解説記事2022年04月18日 ニュース特集 訴訟にまで発展した税理士業務を巡るトラブル(2022年4月18日号・№927)
ニュース特集
逆ハーフタックス養老保険の契約で税理士などに賠償請求
訴訟にまで発展した税理士業務を巡るトラブル
税理士業務を行っていく上では様々なトラブルに巻き込まれることも珍しくない。本特集では、税理士業務を巡って訴訟にまで発展した事件を4件紹介する。逆ハーフタックス契約形態の養老保険の契約の際の説明不足などを理由に生命保険会社の社員とともに税理士に対して損害賠償請求が行われた事件では、最高裁判決を前提とした説明を行っていたことにより損害賠償の難から逃れている。そのほか、人材紹介会社や顧客紹介会社との訴訟では、税理士側の主張が認められずいずれも敗訴している。これらの紹介会社と取引を行う税理士事務所も多いだけに留意しておきたい判決といえよう。
逆ハーフタックス養老保険の税務の説明が足りないとして損害賠償請求
1件目に紹介するのは、逆ハーフタックス契約形態の養老保険の契約を巡り、生命保険会社の社員と税理士に対して損害賠償請求が行われた事件(令和3年9月1日、平成31年(ワ)第7737号)。原告(会社役員)が生命保険会社との間で米ドル建て特殊養老保険契約を締結したが、勧誘した生命保険会社社員と保険の税務上の取扱いを説明した税理士には保険に関する情報やリスクの説明をすべき義務があるにもかかわらず怠ったことから、共同不法行為に該当するとして、解約手続で支払った弁護士費用約463万円の損害賠償を求めたものである。
原告が契約した特殊養老保険とは、いわゆる逆ハーフタックスと呼ばれるもの。契約者を法人とする通常の養老保険の場合、被保険者を経営者・役員・従業員とし、死亡保険金の受取人を会社役員の遺族とし、満期保険金を法人として契約すると、保険料の半分が福利厚生費(損金)、半分が保険積立金(資産)となり、法人が支払った保険料の2分の1を損金として計上することが認められる。一方、逆ハーフタックスとは、死亡保険金受取人を法人とし、満期保険金を会社の役員等にすることにより、会社が支払った保険料の半分を掛け捨て保険料として損金とし、残りの半分の保険料は被保険者(満期保険金受取人)への貸付金(資産計上)あるいは給与(損金計上)とする保険である。
最高裁は2分の1を限度に損金算入
ただ、全額を損金として計上する方法については税務否認のリスクが指摘されている。最高裁の判例(最高裁第二小法廷平成24年1月13日)では、「死亡保険金の受取人を会社とし、満期保険金の受取人を当該会社の代表者らとする養老保険契約の保険料を当該会社が支払い、満期保険金を当該代表者らが受け取った場合において、上記保険料のうち当該代表者らに対する貸付金として経理処理がされた部分がその2分の1である一方、その余の部分が当該会社における保険料として損金経理がされたものであるなど判示の事情のもとでは、上記満期保険金に係る当該代表者らの一時所得の金額の計算上、後者の部分は所得税法34条2項にいう『その収入を得るために支出した金額』に当たらない」とされており、2分の1の限度で損金として処理ができることが判決の前提となっている。
被告の税理士は、原告に対して、逆ハーフタックス契約形態の養老保険について、支払保険料の半分は、死亡保険金の受取人が法人であるため、掛け捨て保険料として法人の保険料となり、この範囲で損金処理できること、支払保険料の半分は満期金の受取人が社長であるため、社長の個人負担になるが、個人負担の方法として、①社長が直接保険料を支払うか、②会社が社長の代わりに保険料を支払い、満期金を社長が受け取ったときに会社に返すので社長への貸付金になること、ただ、この貸付金は、社長にお金が渡っておらず保険会社に積み立ててあり、満期の時に会社に返ってくるもので、保険積立金といえる性格を持つことから、表示を保険積立金に計上する会社も多いこと、保険金を受け取ったときに、支出した金額として処理できるのは個人負担部分である(支払保険料の2分の1)こと、満期金を社長が受け取ることが可能であるが、そのときの税金は一時所得となるため給与としてもらうよりも半分で済むことなどを説明したが、具体的な保険商品の説明はしなかった。
原告は、被告の税理士に対して、税務処理の説明として一時所得の金額の計算方法及び課税方法まで説明すべきであったがその説明をしておらず、また、保険契約期間である20年間のうちに税務上の運用が役員及び法人にとって不利益な方法に代わる可能性があるが、そのリスクを説明していないなどと主張した(表1参照)。
【表1】当事者の主な主張
原告(会社役員) | 被告Y(税理士) |
被告Y(税理士)は、被告X(生命保険会社社員)とともに保険契約について勧誘を行い、説明を行ったのであるから、被告Xとともに説明義務を負う。そして、被告Yは、税務処理の説明として、一時所得の金額の計算及び課税方法まで説明すべきであったところ、その説明をしなかった。 また、保険契約については、契約期間20年間のうちに税務上の運用が役員及び法人にとって不利益な方向に変わる可能性があるが、被告Yは、原告に対し、そもそも保険契約の説明の具体的な仕組みを明確かつ具体的に説明していないのであって、当然税務申告上のリスクを説明していない。 |
被告Yは、被告X(生命保険会社社員)から依頼を受けて、原告に対し、保険商品の税務の扱いを説明するために同行したにすぎず、被告Yに保険商品の説明義務があることは争う。被告Yは、税務の専門家の立場から、原告に逆ハーフタックス契約形態の保険契約を節税商品として説明するにあたって、税務上の取扱いについて最高裁の判例・国税局の取扱いに従って法人として損金処理できるのは半分であることなどを説明した。一時所得の金額の計算、課税方法について説明するべき義務を負わない。 また、保険契約に関わる将来的な税務の取扱いの変更がされる抽象的な可能性に関わる説明義務を負うことはない。 |
裁判所、最高裁判決を前提とした税務上の取扱いの説明で違反なし
東京地方裁判所(金澤秀樹裁判官)は、税理士の逆ハーフタックス契約形態の養老保険の税務上の取扱いについての説明は最高裁判決を前提とした2分の1の限度で損金として処理ができるものであって、説明義務違反があったということはできないと指摘。その上で説明義務を負うのは自ら税務の専門家として説明を行った範囲において、正確な説明をするべき義務の限度であって、金融商品の勧誘に関わる一般的な説明義務を負うものではないとの判断を示し、原告の請求を棄却した。また、原告は、保険契約期間が20年間と長期にわたるものであることから、税務上の取扱いの変更の可能性についても説明すべきとするが、裁判所は、原告に交付した重要事項説明書には保険に関する税金・経理処理についての説明の中で将来変更されることがある旨の記載があり、税務上の取扱いの変更の可能性があることは説明されていたとした。
逆ハーフタックス禁止は内部的な取扱い
被告の生命保険会社社員に対しては、契約締結の際に上司を同席させた上で契約内容の説明を行っており、自分自身の判断で契約内容の説明を省略できない状況であったことからすると、会社で定められた契約内容を説明しているものと推認できるとした。また、原告は、受取人等の変更等による逆ハーフタックス契約形態への変更を厳に慎むべきとされていたことについて被告に説明義務があると主張したが、逆ハーフタックス契約形態の養老保険の販売が金融商品の販売として禁止されているといった事情は認められず、被告の生命保険会社における内部的な取扱いにすぎないとした。
相続税申告で他の相続人が税理士報酬の支払を拒否
税理士報酬を巡るトラブルもよくあるケースだ。2件目に紹介する税理士報酬等請求事件は、税理士法人(原告)が相続人(被告)らとの業務委託契約(表2参照)に基づき相続税申告業務を行ったが、報酬の支払を拒否されたものである(令和3年8月26日、令和元年(ワ)第31124号)。
【表2】契約書の概要
○委任業務の範囲:相続税に関する税務相談、税務代理及び税務書類(相続税申告書、延納申請書、物納申請書その他相続税の申告に関する届出書)の作成。 ○報酬額は、X(税理士法人)の定める報酬規程の範囲内で協議の上定める。 ○Xは、委任業務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの方法を選択する必要があるとき、並びに相対的な判断を行う必要があるときは、委任者に説明し、承諾を得なければならない。 |
相続人らは税理士法人が作成した相続税申告書を使用せず、別途申告書を作成して相続税の申告を行っているとした上で、税理士法人は相続人A以外には報酬の見積書を提示していないため、報酬の支払義務を負うのは相続人Aだけであるなどと主張するとともに、土地の評価や非上場株式の評価に関して不適切な業務を行っているとし、税理士法人は報酬を請求することはできないとした。このため、税理士法人は相続人らに対し約115万円の税理士報酬の支払いを求め訴訟を提起することになった。
相続人ら各自が全額を支払うべき
東京地方裁判所(植田類裁判官)は、税理士法人は相続人らに対し、契約書について、見積書、相続税報酬規程等とともに交付するなどして契約を取り交わしていることからすれば、委任契約は委任者である相続人らが共同して申告業務を税理士法人に委任することを内容とするものであり、申告業務は被相続人の相続財産の評価等に基づく相続税の算出という不可分一体のものであることに加え、その報酬も単純に委任者の数に単価を乗じて算出したものではなく、税理士法人の報酬規程に基づいて相続財産の額や委任者の人数に応じて計算されたものであり、相続人らにおいてもこれを認識していたといえるとし、見積書記載の160万4,880円の報酬については、委任者である相続人ら各自がその全額を支払う債務を負っているものと解するのが相当であるとの判断を示し、原告の請求を認容した。
申告書を使用しなくても支払義務は免れず
また、被告の相続人らは、申告内容について複数の問題点を指摘し、実際に税理士法人が作成した相続税申告書を使用せずに自ら申告しているが、裁判所は、申告内容に違法又は不相当な点があるとは認められないとした上で、相続人らの独自の判断で申告書を使用しなかったからといって委任契約に基づく報酬支払義務を免れることはできないとした。
紹介された税理士がすぐに辞めてしまった場合は?
最近では、人材紹介会社と税理士事務所の間で訴訟に発展するケースも珍しくない。優秀な人材の確保は税理士事務所に限らずすべての企業にとっての最優先事項の1つであるが、「思っていた人ではなかった」「すぐに辞めてしまった」など、なかなか思い通りにいかないのも事実だ。小さな事務所であれば資金繰りにも大きく影響するだけにトラブルに発展しやすいといえよう。
人材紹介会社は適正な人材確保義務はなし
3件目に紹介する事件は、士業等に特化した人材紹介会社である原告が税理士を紹介した税理士事務所(被告)に対して約260万円の報酬の支払を求めたものである(令和3年11月8日、令和2年(ワ)第9792号)。税理士事務所は、人材紹介会社から紹介を受けて税理士を採用したが、半年もたたないうちに辞めてしまっていた。税理士事務所は、契約上、人材紹介会社には適正な人材確保義務(職業安定法5条の7)が課せられており、入社後90日経過後には報酬の全額を得られるというのは不当であると主張。一方、人材紹介会社は、契約(表3参照)では紹介する税理士の経歴についての裏付け調査は行わないことが前提とされており、経歴確認は人物・能力確認等は税理士事務所の責任において判断するものとされていると主張した。
【表3】契約内容(抜粋)
第2条(紹介の内容) 1.被告が依頼した職位・職務要件等の人材求人情報に基づき、原告は該当する候補人材を求め、該当者に対するキャリアカウンセリングを実施した上で適切と推定した人材に被告の求人を紹介し、被告へ応募の意思表示をした応募者を被告に紹介する。 4.被告は、原告から紹介された応募者の応募書類が、応募者の責任において作成するものであり、原告が応募者に実施するキャリアカウンセリングにおいて、原告はあくまで応募者からの自己申告によって応募者の経歴確認を行うものであって、裏付け調査を行わないことを了承する。 第3条(選考採用) 被告は、原告が前条により紹介した応募者を自ら選考した上で適当と認めた場合には、前条2項の求人条件等に基づき採用する。この場合、原告は採用選考に関する支援業務を行うものとし、被告は応募者の経歴確認や人物・能力確認等、選考に関する評価を直接的に自らの責任において判断するものとする。。 |
応募者の経歴確認のみで裏付け調査は行わず
東京地方裁判所(崇島誠二裁判官)は、契約においては、原告は応募者からの自己申告によって応募者の経歴確認を行うにとどまり、裏付け調査を行わないことが規定されていることなどからすると、原告に適正な人材を確保する義務が課せられているということはできないとし、原告の請求を認容した。また、裁判所は、原告は人材紹介業務及び人材採用コンサルティング業務を行うものの、採用後の人材についてアフターフォローを負う義務を負っていないことからすると、原告が人材紹介業者の契約上の信義則に基づく忠実義務として、退職の意向を示している者に遺留すべき義務があるとまではいえないとした。
紹介された顧客が反社会的な事業者だった場合は?
最後に紹介する事件は、インターネットを利用して税理士に顧問先を紹介するサービス会社(被控訴人)が、税理士に対して約18万円の紹介手数料を請求したものである(令和3年12月6日、令和3年(レ)第389号)。契約では、顧問契約等の継続的な業務委託契約の場合、1回目は契約初年度の年間報酬総額の55%相当額を、2回目は2年目の年間報酬総額の20%相当額を支払うというものであり、本件業務委託契約における初年度の年間報酬総額は32万4,000円であった。
税理士は、紹介された顧客は逋脱行為を求めるなど反社会的な事業者であり、このような紹介行為は公序良俗に反すると主張した。
反社会的事業者か否かは税理士の判断のみ
東京地方裁判所(成田晋司裁判長)は、顧客を何とかするのが会計事務所の仕事である旨凄んできた、経理担当者をして請求書、領収書等を別途作成させたことから、適正に会計処理し税務申告することを期待できないと税理士事務所側で判断したことが認められるにとどまり、顧客が逋脱行為を求めたとは認められないと指摘。仮に顧客が逋脱行為を求めたとしても、業務委託契約の成立後に顧客が不正行為を求めたにすぎず、紹介会社が顧客を紹介した行為が遡って公序良俗に反すると評価することができないと判断し、紹介会社の請求を認容した。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.