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民事2010年02月18日 離婚慰謝料の請求 執筆者:宇田川濱江

 厚生労働省の平成20年人口動態統計によると、同年における離婚件数は25万1136組で、平成14年を境に減少傾向がみられます。
 しかし、家庭裁判所で扱う離婚調停・離婚裁判の件数は、いずれも増加しています。
 さて、わが国における離婚方式は、夫婦の協議による届け出のみでまったく制限なく離婚できる場合と、裁判所で行う離婚(調停離婚、審判離婚、裁判離婚、訴訟上の和解離婚)に大別されますが、圧倒的に協議離婚が多いというのが実情です。
 協議離婚は、法定の離婚原因などに関係なく、夫婦の自由な意思で離婚の条件なども決めることができます。慰謝料の多寡なども当人が納得すればよいわけです。当事者間で納得が得られない場合に裁判所での解決を選択することになります。
 ところで、近年、裁判所での離婚手続きを希望する人が増えている理由は何でしょうか?
 まず、離婚に対する庶民の感覚が昔とずいぶん変わってきたことが上げられます。離婚を家の恥とか罪悪視する風潮も薄らぎ、今ではご存知のように「バツイチ」「バツニ」などと呼ばれ一般に通用する言葉となっていますから、離婚が抵抗感無く受け容れられるようになってきたと言えると思います。
 また、婚姻も離婚もかつての家制度から解放され、夫婦個人の意思が尊重されるようになったことの外、裁判上も財産分与の制度が具体的に確立してきたこと(2分の1ルールや年金分割など)、子供の養育費の算出方法がルール化されてきたことなどが考えられます。さらには、家庭裁判所を訪ねることにも抵抗感がなくなってきたとも言えます。
 離婚に伴う慰謝料はどのように理解されているのでしょうか?
 離婚の法律相談に弁護士事務所を来訪される方は、男性女性を問わず、離婚原因は相手方にあるから離婚して慰謝料を請求したい、という相談が多い。勿論子供の問題や財産分与の問題も含まれますが、色々な意味で相手が悪い(有責)のであるから、慰謝料を請求できるのは当然であるとの論法です。
 しかし、不貞や悪意の遺棄など明らかに相手方が有責と認められる離婚原因であれば、離婚が認められ、慰謝料も請求できますが、具体的なケースになると、実際にはそもそも離婚自体が認められるかどうか、判断の難しい場合が多いのです。
 「慰謝料」の法的性質は、不法行為(要件は①故意又は過失、②権利侵害、③損害、④因果関係)に基づく精神的損害に対する損害賠償請求権です。夫婦は互いに貞操義務、同居・協力・扶助義務を負い、これらを遵守して夫婦の平穏な共同生活を維持して行く権利と義務がありますが、平穏な夫婦の共同生活を破綻させたと言える行為は一様ではありません。
 裁判上認められる離婚原因は?
 「二人とも30年連れ添い還暦を迎える夫婦。夫はもともと食べ物の好き嫌いが多く、妻の作る料理に文句ばかり言い続け、とうとう妻の支度する食事は口にしなくなってしまった。結婚しなければよかったなど夫の言葉の暴力が続き、妻はとうとう心の病のため精神科へ通院するようになってしまった。離婚調停を申し立てたが夫は応ぜず不調に終わった」。このケースは長い婚姻生活の間における双方の不満が積み重なり、結局妻は家を出てしまい、離婚訴訟によらざるを得なくなりました。本例では民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうか(婚姻関係が破綻して回復の見込みがないこと)が問題となります。
 東京家庭裁判所公表の実情(平成16年4月1日より3年間の既済事件の分析結果)によれば、離婚請求をするのは男性より女性の方が多い。また離婚請求は上記の5号事由が圧倒的に多く、その内訳としては性格の不一致と暴力が多く、異性関係、精神的虐待、長期間の別居、生活費、浪費と続いています。
 このデータからも明らかなように離婚原因とされることの多い「婚姻を継続し難い事由」という要件は、極めて抽象的な表現であって、実際問題としてどういう事情ならば離婚もやむを得ないものとして認められるのかは非常に難しい問題です。とくに慰謝料が絡んでくると、有責か否かの判断をせざるを得ません。つまり夫婦間の不和が上で述べた不法行為の要件に該当するか否かの判断です。
 最後に、離婚に伴う慰謝料の額について触れます。
 慰謝料つまり精神的損害を計量的に金銭で表すことは出来ません。したがって慰謝料の額は、結局は個々の事案ごとに裁判官が判断して決める以外にありません。上記東京家庭裁判所の実情によれば、裁判所が認容した慰謝料は500万円以下(320件中302件)が94.3%で圧倒的に多い。そのうち100万円以下が320件中86件です。慰謝料の認容額については、当事者が妥当と考えている額よりかなり低い場合が多く、訴訟を提起する際に代理人としては悩むところです。
 しかし、今後裁判における離婚原因につき破綻主義が徹底してくると(有責かどうかを問わず婚姻が破綻した場合には離婚を認める)、離婚給付の中心は財産分与の問題となり、慰謝料請求に伴う有責性の程度や慰謝料の額の問題はより限定されることになり、離婚訴訟の内容も変わると考えます。

(2010年2月執筆)

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