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民事2023年03月03日 週休3日制を導入する(週の労働時間及び賃金を減らす)  



ケース
 当社は、現在週休2日制です。もっとも、人手不足の折、週5日勤務だと就業することができない人にも活躍してもらえる機会を創出するという、働き方の多様性実現の観点から、また、自己研鑽や家族等との時間を十分に持ってもらい、中長期的な生産性の向上を図るという観点から、週休3日制にしようと考えています。これに伴い、現在在籍している従業員については、1日の所定労働時間は変えずに、週5日勤務を週4日勤務とするので、基本給(月給)の金額を5分の4に下げる予定です。

ポイント
① 労働日数(労働時間)は短くなるが、基本給が下がる以上、不利益変更に該当すると思われる。
② 基本給の減額という不利益は相当程度大きい一方、変更について十分な必要性や相当性があるとはいい難く、不利益変更の合理性が認められる可能性は低いと考えられる。
③ 本来は、希望者のみを対象とするといった措置が適当。
解 説
1 不利益変更の該当性の判断
 休日を増やすこと自体は、労働者にとって有利な変更となりますので、労働条件の不利益変更には該当しません。一方、これに伴い、基本給を減額する場合には、たとえそれが労働日(労働時間)の減少に比例したものであっても、労働条件の不利益変更に該当すると思われます。そもそも月給制の労働者は、基本的に各月の休日日数に関わらず同一の基本給を支払われているのですから、休日の増加に応じて当然に基本給を減額すべきということにはならないためです。なお、日給制の労働者であれば、休日の増加によって、受領できる賃金が実質的に減少することになりますが、これは日々の労働の提供とこれに対応する賃金が密接に結びついている日給制においてはやむを得ないものであり、労働条件の不利益変更法理(合理性判断)の対象にはならないと思われます(日通岐阜運輸事件=名古屋高判平20・5・16労経速2009・25参照)。
 なお、以上の点は、就業規則の変更によって、既存の労働者の労働条件を一律に変更する場合のものです。週休3日制でありつつ、基本給が5分の4になるという新たな社員制度を設け、希望者のみにこれを適用するということであれば、労働条件の不利益変更には該当しません。
2 不利益変更の合理性の判断
 就業規則の変更による労働条件の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的かどうかを判断することになります(労契10)。
 本事例では、週2日だった休日が週3日となり、労働日(労働時間)が減少することになりますので、その意味では労働者に利益となっている面があることは否定できません(①)。もっとも、基本給という労働者にとって重要な労働条件が低下するものであり、また、その下げ幅も2割という小さくないものであることを踏まえると、不利益の程度は相当程度大きいといえます(①)。また、働き方の多様性の実現や、自己研鑽の時間や家族との時間を創出するという目的自体は意義のあることといえますが(②)、他方で、一律に全ての労働者に対して週休3日制・基本給の切下げを適用することは、かえって働き方の多様性を阻害している可能性もあります(③)。なお、労働者側との話合いがどの程度行われたかという点も重要ではありますが、働き方の多様性という観点からは、単に過半数の賛同があったというだけでは足りず、より広く、可能であれば労働者全体の理解を得ることが必要というべきでしょう(④)。
 以上を踏まえると、本事例では、不利益変更の合理性が認められる可能性は低いと考えられます。本事例で挙げているような目的を実現するために週休3日制を導入するのであれば、労働時間は減らさず、基本給も引き下げない形を模索することが適当です(ケース38参照)。
 なお、使用者としては、経営状態が芳しくないことを理由とした業務及び賃金の抑制策として、本事例のように、休日を増やしつつ基本給を引き下げるという施策をとる場合もあります(いわゆるワークシェアリングと呼ばれるものも、その目的で行われることがあります。)。この場合には、経営状態を踏まえた賃金抑制の必要性(②)があるということになり、その必要性の高さ次第では、不利益変更の合理性が認められる余地もあるでしょう。
3 実務上の対応策
 会社として週休3日制を導入し、多様な働き方を推奨すること自体は何ら問題ありませんが、全ての労働者に週休3日制を適用する場合、多様な働き方という点からは十分な説明がつきません。既存の労働者に対しては、週休3日制のメリットや、増えた休日を自己研鑽や家族との時間等に充ててほしいこと等を説明し、1(~2)年程度の移行期間を設け週4日勤務としつつ、新しい働き方に慣れてもらい、また理解してもらう必要があります。
 また、自己研鑽も目的の一つとすることや、基本給の減額が生じていることも踏まえると、兼業・副業を認めることとし、週に1日は社外で働くこと等を認めるといった対応も必要になるでしょう。
 そもそも、働き方を変える、多様性を持たせるということが目的であるならば、賃金の減額という、本来は副産物とでもいうべき結果を求めるのではなく、時間をかけて丁寧に労働者の理解を得るようにするか、希望者のみを対象とし、働き方の多様性を認めるのかといった判断が必要になります。
 なお、賃金減額を伴う週休3日制の導入の目的が、経営状態が芳しくないことを踏まえた業務及び賃金の抑制という点にあるのであれば、移行期間を設けることは困難でしょうけれども、使用者の経営状態を率直に労働者に説明して、負担を分かち合うことへの理解を得ていくほかないといえるでしょう。
〈参考となる判例〉
〇労働基準法改正により、現在の所定労働時間を短縮し週40時間に変更するに伴い、基本給を所定労働日数の減少分に比例して減額(260/280)したことについて、高度の必要性に基づく合理性があるとした事例(九州運送事件=大分地判平13・10・1労判837・76)
〇週40時間制の導入に伴って、土曜日を休日にし、土曜日分の出勤日が削減されたことから、日給制である給与をその分減額したことについて、労働条件の不利益変更には該当しないとした事例(日通岐阜運輸事件=名古屋高判平20・5・16労経速2009・25)

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