厚生・労働2023年03月01日 360度評価の導入を始めとした、評価方法の変更・新評価方法を導入する
これまで当社では、業績と年功の2項目で人事評価を行う制度を採用していましたが、より具体的な行動変容を促すため、有志の従業員数人と人事制度プロジェクトを発足し、1年かけて新しい評価制度を検討してきました。新評価制度では、業績に加え、360度評価と目標管理の3項目に変更しようと考えています。
① 不利益変更に該当する。
② 労働者に対する十分な説明や導入スケジュールへの配慮がなされていれば、合理性は認められ得るが、賃金面での不利益の程度によっては、緩和措置を設けることも適当。
③ 緩和措置を設けることも視野に入れつつ、不利益が生じる労働者に対しては、キャリア形成にプラスに作用することを丁寧に説明していくことが必要。評価者研修も実施し、評価の納得性を高めていくことも重要。
1 不利益変更の該当性の判断
本事例では、評価項目から年功をなくし、上司や同僚、部下、他部署の労働者等、様々な立場の方から多面的な評価を行う、いわゆる360度評価と、目標管理を加えるという変更を検討しています。業績という評価項目に変わりはないものの、労働者はこれまで業績を指標として努力することが求められていた状況から、設定された目標に対する到達度を見られることになるほか、上司、部下、同僚といった周囲の労働者と協働しながら仕事を進めることをより一層求められることになります。具体的にどのような項目を評価するかといった、評価方法の具体的な内容については、使用者の裁量に委ねられており、そもそも労働条件ではないという考え方もあり得ますが、このような評価項目の変更によって、当然、その評価の結果も変わり得るといえますから、評価やその結果である賃金や昇進に不利益な影響が出る可能性がある以上、このような変更は不利益変更に当たると考えることになります。
業績という評価項目に変わりはないものの、労働者はこれまで業績を指標として努力することが求められていた状況から、設定された目標に対する到達度を見られることになるほか、上司、部下、同僚といった周囲の労働者と協働しながら仕事を進めることをより一層求められることになります。
具体的にどのような項目を評価するかといった、評価方法の具体的な内容については、使用者の裁量に委ねられており、そもそも労働条件ではないという考え方もあり得ますが、このような評価項目の変更によって、当然、その評価の結果も変わり得るといえますから、評価やその結果である賃金や昇進に不利益な影響が出る可能性がある以上、このような変更は不利益変更に当たると考えることになります。
2 不利益変更の合理性の判断
就業規則の変更による労働条件の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的かどうかを判断することになります(労契10)。
本事例では、「より具体的な行動変容を促すため」に、評価項目を変更しようとしているとのことですが、その裏には、業績という“結果”のみに囚われてしまうこととなる従前の評価制度による弊害があるものと思われます(②)。結果のみならず、業績に至る過程についても評価の対象とすることによって、結果重視の弊害をなくし、各労働者の具体的な行動の変容が見込まれるという点で、目的と手段との間に合理的な関連性はあるものと考えられます(ただし、当然ながら具体的な内容次第では問題が生じ得ます。)(③)。
他方で、個別の労働者にとっては、旧評価制度の方が有利な結果になる者もいると思われますが、そのような労働者にとっても、業績だけでなく、過程や目標管理という観点からも評価されることで、自己の仕事の進め方をより改善させられる契機となるともいえ、長い目で見れば必ずしも不利益とはいえない可能性もあります(①)。もっとも、賃金や役職が低下する可能性があることも否定できず、不利益の程度を軽く見ることはできません(①)。
他方で、新しい評価項目はいずれも一般的に採用されていることの多いものですし、労働者を巻き込んだ人事制度プロジェクトで1年かけて検討されたものということですから、相当性の点では問題はないと思われます(③)。
もっとも、評価項目の変更を行う場合、労働者にとって不意打ちにならないよう、評価の時点だけでなく、その評価の対象となる期間が始まるよりも前の時点で、新たな評価項目に基づく評価が開始されることを労働者に周知する必要があります。例えば、令和4年6月から新たな評価項目に基づく評価を行おうとする場合、その評価対象期間が令和3年4月から令和4年3月までの1年間であるときは、令和3年3月までの間に、新たな評価項目やその影響について、労働者に十分説明しておく必要があります(④)。
本事例では、労働者に対する十分な説明や導入スケジュールへの配慮がなされていれば、評価項目の変更には合理性が認められ得ると思われますが、評価が賃金と連動している場合においては、賃金の減額幅次第では、緩和措置を設けることが適当なときもあるでしょう。なお、そのような場合には、人件費の総額原資に変更がないことは、合理性を肯定する事情になり得ます。
3 実務上の対応策
様々な職種や年齢、パーソナリティで構成される組織において、万人が納得する評価制度というものは実質的に存在しないといってよいでしょう。それだけに、評価制度の変更に当たっては、これを単なるシステムの変更とは見ずに、いかに労働者の納得を得ることができるかということがポイントとなります。
本事例では、高業績であるが目標管理や周辺のコミュニケーションに難がある社員(「A社員」と呼称します。)にとっては、受け入れ難い内容でしょう。逆に、業績は高くはないが、目標管理や周辺とうまくコミュニケーションをとって業務を進めている社員(「B社員」と呼称します。)にとっては望ましい変更となるでしょう。
この変更の趣旨に鑑みた場合、考えられるのは、「組織として持続成長できる組織構造にする」ということです。この趣旨及びその効果、長期的にはA社員のキャリア形成にとっても大きくプラスに作用するであろうことを丁寧に説明していくことが必要です。また、併せて評価者研修なども実施し、どういった目線、基準で評価をすべきかの共通認識をもって、評価の納得性を高めていく必要があります。
なお、この変更で注視しなければならないのは、A社員のモチベーションダウンによる業績低下の防止だけではなく、B社員の業績向上の実現です。B社員のパフォーマンス向上にどうつなげていくか、管理職への説明も重要なポイントとなります。
もちろん、前述のとおり、A社員を含め、賃金の減額が生じ得るような場合には、一旦は緩和措置を設けて“時間”を作りつつ、使用者において労働者にはどのようなパフォーマンスを発揮してもらい、どのように成長してもらうことが望ましいと考えているかを丁寧に説明し、行動変容を促すことになるでしょう。
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