民事2025年08月16日 黒い雨を浴びた子どもは84歳で「被爆者」になった 認定求め、法廷に立つ「被爆体験者」も#戦争の記憶 提供:共同通信社

空がピカーと光り、ドーンという大きな音がした。広島市の中心部から北約19キロの山中。南の空が突然真っ暗になった午前11時ごろ、土砂降りの「黒い雨」を浴びた。7歳だった広島市の迫田勲さん(87)は、他の子どもたちと一緒に水を喜び無邪気にはしゃいだ。それが危険な雨だとも知らずに。
広島、長崎への原爆投下による被爆者の援護策を国の責任で講じると定めた被爆者援護法。2週間以内に市内に入った人や被爆者の救護をした人、母親の胎内で被爆した人も援護の対象となる。
迫田さんのように、放射性物質を含む「黒い雨」に遭うなどして放射能の影響を受け、近年になって被爆者と認定された人もいる。被爆80年の今年、それぞれの苦難の生涯を追った。(共同通信=斉藤祥乃、下道佳織、森山遼)
▽「見えない『毒針』が私を傷つける」
原爆投下後に降ったすすを含んだ大粒の雨は、迫田さんの着ていた白いシャツに黒い染みをつくった。同じ雨を浴びたトマトを食べ、山の水を飲んだ。どんな爆弾が落とされたのか、迫田さんたちには知る由もなかった。
65歳で甲状腺機能低下症になった。迫田さんが雨の影響を疑い始めたのはこの頃だ。けがもやけどもなく、遠くで雨に遭っただけ。因果関係は解明されていない。
「見えない『毒針』が私の体内を傷つける。いつかがんになるのではないかとおびえる日々だ。過去だけでなく未来にも続くのが核の恐ろしさだ」
仲の良かった同級生。10年ほど前、入所していた施設へ見舞いに行くと、しばらく沈黙が続いた。彼は突然、初めて私に原爆の話をした。3カ月後に79歳で亡くなった。入市被爆で白血病を患っていた。「託されたと感じた」
迫田さんが援護法の対象となる「被爆者」と認定されたのは、法廷闘争を経た2022年だ。翌年から被爆体験証言者として活動している。「真剣な顔で聞いてくれる姿を見ると、伝えなければいけないと思う」
× × ×
「黒い雨」:国は大雨が降ったとされる範囲を「特例区域」とし、当時区域内にいて一定の疾病を発症した人を被爆者と認めてきた。2021年の広島高裁判決は、雨が特例区域より広範囲に降ったと判断。厚生労働省は、特例区域に関係なく黒い雨に遭い、11疾病のいずれかを発症しているか白内障の手術歴が確認できれば被爆者認定する新基準を定め、2022年に運用を始めた。
▽「被爆体験者」
長崎原爆による被害を訴えながら、対象となる区域外でだったため、「被爆者」と認定されない人もいる。「被爆体験者」として援護の一部の対象になるが、被爆者認定を求める人々の訴訟が続いている。
長崎市の浜田武男さん(85)はその1人だ。5歳の時、爆心地から約8キロの場所で原爆に遭い、被爆者と同様の症状に苦しむのに、国の援護区域の外だという理由で手当などに格差がある。「『被爆を体験』という造語でごまかさず、被爆者と認定してほしい」と訴える。
原爆さく裂後、辺りには灰が降った。浜田さんは当時は山水を飲み水に使っていて、流れてくる場所から灰をよけて水をくむ手伝いをしたことを覚えている。皆飲んだらいけないと知らされていなかった。
40代から疲れやすくなり、60代では皮膚がんを患い胸の辺りを約5センチ切除した。「原爆の影響がないとは言えないと思う」
10年以上前、被爆者認定を求める裁判に加わった。被爆体験者でつくる協議会の副会長に就き、最高裁にも足を運んだ。
(過去の訴訟で敗訴した後の再提訴による)昨年の長崎地裁判決で、浜田さんを含む一部原告が被爆者と判断された。良かったと思う半面、敗訴した仲間を思うと複雑で控訴に同意した。
国が実施した被爆者と同等の医療費助成策は経済的にありがたいが、国はこれで問題を終わりとしたいのだろうと感じている。
「国が戦争をしたから原爆が投下され、今なお体調不良に苦しむ。救済は当然だ」
▽広島と長崎の原爆
1945年8月6日午前8時15分、米軍のB29爆撃機「エノラ・ゲイ」がウラン型原子爆弾の「リトルボーイ」を広島市中心部に投下。上空約600メートルで爆発し、強烈な熱線と爆風で街は焼け野原となった。市の推計では広島市にいた約35万人のうち、1945年末までに約14万人が死亡した。
1945年8月9日、米軍のB29爆撃機「ボックスカー」から投下されたプルトニウム型原子爆弾「ファットマン」は午前11時2分、長崎市松山町の上空約500メートルでさく裂した。直下の地表温度は3000~4000度に達し、爆発圧力と熱線で爆心地から1キロ以内の人はほぼ即死したとされる。市の人口は当時約24万人で1945年末までに推計約7万4000人が死亡した。
(2025/08/16)
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