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コラム2018年03月05日 【未公開裁決事例紹介】 診療所引継ぎ時の支払対価が営業権に該当するか否か(2018年3月5日号・№729)

未公開裁決事例紹介
診療所引継ぎ時の支払対価が営業権に該当するか否か
医師業は専門知識で成り立つ一身専属性の高いもの

○医師である配偶者が営んでいた診療所を引き継いで開業した際に支払った営業権の対価が事業所得の計算上必要経費に算入することができるかどうか争われた裁決。国税不服審判所は、医師の行う業務は個々の医師の専門的知識や個々の患者との個人的信頼関係を基礎に成り立つ一身専属性の高いものであるから、本件配偶者の専門的知識等や患者との個人的信頼関係などの事実関係は、旧診療所に客観的に結実した形で表象されたものと認められるものではないなどと指摘。したがって、本件金員は減価償却資産となる営業権の対価に該当するとは認められないとの判断を示した(平成29年5月8日、棄却)。

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、配偶者が営んでいた診療所を引き継いで開業した際、配偶者に営業権の対価として金員を支払ったとして、当該金員を取得価額とする営業権に係る減価償却費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税の確定申告等をしたところ、原処分庁が、当該金員は減価償却資産となる営業権の対価に該当しないから当該減価償却費を必要経費に算入することはできないなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該減価償却費を必要経費に算入することはできるなどとして、更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令の要旨(略)
(3)基礎事実
 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 イ 請求人等について (イ)請求人及びその配偶者である××は、医師である。
(ロ)××は、×××に診療所を開設し、×××に当該診療所を廃止した(以下、××が営んでいた診療所(事業)を「旧診療所」という。なお、旧診療所の施設の名称及び所在地は、別表1(略)のとおりである。)。
(ハ)請求人は、×××に旧診療所を引き継いで診療所を開設した(以下、請求人が営む診療所(事業)を「本件診療所」という。なお、本件診療所の施設の名称及び所在地は、別表2(略)のとおりである。)。
(ニ)××は、×××以後、本件診療所に常勤医師として従事した。
(ホ)××は、平成23年ないし平成26年を通じて、請求人と生計を一にする配偶者であった。
 ロ 請求人と××の間の売買契約等について (イ)請求人と××は、×××に、請求人が旧診療所を引き継いで開業するため、××を売主、請求人を買主として、要旨次の内容の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
 A 目的物及び代金:旧診療所の動産等(×××)及び営業権(×××)
 B 引渡日:××××
 C 代金の支払時期:売買契約後1年以内
(ロ)請求人と××は、××××から××までの間に、請求人が旧診療所を引き継いで開業するため××を売主、請求人を買主として、要旨次の内容の契約(以下「本件棚卸資産売買契約」という。)を締結した。
 A 目的物及び代金:医薬品等の棚卸資産(××)
 B 引渡日:××××
 C 代金の支払時期:売買契約後1年以内
(ハ)請求人は、×××に、××に対し、本件売買契約に基づく営業権の代金××及び旧診療所の動産等の代金の一部××を支払った(以下、請求人が同日に××に支払った××を「本件金員」という。)。
(ニ)請求人は、×××に、××に対し、本件棚卸資産売買契約に基づく医薬品等の棚卸資産の代金××を支払った。
(ホ)請求人は、×××に、××に対し、本件売買契約に基づく旧診療所の動産等の代金の残金××を支払った。
(へ)本件売買契約及び本件棚卸資産売買契約に定める資産以外に、請求人が平成23年中に××から購入した資産はなかった。
(4)審査請求に至る経緯 イ 請求人は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書により、別表3(略)の「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した(以下、平成23年分ないし平成26年分を併せて「本件各年分」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成28年3月29日付で別表3(略)の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税(平成25年分及び平成26年分については所得税等)の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成28年5月23日に審査請求をした。

争点および主張  本件金員は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。(当事者の主張はのとおり。)

【表】当事者の主な主張
原処分庁 請 求 人
 本件金員は、次の理由から、減価償却資産となる営業権の対価に該当しないことから、本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
イ ××は、旧診療所を僅か10か月で廃止し、また、請求人は、旧診療所を引き継いだ3か月後にその施設の所在地を移転したことから、旧診療所に「長年にわたる伝統と社会的信用」、「立地条件」等が存在していたというべき事実関係すなわち他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係は認められない。
ロ また、一身専属性の高いものと認められる医業において、医師のノウハウ、患者との信頼関係等は、当該医師個人に帰属するものであり、当該医師を離れて営業組織に客観的に結実することにはなじまないことから、本件においても××の医師としてのノウハウや患者との信頼関係等は××に帰属するものであり、××を離れて営業組織である旧診療所に客観的に結実したものとは認められない。
ハ したがって、本件金員は、減価償却資産となる営業権の対価であるとは認められない。
 本件金員は、次の理由から、減価償却資産となる営業権の対価に該当することから、本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
イ 旧診療所は、医師である××及び女性従業員による女性患者に対する診療体制(以下「本件診療体制」という。)並びに××が考案した女性専用のスペースの創設などにより、開設後10か月の期間で、他の診療所を上回る収益の稼得を可能にしていたのであり、無形の財産的価値を有していた。

ロ また、診療所経営は、医師、従業員、診療所が有機的一体となって初めて機能するものであり、基本的には立地した診療所の施設内部において、医師を中心に、看護師や事務員等の従業員が一体となって行うものであるから、診療所を離れて医師個人にのみ帰属するものではなく、診療所に帰属するものである。


ハ したがって、本件金員は、減価償却資産となる営業権の対価である。

審判所の判断
(1)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 旧診療所の施設には、壁等で仕切られロッカーが備え付けられた更衣室が設置され、当該更衣室は、女性患者がマンモグラフィー検査(乳房Ⅹ線撮影検査)を受けるときに検査着に着替えるための女性専用の更衣室として使用されていた。
ロ ××は、請求人が旧診療所を引き継いだ際に、請求人に対し、旧診療所に来院していた患者の紹介又はこれに類する行為は行わなかった。
ハ 請求人と××は、請求人が旧診療所を引き継いだ際に、××が本件診療所に従事し続けることや本件診療所の施設の所在地と同一地域内で医師として働いてはいけないことなどを定めた契約を締結しなかった。
ニ 請求人は、××××に移転した本件診療所の施設に、男女共用の待合室、診察室、点滴室等以外に、医師や従業員を含めて女性だけが使用する待合室、診察室、ロッカー室及びマンモグラフィー室等、女性専用のスペースを設け、女性患者が、男女共用の待合室等を通ることなく、女性専用のスペースにおいて、女性医師による診療を受けることができるようにした。
(2)判 断
 イ 本件金員を本件各年分の必要経費に算入することの可否について
 本件金員が、減価償却資産となる営業権の対価に該当する場合には、本件金員を取得価額とする営業権に係る減価償却費を、本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるので、以下、この点について検討する。
(イ)所得税法第2条第1項第19号に規定する減価償却資産となる営業権については、同法第49条第1項の規定により計算された償却費の金額が事業所得等の金額の計算上必要経費に算入されるところ、営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係をいい、当該事実関係は、それが個々の主観的要素を離れて営業組織に客観的に結実した形で表象された場合に初めて減価償却資産となる営業権に該当するものと解するのが相当である。
  そして、医師は、一般に、その有する専門的知識、経験、医学的・経験的技能等を駆使して診療等の業務を行うものであるところ、医師が業務を行うに当たって執るべき診療方法等は、その職務の性質上、一律に定まるものではなく、個々の医師の専門的知識等により左右されるものである。また、医師の行う業務は、個々の医師の人格識見をはじめ、その有する専門的知識等に対する患者の信頼を前提に、守秘義務の下での患者からの心身の状況等についての率直な事実の開示や患者の承諾を得て承認された方法で行われる診療等に基づいて確立される個人的信頼関係を基礎として行われるものである。
  このように医師の行う業務は、個々の医師の専門的知識等や個々の患者との個人的信頼関係を基礎として成り立っているものであり、一身専属性の高いものであるから、医師である××の専門的知識等や患者との個人的信頼関係などの事実関係は、旧診療所に客観的に結実した形で表象されたものと認められるものではなく、減価償却資産となる営業権に該当するものとは認められない。
  また、当審判所の調査の結果によっても、旧診療所に、他の診療所を上回る収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係があり、それが旧診療所に客観的に結実した形で表象されていたと認めるに足りる証拠はない。
  したがって、本件金員は、減価償却資産となる営業権の対価に該当するものとは認められないことから、本件金員を取得価額とする営業権に係る減価償却費を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ロ)請求人は、旧診療所は、本件診療体制及び女性専用のスペースの創設などにより、他の診療所を上回る収益の稼得を可能にしていたのであり、無形の財産的価値を有していたから、本件金員は減価償却資産となる営業権の対価に該当する旨主張する。
  しかしながら、本件診療体制のうち医師である××の専門的知識等や患者との個人的信頼関係などの事実関係は、上記(イ)のとおり、減価償却資産となる営業権に該当するものではないところ、これらの事実関係を除く本件診療体制について、それが他の診療所を上回る収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係であると客観的に認めるに足りる証拠はない。
  また、上記(1)のイのとおり、旧診療所の施設に設置されていた更衣室は、施設の一室にロッカーが備え付けられ、女性専用の更衣室として使用されていたものであるから、第三者が設置することが困難な構造又は特殊な使用状況があったとは認められない。
  さらに、請求人が、診療所の施設に女性専用のスペースを設け女性患者に配慮した診療又は診療体制とする考え方を××から引き継いだことによって、上記(1)のニのとおり、移転した本件診療所の施設に女性専用のスペースを設けたとしても、そのような考え方自体は、第三者において採用することが困難な特殊な考え方とは認められないことから、請求人の主張する上記事実関係が、他の診療所を上回る収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係ということもできない。
  したがって、請求人の主張には理由がない。
 ロ 本件金員を平成23年分の必要経費に算入することの可否について  本件金員が、営業権に係る減価償却費以外の費用として、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する場合には、本件金員を平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるので、以下、この点について検討する。
(イ)所得税法第37条第1項は、その年分の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得等の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得等を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、同規定によれば、ある支出が事業所得等の金額の計算上必要経費に算入されるためには、客観的に見て、それが事業所得等を生ずべき業務と直接関係があり、かつ、その業務の遂行上必要な支出であることを要するものと解するのが相当である。
  本件においては、請求人が旧診療所を引き継いだ際に、上記(1)のロのとおり、××による請求人に対する患者の紹介等の行為はなかったことから、本件金員は、患者の紹介料等に該当するものとは認められず、同ハのとおり、請求人と××の間で、××が本件診療所に従事し続けることなどを定めた契約は締結されなかったのであるから、本件金員は、××が本件診療所に従事し続けることなどを約する対価としての契約金に該当するものとも認められない。
  また、本件売買契約及び本件棚卸資産売買契約に定める資産以外に、請求人が平成23年中に××から購入した資産はないことから、本件金員が、営業権以外の資産の譲渡の対価に該当するものとも認められない。
  さらに、請求人は、本件金員が減価償却資産となる営業権の対価である旨主張し、それ以外に具体的にどのような費用に該当するかを積極的に主張するものではなく、当審判所の調査の結果によっても、本件金員が何らかの費用に該当すると認めるに足りる証拠はないことから、本件金員は、客観的に見て、請求人の事業所得を生ずべき業務と直接関係があり、かつ、その業務の遂行上必要な支出であったとは認められない。
  したがって、本件金員は、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するとは認められないことから、平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ロ)請求人は、本件金員について所得税法第56条の規定を適用することは認められないのであるから、本件金員は平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる旨主張する。
  しかしながら、上記(イ)のとおり、本件金員は、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するとは認められないのであるから、同法第56条の規定の適用の有無にかかわらず、平成23年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないのであり、請求人の主張は採用することができない。

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