一般2026年07月06日 集めた証拠、誰のもの? 公共財か、捜査の武器か 提供:共同通信社

国家権力が集めた証拠は誰のものか―。再審制度の見直しを巡る国会議論で「証拠」に対する政府と冤罪被害者の考え方の違いが浮き彫りになっている。冤罪被害者は「国民の公共財だ」として幅広い開示と共有を求めるが、法務・検察当局は慎重姿勢を崩していない。「武器」をやすやすと手渡したくないとの思いも透ける。
▽真実発見
「証拠は有罪立証ではなく、真実発見のため、国民のためのものだ」。6月12日の衆院法務委員会。弁護士資格を持つ自民党の稲田朋美元防衛相は、証拠開示の範囲を限定しようとしたり、使用に制限をかけようとしたりする法務省の姿勢をこうただした。冤罪被害者らも、政府による刑事訴訟法改正案の修正を繰り返し求めている。
政府案は、開示の対象を再審請求の理由に関連する証拠に限定。開示証拠の目的外使用を罰則付きで禁止する規定も盛り込んだ。法務省幹部は事件被害者のプライバシー保護などを理由に挙げる。
法務省側に同調する意見もある。「新全国犯罪被害者の会(新あすの会)」の活動に携わる内田貴史弁護士は「供述調書が無秩序に開示され、過去の被害が掘り起こされ得る状況に、性犯罪被害者らは強い不安を覚えるだろう」と語る。事情聴取に応じることをためらうケースも出てくると指摘した。
被害者に関する証拠がなくても被告らの無罪は立証できるとし「証拠を幅広く開示する場合、被害者に関連するものを除外するか、同意を得る制度が理想だ」と話した。
▽逃げ道
証拠は幅広く開示、共有されるべきだとする考えは、袴田巌さん(90)が再審無罪となった静岡県一家4人殺害事件を契機に再拡大した。東京高裁が再審開始を認めた2023年、当時の検察幹部は「こちらが集めたものをなぜ見せないといけない」と本音を漏らし「全ての証拠を吟味させれば(弁護側に)『逃げ道』を与える」と語った。
今回、刑訴法改正案の事前審査に関わったある自民議員は「法務省や検察が『証拠は俺たちのものだ』と考えていることがよく伝わった」と、あきれたように振り返る。
▽隠してはならない
諸外国の事情はどうか。カナダでは、証拠を国民の公共財と位置付ける考え方が浸透している。1991年、最高裁が捜査の成果を「公共の財産」と明示。以降、事件被害者や証人のプライバシーに配慮した幅広い証拠開示が定着した。
デュープロセス(適正手続き)を重視する米国の最高裁は63年、合衆国憲法に基づき「被告に有利で重要な証拠を、故意であれ過失であれ、隠してはならない」との原則を示した。検察の証拠開示が拡大するきっかけとなった。英国でも誤判が開示拡大を後押しした。
米国の制度に詳しい駒沢大の吉田有希講師は「証拠は誰のものかという観点に加え『何のためにあるのか』という視点も大切だ」と強調した。
(2026/07/06)
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