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解説記事2018年10月01日 【SCOPE】 監査法人に対する勧告の公表差止め請求を認めず(2018年10月1日号・№757)

裁判所、審査会の勧告公表は処分に該当せず
監査法人に対する勧告の公表差止め請求を認めず

 公認会計士・監査審査会により勧告を受けた本件監査法人が同審査会に対して、勧告の公表の差止めを求めていた事件の控訴審で東京高裁は平成30年6月28日、本件監査法人の請求を却下した原審判決を支持する判決を下した。控訴審のなかで本件監査法人は、勧告の公表により業務上著しい被害を受けていることなどを指摘し、司法的救済が必要であるなどと主張していた。これに対し高裁は、公表により対象監査法人の信用低下等が生ずることがあるとしても、それは事実上の不利益にとどまるものというほかないなどと指摘。審査会による勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となる処分に該当しないと判示した原審判決の判断内容を支持したうえで、本件監査法人の控訴を棄却している。

監査法人側、勧告公表により業務上被害を受けているなどと主張
 本件の発端は、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」)が本件監査法人に対して、運営が著しく不当なものと認められるとして公認会計士法41条の2に基づき行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に対し本件勧告をしたことである。審査会は、本件勧告をした事実の記者発表を行うとともに、本件勧告の内容を審査会のHP上に公表した。公表文には、監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められ、その業務の実施について残高確認により入手した回答を検討しないなど監査の基本的な手続における不備が認められることなどから、運営が著しく不当なものと認められる旨などが記載されていた(本件勧告の要旨は次頁の囲み参照)。

本件監査法人に対する検査結果に基づく勧告について(要旨)
 検査の結果、本件監査法人は、監査リスクの高い複数の上場会社の監査業務を新規に受嘱しているところ、①監査業務の新規受嘱時の対応において複数の不備が認められ、その業務の実施について残高確認により入手した回答を検討しないなど、監査の基本的な手続における不備が認められること、②審査において、大会社等の監査経験のない者を専任の審査担当者として選任し、また、定期的な検証においても、経験のある検証責任者が十分に関与していないなど、品質管理の実施体勢が適切に整備されていないこと、③今回の検査においても、前回の検査におけるのと同様の不備が複数認められ、前回の検査以降の改善に向けた取組は実効性があるものとは認められないことなどから、その品質管理体勢は著しく不十分なものであり、本件監査法人の運営は著しく不当なものと認められた。そこで、公認会計士・監査審査会は、金融庁長官に対して公認会計士法第41条の2に基づき当該監査法人に対し行政処分その他の措置を講ずるよう勧告した。

当初は勧告の差止めを請求も……  本件監査法人は、本件訴えにおいて当初は審査会による勧告及びその公表の差止めを求める訴えを提起したものの、その後実際に本件勧告がされたことから、勧告の差止めを求める訴えを取り下げたうえで、本件勧告の公表の差止めなどを求めた。
 裁判のなかで本件監査法人は、勧告を公表する行為は勧告及びこれにより実質的に決せられることとなる金融庁長官による行政処分と一体のものとして、処分性が認められるというべきであると指摘したうえで、本件勧告を公表する行為は差止めの訴え(行訴法3⑦)の対象となると主張した。また、本件監査法人は、審査会による勧告の公表により処分事由に該当する「運営が著しく不当」な監査法人であるというレッテルを広く世間一般に半永久的に貼られることになるから監査法人としてのイメージが著しく毀損され、後に行われる処分手続きやその争訟手続きにおいて処分の効力を争っても回復することのできない損害を被ることは明らかであるなどと主張したうえで、勧告公表の差止めを求めた。
 原審の東京地裁は、公認会計士法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は公権力の行使として行うその行為によって直接対象監査法人の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに当たるとはいえず、行訴法3条7項に定める「処分」には該当しないという判断を示した。そして地裁は、審査会による勧告を公表する行為は差止めの訴えの対象となるものではないとしたうえで、本件監査法人による勧告公表の差止めの訴えを却下していた(平成29年11月21日判決)。
勧告公表の処分性を肯定することは出来ず  地裁判決を不服とした本件監査法人は控訴を提起。控訴審のなかで本件監査法人は、本件勧告の公表により、その会計専門家としての職業上の中核的利益の部分において名誉・信用の法益を著しく侵害され、業務上の著しい被害を受けており、一般人にとって「勧告」と「処分」の区別はないと指摘。また本件監査法人は、本件勧告の公表により、本件監査法人に重大な被害が発生し、その受忍を強いられている以上、公表行為が対象監査法人の名誉・信用棄損を「直接の」目的としてされたものではないとしても、司法的救済が必要であるなどと主張した。
 これに対し東京高裁は、公認会計士法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は審査会の保有する情報を投資者の保護等の目的から公開するという事実上の行為であり、その効果についても、対象監査法人につき権利がはく奪され又は義務が課せられるものではなく、公表により対象監査法人につき信用の低下等が生ずることがあるとしても、それは事実上の不利益にとどまるものというほかないと指摘。また高裁は、審査会の勧告は審査会から金融庁長官に対してされる行政機関相互間の行為であって、これと金融庁長官の行政処分とを一体のものとして捉えることはできず、本件勧告を公表する行為をこれらと一体のものとしてその処分性を肯定することもできないなどと指摘した。
 そして高裁は、審査会による勧告を公表する行為は差止めの訴え(行訴法3⑦)の対象となる処分に該当しない旨を判示した原審判決の判断内容(本件監査法人による勧告公表の差止めの訴えを却下)を支持したうえで、本件監査法人の控訴を棄却した。

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