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解説記事2021年07月19日 ニュース特集 特集第二弾 D課税ステートメント「第2の柱」の全容(2021年7月19日号・№891)

ニュース特集
形式的な閾値はCbCRと同様水準も各国に裁量、中堅企業も対象となる可能性
特集第二弾 D課税ステートメント「第2の柱」の全容


 前号の特集(890号4頁〜)では、OECDが7月1日に公表したデジタル課税に関するステートメントのうち「第1の柱」に関する部分について詳しくお伝えしたところだが、本特集では前号に引き続き、「第2の柱」に関する部分の全容を取り上げる。
 デジタル課税議論の当初は、第1の柱の“脇役”と目されていた第2の柱だが、第1の柱の閾値が「全世界売上高200億€(約2.6兆円)」と極めて高く設定されたことから、対象企業は大幅に絞り込まれることが確実となっているのに対し、第2の柱の閾値はBEPS行動13(国別報告事項=CbCR)に規定される7億5,000万€(約1,000億円)とされたため、対象となる企業は相当数に上る見込みとなっている。閾値がCbCRと同様の水準とされたのは想定内とも言えるが、ステートメントのうち「対象(スコープ)」に関する部分を読むと、売上高が1,000億円に満たない多国籍企業グループであっても、親会社所在地国の税務当局が必要と考えればIIR(所得合算ルール)を適用できるとの解釈が可能であり、さらなる対象企業の拡大につながる恐れもある。
 前号同様、ステートメントに記載のない本誌独自取材に基づく情報を含め、詳報する。

第2の柱の設計

日本政府が懐疑的なSTTRも残る

 まず第2の柱全体の設計について確認する。第2の柱は以下により構成されている。
(1)2つの連動する国内ルール(併せて「GloBE=Global anti-Base Erosion Rule」)
 ①所得合算ルール(IIR)
   構成事業体の軽課税所得について親事業体においてトップアップ課税を行う。
 ②軽課税支払ルール(UTPR)
   構成事業体の軽課税所得がIIRによる課税に服していない程度に応じ控除の否認又は同等の調整を行う。
(2)条約に基づくSubject to Tax Rule(STTR)
  一定の関連者支払がミニマム税率に満たない税負担である場合、その支払について源泉地国に対し限定された源泉地国課税を認めるもの。STTRはGloBEルールにおいて対象税額として控除可能(creditable)とする。
 このうち(2)のSTTRについて日本政府は懐疑的とされるが、途上国も含めた合意を形成する上で残さざるを得なかったということであろう。

第2の柱の位置付け

共通アプローチを採用も、事実上「ミニマム・スタンダード」

 GloBEルールはミニマム・スタンダードとはせず、「共通アプローチ」との位置付けとなる。すなわち、IF(包摂的枠組)メンバーはGloBEルールの採用を求められないが、採用することを選択する場合には、第2の柱と整合的な方法(IFにおいて合意されるモデル・ルールやガイダンスに照らして整合的であることを含む)により当該ルールを施行することになる。また、IFメンバーは、他のIFメンバーによるGloBEルールの適用を、ルールの適用順序及び合意されたセーフ・ハーバーの適用を含め、受け入れる必要がある。
 BEPS最終報告書の勧告は、ミニマム・スタンダード(CbCR等)、共通アプローチ(利子控除制限)、ベスト・プラクティス(CFC税制)等に分類されたところだが、これと比べると、共通アプローチとの位置付けは拘束力がやや緩いようにも見える。しかし、日本を含む高税率国がIIRを導入しないということは基本的に考えられないことから、ミニマム・スタンダードのようなものと捉えた方が実態に近いだろう。
 また、上記「採用するからには第2の柱と整合的であるべき」との表現も重要である。企業の間では、「IIRの導入はやむを得ないとしても、日本には既にCFC税制があるのだから、IIRの租税負担割合の計算においてCFC税制におけるトリガー税率の計算要素を反映させるなど、一定のチューニングを図る余地があるのではないか」との意見もある。ただし、あからさまに日本の都合に合わせてIIRをカスタマイズすると、日本は第2の柱に準拠したIIRを導入しているとみなされず、最悪の場合、子会社にUTPRが発動される可能性もある。したがって、国内法制化のための税制改正議論では、国際的な合意に至ったIIRに対し手を加えるというよりは、むしろ、既存のCFC税制の簡素化ということが焦点となろう。

範囲(スコープ)

親会社所在地国の税務当局が必要と考えればIIRが適用される恐れ

 GloBEルールはBEPS行動13(国別報告事項=CbCR)で規定される7億5,000万€(約1,000億円)の閾値に適合する多国籍企業に適用される。各国は自国に本拠地を有する多国籍企業グループに対し、それが当該閾値に適合しない場合であっても、自由にIIRを適用することができる。政府関係の事業体、国際機関、非営利団体、多国籍企業グループの最終親事業体である年金基金又は投資ファンド、及び当該事業体・機関・団体・ファンドによって利用される持株ビークルにはGloBEルールは適用されない。
 閾値がCbCRと同様の水準とされたのは想定内だが、気になるのは「自由に……」の部分だ。素直に読めば、売上高が1,000億円に満たない多国籍企業グループであっても、親会社所在地国の税務当局が必要と考えるならば、IIRを適用できることとなる。日本の「中堅」以下の企業にとっては“寝耳に水”の内容と言えよう。今後、制度の詳細に注意を払う必要がある。

トップダウン・アプローチ

分割保有ルールは企業の反対受け後退、持株割合80%以上なら適用なし

 GloBEルールはトップダウン・アプローチに基づきトップアップ税額を配分する。ただし、80%未満の株式保有については分割保有ルールが適用される。UTPRは軽課税構成事業体(最終親会社法域に所在するものも含む)のトップアップ税額を「今後合意される手法」に基づき配分する。
 トップダウン・アプローチとは、最終親会社法域においてIIRが適用されるのであれば、子会社法域や孫会社法域がIIRを導入していたとしても、最終親会社法域のIIRが優先適用されるというもの。企業からすれば当然の整理だが、青写真段階から、その例外として「分割保有ルール」が提案されていた。これは、子会社等において一定の少数株主がいる場合には、親会社所在地国におけるIIRに加え、当該子会社等(部分被保有中間親会社と呼ばれる)のIIR「も」適用されるというものだ。この分割保有ルールに対し企業は、「トップダウン・アプローチのメリットを損なうもの」として強く反対していた。
 そこで気になるのは、親会社がどの程度子会社等の株式を占有していれば、分割保有ルールの適用を免れるのかということだ。青写真の段階では、親会社による子会社等に対する持株割合が「90%以上」の場合とされていた。これに対しステートメントには、「80%未満の株式保有については」との記述があり、これを裏読みすれば、「親会社による子会社等に対する持株割合が80%以上であれば分割保有ルールは適用されない」ということになる。企業の間では、分割保有ルールが残っていること自体に不満の声もあるが、ステートメントには、一定程度、企業の意見が反映されたと言えよう。実務上、IIR導入国に子会社を有する場合において分割保有ルールの適用を避けるためには、親会社による持株割合を必ず80%以上とするなどのストラクチャが必要となろう。
 なお、青写真の段階では、持分法適用会社(ジョイント・ベンチャー含む)に対する簡易IIRも提案されており、これに対しても企業からは「欲張りすぎ」との批判があったところだが、ステートメントには簡易IIRに該当するものは見当たらない。企業の声を受け、“消滅”した可能性がある。

ETR計算

当初不採用とされた税効果方式が“復活”したことが判明

 ETR(租税負担割合)計算は、対象税額及び課税ベース(財務会計上の利益を参照して決定)について共通の定義を利用しつつ、法域別にETRテストを行い、トップアップ課税を行うことになる。なお、財務会計の利用に際しては、時間差異に対処するため、第2の柱の政策の目的と合致する範囲で合意された調整を行う。
 ここで注目されるのが、「時間差異」の部分だ。青写真では、税会の一時差異に伴うETRのボラティリティへの対処として「繰越方式」が提唱されていたが(損失の繰越、現地税額繰越、IIR税額控除)、企業サイドからはその複雑性が指摘されるとともに、一旦はIIRによるトップアップ税額が生じてしまうとの懸念が表明されていたところ。これを踏まえOECDは、当初不採用としていた「税効果方式」を再度検討しており、各国政府に対し税効果方式を内々に提案したことが本誌の取材により確認されている。もっとも、今回のステートメントには、繰越方式、税効果方式ともに言及がない。税効果方式も固有の複雑性を抱えることから(例えば、繰延税金負債のうち一定期間内に取り崩されないものについては、当初、ETR計算において税金費用を計上していたとしても、その反対処理をしなければならない等の案もある)、6月中にステートメントに落とし込むまでには至らなかったものと見られる。企業の事務負担に直結する論点だけに、今後も注目しておく必要がある。
 なお、親会社法域におけるCFC税制による合算税額を子会社法域におけるETRの計算上、分子に加算する「プッシュ・ダウン」の論点については、全く記述がない。企業は何ら制限なくCFC税額を加算すべきと主張しており、最終的な結論が注目される。

最低税率、カーブ・アウト

低税率国や税優遇法域、カーブ・アウトの控除幅拡大を“合意条件”に

 GloBEルールの最低税率は最低でも15%とする。15%での決着となるか、それ以上となるかは今の段階では政治判断としか言えない。
 GloBEルールにおいては、実質的な活動に基づく定式的なカーブ・アウトを提供する。これにより、有形資産の簿価及び給与の最低でも5%を所得から除外する。さらに、5年間の経過期間においては、最低でも7.5%を控除する。
 OECDでは以前から有形資産や給与に着目したカーブ・アウトが検討されていたが、有形資産については、青写真段階では簿価ではなく償却費の一定割合を控除するとされていた。X%の控除を行うといった場合、直感的には、償却費のX%よりも簿価のX%の方が、控除の幅が大きくなる。低税率国や外資誘致に際し税優遇を積極的に行っている法域が、合意の条件として、控除の幅を拡大すべきとの主張を展開した可能性がある。日本企業は、例えば東南アジアにおける税制優遇によって、既存の投資に係る租税負担割合が低下し、IIRに抵触することを懸念している。導入当初5年間の控除率の上積みは、こうした懸念への配慮とも言えよう。企業からは、「最低でも(at least)」の部分に着目し、控除率のさらなる拡充を求める声が出ている。なお、一部のサービス業からは、有形資産に着目したカーブ・アウトは製造業偏重なのではないかとの声も聞かれる。ただし、新たな指標を追加することは、時間的に難しいと見られる。
 GloBEルールでは、デミニマスの除外規定も提供する。これは、元々は後述の簡素化措置のオプションの1つとして議論されていたものであり、ある法域における利益の額が閾値以下の場合にはGloBEルールの対象外とするもの。具体的な数値は今後明らかにされる。

他の除外規定

船舶業界、トン数標準税制等の存在根拠に適用除外勝ち取る

 また、GloBEルールでは、OECDモデル租税条約の定義を利用し、国際船舶に係る所得を除外する。
 青写真の段階から、国際船舶については他の業種と異なり、トン数標準税制等の確立した課税手法があることから、GloBEルールを適用すると競争条件・税負担に歪みが生じるのではないかとの論点があり、これに対応するものである。
 対象業種が広い第2の柱において早くも除外を勝ちとったことについて、他業界の企業からは「船舶業界は立ち回りが上手い」とのの声も上がっている。

簡素化措置

デミニマス利益の除外、ETR計算免除は消滅

 政策目的に照らし不相応なコンプライアンス及び行政コストを防止する観点から、GloBEルールにおける実施フレームワークは、セーフ・ハーバー及び/又は他のメカニズムを含むものとする。
 簡素化措置は、GloBEルールの“入口”でETR計算の対象となる子会社の数を減らすもの。事務負担の軽減に資することから企業の関心は高い。青写真段階では、(1)CbCR ETRセーフ・ハーバー、(2)デミニマス利益の除外、(3)基準年においてすべての法域についてETR計算をした上で、一定の閾値を超える法域については数年間、 ETR計算を免除、(4)税務行政ガイダンスの4種類が提示されていた。現段階では、少なくとも(1)と(4)が残っていることが確認されている。
 (1)は、CbCRのデータを基礎に、一定の調整を加え、国ごとに法人税額/税引前利益により租税負担割合を算出し、それが合意された税率以上であれば、その国に所在する子会社についてはGloBEルールの適用を免除するというもの。「合意された税率」は、15%以上とされるミニマム税率より数パーセント高い数値となる見込み。ざっくりとした計算により免除対象を判定する以上、あまりにも制度が緩いものとならないよう、若干高めの税率で判定するということだ。(4)はホワイトリストと混同されることが多いが、全く異なるものなので注意したい。高税率国を指定し、丸ごとその国の子会社を除くという議論にはなっておらず、やはり簡易な算式により低リスクの国を除外する方向となっている。なお、(2)は先述のカーブ・アウトの文脈で議論されている。

GILTIとの共存

未だ見えないIIRと米国GILTIの調整方法、米国GILTI改正案にも言及なし

 第2の柱では法域ごとに最低税率を適用することが合意された。こうした中、米国のGILTIがどのような条件においてGloBEルールと共存するのかは、競争条件の均衡化を確保する観点から考慮されることとなった。
 現行のGILTIはいわば全世界ブレンディングであるところ、現在進行中の米国税制改革では国別計算に改組することも含め議論されており、OECDと同時進行で検討が進むことになろう。気になるのは、上述したトップダウン・アプローチとの関係だ。現在のGILTIの改正案では、他国(例えば日本)でIIRを導入した場合、その米国子会社についてGILTIを適用しないとの規定が見当たらないのではないかとの指摘がある。この指摘が正しい場合、同一の孫会社等に対し、日本でIIR、米国でGILTIが課された上で調整されるのか、という疑問が残る。今後の注目論点の一つと言えよう。

Subject to Tax Rule (STTR)

STTRの最低税率は7.5%〜9%、企業からは範囲限定と簡素化求める声

 上述の通り、日本政府は懐疑的と言われていたSTTRだが、IFメンバーは、STTRは途上国にとって第2の柱の合意に向けて不可欠であることを認識している。利子、ロイヤルティ、定義された他の支払いについて、STTRの最低税率以下の名目税率により法人課税を行うIFメンバーは、(途上国から)求めがあった場合、途上国であるIFメンバーとの二国間の租税条約において、STTRを実施することとする。ここで「途上国」とは、世界銀行の定めた基準により、一人当たりのGNIが2019年において12,535ドル以下の国をいう。課税権は「最低税率と当該支払に対する税率の差額」に限られる。STTRの最低税率は7.5%から9%とする。
 課税のタイミング、課税手法を含め詳細に関する説明がなく、現段階では影響が未知数だ。企業からは、利子、ロイヤルティは仕方がないとしても、他の支払いにはできるだけ範囲を拡張しないこと、また、個別の支払い時にその支払いが相手国において軽課税かどうかを判定するのは困難であり、簡便な手法が不可欠との指摘が出ている。

適用関係

ステートメントが掲げる「2022年法制化」実現には令和4年改正での対応必要に

 IFメンバーは(今後)実施計画に合意し、これを公表することになる。そこでは、第2の柱を2022年に法制化し、2023年に施行することが“熟考”される。
 実施計画は以下の内容となる見込み。
・GloBEモデル・ルール(各国のGloBEルール間の調整を円滑化するための適切なメカニズムを含む。場合によっては、多国間協定の開発を含む可能性もある)
・STTRのモデル条項及びその採用を促す多国間協定
・経過措置(UTPRの施行の繰延可能性を含む)
 今回のステートメントの一番の目玉は、「2022年の法制化(brought into law)」という部分だろう。普通に読めば、年末の令和4年度税制改正で法制化しないと達成できない目標であり、企業サイドからは早速「早すぎるのではないか」「適正手続きを欠くことにならないか」「事実上無理ではないか」など懸念の声が相次いでいる。ステートメントでは、これらの年限について熟考(contemplate)するとあり、現段階では2022年法制化が確定したわけではない。今後、後ろ倒しになる可能性が出てくるのか、注目される。実施計画の中でUTPRについて繰延の可能性が示唆されているのは、仮に親会社法域でIIRの導入が何らかの理由によって遅れている場合に、IIRの不存在を理由に多国籍企業グループの子会社に無差別にUTPRを発動するのはさすがに酷との指摘もあるからだろう。

今後のステップ

ミニマム税率を高くするならばカーブ・アウトを厚めに

 今回の合意は、実質を伴うリアルな経済活動を行う多国籍企業へのインパクトを限定しつつ、強固なミニマム税を導入したいというIFメンバーの熱意を示している。ミニマム税率とカーブ・アウトには直接のリンクがあることは認識されており、10月の最終合意に向け、議論は続くことになる。また、多国籍企業グループの国際展開の初期の段階ではミニマム税率の適用を免除することも検討される。
 前号の特集でも報じた通り、139のIF加盟国のうちアイルランドやハンガリー等の軽課税国はステートメントに合意していない。税務に関するEU指令は全会一致での採択が必要であるため、これらの国が最後まで合意しなければ、OECD/G20/IFでの合意は意味をなさないのではないかと疑問も生ずるところ。ただ、IF直後のアイルランドの財務大臣の談話(アイルランド財務省のHPから閲覧可能)からは、ミニマム税率に絶対反対というトーンは感じられず、むしろ議論の収斂に向けた意欲が読み取れる。ステートメントから示唆されるように、ミニマム税率を高くするならばカーブ・アウトを厚めにするというトレードオフの議論が予想され、アイルランド等がどこに着地点を求めるかが注目される。

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