一般2025年07月20日 悪臭、汚物、伸び切った毛……「150匹のプードル放置」ブリーダーに直撃ルポ 関係者らが告発、多頭飼育崩壊の実態は? 提供:共同通信社

「100匹以上のプードルを劣悪な環境に放置しているブリーダーがいます。実態を見に来てもらえませんか?」
今春、私(記者)が過去に取材した男性(63)からそう、連絡があった。気になってブリーダー宅へ足を運んでみると、悪臭の中、汚れて体毛が伸び切った犬たちがけたたましい鳴き声を上げていた。私はブリーダーを直撃取材。動物愛護団体に告発した関係者らも「犬たちを救ってほしい」と取材に応じ、多頭飼育崩壊の実態を語ってくれた。(共同通信=武田惇志)
「絶対に許せない」
かつて男性とは、ある事件取材で知り合った。2023年に刑務所を出所後、犬を溺愛するようになり、愛犬飼育管理士の資格を持つまでに至った。
そんな男性が、知人の紹介で大津市の70代女性ブリーダーと知り合ったのは2024年8月のこと。専門はプードルだという。
優良ブリーダーの子犬を紹介するマッチングサービスとうたう直販サイト「みんなのブリーダー」内のブリーダー紹介ページでは、女性が犬の健康や衛生状態に留意していることが記されていた。
サイトはペットと飼い主が安心して出合えることを目指し「安心・信頼・倫理性」を重視した独自の品質管理体制を構築したとある。
だが男性によると、このブリーダーの飼育の実態は全く違っていた。多くの犬たちが体を洗われることなく、ふん尿などにまみれている衛生状態の悪さだったという。親しくなってからブリーダーが男性に見せてくれた、自宅とは別の平屋の犬舎がある。そこには狭いケージに犬たちが2匹ずつ入れられており、「臭いは1分も我慢できなかった」。
病に冒された子犬たち
男性は犬たちを少しでも助けられたらと、計約160万円で子犬3匹を購入して動物病院へ運んだ。さらに、耳が赤くなっていた大型のスタンダードプードル雌1匹についても、治療を理由に預かった。男性は言う。
「獣医師の診断を受けると、片耳が外耳炎に冒されていました。狂犬病の予防接種もされておらず、(2022年から義務化されている)マイクロチップも装着されていませんでした」
結局、男性が自費で予防接種などを打たせることになった。購入した他の3匹も目やにがたまり、外耳炎を患っていた。睾丸が一つしかない雄犬もいた。男性は憤る。
「動物好きとして、絶対に許せない。大津市の動物愛護センターに何度も掛け合ったけど、有効な手を打ってくれていない。現状を取材してください」
ブリーダーの家に踏み込むと
2025年5月末、私は男性とともに大津市内のブリーダーの自宅を訪れた。住宅街にある2階建ての一軒家へ近づくにつれ、無数の犬の鳴き声が聞こえてきた。
家の中に足を踏み入れると、とたんに悪臭が鼻を突く。マスクをしても防ぎきれなかった。
テレビが置かれ、リビングを兼ねる20畳ほどの部屋では、10匹ほどのトイプードルが放し飼いになっていた。家主の女性ブリーダーも土足のため、私たちも靴を脱がなかった。
部屋の壁沿いには、2~3段重ねのケージが並ぶ。ケージの中には、段ボールと新聞紙が敷かれ、プードルたちが鳴いていた。一つのケージに3匹も押し込まれているケースもあった。かゆそうに足で体をかいたり、床に倒れたままでなかなか動かなかったりする犬も散見した。ペットボトルや紙くずといったゴミがあちこちに散乱し、ケージの中はぬれているものもあった。
関係者によると、飼育数は「最低でも150匹」(2025年6月初旬時点)。そのうちゴールデンレトリバーなどの大型犬も、自宅とは別の犬舎で計4匹、飼育されている。
ただこの日、ブリーダーは「全部で100匹」と発言した。従業員は計5人だといい、動物愛護法が定める飼育員1人あたりの飼育数制限15~20匹で収まる範囲内だと主張したことになる。
改めて飼育数についてブリーダーに話を振ると、うれしそうにこう話した。
「あのね、この2カ月で19匹生まれたの。私のところはうまいこと、パンパン生まれるのよね」
「ドーカンにチンコロしてる人がいるんや」
ブリーダーを始めたのは約20年前。きっかけは「シングルマザーになって、娘を学校へ行かせるのにお金が必要だった」ことだったという。
長年のうちに培った手法なのか、大津市の動物愛護センターによる立ち入りへの対応方法も明かしてくれた。
ブリーダー「“ドーカン”(動物愛護センター)に何か、チクってる人がいるんや。調べたらね、私んとこで働いてた人ばかりね、チンコロ(たれ込み)してはる人は。(センターの)職員さんに電話が入ったんですよ。『犬をいっぱい放置したまま、誰も面倒を見ていない』って。従業員しかいーひんやん、そんなの」
記者「それから職員たちが来たんですか?」
ブリーダー「私が来てくださいと言うの。正直言って、その時は必死になって朝5時に起きて掃除してるわな」
男性が保護した犬たちがいずれも外耳炎になった理由については、次のように説明する。
「京都の散髪屋にシャンプーしてもらったの。それから。そこでシャンプーしてもらってから、おかしくなった。それははっきりしてるね」
真偽は不明だが、あくまで自分の手落ちは否定するかっこうだ。「弁解になるけど、従業員に任せてたわけね」とも述べた。
また、片手が動かないとして、ケージの扉を閉めるよう私に頼んでくる一幕もあった。
「犬は物語やで」
男性が指摘していた狂犬病の予防接種に関しては「打ってる子と打ってない子がいる」と言い、こう説明した。
「この間、狂犬病は20匹打ったけど、どの子を打ったの?と言われたら、わたしそんな、パラパラと言えない。(獣医師の)先生はみんな記録しておかはる」
取材中、トイプードル1匹が一時、近所に逃げ出す騒ぎが起きた。狂犬病の予防接種が打たれていた犬だったかどうかは定かではない。
またブリーダーは、第一種動物取扱業の次回更新の際には廃業するとも発言。その際、現在飼育している犬たちをどうするか尋ねると、次のように述べた。
ブリーダー「私が他のブリーダーみたいに割り切って、『あげます、あげます』と処分していったら、どうってことないの。それができないんです」
記者「なんでですか?」
ブリーダー「(気色張って)寝食をともにして一緒に生きてるのに、そんなことできるか、あなた。『なんでですか?』って、ちょっと感覚違うでしょ」
さらに、ニュースで報じられる動物虐待や悪質ブリーダー問題について見解を尋ねてみると、次のように言う。
「最低や。あんなん最低。(警察が)そういうとこ行ってビシビシやったらええ」
犬は「子どもみたいなもの」と、自身の動物愛を訴えるブリーダー。私にも「犬と人間の共存について、人の神経を揺さぶるように書いたらええわ」と促した。
取材の最後、自身の犬への思いを尋ねると、こう言い切った。
「犬は物語やで。いろんなこと教えてくれるで」
虐待として内部告発
後日、このブリーダーの下で働いていたこともある関係者が取材に応じ、内実を語ってくれた。
「とにかく環境が劣悪すぎるんです。掃除も一日あたり、担当者一人が実施するかどうかという程度で、それもケージの中を掃除するだけ。基本的に全てのケージが汚いです。多くが汚物にまみれていて、ひどい悪臭がします」
一方、直販サイト「みんなのブリーダー」に写真を掲載するためと称し、命じられて子犬を洗ったことがあったという。
「現状は多頭飼育崩壊です。犬たちはずっとケージの中にいて、運動なんてほとんどできてない。血尿などが出ている子もいましたし、私は虐待だと思っています。一刻も早く、全ての犬がレスキューされるのを祈っています」
この人物は2025年春、こうした内容を動物愛護センターに通報したほか、関西の動物愛護団体にも虐待だと内部告発した。だが事態は好転せず、6月中旬には、子犬が2段目のケージから転落して死亡する事故も起きたという。
動物愛護センターの反応は
また一時、このブリーダーに接触して、頭数を減らすよう働きかけた愛護団体の女性は、こう説明する。
「今年1~2月ごろ、計20匹を保護しました。それから少しずつ飼育数を減らすように交渉を続けました。しかし有償で引き取ってほしいと言われ、断ったら交渉がストップしてしまいました」
管轄する動物愛護センターの職員は2025年5月、取材に「適切な状態にするよう、継続して指導している」と説明。他方、実態について次のように記者に逆質問する場面もあった。
記者「そちらから地元の警察に動物愛護法違反で告発することもできるのでは?」
職員「それをして、動物が幸せになるのかどうかという事はね、ちょっと考えます」
記者「どういう事ですか?」
職員「崩壊させてしまうと、どうかなあって」
記者「しかし行政は法律に基づいて動くべきでは?」
職員「はっきり違反って言える状況なんですか?私どもが取り締まれるような」
法律は改正したものの…
ブリーダーによる虐待事件や、劣悪な環境に犬を放置するネグレクトは後を絶たない。
大阪府寝屋川市では2023年、小型犬10匹の病気やけがを放置して虐待したとして、動物愛護法違反の疑いでブリーダーの女が逮捕された。半年間で約100匹が死んだという。
また2021年、長野県松本市では、劣悪な環境で犬450匹超を虐待したとして元ブリーダーの男が逮捕された。長野地裁松本支部は2024年5月、犬を狭いケージに閉じ込めて必要な世話をしなかったことを「極めて悪質なネグレクトだ」と断罪。動物愛護法違反罪で執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
今回、私が取材したケースも「氷山の一角に過ぎない」(愛護団体の女性)。では、こうした問題を少しでも解消していくにはどうしたらいいのだろうか?
虐待防止や啓発活動などを行う日本動物福祉協会の町屋奈(まちや・ない)獣医師は、次のように指摘する。
「動物取扱業者による相次ぐ動物虐待問題を受けて、2019年の動物愛護法改正時に、上限頭数や飼育環境などの基準が明文化されました。悪質な動物取扱業者を淘汰する目的です。しかし、どれだけ法律を整備しても、適切に運用されなければ絵に描いた餅です。問題のあるブリーダー等について立ち入り検査したり、違反があれば指導や行政処分を課したりできるのは行政職員だけです。しかし、自治体によって対応に差が生まれている実情があります」
行政はどこまで踏み込めるのか
長野県は2021年の事件後、検証報告書を発表。そこで列挙されていたのは、次のような担当職員たちの本音だった。
「(ブリーダーらに対する)法による措置が実質的に非常に困難と思い込んでいた」
「主体的な考えや行動ができなかった」
報告書は「結果として長年にわたり不十分な指導が行われ、飼養施設の改善に至らないという実態があった」とまとめている。
町屋さんによると、その後、長野県の指導体制は大きく改善されたという。町屋さんは言う。
「どこまで不適切な飼養管理や虐待案件として踏み込めるのか疑問であれば、専門家に相談することもできます。行政は動物愛護法の運用の要ですから、臆せず積極的に動いてほしい。それに、動物愛護センターの職員の多くは獣医師枠で採用されています。公務員としての立場だけでなく、獣医師としての倫理を守ることも忘れないでほしいです」
(2025/07/20)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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