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労働基準2021年04月27日 休職期間満了日が近い社員の復職に不安があるとき 共編 馬場三紀子 大嶽達哉 高尾総司


Case
 うつ病を発症して長期にわたり休職している社員の休職期間満了日が近づいてきました。主治医の診断書には復職可能と記載してあり、会社も復職を判断する手続を経て復職日を決めましたが、本人は復職を希望しているものの、業務が従前のようにできるか不安な様子です。

◆ アドバイス ◆

 主治医の診断書の内容は、患者である社員の希望に影響を受けていることもあるので、主治医の意見だけでなく、産業医等の意見も踏まえて会社は復職の判断を行った方がよいでしょう。急いで復職したことが社員の健康状態を悪化させるケースもありますから、社員との面談内容を重視し、場合によっては、産業医等に受診させる、又は社員の同意を得てその主治医と面接を行う等、状況を正確に把握することが必要です。

解 説
1 私傷病休職制度
 私傷病休職制度とは、業務外のケガや病気(以下「私傷病」といいます。)によって療養が必要な場合に、使用者が労働者に対して一定期間就労義務を免除し、又は就労を禁止する制度です。これは、私傷病を理由に働けないからといっていきなり解雇するのではなく、療養に必要な期間、解雇を猶予するための措置と解するのが通説です。その内容について法令には定めがなく、多くの場合、就業規則に規定されています。また、使用者から命じられて休職する場合もあれば、使用者と本人との話合いによって休職する場合もあります。
 休職期間中は賃金が支給されないことが一般的で、健康保険の被保険者であれば傷病手当金を利用することができます。
2 休職期間満了時の回復の程度
 復職の可否について直接争ったものではありませんが、片山組事件=最高裁平成10年4月9日判決(判時1639・130)に、バセドウ病に罹患しているとして自宅治療命令が発せられた労働者について、「その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある」ものとしています。
 この判断はメンタルヘルス不調の事案に対するものではありませんが、メンタルヘルス不調の場合も同様に考えることができます。つまり、この判旨に従えば、従前の業務だけでなく軽減した業務を担当することが可能か否かを検討する必要があります。
 また、独立行政法人N事件=東京地裁平成16年3月26日判決(労判876・56)には、復職が認められるための「治癒」とは、「原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したこと」であるとして、復職の可否を判断する「従前の職務」については、休職前に病気のため割り振られた機械的単純作業を基準とするのは相当でなく、労働者が会社で「本来通常行うべき職務を基準とすべき」と判示し、「復職を認めるべき状況にまで回復したということはできない」として、休職期間満了を理由とする解雇を有効としています。
 加えて、北産機工事件=札幌地裁平成11年9月21日判決(判タ1058・172)は、「少なくとも、直ちに100%の稼働ができなくとも、職務に従事しながら、2、3か月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能であった」場合について、「休職期間の満了を理由として退職とした取扱いは無効である」と判示しています。
 したがって、休職期間満了時の復職の可否については、本来行うべき職務に従事できるかどうかによって判断すべきですが、現時点の状況だけでなく、近い将来における回復の見込みも考慮する必要があるといえるでしょう。
3 メンタルヘルス不調における主治医の診断書の問題
 労働者が復職を希望する際は、主治医に現時点の病状に関する診断書の発行を依頼して復職可能と記載された診断書を会社に提出した場合等に、会社がこれを認めれば復職となります。
 しかし、この診断書の内容に後日疑義が生じるケースがあります。例えば、復職可能と記載のある診断書はあるものの、明らかにその業務遂行ぶりは従前の状況とはほど遠いと認められることがあります。
 参考となる裁判例に、医師が本心では復職は時期尚早とも考えていたものの、うつ病で休職中の従業員が休職期間満了により退職させられることを避けるためもあって職場復帰可能との診断書を書いたとの経緯を認定されたJ学園事件=東京地裁平成22年3月24日判決(判タ1333・153)があります。
 その他に、コンチネンタル・オートモーティブ事件=東京高裁平成29年11月15日判決(労判1196・63)では、就労不可とする主治医の診断1が提出され、会社は休職期間満了により退職としたが、前述の診断1からわずか18日後に復職可能とする診断2を労働者が提出したことに「診断1から診断2の転換は、会社を退職となることを避けたいという労働者の意向が強く影響している」として主治医の診断書の有効性を否定し、休職期間満了による退職が認められています。
 こうしたことから、単に診断書に「復職可能」との記載があった事実にこだわらず、復職後の労働者の様子についても注意しておくことが肝要になります。
対 応
1 本人との面談
 本ケースの場合、会社は本人との面談により十分な状況把握及び本人の意向を聴取する必要があり、休職により業務から離れていたという事実を踏まえて、現時点での自信のなさが何に起因するものなのかを相互に理解した上で、復職に対する不安を解消することが大切です。
2 主治医への確認
 社員本人との面談の中で、復職に当たりその病状について疑義が生じる場合もあります。そのときは、社員本人の同意を得て「医療情報開示同意書」(後掲書式参照)を作成し、本人同席のもと人事担当者等が主治医に直接、社員の病状を確認した上で復職後の担当業務内容について話し合い、当該社員の健康状態が悪化しないことを第一に復職の可否を決定する必要があります。また、産業医等が当該社員の診察、面談を経た上で、産業医等から主治医に直接確認してもらう方法もあり、医学的見地からの解決は大変重要なものといえます。
3 最終判断
 前述した医学的見地に基づく復職の可否の最終判断は会社が行うことになりますから、当該判断に必要な情報は正確に収集する必要があります。なお、最終判断までのプロセスには時間を要しますから、休職期間満了日前から余裕を持って行うべきでしょう。
 産業医からのアドバイス  休職期間満了間際になって急に復職困難であることが判明するわけがありませんから、前もって対応を検討しておかなければなりません。療養中には週1回の療養・復帰準備報告をさせ、満了日から遡って2、3か月の時点でなお、療養専念段階ならば、その時点で事実上、復職困難であることの共通認識を確認するようにしましょう。
書 式
〇医療情報開示同意書

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