コラム2014年02月10日 【ニュース特集】 医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度を読み解く(2014年2月10日号・№534)
「医療法人版」事業承継税制の創設は誤解!?
医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度を読み解く
平成26年度税制改正法案(所得税法等の一部を改正する法律案)が2月4日、国会へ提出された。同法案に盛り込まれた企業向け減税(生産性向上設備投資促進税制など)に注目が集まるなか、医療分野や資産税に強い税理士からは、新設の「医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度」に期待を寄せる声が高まっている。
そこで、本特集では、今回の改正で新設される同制度を法案や取材などをもとに読み解いていく。同制度については「医療法人版」事業承継税制が創設されたとの声も数多く聞かれる。だが、実際に同制度を読み解いていくと、「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」へ移行する間に発生する相続・贈与税を回避するための制度(「出資持分のない医療法人」への移行支援制度)と捉えることができる。
「出資持分のない医療法人」への移行中に発生する相続税を納税猶予
現在、医療法人の大部分を占める「出資持分のある医療法人」とは、出資持分の払戻しや医療法人解散にともなう残余財産の分配などを「定款」に定めた法人のこと。「出資持分のある医療法人」は、全医療法人のうちの85%(41,903法人)を占めている。
この「出資持分のある医療法人」は、病院の非営利性の徹底などを目的とした医療法改正(平成19年4月施行)により、平成19年4月以降は新設できなくなった。また、平成19年3月末までに「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」に移行しなかった場合には、自動的に「経過措置型医療法人」となり、いずれは「出資持分のない医療法人」への移行を迫られる状況(当分の間は移行猶予)となっている。ただ、現状、「出資持分のない医療法人」への移行は年間数十件程度にとどまっている。
出資者の死亡で医療法人の経営悪化も 「出資持分のある医療法人」の出資者が死亡した場合、その出資持分は相続税の課税対象となる。ただ、「出資持分のある医療法人」では、相続の際の出資持分の相続税評価額が高くなりがちだ(剰余金の配当禁止により剰余金が蓄積されているため)。
このとき、出資持分の相続税負担を理由に相続人が出資持分の払戻しを請求すると、医療法人の資金繰りが悪化する恐れが生じる。
そのため、出資者にとっては相続税対策として、また、医療法人にとっては払戻請求対策として、「出資持分のない医療法人」(出資持分がなくなるため、相続税の課税対象外となる)への移行が選択肢として浮上する。ただ、移行するためには、出資者全員がその出資持分を放棄することなどが求められるなど、その調整に時間がかかる。
今回新設される制度は、この「出資持分のない医療法人」へ移行する間に発生した出資者の相続について、その相続人が負担する出資持分の相続税を納税猶予することで、「出資持分のない医療法人」への移行を支援する制度といえるものだ(図1参照)。
移行期限までにすべての出資持分を放棄すれば猶予税額を免除
具体的にみると、個人(相続人)が「出資持分のある医療法人」の持分を相続した場合において、その医療法人が相続税の申告期限の時点で「認定医療法人」(出資持分のない医療法人への移行計画などについて厚生労働大臣の認定を受けた医療法人)であるときは、担保(出資持分など)の提供を条件に、その医療法人の出資持分に係る相続税額が、認定移行計画に記載された移行期限まで猶予される(改正措置法70の7の8①)。
この猶予された相続税額は、「出資持分のない医療法人」への移行計画に記載された移行期限までに相続人を含むすべての出資者がその持分を放棄した場合に免除される(同条⑪)。ただし、相続人が出資持分の払戻しや譲渡をした場合には納税猶予が取り消され、納付義務が発生する(同条⑤)。また、納税猶予を受けた相続人が死亡した場合は、その相続人の相続人が納税猶予分の相続税額に係る納付義務を承継することになる(同条⑬)。
「出資持分の放棄」により移行期間中に発生する贈与税も納税猶予に
今回の改正では、「出資持分のない医療法人」への移行中に、医療法人の出資者が持分を放棄したことにより他の出資者の持分が増加すること(贈与を受けたものとみなされる)で発生する贈与税についても手当てがなされている(図2参照)。具体的には、認定医療法人の持分を有する個人がその持分の全部または一部を放棄した場合において、その認定医療法人の持分を有する他の個人に対して贈与税が課される場合には、担保の提供を条件として、その贈与税が認定移行計画に記載された移行期限まで納税猶予される(改正措置法70の7の5①)。
この猶予された贈与税額は、出資持分のない医療法人への移行計画に記載された移行期限までにすべての出資者がその持分を放棄した場合に免除される(同条⑪)。
ただし、受贈者が出資持分の払戻しなどを受けた場合には、納税猶予が取り消され、納付義務が発生する(同条⑤)。
納税猶予のキーとなる「認定医療法人」制度は今秋にもスタート
新設される「医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度」は、今通常国会に提出される平成26年改正医療法案の成立が前提となる。具体的には、医療法人が同法案に規定される「認定医療法人」として、厚生労働大臣に認定されることが要件だ。認定要件として、「持分なし医療法人への移行計画の作成」や「3年以内に持分なし医療法人への移行を検討する旨を規定する定款変更」などが求められるが、詳細は、改正医療法の政省令によって明らかにされる。
また、「認定医療法人」の認定制度は、改正医療法に明記された施行日から3年以内に限られている。改正医療法が今通常国会で成立すれば、今年の秋(平成26年10月以降)にもスタートする見込みだ。
医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度を読み解く
平成26年度税制改正法案(所得税法等の一部を改正する法律案)が2月4日、国会へ提出された。同法案に盛り込まれた企業向け減税(生産性向上設備投資促進税制など)に注目が集まるなか、医療分野や資産税に強い税理士からは、新設の「医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度」に期待を寄せる声が高まっている。
そこで、本特集では、今回の改正で新設される同制度を法案や取材などをもとに読み解いていく。同制度については「医療法人版」事業承継税制が創設されたとの声も数多く聞かれる。だが、実際に同制度を読み解いていくと、「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」へ移行する間に発生する相続・贈与税を回避するための制度(「出資持分のない医療法人」への移行支援制度)と捉えることができる。
「出資持分のない医療法人」への移行中に発生する相続税を納税猶予
現在、医療法人の大部分を占める「出資持分のある医療法人」とは、出資持分の払戻しや医療法人解散にともなう残余財産の分配などを「定款」に定めた法人のこと。「出資持分のある医療法人」は、全医療法人のうちの85%(41,903法人)を占めている。
この「出資持分のある医療法人」は、病院の非営利性の徹底などを目的とした医療法改正(平成19年4月施行)により、平成19年4月以降は新設できなくなった。また、平成19年3月末までに「出資持分のある医療法人」が「出資持分のない医療法人」に移行しなかった場合には、自動的に「経過措置型医療法人」となり、いずれは「出資持分のない医療法人」への移行を迫られる状況(当分の間は移行猶予)となっている。ただ、現状、「出資持分のない医療法人」への移行は年間数十件程度にとどまっている。
出資者の死亡で医療法人の経営悪化も 「出資持分のある医療法人」の出資者が死亡した場合、その出資持分は相続税の課税対象となる。ただ、「出資持分のある医療法人」では、相続の際の出資持分の相続税評価額が高くなりがちだ(剰余金の配当禁止により剰余金が蓄積されているため)。
このとき、出資持分の相続税負担を理由に相続人が出資持分の払戻しを請求すると、医療法人の資金繰りが悪化する恐れが生じる。
そのため、出資者にとっては相続税対策として、また、医療法人にとっては払戻請求対策として、「出資持分のない医療法人」(出資持分がなくなるため、相続税の課税対象外となる)への移行が選択肢として浮上する。ただ、移行するためには、出資者全員がその出資持分を放棄することなどが求められるなど、その調整に時間がかかる。
今回新設される制度は、この「出資持分のない医療法人」へ移行する間に発生した出資者の相続について、その相続人が負担する出資持分の相続税を納税猶予することで、「出資持分のない医療法人」への移行を支援する制度といえるものだ(図1参照)。

移行期限までにすべての出資持分を放棄すれば猶予税額を免除
具体的にみると、個人(相続人)が「出資持分のある医療法人」の持分を相続した場合において、その医療法人が相続税の申告期限の時点で「認定医療法人」(出資持分のない医療法人への移行計画などについて厚生労働大臣の認定を受けた医療法人)であるときは、担保(出資持分など)の提供を条件に、その医療法人の出資持分に係る相続税額が、認定移行計画に記載された移行期限まで猶予される(改正措置法70の7の8①)。
この猶予された相続税額は、「出資持分のない医療法人」への移行計画に記載された移行期限までに相続人を含むすべての出資者がその持分を放棄した場合に免除される(同条⑪)。ただし、相続人が出資持分の払戻しや譲渡をした場合には納税猶予が取り消され、納付義務が発生する(同条⑤)。また、納税猶予を受けた相続人が死亡した場合は、その相続人の相続人が納税猶予分の相続税額に係る納付義務を承継することになる(同条⑬)。
「出資持分の放棄」により移行期間中に発生する贈与税も納税猶予に
今回の改正では、「出資持分のない医療法人」への移行中に、医療法人の出資者が持分を放棄したことにより他の出資者の持分が増加すること(贈与を受けたものとみなされる)で発生する贈与税についても手当てがなされている(図2参照)。具体的には、認定医療法人の持分を有する個人がその持分の全部または一部を放棄した場合において、その認定医療法人の持分を有する他の個人に対して贈与税が課される場合には、担保の提供を条件として、その贈与税が認定移行計画に記載された移行期限まで納税猶予される(改正措置法70の7の5①)。

この猶予された贈与税額は、出資持分のない医療法人への移行計画に記載された移行期限までにすべての出資者がその持分を放棄した場合に免除される(同条⑪)。
ただし、受贈者が出資持分の払戻しなどを受けた場合には、納税猶予が取り消され、納付義務が発生する(同条⑤)。
納税猶予のキーとなる「認定医療法人」制度は今秋にもスタート
新設される「医療法人に係る相続・贈与税の納税猶予制度」は、今通常国会に提出される平成26年改正医療法案の成立が前提となる。具体的には、医療法人が同法案に規定される「認定医療法人」として、厚生労働大臣に認定されることが要件だ。認定要件として、「持分なし医療法人への移行計画の作成」や「3年以内に持分なし医療法人への移行を検討する旨を規定する定款変更」などが求められるが、詳細は、改正医療法の政省令によって明らかにされる。
また、「認定医療法人」の認定制度は、改正医療法に明記された施行日から3年以内に限られている。改正医療法が今通常国会で成立すれば、今年の秋(平成26年10月以降)にもスタートする見込みだ。
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