないということになります。つまり、営利性のない事業内容の場合、登記上の株式会社の目的として登記をすることができません。例えば、会社の目的を「社会福祉への出費ならびに永勤退職従業員の扶助」や、「会社および業界利益のための出費ならびに政治献金」等とはできないということです(昭40.7.22民四242)。ただしここで言っているのは、あくまで株式会社の目的としてこれら行為を登記できないということのみで、株式会社がこれらの行為を為すこと(出費並びに政治献金等)を妨げるものではありません。
【明確性があること】
株式会社が会社として活動していく上で、会社の目的たる事業は明確である必要があります。登記が第三者に広く公示をすることを手段としている以上、当然のことといえるでしょう。
【具体性があること】
明確性があることについてと共に、株式会社がどのような事業を営むのか判断できる程度に具体的である必要があります。
この具体性については、どの程度具体的である必要があるか主観的な判断が入る余地があることもあり、以前から会社の設立登記に際し設立者が事前に法務局に相談に行くケースが散見されました。しかし、平成18年5月施行の会社法以降、会社の目的の具体性については、登記官の審査の対象外とされたことを受け、現在ではその具体性に関し問題になることはほとんどなく、会社の目的が問題となることが多い会社設立時においても、公証人によって定款が適法に認証されている以上は、法務局で認証された定款の効力が否定されるのは、定款に誰が見ても明らかな瑕疵がある場合に限られるようになっています。
そのため、現在法務局では単に「卸売・小売業」、「サービス業」、「卸売・小売業以外の事業」と記載している場合でも受理する方向性になっているようですが、取引の安全に配慮すべく、株式会社として、取引上重要な事項を登記簿に記載して、広く一般に公開するという登記の本来の趣旨に鑑み、専門用語辞典を含めた各種の事(辞)典類に掲載されている用語や新聞、専門雑誌程度の情報を参考に極力明確に定めることをお勧めします。
当然ながら会社の目的は会社の設立者・経営者が決めるものです。「この目的は登記できますか。」と法務局に受け入れられる選択肢から会社目的を選ぶのではなく、上述の要件に照らし、自分なりに会社の事業内容について精査し、各種の事(辞)典、新聞、雑誌等で調査の上、登記申請をし、登記官から会社の目的についてたずねられた場合には、自ら専門用語辞典のコピーや新聞の切抜き等の資料を提示して説明ができる程度にまとめることが、株式会社の設立者・経営者として経営に関わる者の責務であるといえるでしょう。
(2010年6月執筆)
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