コラム2018年12月17日 【書評】 書評『平成29・30年度税制改正対応 外国子会社合算税制』(2018年12月17日号・№767)

書評
平成29・30年度税制改正対応
外国子会社合算税制
 一般社団法人 日本経済団体連合会
 経済基盤本部
 幕内 浩 著

A5判 248頁/定価 3,240円
清文社

 子会社形態での海外進出を拡大する本邦企業にとって、近年、①法人税率引下げ競争の中で海外子会社の実効税率がトリガー税率に抵触するリスクが高まったこと、②M&Aで取得した被買収企業の傘下に一部低税率国に設立されたペーパーカンパニーが含まれている可能性も顕在化してきたことなどから、外国子会社合算税制の適用リスクは、移転価格税制と並んで国際税務中のハイリスク領域と認識されてきている。実体のある経済活動を阻害しないで不当な租税回避にターゲットを絞ることを使命とする同税制の制度設計は、常に、ビジネスの新しい環境を適用除外要件に反映させる改正を継続する必要が指摘されてきた。
 財務省と経済産業省はこの問題意識を共有し、長年にわたってビジネスの声を反映した同税制の見直しを検討してきたが、BEPS勧告を反映した平成29年度抜本改正を頂点とした過去10年間の一連の改正は、政府とビジネスの共同作業の成果といっても過言ではない。
 著者の幕内氏は、評者とは各種の研究会で国際税務を議論する同僚であるが、丹念なリサーチ力と理論的な洞察力で信任の厚い実務家である。特に、本税制の改正過程には経団連からビジネスの意見集約を図るコーディネーターとして継続して参画され、国際スタンダードと日本企業のニーズのバランスの上に立つ現行税制の成立に大いに貢献された。実務と改正経緯に通じた著者ならではの具体例を駆使した本書は、条文に即した丁寧な改正内容の叙述とふんだんに用いた図表を参照した分かりやすい解説が特徴であり、加えてBEPSとの関連や立法に至るプロセスの情報にも言及しているため、ベテランから若手に至るまで幅広い実務家にとって有益なハンドブックであるにとどまらず、研究者にとっても本税制の有益な研究素材を提供するものとなっている。ぜひとも職場、研究室の本棚に備え付けたい一冊である。


〈評者〉青山慶二 早稲田大学大学院教授
1971年東京大学法学部卒業、1973年同大学院法学政治学研究科修士課程修了。
1973年国税庁入庁、2006年国税庁審議官を経て筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授、2012年より現職。
慶應大学特別招聘教授、筑波大学客員教授、国税庁税務大学校講師、JICA講師、国連税の専門家委員会委員、税制調査会専門家委員会特別委員、経済産業省国際課税研究会座長、21世紀政策研究所研究主幹等を歴任。
租税法学会監事、International Fiscal Association常設研究企画委員会委員、同日本支部理事。

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