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解説記事2018年06月18日 【SCOPE】 法人と共に実施した宅地分譲、所得区分と必要経費で争い(2018年6月18日号・№743)

地裁、所得税更正処分等の一部を取り消す
法人と共に実施した宅地分譲、所得区分と必要経費で争い

 納税者が不動産会社(以下「A社」)と共に実施した宅地分譲が納税者の事業所得を生ずべき業務に当たるか否かなどが争われた税務訴訟で東京地裁は平成30年1月23日、宅地分譲による利益の分配に係る所得区分は事業所得に当たると判断したうえで、課税当局が否認した別件訴訟の弁護士費用を必要経費と認めた。地裁は、納税者が実質的にA社と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められることなどから、宅地分譲による利益の分配に係る所得区分は事業所得に当たると判断。また、納税者の事業所得を生ずべき業務にはA社から受ける利益及び損失の分配に係るものも含まれることから、損失負担の帰属に係る別件訴訟に要した弁護士費用は業務の遂行上必要な費用に当たるという判断を示した。

課税当局、事業所得に該当しないと判断して必要経費を否認
 今回紹介する税務訴訟は、パチンコ業を営む原告である納税者(個人)が宅地分譲等を営むA社(不動産会社)と共に実施した宅地分譲をめぐり、①宅地分譲の事業が納税者の事業所得を生ずべき業務に当たるか否か、②事業所得に当たるとした場合に別件訴訟(納税者とA社との間の宅地分譲により生じた損失の負担の帰属をめぐる紛争)に関し納税者が支払った弁護士費用が事業所得の必要経費に当たるか否か、③別件訴訟において確定した損失負担金を平成21年分の事業所得の必要経費として控除できるか否かなどが問題となっていたものである。
 事実関係をみていくと、納税者とA社は宅地分譲を平成2年頃から開始したものの、宅地の売却が完了したのは平成20年6月であった。この期間内にA社は、納税者に対して宅地分譲から生じた損失負担金の支払いを求める別件訴訟を平成15年11月に提起。一審では納税者が勝訴したものの、控訴審(平成20年9月18日判決)では一審判決が変更され、納税者に対して損失負担金約1億8,000万円の支払いを命じる判決が下された。この控訴審判決を不服とした納税者は上告したものの、最高裁は平成21年2月10日付で上告を斥ける旨の決定をした。なお、別件訴訟のなかで納税者は、平成21年中に弁護士費用1,500万円を支払っていた。
課税当局はA社の単独事業と判断  納税者は、平成21年分の確定申告において、A社と共に実施した宅地分譲が事業所得に該当するとして、損失負担金や弁護士費用を必要経費に算入していた。この申告に対し税務署は、宅地分譲はA社の単独事業であるとしたうえで、宅地分譲は納税者の事業所得には該当せず、損失負担金や弁護士費用は必要経費に該当しないとする課税処分を行っていた。これを不服とした納税者は、裁判のなかで、A社と共に実施した宅地分譲は事業所得に該当し、損失負担金や弁護士費用は必要経費に算入されるなどと主張して、課税処分の取り消しを求めた。

損失負担金に係る別件訴訟の弁護士費用は平成21年分の必要経費に
 東京地裁はまず、納税者はA社と宅地分譲を実施するに当たって、A社において宅地等の開発及び分譲を実施し、宅地分譲による損益を両者で折半することに合意しており、納税者はその合意に基づき宅地分譲によって生じた損益についてA社から利益の分配を受け、あるいはその負担すべき損失をA社に支払うことになると解されるとした。
 次に地裁は、本件のように他者の営む事業から生じた利益の分配を受ける旨の合意がされている場合において、その合意に基づいてその他者から受領した利益の所得区分については、その利益の分配を受ける者が実質的にその他者と共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には、その他者の営む事業の内容に従って判断されるべきとした。また、地裁は、その利益の分配を受ける者がこのような地位を有するものと認められない場合には、その他者の営む事業の内容にかかわらず、その利益の分配を受ける者にとってその所得が有する性質に従って判断されるべきものであるとした。そのうえで地裁は、その利益の分配を受ける者が上記地位を有するものといえるかどうかは、その事業に至る経緯、その事業に係る合意内容、その事業に対する関与の程度等を総合して実質的に判断するのが相当であるという判断基準を示した。
 そして本件について地裁は、納税者が宅地分譲で果たした役割や関与の度合い(宅地の取得に向けた地権者との折衝、A社の借入金に対する銀行との折衝など)に加え、納税者が宅地分譲の意思決定に関わり得る地位にあったことに鑑みれば、納税者は実質的にA社と共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認めるのが相当であるとしたうえで、宅地分譲はA社が目的とする事業であることなどに照らせば、納税者が宅地分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は事業所得に当たると判断。別件訴訟の損失負担金は納税者の事業所得の必要経費に該当するとした。
損失負担金は平成21年分では控除できず  しかし、地裁は、宅地分譲は平成20年6月16日に全てが完了していることや納税者が完売した際に損益を精算するものであったと供述していることなどを踏まえると、遅くとも同日時点では納税者のA社に対する損失負担金に係る債務が成立していたと指摘。損失負担金に係る必要経費については、少なくとも平成21年の事業所得の計算において控除することはできないと判断した。
 次に別件訴訟の弁護士費用について地裁は、宅地分譲により生じた利益をA社から分配を受けることまでが納税者にとっての事業所得を生ずべき業務であると解するのが相当であるとした。この点を踏まえ地裁は、納税者の事業所得を生ずべき業務にはA社から受ける利益及び損失の分配に係るものも含まれるとしたうえで、A社との損失負担に係る別件訴訟に要した弁護士費用は納税者の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な費用に当たると判断。納税者が平成21年中に支払った弁護士費用は必要経費に含まれるとした。

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