カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

民事2017年10月18日 相続法改正の追加試案について 発刊によせて執筆者より 執筆者:高橋恭司

 昨年(2016年)7月に、法務省から相続法改正に関する中間試案に関する意見募集が行われたのは記憶に新しいところですが、2017年8月に、改めて相続法改正に関する意見募集が行われました。
 法制審議会民法(相続関係)部会では、2016年の意見募集後も審議を続けており、今回の意見募集は、昨年の中間試案後に追加された試案(追加試案)に関する意見募集となります。
 追加試案の内容は、遺産分割と遺留分に分かれ、このうち、遺産分割に関するものが4つあります。以下、それぞれについて、概要と私見を簡略に説明いたします。

<遺産分割に関する追加試案>

1 配偶者保護(持戻し免除の意思表示の推定)
 婚姻期間20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対して居住用不動産の全部または一部を遺贈又は贈与した場合、持戻し免除の意思表示があったとの推定規定を創設するものです。
 遺産における居住用財産の比率が高い場合、配偶者が住み慣れた自宅を取得しようにも代償金を支払うことができず住処を失うことは珍しくありませんが、通常、被相続人はそのような結果を望んでいなかったでしょうから、推定規定を設けることは妥当ではないでしょうか。

2 仮払い制度の創設
 預金に関する最高裁決定(平成28年12月19日最高裁大法廷決定、判タ1433・44)により、遺産分割成立までは預金の払戻しができなくなりましたが、生活費・葬儀費用・相続債務の弁済等の預金払戻しの必要性が考えられるため、遺産分割成立前に預金の払戻しを受けられるようにしようという制度です。
 方策としては、①家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策と、②預金債権の一定額に法定相続分を乗じた額について法定相続人単独の権利行使を認める方策とが提示されています。
 迅速・簡便な払戻しを重視すれば②が妥当ですが、緊急の必要性がない場合まで単独での権利行使を認めるべきではないことに鑑みれば、①に基づき要件を吟味すべきではないかと思われます。

3 一部分割
 民法907条を改正し、遺産の一部のみを分割することが可能であることを明文化するものです。
 現行法でも、協議により一部分割はできますので、明文化自体に特段問題はないと思います。ただし、所有者不明不動産の増加が問題視されている情勢に鑑みると事実上の問題はあろうかと思います。

4 遺産分割前の財産処分
 共同相続人の1人が遺産分割前に遺産を処分した場合の取扱いについて、①処分された財産を含めた遺産分割を可能とする、または②処分者に対する償金請求によるとする案です。
 預金に関する前掲の最高裁決定を前提にすると、「銀行が相続発生を知る前に預金が引き出された場合」への適用が想定されますが、この場合、具体的相続分を反映しつつ紛争を一回的に解決することを考慮すると、①が妥当ではないかと思われます。

<遺留分制度に関する追加試案>

 遺留分減殺請求の内容について、現行法では、遺留分減殺請求権が形成権であることを前提に、請求者が遺産を一部取得してその引渡しを求める内容となりますが、追加試案は、遺留分減殺請求の内容を金銭請求とし、被請求者が受遺財産現物の給付を選択できるようにするものです。
 皆様もご存知のとおり、実務上、遺留分減殺請求者は金銭支払を希望することが多く、被請求者側においても価額弁償を選択することが多いため、理論的根拠はともかく、制度自体は社会に受け入れられやすいと思われます。ただし、追加試案に示された被請求者による現物財産交付の手法(財産指定)については、遺留分権利者が利用価値の低い財産を押し付けられる危険があると危惧されます。

 まだ意見募集の段階なので、これらがそのまま制度化されるとは限らず、また、改正法がいつ成立するかも不明ですが、遺言作成や相続対策プランニングをする場合には、将来相続が発生した時点において「このような改正がなされている」可能性が十分にあることを踏まえ、中間試案と追加試案の内容を念頭に置くべきでしょう。

(2017年9月執筆)

人気記事

人気商品

発刊によせて執筆者より 全71記事

  1. 発刊によせて
  2. 税理士事務所経営のささやかな羅針盤となるように
  3. 相続問題に効く100の処方箋
  4. 相続土地国庫帰属制度の利活用促進の一助になれば
  5. 患者と医療従事者とのより望ましい関係の構築を願って
  6. 遺言・遺産分割による財産移転の多様化と課税問題
  7. 専門職後見人の後見業務
  8. 不動産の共有、社会問題化と民法改正による新しい仕組みの構築
  9. 登記手続の周知
  10. 育児・介護休業制度に対する職場の意識改革
  11. メンタルヘルスはベタなテーマかもしれないけれど
  12. 持続可能な雇用・SDGsな労使関係
  13. 自動車産業における100年に1度の大変革
  14. 中小企業の事業承継の現状と士業間の連携
  15. 消費税法に係る近年の改正について
  16. コーポレートガバナンスと2つのインセンティブ
  17. 労働者の健康を重視した企業経営
  18. 被害者の自殺と過失相殺
  19. <新型コロナウイルス>「株主総会運営に係るQ&A」と中小企業の株主総会
  20. 意外と使える限定承認
  21. 保育士・保育教諭が知っておきたい法改正~体罰禁止を明示した改正法について~
  22. 筆界と所有権界のミスマッチ
  23. 相続法改正と遺言
  24. 資格士業の幸せと矜持
  25. 労働基準法改正への対応等、ケアマネジャーに求められる対応は十分か
  26. 人身損害と物的損害の狭間
  27. <新債権法対応>契約実務における3つの失敗例
  28. 新債権法施行へのカウントダウン - 弁護士実務への影響 -
  29. 不動産売買における瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換の影響
  30. 子を巡る紛争の解決基準について
  31. 所有者不明土地問題の現象の一側面
  32. 相続法の大改正で何が変わるのか
  33. 民法改正による交通事故損害賠償業務への影響
  34. 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪
  35. 身体拘束をしないこと
  36. 合同会社の設立時にご検討いただきたい点
  37. 社会福祉法人のガバナンスが機能不全している実態が社会問題に
  38. 借地に関する民法改正
  39. ただの同棲なのか保護すべき事実婚なのか
  40. 農地相談についての雑感
  41. 瑕疵か契約不適合か 品確法は、改正民法に用語を合わせるべきである
  42. 外国人受入れ要件としての日本語能力の重要性
  43. 相続法改正の追加試案について
  44. 民法(債権法)改正
  45. 相続人不存在と不在者の話
  46. 財産分与の『2分の1ルール』を修正する事情について
  47. 離婚を引き金とする貧困問題と事情変更による養育費の変更
  48. 建物漏水事故の増加と漏水事故に関する終局的責任の帰趨
  49. 働き方改革は売上を犠牲にする?
  50. 次期会社法改正に向けた議論状況
  51. 消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29.1.24) 」の及ぼす影響
  52. 「買主、注意せよ」から「売主、注意せよ」へ
  53. 障害福祉法制の展望
  54. 評価単位について
  55. 止まない「バイトテロ」
  56. 新行政不服審査法の施行について
  57. JR東海認知症事件最高裁判決について
  58. 不動産業界を変容させる三本の矢
  59. 経営支配権をめぐる紛争について
  60. マンションにおける管理規約
  61. 相続法の改正
  62. 消防予防行政の執行体制の足腰を強化することが必要
  63. 最近の地方議会の取組み
  64. 空き家 どうする?
  65. 個人情報保護法、10年ぶりの改正!
  66. 最近の事業承継・傾向と対策
  67. ネーム・アンド・シェイムで過重労働は防止できるのか
  68. 離婚認容基準の変化と解決の視点
  69. 境界をめぐって
  70. 妻の不倫相手の子に対しても養育費の支払義務がある?
  71. 個別労働紛争解決のためのアドバイス
  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索