民事2008年06月24日 最近のクレサラ事件の現状 執筆者:高見澤重昭
1 クレサラ事件の質的変化
クレサラ事件はここ数年で質的に変化しています。以前、クレサラ事件といえば、いかに多重債務者を借金地獄から救済するかが主眼でした。多重債務事件に興味のある一部の弁護士が、社会的な弱者である多重債務者救済のために、少ない報酬で献身的に事件を処理してきたと言っても過言ではないと思います。
2 過払金請求
ところが、ここ数年貸金業者に対する過払金返還請求がマスコミで大きく取り上げられるようになり、過払金の回収が社会的に注目されるようになりました。今では、地方公共団体でさえも、税金の滞納分として納税者の貸金業者に対する過払金債権を差し押さえるようになりました。
そのため、最近のクレサラ相談では、貸金業者と長年取引しているので、過払金の返還請求をしたいという相談が増加しています。過払金請求は、1社で数百万円を回収することが珍しくないので、借主にとって重大な関心事となります。
クレサラ事件処理が、多重債務者の救済の面よりも、貸金業者に対し、いかに過払金を請求するかという債権回収の側面が重要になってきたのです。
3 過払金請求者の事情
過払金を請求しようとする方の中には、弁護士に支払う報酬は念頭になく、ただ少しでも過払金を回収して自分の収入にしたいという方もいます。
また、取引継続期間中に過払金を回収しようとすれば、一旦支払いを停止することになるので、信用情報機関に登録されることになり、今後の借入が困難となります。ところが、このような所謂ブラックリストの登載までは念頭になく、ブラックリストの話をすると過払金の請求を止める方もいます。
さらには、他の貸金業者から借入をして、借入金を完済したうえで過払金を請求しようとする方さえ出てきました。
4 弁護士の事情
過払金の回収は、貸金業者が以前のように「みなし弁済」を主張することがほとんどないので、訴訟を提起しても通常第1回の期日前に和解が可能です。そのため、簡単にしかも短期間に回収ができます。しかも多額の弁護士報酬が見込まれるために、積極的に事件を受任する傾向にあります。
現在の弁護士会の報酬基準では、過払金回収額の2割程度が弁護士報酬ですので、弁護士にとっても大きな収入です。
特に、最近は一般民事事件が小型化する傾向にあり、弁護士の売上も減少傾向にあると言われています。そのため、過払金の回収に従事する弁護士は今後も増加すると思われます。
5 貸金業者の事情
これに対し、貸金業者は悲鳴を上げています。中小の貸金業者は、現在貸付けを停止しているところがほとんどです。それにもかかわらず、過払金請求が増加傾向にあるために、会社の経営が成り立たないのです。サラ金業者で生き残れるのは、おそらく大手都市銀行と提携した数社に限られると思います。
過払金請求は今年になっても増加傾向にあると言われています。その原因は、既に完済した貸金についても過去に遡って過払金返還請求を行う事例が増加しているからです。
6 クレサラ事件処理の将来
しかし、貸金業法の改正により、貸付け利率が利息制限法の上限にまで引き下げられれば、将来過払金請求はなくなります。既に一部の大手貸金業者は、貸出利率を引き下げています。過払金請求がなくなれば、弁護士が多重債務者の依頼者から報酬を得ることは困難で、わずかな報酬で事件処理をせざるを得なくなります。
過払金請求がなくなった段階で、弁護士がクレサラ事件をどのように処理するのか、現時点では誰も予測できません。
(2008年6月執筆)
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