人事労務2025年01月15日 宝塚歌劇団、7月に法人化 6年目以降も雇用契約 俳優急死で改革迫られる 提供:共同通信社

 宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の所属俳優が2023年9月に急死した問題を巡り、親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)は14日、25年7月に歌劇団を法人化すると発表した。現在は入団6年目以降の俳優と業務委託契約を結んでいるが、3月以降は1年の有期雇用契約に切り替える。24年秋に西宮労働基準監督署から是正勧告を受けており、改革を迫られていた。
 歌劇団は現在、阪急電鉄の一部門。4月に阪急電鉄が100%出資する株式会社を設立し、7月をめどに阪急電鉄から事業を承継する。新会社は興行計画を立てる阪急電鉄から業務委託を受け、公演の企画や制作、出演を担う。取締役の過半数は社外出身者から選ぶ。
 急死した俳優はフリーランスとして業務委託契約を結んでいたが、遺族側は事実上の労働契約だと主張。是正勧告では、6年目以降も事実上の労働者に該当する場合があるとされた。雇用契約を結べば、雇用主側には労働時間の管理義務が発生する。新たに雇用契約を結ぶ俳優は189人で、希望があれば無期雇用へ転換できる。
 非公式の稽古は労働時間外の扱いだが、3月から参加必須のものを労働時間に組み込み、残業代を支払う。演出助手やプロデューサー補は裁量労働制から外し、労働時間を管理する。HD広報は「心身の健康のための管理で、公演の質は追求する」としており、労働時間の制限はしない方向。
 HDは一連の改革を事業環境変化に対応するグループのガバナンス強化の一環として公表した。俳優急死や是正勧告を受けたものではないとしている。
 宝塚歌劇団は「宝塚歌劇を新しい時代にふさわしい形へと絶えず進化させ、将来にわたって夢と感動を提供し続けられるよう、全力で改革に取り組んでまいります」とのコメントを出した。

宝塚改革のポイント

 宝塚歌劇団の改革案のポイントは次の通り。
 一、阪急電鉄の一部門である歌劇団を今年7月に法人化。
 一、歌劇団は阪急電鉄が100%出資する株式会社になり、取締役の過半数は社外出身者とする。興行計画を立てる阪急電鉄から業務委託を受け、公演の企画や制作、出演を担う。
 一、入団6年目以降の俳優は業務委託契約から雇用契約に切り替える。
 一、非公式だが参加必須の稽古は労働時間に組み込み、残業代を支払う。

抜本的改革に期待の声 宝塚歌劇法人化でファンら

 宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)が法人化されることが決まった。所属俳優の急死問題以降、歌劇団への不信感を募らせていたファンからは14日、組織の抜本的な改革につながってほしいと期待の声が上がった。
 「株式会社となり、組織の透明性は高まるだろう。安心した」。ファンの30代会社員の女性=兵庫県=はそう胸をなで下ろす。俳優らの給与面も見直される予定で「『芸のため』で全てカバーされていたのが、少しでもタカラジェンヌに還元されるのは良いことだ」と評価した。
 20代会社員の女性=大阪市=は「根本から組織が変わることを期待したい」。今年3月からは、参加が必要な非公式の稽古も労働時間として扱われる。ただ女性は「時間管理が、より良い舞台を作るための練習時間を削ってしまわないか」と複雑な心中も吐露した。
 演劇評論家の薮下哲司(やぶした・てつじ)さんは法人化について「透明性が向上するのは歓迎すべきこと。ただベールに包まれている部分が人気の源泉でもあるので、歌劇団の伝統とのバランスをどう取っていくかを見守りたい」と話している。

「業界全体の底上げに」 雇用契約見直し、識者評価

 宝塚歌劇団が、これまで業務委託契約としていた入団6年目以降の俳優について雇用契約に切り替えるなどの改善策を示し、俳優らの労働環境改善に取り組む識者からは「画期的だ。業界全体の底上げにつながるのではないか」と評価の声が上がった。
 後輩のまとめ役や演技指導、衣装準備―。2023年9月に急死した俳優について、遺族側は業務に追われ長時間労働となっていた実態を指摘していた。関係者によると、歌劇団へ立ち入り検査した労働基準監督署は、6年目以降の俳優を対象に実質的な労働者と認め、労務管理の不備を指摘したとみられる。
 親会社の阪急阪神ホールディングスが示した改善策では雇用契約の他、参加が必要な稽古時間を労働時間とすることや、演出助手らの裁量労働制を見直すことなども盛り込まれ、違法性の疑いが指摘されていた業務内容を全面的に見直す形となった。
 芸能界の労働災害やハラスメントなどの問題改善に取り組んできた日本芸能従事者協会代表理事の森崎(もりさき)めぐみさんは「『演技者は労働者ではない』という見方が一般的だったことを考えると、雇用契約とすることや稽古時間を労働とするのは、歴史的な出来事だ」と指摘する。
 時間管理や労災保険の適用といった、労働環境の大きな改善が見込まれるとして「芸能界全体に大きな影響を与えると思う。今後の具体的な取り組みに注目したい」と話した。

宝塚俳優急死を巡る経過

 2023年9月30日 宝塚歌劇団宙(そら)組の俳優=当時(25)=が死亡しているのが見つかり、兵庫県警が自殺の可能性が高いとみて捜査
 11月10日 遺族代理人が記者会見。歌劇団と運営する阪急電鉄に謝罪と補償を要求
 14日 歌劇団側が調査報告書公表。パワハラは認めず
 22日 西宮労働基準監督署が歌劇団に立ち入り調査
 24年3月28日 角和夫(すみ・かずお)阪急阪神ホールディングス会長(当時)がパワハラなどについて遺族に直接謝罪し、交渉が終結
 6月20日 宙組が約9カ月ぶりに公演再開
 9月6日 西宮労基署から是正勧告を受けたと歌劇団が発表
 25年1月14日 阪急阪神HDが歌劇団の法人化と雇用契約見直しを公表
 7月めど 株式会社化した歌劇団が事業開始

(2025/01/15)

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