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解説記事2022年06月27日 ニュース特集 ユニバーサルエンターテインメント株主代表訴訟、東京高裁も株主勝訴(2022年6月27日号・№936)

ニュース特集
善管注意義務違反を認め、約20億円の賠償命令
ユニバーサルエンターテインメント株主代表訴訟、東京高裁も株主勝訴


 ユニバーサルエンターテインメント(以下「UE社」)の創業者に対する株主代表訴訟で、東京高裁(中村也寸志裁判長)は令和4年6月8日、原審(東京地裁令和3年11月25日判決、平成30年(ワ)第7586号)に引き続き、創業者に対する善管注意義務又は忠実義務に違反すると認め、創業者に対し1億3,600万香港ドル及び17万3,562.23米国ドル(日本円でおよそ20億円)の支払いを命じた(令和4年(ネ)第79号)。東京高裁は、控訴人はUE社の海外事業統括の業務担当取締役として、海外子会社等の業務を執行又は監視するに当たり、その地位を利用して同社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務をUE社に対する善管注意義務又は忠実義務として負っていたものと解すべきであるとの判断を示した。

創業者の行為が海外子会社等に損害

 本件は、東証スタンダード市場に上場する遊戯機器の製造・販売等を行うユニバーサルエンターテインメント(以下「UE社」)の創業者(控訴人(第1審被告))に対する株主代表訴訟だ。創業者は、当時は同社の海外事業統括を職務分掌とされた取締役であるとともに、同社の海外子会社の代表者となっていた。株主である被控訴人(第1審原告)は、①控訴人及びその親族が株主である香港法人の第三者に対する貸金債権を回収する目的等で、海外子会社の代表者として、第三者が関与する会社に対して1億3,500万香港ドルを貸し付け(本件行為1)、②自己の個人的な利益を図る目的で、海外子会社の代表者として、受取人白地の1,600万香港ドルの小切手を振り出し(本件行為2)、③UE社の海外孫会社の取締役に指示をして、金融機関からの借入により香港法人に生じた利息等相当額17万3,562.23米国ドルを海外孫会社に支払わせた(本件行為3)といった控訴人の各行為は、UE社の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するものであるとして、会社法423条1項に基づき、損害金等をUE社に支払うことを求めた。
 なお、UE社と海外子会社等の資本関係は図表1の通りとなっている。

海外子会社の代表者として利益を図るべき
 被控訴人は、控訴人はUE社の海外事業統括を職務分掌とする取締役として、香港法人Bの代表者としての行為及びUE社の子会社又は孫会社の取締役の行う業務執行に対する直接の指揮命令等も含めた業務の執行を通じて、UE社の利益を図り、また、UE社に損害を与えないようにする善管注意義務又は忠実義務を負っていたなどと主張した。

海外事業統括の取締役として善管注意義務あり

 裁判所は、UE社は平成20年以降、海外でのカジノリゾート事業に着手し、取締役会において、控訴人に海外事業統括業務を委嘱し、海外事業について監視及び指示を行う権限を委ねるとともに、当該業務を行わせるために、被告を海外子会社等の統括会社である海外子会社(香港法人B)の代表者としていたものであることからすると、控訴人は、遅くとも平成23年以降、UE社の海外事業統括の業務担当取締役として、海外子会社等の業務を執行又は監視するに当たり、その地位を利用してUE社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務をUE社に対する善管注意義務又は忠実義務として負っていたものと解すべきであるとの見解を示した。
 その上で、裁判所は、①X社への貸付けに際し、X社の事業内容や返済能力について検討したことが認められず、実際に貸付けのほとんどが返済されていない、②香港法人Bが美術品を購入したことを認める証拠はなく、控訴人は、自己の個人的な利益を図る目的で小切手を振り出したものと推認せざるを得ない、③韓国法人Cの取締役らに直接指示をして、控訴人の資産管理会社である香港法人Aの利益を図る目的で、韓国法人Cに本来支払う必要のない金銭を支払わせたなどとし(図表2参照)、控訴人のUE社の取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するとの判断を示した。

【図表2】控訴人の行為に対する裁判所の判断

行為1:控訴人が香港法人Aの貸付債権を回収する目的で香港法人Bの代表者として貸付けを行った。
 控訴人は、第三者が関与するX社から香港法人Aに貸付けを返済させる目的で、香港法人Bの代表者として、UE社がフィリピンにおけるカジノリゾート事業の資金として高利で借り入れて香港法人Bに送金した資金の一部を原資として、X社に貸付けを行ったことが認められる。また、その貸付けに際し、被告がX社の事業内容や返済能力について検討したことを認めるに足りる証拠はなく、実際、貸付けのほとんどが返済されていないことが認められる。
行為2:香港法人Bの代表者として小切手を振り出した。
 控訴人は、UE社の海外子会社の会計業務を担当する者に対して報酬の増額を要求した後、香港法人Bの経理担当者に指示をして、受取人欄空欄の本件小切手を作成させ、香港法人Bの代表者として、それに署名をして振り出したものである。そして、控訴人は、香港ドル口座への送金稟議書に「美術品の手数料として支払います」と記載したものの、一件記録を精査しても、同時期に香港法人Bが本件小切手の支払額に相当する金額で美術品を購入したことを認めるに足りる証拠はなく、本件小切手が何の対価として支払われたものであるかは明らかではないところ、本件小切手の振出しに至る経緯や経理担当者が同支払を被告への給与の支払として経理上処理していることを考慮すると、控訴人は、自己の個人的な利益を図る目的で本件小切手を振り出したものと推認せざるを得ない。
行為3:韓国法人Cに担保権設定及び手数料支払を行わせた。
 控訴人は、韓国法人Cの代表取締役に指示をし、経営コンサルタント料等の名目で同法人から香港法人Aに対して、17万3,562.23米国ドルを支払わせたものである。そうすると、控訴人は、UE社の海外事業統括の業務担当取締役として、海外子会社等の業務を執行又は監視するに当たり、その地位を利用してUE社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない善管注意義務又は忠実義務を負っており、しかも、UE社の取締役から、本件担保提供が日本の会社法に抵触するおそれがあるなどと忠告を受けたにもかかわらず、韓国法人Cの取締役らに直接指示をして、被告の資産管理会社である香港法人Aの利益を図る目的で、韓国法人Cにおいては本来支払う必要のない金銭を支払わせたものといわなければならない。

子会社、孫会社が受けた同額の損害額あり

 損害額について裁判所は、①香港法人Bは、UE社がそのすべての発行済株式を有するUE社の完全子会社であり、韓国法人Cは、香港法人Bがそのすべての発行済株式を有するUE社の完全孫会社であった、②UE社は、控訴人に海外事業統括の業務を委嘱していたところ、控訴人は、香港法人Bの代表者として、X社から香港法人Aに貸付けを返済させる目的で香港法人Bに貸付けを、自己の個人的な利益を図る目的で香港法人Bの小切手振出しをそれぞれ行い、また、海外事業統括の地位を利用し、香港法人Aの利益を図る目的で韓国法人Cに香港法人Aのための金利支払を行わせた、③これらにより、香港法人Bは1億3,600万香港ドル、韓国法人Cは17万3,562.23米国ドルの各損害を被ったとし、韓国法人Cのすべての発行済株式を有する香港法人Bのすべての発行済株式を有するUE社は、これらと同額に相当する資産の減少を来たし、これと同額の損害を受けたものと認められるとの判断を示した。
 控訴人は、香港法人Bは債務超過であるから同社に損害が生じたとしてもUE社には香港法人B株式の評価損として同額の損害が生じることはない旨、また、香港法人B及び韓国法人CがUE社から独立して経営判断を行う子会社等であるから同社らに生じた損害と同額の損害がUE社に生じたとはいえないなどと主張したが、裁判所は、香港法人Bは大幅な資産超過であり、その超過額は、認定した損害額を上回るものであったことが認められると指摘。また、仮に香港法人B及び韓国法人Cが一定の個別業務についてUE社から独立して判断しているとしても、このような事情は、UE社に香港法人B及び韓国法人Cに生じた損害に相当する資産の減少が生じることを否定するような特段の事情には当たらないとし、控訴人の主張を斥けた。

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