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民事2008年05月07日 耐震強度偽装事件における消費者被害と「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」の成立 執筆者:岡田修一

1 耐震強度偽装事件における消費者被害

 平成17年11月に発覚した耐震強度偽装事件は、社会に多くの問題を投げかけました。
 消費者保護の観点からは、耐震強度不足のマンションの販売会社が補償を行わないまま倒産し、そのためにマンション購入者の多くが高額な住宅ローンを抱えたまま住居を失い、更に、自己負担により新たな住居を取得しなければならないという苦難を抱えるに至ったことが、大きな社会問題となりました。
 このような問題意識を背景に、平成19年5月、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下「本法」といいます。)が成立し、公布されました。
 以下では、本法の核となる、事業者の資力確保制度の概略を紹介するとともに、この制度が住宅紛争処理に及ぼす影響について触れます。

2 本法の概略

 本法は、①平成21年10月1日以降に、②新築住宅を、③個人に対して引き渡す事業者に対して、④保険への加入又は保証金の供託を義務づけています。
 そして、上記新築住宅に⑤構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分の瑕疵が存在する場合は、仮に事業者が住宅引渡後に倒産したとしても、消費者は保険金ないしは供託金によって補償を受けることが可能となりました。

(1) 施行日
 本法の資力確保制度は、平成21年10月1日以降に「引渡し」を行う新築住宅が対象となります。
 あくまで引渡し日が基準になりますので、引渡しが当該日以降であれば、契約がそれ以前であっても制度の対象となります。

(2) 対象となる住宅
 本法の資力確保制度の対象となる住宅は「新築住宅」であり、中古住宅は対象になりません(本法2⑤⑥・3・11)。

(3) 対象となる契約当事者
 資力確保制度が適用される契約は、請負人ないしは売主(住宅を引き渡す側)が、建設業者ないしは宅地建物取引業者であり、かつ、住宅の発注者ないしは買主が、事業者ではない「個人」である場合に限定されます。
 よって、事業者間での契約や個人間での契約は制度の対象とはなりません。

(4) 資力確保の方法
 事業者は、その資力確保のため、本法の対象となる住宅全戸について、保証金の供託をするか保険への加入をするかのいずれかの措置を取る義務があります。
 供託と保険加入のどちらを選択するかは、事業者に任されており、事業者が両制度を併用して利用することも可能です。
 保証金の供託を選択した事業者は、当該事業者が法定の基準日以前の過去10年間に引き渡した新築住宅の戸数に応じて定められた額の金員を法務局に供託することになります(本法2章・3章等)。
 一方、保険加入を選択した事業者は、国土交通大臣の指定する保険法人との間で新築住宅について保険契約を締結することになります(本法2⑤⑥、4章等)。
 住宅の取得者は、本法の保護対象となる瑕疵により発生した損害賠償請求権について、供託金制度利用住宅の場合は、供託金について優先弁済を受ける権利を有し、保険制度利用住宅の場合は、賠償を行わない事業者に代わって指定保険法人に対して直接の保険金請求を行うことが可能となります。

(5) いかなる瑕疵が保護の対象となるか
 本法の資力確保制度によって保護されるのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」94条・95条が規定している「構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分の瑕疵が存在する場合」に限られます(本法2④等)。
 よって、その他の部分の瑕疵については、本法の資力確保制度の対象とはなりませんので注意が必要です。

(6) 制度の展望について
 構造ないしは雨漏りといった重大な瑕疵に限定されるとはいえ、全新築住宅について事業者の資力を確保する制度が導入されるのは、全国民的な影響を持つ、重大な変革であるといえます。
 当該制度によって、耐震強度偽装事件において発生したような深刻な消費者被害が再び発生するリスクは相当程度減じられると予測されますし、また、このような大規模な制度改革が比較的短期間で導入されるに到ったことは、評価できます。
 一方で、本制度は、事業者にとって確実なコスト増をもたらしますので、増えたコストが、どの程度住宅の値段に跳ね返ってくるのかという国民生活上の不安が生じます。また、当該コスト増によって零細であるが優良な工務店等を市場から排斥してしまう結果にならないかということも懸念されます。
 さらに、住宅紛争処理においては、保険付住宅の指定保険法人の査定結果や意向が重要なファクターになると予想され、構造や雨漏りが問題となるケースでは、これまでの消費者対建築業者等という二者対立構造から、指定保険法人を加えた三者間構造に変化してくる可能性があります。
 なお、本稿では紙面の都合で解説できませんでしたが、本法では、保険付住宅に対する紛争について、弁護士会の住宅紛争審査会による迅速な処理を予定しており、その意味でも、今後の住宅紛争のあり方に大きな影響を及ぼすものと予想されます。

(2008年5月執筆)

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