解説記事2023年02月20日 ニュース特集 税務調査で否認も、暗号資産のマイニング節税(2023年2月20日号・№967)

ニュース特集
3月末までの駆け込み適用には要注意
税務調査で否認も、暗号資産のマイニング節税


 令和5年度税制改正では、中小企業経営強化税制の適用期限が令和7年3月31日まで、2年間延長されることになるが、すでに本誌でもお伝えしたコインランドリー事業のほか、暗号資産のマイニング事業への投資を利用した節税スキームについては、同税制の対象から除外されることになる。今回の改正は令和5年4月1日から適用されることになっているため、改正法の施行後は、これらの節税スキームの多くが封じ込められることになる。ただ、すでに実施されている節税スキームについても安心はできない。税務調査で否認された事例があるからだ。中小企業経営強化税制の適用を受けるには、経営力向上計画の認定が必要になるが、本誌が入手した裁決事例では、この認定を受けて取得した機械装置であっても、マイニングマシンの販売元の会社にマイニングの業務委託がなされるなどの理由から、「事業の用に供した」とは認められず、マイニングに係る所得は事業所得ではなく、雑所得に該当するとの判断が示されている。マイニングマシンなどを取得し、3月末までに認定を受けようとする駆け込み適用も想定されるところだが、かなり注意を要するところだろう。

令和5年4月から一定の暗号資産マイニング業は適用対象外に

 令和5年度税制改正では、中小企業経営強化税制の適用期限が令和7年3月31日まで、2年間延長される。同税制は、中小企業等経営強化法による認定を受けた経営力向上計画に基づく設備投資について、即時償却又は7%の税額控除を認めるというもの。資本金3千万円以下の中小企業や個人事業主であれば税額控除は10%となる。制度の概要はのとおりとなっているが、いずれの類型についても、同税制の適用を受けるには、主務大臣の認定を受ける必要がある。

 また、今回の改正では小さな見直しではあるものの、対象事業から「管理のおおむね全部を他の者に委託する資産で、コインランドリー業又は暗号資産マイニング業(中小企業者等の主要な事業として行うものを除く)」が除外されることになる。これらの事業で節税スキームが横行していることが見直しの背景にある(本誌961号13頁参照)。コインランドリー事業の機械装置や暗号資産のマイニングマシンを取得することで生じた償却費を他の収益と相殺することで節税を図るというもの。個人事業主であれば、事業所得として申告することにより、償却費と給与所得などの他の所得と通算することができる。
中小企業経営強化税制を適用し即時償却
 ビットコインなどの暗号資産のマイニングとは、「取引データを承認する作業」のこと。マイニング用のパソコンを利用して暗号資産の計算処理を行い、その作業に対する報酬(手数料)として暗号資産が支払われる。鉱山から金などを採掘するのに似ているためマイニングと呼ばれている。暗号資産のマイニング事業への投資を利用した節税スキームについては、数百万円するマイニングマシンを何台か取得し、中小企業経営強化税制のB類型として経営力向上計画として認定を受けることで即時償却するというものだ。喧伝されている節税スキームでは、購入したマイニングマシンは販売元の会社に業務委託することで、購入した事業者は自分で管理等する必要もなく、不動産投資のように空き家リスクなどもないとされている。
現在も税務調査で否認される事例が
 ただ、通常国会に提出されている税制改正法案が3月中に成立すれば、令和5年4月1日以降は、暗号資産のマイニング節税スキームは封じ込められることになる。
 このため、今回が最後のチャンスとしてマイニングマシンを取得し、3月末までに認定を受けようとする駆け込み適用も想定されるところだが、実施するには注意が必要といえる。現時点でも税務調査で否認されている事例があり、本誌が入手した裁決事例でも、国税不服審判所は、中小企業経営強化税制の適用を認めず、事業所得ではなく雑所得との判断を示し、納税者の請求を棄却しているからだ。

計画認定も中小企業経営強化税制を適用できず

 本誌が入手した裁決事例(大裁(所)令3−28)は、投資コンサルタント会社の役員を務める請求人が、個人として行っている暗号資産のマイニングなどについて事業所得として確定申告したところ、原処分庁から雑所得に該当すると指摘され、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われたものである。請求人は約3,900万円でマイニングマシンを購入。販売元の会社にそのまま業務委託していた。
原処分庁、請求人はマシンを購入したのみ
 請求人は、請求人が行う暗号資産のマイニングについて、①人的・物的設備を備え、②自己の危険と計算による企画遂行を行い、③精神的・肉体的労力を費やしていることなどから事業性が認められ、また、本件マイニングの開始に当たり、マイニングマシンを経営力向上設備等とする経営力向上計画について中小企業等経営強化法の認定を受けていることから、事業所得に該当すると主張。一方、原処分庁は、本件マイニングは、マイニングマシンを購入した以外に必要な物的設備を備えた事実が認められず、マイニングの遂行のため他人を雇った事実もないなどと主張した。
マイニングへの投資と同じ
 審判所は、ある経済的行為が「対価を得て継続的に行う事業」によるものといえるかについては、事業所得が、その一応の判断基準として、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうことを踏まえ、当該行為及び所得の態様を考察して判断すべきであるとした。また、このような業務から生じる所得であっても事業所得に該当せず雑所得に該当する場合があり得るため、当該所得が事業所得と雑所得のいずれに該当するかの判断においては、所得税法が所得を分類し、その種類に応じた課税を定めている趣旨、目的に照らし、当該経済的行為の具体的な内容や性質、これに費やした精神的・肉体的労力の程度や人的・物的設備の有無、資金調達の方法等の経営資源の状況、その行為の期間や回数、頻度その他の態様、利益発生の規模や期間その他の状況等の事情を総合考慮して、当該業務が事業というべきものか否かを客観的、実質的に判断すべきとの見解を示した。
 その上で審判所は、本件マイニングは①マイニングマシンの購入代金の完済を停止条件としてマイニングマシンの販売元の会社(N社)にマイニングの業務委託が行われ、②マイニングの収益において最も重要な暗号資産の種別の選択権や市況環境を踏まえての停止や種別変更の判断も全てN社に委ねられ、請求人には異議を述べる権限もない、③請求人は本件マイニングに係る損失も負担せず、その運営経費の内容・金額についても不知であることからすると、その経済的実質はN社が行うマイニングへの投資に等しいといえるとし、客観的、実質的にみて、請求人の計算と危険において独立して営まれる業務であるとはいえないとした。また、審判所は、中小企業等経営強化法における経営力向上計画の認定を受けただけでは、特定経営力向上設備等を「事業の用に供した」ことにはならないとし、本件マイニングに係る所得は事業所得ではなく雑所得に該当するとの判断を示している。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索