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一般2023年04月26日 ロシア選手の国際大会出場に関する問題の概観 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:簑田由香

1 はじめに
 2023年3月28日、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee, “IOC”)から、各国際競技連盟(International Federation, “IF”)や国際大会の主催者に対し、ロシア及びベラルーシの選手の中立選手としての国際大会出場を認めるよう勧告が出されました1。上記勧告を始め、近年、ロシア選手の国際大会出場に関する問題について様々な議論が行われ、動きが見られています。
 そこで、本稿においては、ロシア選手の国際大会出場に関する主要な問題である、①組織的ドーピングの問題と、②ウクライナ侵攻の問題について、問題の所在や昨今の状況等を概観したいと思います。

2 ①組織的ドーピングの問題
 ロシアについては、2014年12月に陸上競技における組織的ドーピング、2016年5月に2014年ソチオリンピックにおける組織的ドーピングの問題が告発され、大きな問題となり、2016年リオオリンピックへのロシア選手の参加可否等が議論されました。
 さらに、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency, “WADA”)は、ロシア国内アンチ・ドーピング機構(Russian Anti-Doping Agency, “RUSADA”)が、上記各組織的ドーピングの問題に関してWADAに提供すべきモスクワ検査所のデータの改ざんや隠蔽工作を行い、世界アンチ・ドーピング規程(World Anti-Doping Code)に違反したとして、2019年12月9日、ロシア選手等による主要な国際大会への参加等について4年間資格停止とする処分を行いました。当該処分は、スポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport, “CAS”)において争われ、CASは、2020年12月17日、上記違反があったと認定し、ただし資格停止期間は2年間としました2。なお、ロシア選手が個人資格で国際大会に参加することは認められました。
 また、世界陸連(World Athletics, “WA”)は、上記組織的ドーピングを理由に、2015年11月以降、ロシア陸連に対して資格停止処分を課していました34

3 ②ウクライナ侵攻の問題
 さらに、ロシアは2022年2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を行いました。IOCは、同月28日、IFや国際大会の主催者に対し、ロシア及び同国を支持したベラルーシの選手及び役員を国際大会に招待し又は参加させないよう勧告しました5。当該勧告に従い、各IFにおいてもそれぞれ措置が講じられました。
 その後、ロシア及びベラルーシの選手の国際大会への出場の可否については、利害関係者等による議論が行われ、2022年12月9日に開催された第11回オリンピックサミットでは、IOCに対し、ロシア及びベラルーシの選手の国際大会への復帰を模索するよう要請が出されました。当該要請を受けて、IOCは、2023年3月28日、上記勧告から一部方針を変更し、IFや国際大会の主催者に対し、ロシア及びベラルーシの選手の中立選手としての国際大会出場を認めるよう新たな勧告を出しました。新たな勧告の概要は、次のとおりです。

(1) ロシア及びベラルーシの選手は、個人の中立選手としてのみ、競技に参加しなければならない。
(2) ロシア及びベラルーシの選手によるチームについては、考慮されていない。
(3) 積極的に戦争を支持する選手・サポート人員は、出場・参加できない。
(4) ロシア及びベラルーシの軍又は国家安全保障機関と契約している選手・サポート人員は、出場・参加できない。
(5) 個人の中立選手は、他の全ての選手と同様、適用のある全てのアンチ・ドーピング要件、特にIFのアンチ・ドーピング規則に定められた要件を満たさなければならない。
(6) 戦争について責任を負うロシア及びベラルーシの国家及び政府に対する制裁は、継続されなければならない。
 (a) ロシア又はベラルーシのIF又は国内オリンピック委員会(National Olympic Committee, “NOC”)が主催又は支援する国際大会は、認められない。
 (b) 会場全体を含め、スポーツの国際大会又は会議において、ロシア又はベラルーシの国旗、国歌、ナショナルカラー等を表示することは認められない。
 (c) ロシア及びベラルーシの政府・国家関係者について、スポーツの国際大会又は会議に招待し又は資格を与えてはならない。

4 IFの動向
 上記各動向を受けて、IFにおいてもそれぞれ様々な対応が検討され、開始されると考えられます。
 一例として、WAは、①組織的ドーピングの問題については、ロシア陸連に対する制裁を解除する姿勢を見せた一方で、②ウクライナ侵攻の問題については、ロシア及びベラルーシに対する制裁を維持する方針としました6。なお、②ウクライナ侵攻の問題に関しては、WAの方針決定の後に、IOCから新たな勧告が出されましたが、WAは、当該勧告後も制裁を維持する方針を継続する意向を表明しています7

5 おわりに
 以上のとおり、ロシアの国際大会出場には、①組織的ドーピングの問題と、②ウクライナ侵攻の問題という複数の複雑な問題が関係しています。2024年パリオリンピックが近づいており、各問題に関して、今後IOCやIF等、関連団体による動きがより活発になると考えられ、継続して着目していきたいところです8

1 IOC, Following a request by the 11th Olympic Summit, IOC issues recommendations for International Federations and international sports event organisers on the participation of athletes with a Russian or Belarusian passport in international competitions, March 28 2023,
 https://olympics.com/ioc/news/ioc-issues-recommendations-for-international-federations-and-international-sports-event-organisers,
 last visited April 19, 2023
2 CAS 2020/O/6689 WADA v/ RUSADA,
  https://www.tas-cas.org/fileadmin/user_upload/CAS_Award_6689.pdf , last visited April 19, 2023
3 WA, Key moments – RusAF suspension and reinstatement process, June 17, 2016,
 https://worldathletics.org/news/press-release/rusaf-suspension-and-reinstatement-timeline, last visited April 19, 2023
4 WA, ARAF accepts full suspension – IAAF Council meeting, Monaco, November 27, 2015,
 https://www.worldathletics.org/news/press-release/araf-accepts-full-suspension, last visited April 19, 2023
5 IOC, IOC EB recommends no participation of Russian and Belarusian athletes and officials, February 28 2022,
 https://olympics.com/ioc/news/ioc-eb-recommends-no-participation-of-russian-and-belarusian-athletes-and-officials, last visited April 19, 2023
6 WA, World Athletics Council decides on Russia, Belarus and female eligibility, March 24, 2023,
 https://worldathletics.org/news/press-releases/council-meeting-march-2023-russia-belarus-female-eligibility , last visited April 19, 2023
7 TASS, World Athletics to keep Russian athletes out of int’l events after IOC statement, March 29, 2023,https://tass.com/sport/1596191, last visited April 7, 2023
8 なお、IOCは、2023年3月28日付けの勧告において、当該勧告はIOC は、ロシア及びベラルーシの選手・サポート人員による2024年パリオリンピックへの出場・参加に関係するものではなく、この点については適切な時期に決定を行うとしています。

(2023年4月執筆)

執筆者

簑田 由香みのだ ゆか

弁護士(弁護士法人大江橋法律事務所)

略歴・経歴

2015年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
2017年 東京大学法科大学院修了
2018年 弁護士登録

主な取扱分野は、企業法務(コーポレート・M&A、紛争解決、消費者法等)、一般民事、スポーツ法務

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