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不動産登記2025年12月04日 財産管理制度と表題部所有者不明土地解消作業 実務で役立つ!ベテラン登記官の知恵袋 執筆者:角間隆夫

 所有者が不明又は不在となっている不動産を含めた財産の管理制度としては、以前から相続財産清算制度や不在者財産管理制度があります。
 しかしながら、相続財産清算制度は相続人が明らかではない財産について、不在者財産管理制度は行方が不明となった者の財産について、管理人の選任を申し立てることができる制度であり、登記記録に登記されている所有者や所有権の登記名義人が誰であるか分からない土地については、これらの制度を利用して管理や処分をすることはできません。
 また、相続財産清算制度も不在者財産管理制度も、亡くなった人や行方不明者のすべての財産を清算又は管理する制度であり、これらの者が所有する財産のうち一筆の土地のみを管理又は処分することはできません。

 一方、所有者不明土地の利用を円滑にする方策として、所有者不明建物管理制度とともに令和5年4月から所有者不明土地管理制度が施行されています。
 所有者不明土地管理制度では、土地の登記記録に登記されている所有者又は所有権の登記名義人の所在が不明である場合や相続人が明らかではない場合のほか、登記されている所有者又は所有権の登記名義人を特定することができない場合にも所有者不明土地管理命令を申し立てることができ、相続財産清算制度や不在者財産管理制度と異なり、一筆の土地についてのみ所有者不明土地管理命令を申し立てることができるとされています。

 この所有者不明土地管理制度については、最高裁判所によれば令和5年4月の施行から1年半の間に約1,400筆の土地について、地方裁判所に申し立てられたということですが、相続人が明らかではない、所有者の行方が不明、登記されている所有者又は所有権の登記名義人が特定できないなど、申し立てられた事例の内訳については明らかにされていません。

 所有者不明土地管理命令を申し立てるときには、申立書に「所有者・共有者の探索に関する報告書」を添付することとされており、所有者又は共有者の探索方法は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行令1条に、次のように定められています。

 一 当該土地の登記事項証明書の交付を請求すること。
 二 当該土地を現に占有する者その他の当該土地に係る土地所有者確知必要情報を保有すると思料される者であって国土交通省令で定めるものに対し、当該土地所有者確知必要情報の提供を求めること。
 三 第一号の登記事項証明書に記載されている所有権の登記名義人又は表題部所有者その他の前二号の措置により判明した当該土地の所有者と思料される者(以下この号及び次号において「登記名義人等」という。)が記録されている住民基本台帳、法人の登記簿その他の国土交通省令で定める書類を備えると思料される市町村の長又は登記所の登記官に対し、当該登記名義人等に係る土地所有者確知必要情報の提供を求めること。
 四 登記名義人等が死亡し、又は解散していることが判明した場合には、当該登記名義人等又はその相続人、合併後存続し、若しくは合併により設立された法人その他の当該土地の所有者と思料される者が記録されている戸籍簿若しくは除籍簿若しくは戸籍の附票又は法人の登記簿その他の国土交通省令で定める書類を備えると思料される市町村の長又は登記所の登記官に対し、当該土地に係る土地所有者確知必要情報の提供を求めること。
 五 前各号の措置により判明した当該土地の所有者と思料される者に対して、当該土地の所有者を特定するための書面の送付その他の国土交通省令で定める措置をとること。


 登記記録に登記されている所有者又は所有権の登記名義人の行方が不明である場合や相続人が明らかではない場合については、同条1号、3号及び4号に探索方法が定められています。
 裁判所のホームページに掲示されている「所有者・共有者の探索に関する報告書」の様式にも具体的な探索方法が記載されており、チェックや穴埋めにより報告書を作成することができます。
 一方、登記記録に登記されている事項により直ちに所有者又は所有権の登記名義人を特定できない土地の所有者・共有者の探索方法については、同条2号の「当該土地に係る土地所有者確知必要情報を保有すると思料される者」や「土地所有者確知必要情報の提供を求める」における「所有者確知情報」がどのような情報であるか、具体的には示されていません。
 また、同条5号では「前各号の措置により判明した当該土地の所有者と思料される者」に書面を送付するなど措置をして所有者を特定するとも定めていますが、登記されている事項により直ちに所有者又は所有権の登記名義人を特定できない場合に、所有者と思料される者を判明するための具体的な資料や方法が明確ではありません。

 登記されている事項により直ちに所有者又は所有権の登記名義人を特定できない土地は、所有者又は所有権の登記名義人として氏名のみが登記されている土地や「大字〇〇」と登記されている土地、「甲野太郎外〇名」又は「共有惣代甲野太郎」などと登記されている土地などのいわゆる変則型登記がされている土地が多いと思われますが、変則型登記がされている土地について、所有者不明土地管理命令が申し立てられた際に、裁判所から求められる具体的な所有者の探索方法や、どのような資料に基づきどのような判断をして「所有者不明土地管理命令」がされたかは明らかではありません。

 変則型登記がされている土地に係る所有者不明土地管理命令については、飽くまでも裁判官の裁量に基づき命じられるものであり、今後、申立てが増え、実例が積み上げられていくなかで、所有者の探索方法が整理されていくものと思われますが、現時点において変則型登記がされている土地の所有者不明土地管理命令の申立について相談を受けている方の中には、所有者の探索方法等にお困りの方もいるのではないでしょうか。
 そのような場合は、登記官が行う表題部所有者不明土地解消作業における所有者の探索方法が参考になると思われます。

 表題部所有者不明土地解消作業とは、全国の法務局及び地方法務局において実施されている、登記記録の表題部所有者欄に変則型登記がされている土地である表題部所有者不明土地を解消する作業であり、登記官による収集した資料による調査や実地調査に基づき所有者の特定や所有者として登記すべき者がない旨を特定しています。
 変則型登記がされている土地に関する所有者不明土地管理命令における所有者の探索では、表題部所有者不明土地解消作業における所有者の探索の手順や、登記官の特定に係る判断が参考になると思われるので具体的な収集資料や探索の方法について説明します。

(1)調査する資料について
 表題部所有者不明土地解消作業では、登記記録、閉鎖登記簿、地図又は地図に準ずる図面(閉鎖されているものを含みます。)、旧土地台帳などの登記所内にある資料や、道路台帳や路線図、農地台帳、地籍調査票などの地方公共団体等にある資料を収集します。
 表題部所有者不明土地解消作業では、現地において対象土地の利用状況などを調査することから、登記所にある地図又は地図に準ずる図面のほか、住宅地図や路線図なども使用して対象土地のおおよその位置を特定します。
 また、地方公共団体等に保管されている資料には、所有者のほか管理者や使用者なども記載されていることがあることから、実地調査において管理者や使用者などに土地の利用状況や所有者に関する情報を確認するために、対象土地の地目や変則型登記の類型に応じて地方公共団体などで保管されている所有者の特定に参考となると思われる資料を収集して調査します。

(2)実地調査について
 実地調査では、地図又は地図に準ずる図面などの資料と現況を体査するなどして対象土地のおおよその位置を確認した上で、所有者の特定に参考となる情報について、地方公共団体等の資料に記載されている管理者や使用者のほか対象土地の周辺住民などに聴き取り調査を行います。
 また、寺院や自治会等が保管している過去帳や歴史的文献等、所有者の特定に参考となる資料の有無を調査する場合もあり、資料が確認できれば、収集して調査を行います。
 なお、実地調査は、必要に応じて複数回行うことも可能です。

 このように、登記官は、収集した資料と現地における調査結果を踏まえて所有者の特定等をするのですが、所有者の特定等をする場合には、変則型登記がされた経緯について対象土地がある周辺地域における土地の所有状況の変遷(周辺住民が共同で利用していた土地について、利用していたのが、住民の全部又は一部の者によるのか)なども踏まえる必要があります。

 所有者不明土地の管理においては、以上のような資料収集や現地の調査によることで、スムーズに行うことができると思われます。所有者不明土地の管理を行う弁護士や司法書士の皆様の実務の一助となれば幸いです。

(2025年11月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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