カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

経営・総務2021年03月18日 人員削減を前提とする事業譲渡と労働契約の承継 執筆者:大西隆司

1 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業活動も大きな制約を受けており、今後、企業の事業収益の悪化による廃業や一部事業の存続のため事業譲渡などの組織再編も増えていくものと思われます。
 このような影響下における事業譲渡では、譲渡対象の事業は譲渡人である会社又は事業者(以下「事業譲渡人」といいます。)から譲受人である会社又は事業者(以下「譲受人」といいます。)に引き継ぎながら、事業譲渡人において、自社を存続させつつ人員削減を行うことや譲渡後の事業を廃して会社を清算する事例も多くなるものと予想されます。
 このような事業譲渡の事例では、事業譲渡の対象とされず事業譲受人に引き継がれなかった労働者から、自己の労働契約の帰属について紛争が起こる可能性があります。そこで、裁判例を通じて、事業譲渡における労働契約の承継について考えてみたいと思います。

2 事業譲渡は、事業譲渡人と事業譲受人との事業譲渡契約に、譲渡の対象事業を定めて譲渡するため、個別の労働者の労働契約が承継されるかどうかは、事業譲渡契約における当事者間の合意を基準として判断することが基本となります。(東京地判H9.1.31や東京高判H17.7.13などの裁判例において、事業譲渡において労働契約は当然に承継されるものではなく、事業譲渡契約の内容によることが前提とされています。)
 特に、事業譲渡人側において、労働者を全員解雇又は労働関係の清算をすることが確認され、事業譲受人の側では、必要な者のみを採用することなど労働契約を承継しない旨を事業譲渡の当事者間で明確に合意されていた場合は、労働契約承継を否定する傾向にあります(東京地判H9.2.19、東京高判H17.7.13、大阪地判H18.9.20、大阪地判H21.1.15等)。
 一方、労働契約を承継しないとの明確な合意がない場合に事業譲受人が事業譲渡人の従業員全員を雇用していた事案(大阪地判H11.12.8、但し、当時の用語は営業譲渡となっています。)では、営業譲渡がなされたからといって譲渡人とその従業員との雇用契約が当然に譲受人に承継されるわけではないとしつつ、譲渡の対象となる営業には従業員との雇用契約も含まれていたとして、整理解雇の要件を満たさず譲渡人の解雇が無効である従業員・譲渡人間の雇用契約の譲受人への承継が認められました。
 労働契約を承継しないことを明示しない事案では、譲渡対象についての裁判所による当事者の合理的な意思の解釈により事業譲受人に労働契約が承継される可能性もあるところです。

3 事業譲渡契約の解釈では事業譲渡人から譲受人に労働契約が承継されないとされる場合であっても、事業譲渡人と事業譲受人との実質的同一性や法人格否認の法理により労働契約の承継を主張されることがあり、裁判例においても、これを肯定した例があります。
 同一性判断において、両者の間の役員構成、本店所在地、従業員の採用状況、設備、名称などから事業譲渡人と事業譲受人との間で、上記事項がほぼ同一とされる場合(大阪地決H6.8.5、仙台高判H20.7.25)や、関連会社との関係及び実質的オーナーが一体として経営している点(奈良地決H11.1.11)、取引先と事業譲渡会社との関係及び代表者間の人的関係からの支配関係(長崎地判H27.6.16)などの点からもその独立性があるかどうかが判断されています。
 また、組合活動を行う従業員を解雇法理の適用を受けずに排除する意図をも併せもって行われたものと認められるから、法人格の濫用があるとした裁判例(大阪地決H6.8.5)や組合員を排除する目的をもって運送事業を廃止し、組合員らとの雇用関係を除いた事業を支配下の別会社に無償承継させて実質的に組合員のみを解雇したとして法人格濫用を認定した事案(長崎地判H27.6.16)のように、一部の労働者の労働契約を恣意的に排除した事案では、解雇無効、事業譲受人への労働契約の承継を認められる可能性があり、労働者を公正に取り扱わなければならない点には注意しておく必要があります。

(2021年2月執筆)

人気記事

人気商品

執筆者

大西 隆司おおにし たかし

弁護士(なにわ法律事務所)

略歴・経歴

なにわ法律事務所URL:http://naniwa-law.com/

「大阪産業創造館 経営相談室「あきないえーど」 経営サポーター(2012年~2015年3月、2016年~2019年3月、2020年4月~)」、関西大学非常勤講師(2014年度〜2016年度)、関西大学会計専門職大学院非常勤講師(2017年度〜)、滋賀県商工会連合会 エキスパート登録(2013年~)、大阪弁護士会遺言相続センター登録弁護士、大阪弁護士会高齢者・障害者支援センター「ひまわり」支援弁護士。

著書
『特別縁故者をめぐる法律実務―類型別のポイントと書式―』(新日本法規出版、2014年)共著
『法務・税務からみた相続対策の効果とリスク』(新日本法規出版、2015年)相続対策実務研究会代表大西隆司(なにわ法律事務所)編著
『事例でみる事業承継の実務―士業間連携と対応のポイント―』(新日本法規出版、2017年)編著
『〔改訂版〕事例でみるスタンダード相続手続―士業間連携による対応方法―』(新日本法規出版、2018年)編著等
『事例でみる スタンダード債権回収手続―専門家の視点と実務対応―』(新日本法規出版、2019年)編著
『相続対策別法務文例作成マニュアル―遺言書・契約書・合意書・議事録―』(新日本法規出版、2020年)著等

執筆者の記事

関連カテゴリから探す

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索