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民事2022年11月02日 財産管理方法を選択する際のポイントは  



 一人暮らしのAさんは、高齢になり物忘れが増えてきたと感じ、また転倒しやすくなるなど身体も衰えてきました。どのような財産管理方法を選択したらよいでしょうか。なお、Aさんには預貯金のほか、夫から相続した賃貸不動産、金融商品などの財産があり、子どもたちは遠方に居住しています

 現時点でAさんの判断能力に問題がないようであれば、一人暮らしで、身体的能力が低下していることから、見守り・財産管理委任契約を締結することが有用です。
 また、将来判断能力が低下した場合に備えて、併せて任意後見契約も締結しておくべきです。
 Aさんには様々な財産があるところ、分別管理や財産の具体的な利用希望がある場合には、民事信託を併用することなども考えられます。
 なお、Aさんの判断能力が現時点で若干低下している場合は、契約できる意思能力があれば即効型任意後見契約などの締結も考えられますが、独居生活のAさんに消費者被害等の危険があるような場合には、保佐・補助も検討に値します。
解 説
1 契約による財産管理と法律による財産管理
 Aさんが既に判断能力が低下して意思能力(契約の内容と結果を理解できるだけの判断能力)を欠くような状況であれば、法律による財産管理方法(法定後見類型)を利用するほかありませんが、現時点で意思能力を有していれば、契約による財産管理方法(見守り・財産管理委任契約/任意後見契約/信託契約/日常生活自立支援事業等)を選択することができます。
 なお、仮に軽度の判断能力低下があるような場合でも、その人が全く契約ができない状態ではなく、意思能力がある場合には、個別の状況にもよりますが、日常生活自立支援事業の契約や、即効型の任意後見契約(〔18〕参照)などを締結できる場合もあります。任意後見契約のような重要な契約の場合には、Aさんに意思能力があることを確認するために医師の診断書を取得するほか、契約公正証書の文面を理解しやすいシンプルな表現にしたり、場合によっては意思能力の証明のために証書作成時及び日常のAさんの様子を映像に撮っておくなどのリスクヘッジも検討に値します。
 なお、上記のようにAさんの判断能力が若干の低下状態にあるときには、法定後見類型でいえば保佐又は補助の状態にあることも多いと考えられます。保佐又は補助の審判を受けた場合には、代理権を設定できるのみならず、本人が一人で行った一定の重要な行為が保佐人・補助人の同意又は追認を得ないでされた場合に取消しの効果を得ることもできるため、例えば独居生活のAさんが業者から勧誘を受けて不動産売却・リフォーム契約・連帯保証その他のリスクのある契約をさせられてしまう危険があるなど、代理権のみならず本人の行為の取消権にも期待すべき事情がある場合には、あえて保佐又は補助を利用することも検討すべきです。
2 見守り・財産管理委任契約
 Aさんの判断能力に問題がない場合には、Aさんは一人暮らしで、身体的能力が低下していることから、今後の預貯金の引き出しその他の日常的金銭管理、不動産・金融商品・配当金の管理、介護ヘルパーが必要になった場合の手配等を行うため、財産管理委任契約を締結することが有用です。
 また、Aさんは一人暮らしであり、定期的な安否・健康状態の確認を行う見守り契約も付加することで、今後の介護サービス等の身上保護の必要性の判断や、判断能力が低下した場合の法定後見・任意後見等への切替えにも適時に対応できます。
 なお、Aさんには収益不動産、金融商品を含む多くの財産があることから、日常生活自立支援事業では対応しきれず、見守り・財産管理委任契約が適しているといえます。
3 任意後見契約の同時締結
 財産管理委任契約の締結後、将来的にAさんの判断能力が低下していった場合には、この契約のみでは対応できず、法定後見などを利用しなければならなくなる可能性があります。そこで、判断能力低下後も同じ受任者が引き続きトータルかつ継続的に管理できるように、任意後見契約を同時に締結しておくべきです。
 このように財産管理委任契約と任意後見契約をセットで締結し元気なうちから継続して任せることにより、①財産の内容・所在や本人の意向を間違いないように後見人に伝えることができ、判断能力低下後の後見業務を問題なく行ってもらえるメリット、②急な事故や入院のときに即対応できるメリット、③後見人との相性や信頼性を実際に確認できるメリット(任意後見契約や法定後見の開始後は、家庭裁判所の特別の許可や審判がないとその後見人による後見を解消できません。)などもあります。
 なお、任意後見契約を締結した後でも、将来的に本人の利益のため法定後見類型によるべき特別の必要が生じた場合は、任意後見受任者又は任意後見人はその請求をして家庭裁判所の審判を仰ぐ権限を有していますので(任意後見10②)、本人の将来的な状況に応じた対応も可能です。
4 民事信託(上記との併用)
 Aさんの判断能力が問題なければ、信託の利用もできます。ただし、Aさんの所有する賃貸不動産や金融商品は、信託会社や信託銀行ではあまり取扱いがなく、弁護士などの専門職も信託の受託者となることができないため、受託者となってくれる親族等がいない場合には、事実上利用ができません。
 また、子どもたちが一部の財産について受託者となってくれる場合でも、本設問のように遠方であり日常的に頼ることができない場合には身上保護や日常的金銭管理を行う者が別途必要になるため、上記の財産管理委任契約や後見を利用して身上保護や日常的金銭管理を任せ、一部の財産について別目的で民事信託を設定するという形で、両制度を併用することが考えられます。
 本設問のケースにおける信託利用の目的としては、①不動産や高額預貯金などの重要あるいは負担の大きい財産を分担管理する目的、②具体的な財産の使途のために、後見とは別枠の管理をする目的などが考えられます。
 ②の具体的な使途としては、例えば、一定額を子どもたちへの扶養や寄附など本人以外の人に受益させたいという場合や、低金利時代において株式、投資信託その他の金融商品の投資・運用等(新規購入、売却、買替え等)をしたいという場合などが考えられます。後見では本人の財産状況と収支状況を前提とし、具体的ケースごとに必要性や従前の経緯等も踏まえた慎重な判断が必要になるため、一定の使途を必ず確保したい場合には、そのための財産を本人財産から切り離して信託を設定した方が確実です。そのほか、例えば賃貸不動産について収益の使途を具体的に指定したり、リフォーム又は建て替えなど管理処分方法を具体的に指定したい場合にも、その部分を民事信託で外出しすることは有用です。跡継ぎ遺贈のための信託を設定する場合も同様です。
 もっとも、本人の生活のための財産を確保しておかなければならないため、一般には高額の財産がある場合に、財産の一部を(民事)信託で外出しするというスキームが有用と思われます。
 以上、本人の具体的な状況や意向を踏まえ、トータルかつ総合的な観点から、総合的にスキームを選択するべきです。

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