解説記事2023年02月27日 SCOPE 特例民法法人から普通法人への移行に係る原処分取消し(2023年2月27日号・№968)
二重の所得減少が生ずるとの国の主張は排斥
特例民法法人から普通法人への移行に係る原処分取消し
特例民法法人から一般財団法人へと移行した原告の、移行前の有価証券の評価損及び減価償却額を巡り争われた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和5年2月17日、原告の主張する解釈を採用すると二重の所得減少が生じるという国の主張を斥け、原処分を取り消した。
非収益事業に属する有価証券の譲渡原価は、評価損計上前の取得価額
原告は、一般財団法人(普通法人)への移行前に非収益事業に属する資産として保有していた有価証券について評価損を計上し、その後譲渡した。本件では、この譲渡原価の算定上、移動平均法について定めた法人税法施行令119条の2第1項1号の規定が適用されるか否か、つまり、譲渡原価は評価損計上前と計上後のいずれの額とすべきかが争われた。
国は、「公益法人等が非収益事業に属する資産として取得した有価証券について、普通法人への移行までの間に評価損の額を計上し、移行時の会計上の帳簿価額が会計上の取得価額より減額されている場合には、当該評価損の額相当額につき、調整公益目的財産残額が少額となり、それゆえ支出超過額の損金への算入額が多額となることによって、移行後の各事業年度において所得の金額が減少することがあり得る。一方で、原告の主張するように、施行令119条の2第1項1号にいう『その取得の直前の帳簿価額』を、評価損の額を計上する前の会計上の取得価額を意味するものと解すると、当該評価損の額相当額が譲渡原価の額に含まれたままとなる結果、譲渡利益額が少額となり、又は譲渡損失額が多額となることによって、上記評価損の額相当額につき、有価証券の譲渡の際においても所得の金額が減少するため、二重の所得減少が生じ得る」として、施行令119条の2第1項1号にいう「その取得の直前の帳簿価額」とは譲渡直前の税務上の帳簿価額を意味するものと解すべきであると主張した。
東京地裁はまず、「施行令119条の2第1項1号の文言を見ると、同号にいう『取得』について、公益法人等が非収益事業に属する資産として有価証券を取得する場合がこれに含まれないと限定的に解すべき文言上の根拠は見当たらない」と指摘した。
そして、二重の所得減少が生じるという国の主張に対しては、「評価損の額相当額が、調整公益目的財産残額から減額されることによって、所得の金額が減少するのは、原則として、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回らない場合に限られるということができる」とした上で、「施行令119条の2第1項1号について原告の主張する解釈を採用すると、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回らない場合には、原則として、二重の所得減少が生ずることとなる一方、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回る場合には、原則として、二重の所得減少は生じない。これに対し、同号について被告の主張する解釈を採用すると、二重の所得減少は生じ得ない一方、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回る場合には、所得の金額が一度も評価損の額相当額分減少しない事態が生じ得るということができる。評価損の額相当額は、公平な課税の観点からは、一度に限り所得の金額から控除されるのが相当であり、二重の所得減少が生ずるのも、又は一度も控除されないのも、いずれものぞましくない。調整公益目的財産残額と公益目的財産残額との大小は、移行前の法人の最終事業年度の末日における時価評価資産の評価損又は評価益の額等によって決まるものであって、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回るのが原則であり、そうではないのが例外であるということはできない以上、二重の所得減少を防ぐために、評価損の額相当額につき、一度も所得の金額を減少させないという事態を招来することは、法律上の根拠なく当然に正当化されるものではないというほかない。」との考えを示した。
その上で、「公益法人等が非収益事業に属する資産として有価証券を取得する場合であっても、かかる取得は同号にいう『有価証券の取得』に該当し、当該公益法人等が普通法人に移行した後、同一銘柄の有価証券を追加取得せずに、当該有価証券を譲渡したときには、施行令119条1項に基づき計算されるその取得価額をもって、施行令119条の2第1項1号にいう『その取得をした有価証券の取得価額』として、移動平均法を適用すべきものと解するのが相当である。」と結論づけた。
なお、国は、施行令131条の6は、法人税法65条の委任を受けて、譲渡直前の税務上の帳簿価額を移行時の会計上の帳簿価額と定めた規定であるとも主張したが、この主張も斥けられた。
移行前の償却不足額の一括費用計上額も移行後に損金算入可
もう一つの争点である減価償却費については、原告が移行前最終事業年度において、非収益事業に属する減価償却資産の過年度の償却不足額として一括で計上した償却費が、法人税法31条4項にいう「所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額」に該当するか否か、つまり、損金経理額として移行後の損金算入が認められるかが争われた。
東京地裁は、「法人税法31条4項にいう『所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額』には、公益法人等が普通法人への移行前に収益事業に属しない減価償却資産について計上し、損金に算入されなかった減価償却費が含まれると解すべきである。」と判断。
また、二重の所得の減少が生ずるとの国の主張に対しては、「調整公益目的財産残額の減少によって、所得の金額が当該減価償却費相当額分減少するのは、原則として、調整公益目的財産残額が公益目的財産残額を上回らない場合に限られるから、二重の所得減少が生ずるのも、かかる場合に限られることになる。」として、有価証券の譲渡原価の場合と同様の理由により斥けている。
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