行政・財政2023年12月27日 普通財産の貸付制度 執筆者:髙松佑維
1.はじめに
以前の記事で国有財産の使用許可制度を取り上げましたが、似て非なるものとして、普通財産の貸付制度というものがあります。今回はこの制度について、使用許可制度と比較しながら、その概要をご紹介したいと思います。
2.普通財産とその貸付制度
国有財産とは、国の負担等において国有となった財産(不動産、不動産の従物、地上権等)を指し(国有財産法第2条1項)、その中でも、行政財産(国の行政目的のため使用される財産)以外の一切の国有財産が普通財産とされています(同法第3条3項)。普通財産が発生する契機はいくつかありますが、用途廃止(もともと行政財産だったものが何らかの理由で行政目的を失う等して普通財産へ変更される場合)や、租税物納(相続税納付の際に不動産で納付された場合)がイメージしやすいかもしれません。
行政財産は原則として貸し付け等ができないとされており(同法第18条1項)、以前にご紹介した使用許可制度(同条6項)は、そのような性質を有する行政財産を対象として、行政以外の者に対し使用収益を例外的に認めるものでした。
一方、普通財産は、国有財産法の定めに従って処分等ができるとされており(同法第20条)、同法の第21条~31条において法律上の定めが具体的にされています。行政財産と同じく普通財産も国有財産ですので、行政がその管理を適正に行い、効率的に運用しなければならないことに変わりはありません(財政法第9条2項、国有財産法第9条の5)。そこで、普通財産には、売り払い処分等と並ぶ管理運用の方法の一つとして、当該普通財産を管理すべき行政以外の主体に対し、一定の条件の下で当該普通財産を使用収益させることができるという貸付制度が定められています(同法第20条1項、第21条~25条)。
3.貸付の場合の基本方針
普通財産の大部分を占める不動産は、特に維持管理等に費用がかかる場合もあるため、運用方法としてまずは売り払い等が検討されますが、対象普通財産の個別実情を踏まえ、実際には貸付制度を利用する場合も少なくありません。
一般会計の普通財産を原則として管理している財務省の通達(普通財産貸付事務処理要領:平成13年3月30日財理第1308号)では、普通財産の新規貸付を行う際の基本方針として、「公用、公共用又は公益事業の用等に供する場合」以外に「国有財産の有効活用の観点から貸付けを行う場合」に貸付を行なうことができると定めています。後者について、具体的には「①売払いを行うよりも貸付けを行う方が経済合理性から見て優位と認められる・・・場合、②財産の処分を行うまでの間、暫定的な活用を図る場合、③処分が困難な財産について、有効活用を図る観点から貸付けを行う場合」とされているように、売り払い処分と比較検討等をした上で、貸付制度の選択がなされるということがわかります。継続貸付の場合の基本方針の中でも、契約期間の更新等の機会に貸付相手に買受勧奨を行う、民有地上の国有建物についても増額請求等の機会に地主に対して積極的に買受勧奨を行うとされており、この部分にも同様の考え方が表れています。
行政財産の使用許可の場合は、そもそも財産の処分が前提とされておらず、行政目的を妨げないかがポイントであり、借地借家法の排除(同法第18条8項)や許可形式という特徴があります。それに対して、普通財産の貸付では、許可ではなく使用収益希望者が行政との間で契約を行う形式となり、行政目的との関連よりも財産の有効活用という視点がポイントになります。
4.貸付制度における解除の規定
もっとも、行政財産と普通財産の性質の違い(行政目的に供されているか等)に基づく上記の相違点も、もとをたどれば国有財産の適切な管理運用という根本の目的から生じているものであり、その根本の目的のために両者は共通点も有しています。
普通財産の貸付制度では「国又は公共団体において公共用、公用又は公益事業の用に供するため必要を生じたときは、・・・契約を解除することができる。」(同法第24条1項)とされています。行政財産の使用許可でもこの規定が準用されており(同法第19条)、行政上の使用の必要性が生じた際に許可取消しとなる場合があります。
近時の裁判例(大阪地裁令和3年10月29日判決)で裁判所は、地方自治法第238条の5第4項(地方公共団体の普通財産に関して、国有財産法第24条1項と同様の定めがされている条項)は「公有財産が普通財産であっても,元来公共性を有するものであり,当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要が生じたときには,その管理処分に当たっては公益を優先させるのが原則であるとして,民法,借地法及び借地借家法の一般原則の特例を定め,法律により解除権を留保することとしたものである」と示した上で、当該事案において賃貸借契約の一部解除を認め、行政側からの土地明渡請求等を認容しました。
このように、普通財産の貸付制度は契約形式を取っているといっても、純粋な私人間の契約と若干異なる点を有することには注意が必要です。行政財産や使用許可制度と比較すれば弱まるものの、普通財産も行政の公共的財産の側面を有する点を見落とさないようにしておくことは、普通財産の貸付制度の利用にあたって重要といえるでしょう。
(2023年12月執筆)
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執筆者
髙松 佑維たかまつ ゆうい
弁護士
略歴・経歴
早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所
大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。
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