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解説記事2013年07月22日 【税務マエストロ】 税率の引上げと工事の請負等の経過措置(1)(2013年7月22日号・№508)

税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
税率の引上げと工事の請負等の経過措置(1)
#84 熊王征秀(税理士)

略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授

次回のテーマ
#85 日米租税条約改正議定書について
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
  e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」という舌を噛みそうな長い名前の法律が平成24年8月10日に成立したことに伴い、消費税及び地方消費税の税率は、表1のように二段構えで引き上げることが予定されている(改消法29、消法附則(平24年)2、15)。

 改正消費税法の成立を受け、消費税法施行令と消費税法施行規則、さらには法令解釈通達(平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて)が、本年3月中に五月雨式に公布された。これに加え、4月には国税庁消費税室から「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A」が公表され、消費税率引き上げへの気運はいやがうえにも高まってきたところである。
 今月からは、国税庁消費税室から公表された上記の「経過措置の取扱いQ&A」をベースに、主要な経過措置の内容とこのQ&Aの疑問点などについて検討する。今回は、工事の請負等に関する経過措置について、概要と適用要件、適用対象となる工事等の範囲について確認する。

1 工事の請負等の経過措置(概要)  工事の請負等については、その契約の締結から完成引渡しまで長期間を要すのが通例であり、契約の時期によっては新税率での契約ができないケースも多分に想定される。そこで、8%税率への切替日である平成26年4月1日(施行日)より半年前の平成25年10月1日を「指定日」と定め(表2参照)、指定日の前日までに工事の請負等に関する契約を締結した場合には、工事の完成引渡しが施行日以降となる場合でも旧税率(5%)で課税することとしている(消法附則(平24年)5③・⑥~⑧)。

 また、10%税率への切替日である平成27年10月1日(一部施行日)より半年前の平成27年4月1日を「27年指定日」と定め、指定日から27年指定日の前日までに工事の請負等に関する契約を締結した場合には、工事の完成引渡しが一部施行日以降となる場合でも旧税率(8%)で課税することとしている(消法附則(平24年)16)。契約締結日と適用税率の関係は、図1図3参照。


2 請負契約の範囲と適用要件(消法附則(平24年)5③、消令附則(平25年)4⑤、改正法通達10、経過措置の取扱いQ&A問18)  工事の請負等の経過措置に関する法令の規定、国税庁が公表した「経過措置の取扱いQ&A」から、契約の内容及び適用要件をまとめると、図4のようになる。


3 契約の内容(範囲)に関する注意点
(1)施行日と工事等の着手日の関係
 上記2の契約は、(27年)指定日前に締結したものであれば、その工事等の着手が(27年)施行日以後であっても経過措置の対象となる(経過措置の取扱いQ&A問20)。
(2)手付金等との関係  経過措置の対象になるか否かの判断には、(27年)指定日前に手付金を受領したか否かは関係ない(経過措置の取扱いQ&A問20)。
(3)その他の請負係る契約  「その他の請負に係る契約」には、例えば、修繕、運送、保管、印刷、広告、仲介、技術援助、情報の提供に係る契約が含まれる(経過措置の取扱いQ&A問24)。
(4)委任その他の請負に類する契約  「委任その他の請負に類する契約」には、検査、検定等の事務処理の委託に関する契約が含まれる(経過措置の取扱いQ&A問24)。

4 適用要件に関する留意点  工事又は製造の請負契約については、(27年)指定日の前日までに契約を締結することにより、無条件に経過措置の適用を受けることができるのに対し、測量や地質調査など、工事又は製造の請負に類する契約については、(27年)指定日の前日までに契約を締結するだけでなく、下記(1)(3)の要件を満たすものでなければ経過措置の適用はない(消令附則(平25年)4⑤)。
(1)仕事の完成に長期間を要するものであること 
 「仕事の完成に長期間を要するものであること」との要件は、上記契約に係る仕事の性質上その仕事が完成するまでに長期間を要するのが通例であることから定められたものである。したがって、実際の適用判定に当たっては、その仕事の請負から完成までの期間が長期間であるかどうかは問わないこととされている(経過措置の取扱いQ&A問25)。
(2)契約に基づく仕事の目的物の引き渡しが一括して行われるものであること  「契約に基づく仕事の目的物の引き渡しが一括して行われるものであること」とは、一般的には建物などの目的物を完成させ、注文者に引き渡すことを指す。ただし、運送や設計、測量などのように目的物の引渡しを要しない請負契約にあっては、その約した役務の全部の完了が一括して行われることとされているものもこれに含めることができる。
 これに対し、月極の警備保障やビルのメンテナンス契約のように期間極めの契約の場合には、その約した役務の全部の完了が一括して行われるものではないので経過措置を適用することはできない(経過措置の取扱いQ&A問26)。
(3)仕事の内容につき、相手方の注文が付されているものであること  「仕事の内容につき、相手方の注文が付されているものであること」との要件は、注文の内容、注文に係る規模の程度、値段の多寡を問わないこととされている(経過措置の取扱いQ&A問27)。また、物品の製造契約書ではなく、「販売契約書」に注文が付されている場合であっても経過措置を適用することができる(経過措置の取扱いQ&A問23)。

5 部分完成基準と日本標準産業分類の関係  経過措置の取扱いQ&A問26では、いわゆる部分完成基準が適用されるような請負工事等であっても、「仕事の目的物の引渡しが一括して行われること」の要件を満たすこととしている。一方、日本標準産業分類(総務省)の大分類で建設業に分類される「工事の請負契約」又は製造業に分類される「製造の請負契約」については、「仕事の目的物の引渡しが一括して行われること」という要件がそもそも付されていないので、部分完成基準が適用されるかどうかに関係なく、(27年)指定日前に請負契約を締結したものであれば、当然に経過措置の対象とすることができるのである(経過措置通達10・11、経過措置の取扱いQ&A問18)。
 つまり、部分完成基準が適用される建設工事等のうち、日本標準産業分類の大分類が「建設業」及び「製造業」のいずれにも該当しない工事等が経過措置の対象になるということである。具体的には、日本標準産業分類の大分類L-学術研究、専門・技術サービス業に掲名されている建築設計業(細分類番号7421)や測量業(細分類番号7422)などについて、このQ&Aの取扱いが適用されることになるのであろう(表3参照)。


6 経過措置の取扱いQ&A問4との関係とその疑問点  4で解説のとおり、月極の警備保障やビルのメンテナンス契約のように期間極めの契約の場合には、その約した役務の全部の完了が一括して行われるものではないので経過措置を適用することは認めないこととしている(経過措置の取扱いQ&A問26)。一方、経過措置の取扱いQ&Aの問4では、次のようなQ&Aを掲載し、契約又は慣行により収受する対価については、継続して収益計上することを条件に、平成26年3月31日までに収益計上したものについては5%の旧税率を適用してもよいこととしている。

(施行日を含む1年間の役務提供を行う場合) 
問4 平成26年3月1日に、同日から1年間のコピー機械等のメンテナンス契約を締結するとともに、1年分のメンテナンス料を受領した場合、消費税法の適用関係はどのようになりますか。
【答】 
 役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、物の引渡しを要するものにあってはその目的物の全部を完成して引き渡した日、物の引渡しを要しないものにあってはその約した役務の全部を完了した日とされています(基通9-1-5)。
 照会の役務の提供は、物の引渡しを要しないものですから、資産の譲渡等の時期は役務の全部を完了する日である平成27年2月28日となります。
 したがって、施行日以後に行う課税資産の譲渡等となりますから、原則として新消費税法(新税率)が適用されます。
 ただし、契約又は慣行により、1年分の対価を収受することとしており、事業者が継続して当該対価を収受したときに収益に計上しているときは、施行日の前日(平成26年3月31日)までに収益に計上したものについて旧消費税法(旧税率)を適用して差し支えありません。
<疑問点>
(1)消費税法基本通達9-1-5の当てはめは妥当か?
 消費税法基本通達9-1-5(請負による資産の譲渡等の時期)では、物の引渡しを要しない請負契約について、その約した役務の全部を完了した日が資産の譲渡等の時期であるとしている。また、この取扱いは、法人税基本通達2-1-5(請負による収益の帰属の時期)においても同様となっている。
 これらの基本通達における取扱いは、経過措置の取扱いQ&A問26の【答】にも記述のあるように、運送や設計、測量などで、その約した役務の全部の完了が一括して行われることとされている契約などを前提とした通達であると思われる。言い換えれば、ビルや事務機器のメンテナンス契約のように、役務の提供が不規則に継続しているような役務提供についてまで、本通達を適用すべきではないと思えるのである。
 本通達によれば、3年サイクルのメンテナンス契約などについては、断続的に役務提供が行われているにもかかわらず、3年間の契約期間が満了するまでは役務収益(課税売上高)を計上する必要がないということになってしまう。
 会計基準とのバランスを考えてみても適当な処理とは言えないのではないだろうか?メンテナンス契約のように、役務の提供が不規則かつ断続的に行われるような役務の提供については、期間の経過に応じて役務収益(課税売上高)を認識すべきではないかと考えている。
(2)未経過期間分のメンテナンス料を役務収益に計上することは妥当か?  法人税の世界では、所得金額の計算において、返還不要となる収入は確定収入として認識し、実際に収受した日の属する事業年度の収益として計上することとされているようである(役務提供取引に係る収益計上時期について・石田昌朗著/国税速報第6113号(9))。しかし、筆者の確認した限りでは、そのことを明記した通達は法人税にも消費税にも存在しない。また、企業会計における費用収益対応の原則を考慮した場合にも、未経過期間分の前受収益は翌期に繰り延べて法人所得や消費税の課税売上高を認識すべきではないだろうか?
 なお、法人税基本通達2-1-41(保証金等のうち返還しないものの額の帰属の時期)及び消費税法基本通達9-1-23(保証金等のうち返還しないものの額を対価とする資産の譲渡等の時期)では、資産の賃貸借契約等に基づいて収受した保証金等のうち、返還しないことが確定したものは、その確定日の属する事業年度(課税期間)において益金(課税売上高)に計上することとされているが、本件メンテナンス料はこれらの通達の取扱いとは本質的に異なるものである。
(3)前受収益を役務収益に計上し、旧税率を適用することは妥当か?  このQ&Aによれば、契約又は慣習により収受する対価について、継続して当該対価を収受したときに収益に計上しているときは、平成26年3月31日までに収益計上したものについては旧税率の5%を適用してよいこととしている。
 上記(1)のとおり、事務機器のメンテナンス料金などについては期間の経過に応じて収益(売上)計上すべきものと考えられるべきところ、このQ&Aでは、継続して収益計上していることを条件に、経過措置ではなく、単純に旧税率の適用を認めることとしているのである。
 前述のように、月極の警備保障やビルのメンテナンス契約のように期間極めの契約の場合には、その約した役務の全部の完了が一括して行われるものではないので経過措置を適用することはできないこととしている(経過措置の取扱いQ&A問26)。このQ&A問26との整合性はどのように考えればよいのであろうか?
 消費税法基本通達9-1-20(賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期)では、資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額については、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日が資産の譲渡等の時期であるとしている。したがって、事務機器のメンテナンス契約が資産の貸付け契約であればこのQ&Aの取扱いも理解できるのであるが、事務機器のメンテナンスはあくまでも「役務の提供」であり、本通達を準用することは適当でないと思われるのである。

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