解説記事2019年11月25日 未公開裁決事例紹介 居住用家屋とは居住の意思と客観的な生活の拠点(2019年11月25日号・№812)

未公開裁決事例紹介
居住用家屋とは居住の意思と客観的な生活の拠点
審判所、治療後に家屋に戻る意思では判断せず


○居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用があるか否かが争われた事案。国税不服審判所は、被相続人は介助が常に必要な状況になり、本件不動産において一人暮らしをすることが困難となったことから、長期間の入所が可能な介護老人福祉施設に入居し、その後も本件不動産には外泊をせず、電気や水道もほとんど使用していなかったなどと指摘。本件不動産は、譲渡の日である平成26年11月において、本件被相続人の居住用家屋には該当しないため、特例を適用することはできないとの判断を示した(平成31年1月18日、棄却)。

基礎事実等
(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の父が、介護老人福祉施設入居中に家屋及びその敷地を譲渡し、当該譲渡について居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特別控除の特例を適用して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該譲渡について、当該家屋を居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに行われておらず、当該特例の対象にはならないとして、所得税等の更正処分等をしたことに対し、父の死亡によりその納税義務を承継した請求人が、当該家屋が当該譲渡の日において居住の用に供されていたので、当該譲渡について当該特例を適用することができるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯
 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人の父である××××(××××××死亡。以下、「本件被相続人」という。)は、別表1(略)の順号1の土地(以下「本件土地」という。)並びに本件土地上に存する同表の順号2の未登記建物及び順号3の建物(以下、当該各建物を併せて「本件各家屋」といい、また、本件土地及び本件各家屋を併せて「本件各不動産」という。)を所有し、本件各家屋に居住していた。
ロ 本件被相続人は、平成15年11月20日付で、××××××××との間で、同社の運営する「××××××××」(以下「本件センター」という。)への通所介護契約を締結し、その後、遅くとも平成16年6月2日までに、本件センターのグループホームに入所した。
ハ 本件被相続人は、住民登録上の住所を平成15年12月9日まで本件各不動産の所在地(住居表示は××××××××××××××××)としていたところ、同日付で、請求人の自宅である××××××××××××××××(請求人の夫)方に異動した。なお、本件被相続人の住民登録上の住所は、同人が××××××に死亡するまで、異動がない。
ニ 請求人は、平成17年10月10日付で、××××××××との間で、本件被相続人が同福祉法人の運営する××××××××(以下「本件施設」という。)に入居しながら介護福祉施設サービス等を受ける旨の介護老人福祉施設入居契約を締結し、本件被相続人は、同日から本件施設に入居した。
ホ 本件被相続人は、平成26年10月17日付で、××××××××との間で、同社に対して本件各不動産を売買代金××××××で譲渡する旨の不動産売買契約を締結し(以下、当該売買契約による本件各不動産の譲渡を「本件譲渡」という。)、同年11月28日、本件各不動産を引き渡した。そして、本件各不動産について、同日に同日付売買を原因として、本件被相続人から同社への所有権移転登記が経由された。なお、その譲渡日(すなわち、その引渡しのあった日)である同日の属する年の1月1日時点において、本件被相続人が本件各不動産を取得した日から5年が経過していた。
へ 本件被相続人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件各家屋が居住用家屋に該当するとして、本件特例を適用し、法定申告期限内に別表2(略)及び同表の付表の各「確定申告」欄のとおり、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をした。
ト 原処分庁は、本件譲渡が本件各家屋を居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに行われておらず、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上本件特例を適用することができないとして、本件被相続人に対し、平成29年11月29日付で、別表2(略)の「更正処分等」欄(分離長期譲渡所得の金額の計算の内訳は、同表の付表の「更正処分」欄)のとおり、平成26年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
チ 被相続人が××××××××に死亡したことから、請求人は国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定により、平成26年分の所得税等に係る被相続人の納税義務を承継した。
リ 請求人は、原処分の全部の取消しを求めて、平成30年2月15日に審査請求をした。

争点および主張
 本件各家屋は、本件譲渡の日である平成26年11月28日において、居住用家屋に該当するか。
 当事者の主張はのとおり。

【表】当事者の主張

原処分庁 請 求 人
 以下のとおり、本件各家屋は、平成26年11月28日において、居住用家屋に該当しない。
(1)居住用家屋とは、譲渡者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいうものと解される。そして、譲渡資産については、当該譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋への入居日的、その家屋の構造及び設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、①本件各家屋では、平成22年11月から平成26年11月までの間に、電気及び水道の使用実績がほとんどないこと、②被相続人は、平成15年11月以降、本件センターの通所介護を経てグループホームに入所し、その後本件施設に入所してほとんど外出及び外泊をしておらず、その僅かな外出及び外泊先も本件各家屋ではないこと、③被相続人は、××××××××しており、自宅での一人暮らしが困難であったこと、④本件各家屋所在地の自治会においても、本件各家屋は空き家として認識されていたことが認められる。
  これらの事情からすると、本件各家屋が、平成23年から平成26年11月28日までの間において、被相続人の生活の本拠として現実に居住の用には供されていなかったことは明らかであるから、被相続人が、同日において、本件各家屋を真に居住の意思をもって、ある程度の期間継続して生活の本拠としていたと認めることはできない。
 以下のとおり、本件各家屋は、平成26年11月28日において、居住用家屋に該当する。
(1)譲渡者が、治療のために譲渡した家屋から離れている場合であっても、当該譲渡者が当該治療終了後に当該家屋に戻るのであれば、当該治療期間の長短にかかわらず、当該家屋は、居住用家屋に該当するものと解するべきである。


(2)これを本件についてみると、本件被相続人は、介護治療目的で本件施設に入所したものであり、回復すれば本件施設を退所し、本件各家屋に戻るつもりであった。このことは、以下のイないしハの事情から明らかである。
 イ 本件施設は、自宅で生活をすることができるように介護治療を行う施設であり、回復した場合には退所しなければならないものである。
 ロ 本件被相続人は、本件各家屋の電気・水道の基本料金を支払い、生活用品の全ても本件各家屋で保管しており、本件各家屋は、いつでも居住することが可能な状態にあった。
 ハ 本件各家屋所在地の自治会費は、将来本件各家屋に居住しない予定であれば納付義務が発生しないが、将来居住する予定であれば通常の半額の納付義務があるところ、本件被相続人は、本件各家屋に将来居住する予定であったことから、通常の半額の自治会費を支払っていた。

審判所の判断
(1)法令解釈

 本件特例が、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得につき一定額の特別控除額を認めている趣旨は、個人が居住の用に供している家屋又は当該家屋と共にする敷地の用に供されている土地を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡につき30,000,000円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることにあるものと解される。
 このような本件特例の趣旨に照らすと、居住用家屋とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうと解するのが相当である。
(2)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件被相続人は、平成15年9月30日に怪我をして入院し、退院後、常に介助が必要で一人暮らしをすることができないことから、請求人の自宅から通院をした後、同年11月20日付で本件センターの通所介護契約を締結し、その後、本件センターのグループホームに入所した。
  しかし、上記グループホームに長期間入所することが認められていなかったことから、本件被相続人は、平成17年10月10日、本件施設に入居し、死亡する約2か月前の平成29年11月18日に××××に入院するまで本件施設に入居し続けた。
ロ 本件被相続人の心身の状況は以下のとおりであった。
(イ)平成16年6月当時
  ××××××××があり、常に見守り介助を必要とする状況にあった。
(ロ)平成18年5月当時
  ××××××××などがあり、常に介護を必要とする状況にあった。
(ハ)平成19年5月当時
  ××××××××があったほか、××××もあり、常に介護を必要とする状況にあった。
(ニ)平成25年5月当時
  ××××××××、常に介護を必要とする状況にあった。
ハ 本件被相続人が本件施設入居中に外泊したのは、平成17年10月10日から平成22年12月31日までの約5年2か月間で8回、平成23年1月1日から平成28年5月14日までの約5年5か月間で3回であり、宿泊先はいずれも請求人の自宅であった。
ニ 本件被相続人は、本件施設へ入居した後も、本件各家屋における電気の契約を平成26年11月30日まで、水道の契約を同月28日まで継続していた。本件各家屋における平成22年1月から平成26年11月までの電気使用量は、各月零kwhであり、水道使用量は、平成22年1月から平成26年8月までが零㎡、同年9月から同年11月までが1㎡であった。なお、本件各家屋の所在する×××における水道料金に係る基本水量は、2か月当たり20㎡(1か月当たり10㎡)である。
ホ 本件各家屋に係る××××(本件各家屋の所在する自治会)の自治会費は、平成16年10月分以降、支払状況の不明な平成20年分及び未払の平成22年分を除いて、同自治会の慣例に従って空き家相当分(通常の半額)が支払われていた。
(3)検討
イ 上記(2)のイ及びロによれば、本件被相続人は、心身の状況が悪化して介助が常に必要な状況になり、本件各家屋において一人暮らしをすることが困難となったことから、請求人の自宅から本件センターに通所した後、本件センターのグループホームに入所し、同グループホームへの入所期間が長期化したことから、長期間の入所が可能な本件施設に入居し、その後も病状が改善せず、死亡直前の入院期間を除いて本件施設に入居していたことが認められる。そして、同ハ及びニによれば、本件被相続人は、本件施設への入居後、外泊先として本件各家屋を利用することはなく、本件各家屋において電気や水道はほとんど使用されていなかったことが認められる。以上のとおり、本件被相続人は、本件各家屋において生活することが不可能又は著しく困難なので本件施設に入居し続けたものであり、その後に本件各家屋を利用した形跡がほとんどないことからすると、遅くとも本件施設に入居した平成17年10月10日以降は、客観的にみて、本件被相続人が本件各家屋をある程度の期間継続して生活の拠点にしていたとは容易には認め難い。
  また、以上の事情に加えて、本件センターのグループホームに入所した頃、本件被相続人の住民登録上の住所が本件各家屋から異動され、その後本件各家屋に係る自治会費として空き家相当分がおおむね支払われていたことからすると、遅くとも本件施設に入居した平成17年10月10日以降は、本件被相続人が真に本件各家屋に居住する意思をもっていたとも容易には認め難い。
  以上のとおり、遅くとも平成17年10月10日以降は、本件被相続人が本件各家屋を真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたとは容易には認め難く、本件各家屋は、遅くとも同日までに、居住用家屋ではなくなった(居住の用に供されなくなった)ものと認められる。
 したがって、本件各家屋は、本件譲渡の日である平成26年11月28日において、居住用家屋には該当せず、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡時に居住の用に供していた居住用家屋を譲渡したとして本件特例を適用することはできない。また、上記のとおり、本件各家屋が居住の用に供されなくなった日は、遅くとも平成17年10月10日であり、本件譲渡の日である平成26年11月28日は、本件各家屋が居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日より後であるから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、居住用家屋を居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡したとして本件特例を適用することもできない。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、要するに、譲渡者が治療のために譲渡した家屋から離れている場合であっても、当該譲渡者が当該治療終了後に当該家屋に戻る意思さえあれば、当該家屋が居住用家屋に該当するという解釈を前提に、本件被相続人は治療により回復すれば本件各家屋に戻る予定であったから、本件各家屋は平成26年11月28日において居住用家屋に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、居住用家屋とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうのであり、治療終了後に家屋に戻る意思の有無のみによって判断されるものではないから、請求人の居住用家屋に係る解釈は採用することができない。したがって、このような解釈を前提にした請求人の主張は、前提を欠くものであり、採用することができない。

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