解説記事2023年06月12日 SCOPE 文理解釈上は「募集事項決定決議=付与決議」との指摘も(2023年6月12日号・№982)
SO課税Q&Aに「割当決議=付与決議」の記述
文理解釈上は「募集事項決定決議=付与決議」との指摘も
本誌が一早く報じていた通り(2023年2月6日号(No.965)「信託型SOスキーム権利行使時課税 従来の理解を覆すことに」)参照、国税庁は5月30日付で「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を公表し、「信託型ストックオプション(SO)スキームについては権利行使時課税を行う」との見解を示したが、このQ&Aの別の部分で新たな疑問が生じている。
専門家の間で早速議論になっているのが、税制適格ストックオプションの課税関係について解説した問6の(答)の(注)にある「付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。」との記述だ。税制適格ストックオプションについて定めた租税特別措置法29条の2の条文を素直に読む限り、付与決議とは、新株予約権の募集事項決定のための決議を指すように見える。しかし、現在の会社法では、募集事項決定決議では新株予約権の割当者を定めないことになっており、この点を踏まえると、このQ&Aの記述は、租税特別措置法の規定と相違している。
仮に課税当局がQ&Aの通り「割当決議=付与決議」という解釈を貫いた場合、「募集事項決定決議=付与決議」という前提で設計されたストックオプションは「税制非適格」ということにもなりかねず、企業や専門家の間で懸念が広がっている。
措置法条文が旧商法を前提としている可能性
国税庁が公表したQ&Aの中で早速議論の的となっているのが、税制適格ストックオプションの課税関係について解説した問6の(答)の②の(注)にある下記の記述だ。
(注)付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。
しかし、専門家の間では、租税特別措置法29条の2をどのように読んでも「付与決議=割当決議(会社法243条2項)」とは解釈できないとの声が上がっている。同条は非常に読みにくい条文だが、条文構造を要約すると次頁の通りとなっている。
<租税特別措置法第29条の2の条文構造> 1.会社法第238条第2項の決議 2.会社法第239条第1項の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定 3.会社法第240条第1項の規定による取締役会の決議 により新株予約権を与えられる者とされた当該決議(以下この条において「付与決議」という。)のあつた株式会社の 1.取締役 2.執行役 3.使用人である個人 4.当該取締役等の相続人 5.当該株式会社の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(特定従事者) が、当該付与決議に基づき当該株式会社と当該取締役等又は当該特定従事者との間に締結された契約(税制適格要件を定めたもの)により与えられた当該新株予約権(特定新株予約権)を当該契約に従って行使することにより当該特定新株予約権に係る株式の取得をした場合には、当該株式の取得に係る経済的利益については、所得税を課さない。 |
法令用語としての「当該」とはその前に出てきた同じ用語を指す。したがって、条文で「当該決議」と言っている以上、当該決議とはその前に出てくる「会社法238条2項の決議」「会社法239条1項の決議による委任に基づく募集事項の決定」「会社法240条1項の取締役会決議」を指すことは明らかだ。これらはいずれも「募集事項決定決議」となっている。仮に「付与決議=割当決議」と解釈するのであれば、条文の中に「会社法243条(募集新株予約権の割当て)2項」という参照条文が出てきてしかるべきだろう。
この点について専門家からは、「旧商法時代の新株引受権に関する規定の“名残り”ではないか」との指摘が聞かれる。すなわち、旧商法時代の新株引受権の発行時には、新株引受権の発行要項(現在の会社法で言うところの募集事項)決定決議と割当決議をセットで一度に決議しており、租税特別措置法の条文もそれを踏まえて規定していたため、会社法施行後も旧商法時代のままとなっている可能性があるということだ。
この指摘が正しいとすると、商法が会社法となったことに伴い募集事項決定決議と割当決議が分離されたことを踏まえた形での租税特別措置法の条文改正が行われていないということになる。これを前提とすると、国税庁としては、従来の旧商法時代から、付与決議とは「具体的に新株予約権(旧商法では新株引受権)を割り当てる対象者を決定する決議」との認識であり、Q&A問6の上記記述も、この認識を踏まえたものと推察できる。
文理解釈通り「募集事項決定決議=付与決議」を前提とした割当契約書も多数
本来、法令の解釈は文理解釈が大前提であり、条文上は「付与決議=募集事項決定決議」としか読めないにもかかわらず、Q&Aで「付与決議=割当決議」との解釈を示すことができるのかという疑問は当然だろう。
過去に発行手続きを行ったものの中には、「募集事項決定決議=付与決議」との理解で割当契約書を作成したケースが多数存在する模様であり、仮に課税当局がQ&Aの通り「割当決議=付与決議」という解釈を貫いた場合、「募集事項決定決議=付与決議」との解釈を前提として設計されたストックオプションは「税制非適格」ということになりかねない。
今回国税庁が示した見解とは反する形で、条文の文理解釈通りに「募集事項決定決議=付与決議」と考え行使期間を設定し、割当契約書を作成した専門家からは、法令である租税特別措置法の規定がQ&Aよりも優先することが当然である以上、実務上の混乱を招く可能性があるQ&Aの記述を同法の文理解釈通りに修正するよう望む声が上がっている。
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