解説記事2024年05月06日 判例評釈 租税分野における私法関係(契約関係)の重要性(2024年5月6日号・№1026) −南御堂参道事件を題材に−
判例評釈
租税分野における私法関係(契約関係)の重要性
−南御堂参道事件を題材に−
弁護士 向笠太郎
1. はじめに
租税法が課税対象としているものは、私法によって規律されている納税者の経済活動である。したがって、法的安定性や予測可能性という租税法律主義の観点からすると、課税は、私法(民法、商法、会社法や当事者間の契約関係)を前提とすべきということになる(脚注1)。
裁判所も、このような考え方に立っており、例えば、東京高判平成22年5月27日税務訴訟資料260号順号11447(ファイナイト再保険事件)は、「租税法は、経済活動(経済現象)を課税の対象としているところ、経済活動は、第一次的には私法によって規律されているものであるから、租税法律主義の目的である法的安定性を確保するためにも、課税は、私法上の法律関係に即して行われるべきである。」と判示している。また、東京地判平成26年2月18日税務訴訟資料264号順号12411(岡本倶楽部事件)も、「課税の対象である経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されているところ、課税は、租税法律主義の目的である法的安定性を確保するという観点から、原則として私法上の法律関係に即して行われるべきである。」と判示している(脚注2)。
このことからすると、税務訴訟において納税者と第三者との間の真の合意内容を理解してもらうために、前提となる私法行為(契約関係)についてしっかりと主張立証(脚注3)するのが重要といえよう。
以下では、山門一体型の建物の下にある参道部分に課税された固定資産税の取消しが認められた大阪高判令和5年6月29日裁判所ウェブサイト(南御堂参道事件。以下「本判決」という。)を、上記の観点から掘り下げたいと思う(脚注4)。
2. 本判決の紹介
(1)事案の概要
ア X(原告、控訴人)は、宗教法人であり、その所有する土地の1つ(以下「本件土地」という。)が、大阪都心の主要道路である御堂筋に接していた。
イ Xは、平成28年7月4日、訴外A社(以下「A社」という。)との間で、A社を賃借人とし、堅固な建物の所有を目的とし、期間を平成29年10月1日から60年間とする本件土地の定期借地契約(以下「本件借地契約」という。)を締結した。
本件借地契約の主な合意内容は、以下のとおりである。
(ア)本件土地のうち一定の範囲(以下「本件範囲」という。)は、Xが維持管理を行う。
(イ)A社は、本件建物の利用については、Xの宗教的雰囲気と尊厳とを損なうことがないように配慮しなければならない。
(ウ)Xの関係者及び南御堂への参拝者等(車両を含む。)は、本件範囲を参道、通路及び年間行事の開催場所として無償利用できる。
(エ)Xは、自らの責任と負担において、本件範囲の中央部に門扉を設置するものとし、設置された門扉の開閉、管理等を行う。
ウ A社は、平成31年2月21日、本件土地に建築予定の建物(以下「本件建物」という。)の建築確認を受け、令和元年9月30日、本件建物を新築した。本件建物の形状(東側立面)は、1階から3階までの中央部は、西側隣地に通り抜けができるように、幅員21.76m、高さ約13mの空洞となっている(以下、本件土地のうち、上記の通り抜けができる部分を「本件対象地」という。)。
エ 本件建物は賃貸用の商業施設であり、1階から3階までと4階の一部は店舗や事務所として建築され、本件建物の4階の一部と5階から17階まではホテルとして建築されている。
オ 上記ウの空洞は御堂筋から南御堂全体を見渡すことができる大きさに造られている。そして、本件対象地の地表面と、これに続く本件対象地と同幅員の南御堂に至る土地部分(西側隣地の中央部)には、境目なしに、同じ色調(淡い色)と形状(長方形)の敷石が敷き詰められ、本件対象地から南御堂に続く広々とした参道になっている(以下、本件対象地の地表面と上記ウの空洞の南北壁面及び天井によって形成された空間を「本件参道空間」という。)。
本件参道空間の左右(南北)壁面は、本件建物への出入口がないタイル貼りとガラス貼りになっており、上部壁面(天井)は、寺院の天井を連想させる格子状の外装となっている。また、上記のような地表面の敷石、間口の外装、左右及び上部各壁面の外装により、本件参道空間は、商業施設とは少し異質の重厚な空間となっている。
上記のとおり、本件参道空間の南北壁面には本件建物への出入口がないため、本件参道空間は、南御堂に参拝するための参道としてしか利用することができない。また、本件参道空間は、南御堂に参拝するための唯一の参道となっている。
カ 処分行政庁であるY市は、令和2年4月1日、Xに対し、令和2年度の固定資産税等について、本件対象地を含む本件土地全体に賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。本件賦課決定処分に不服のあるXが、大阪市長に対する審査請求(棄却裁決)を経て、Y市に対して取消訴訟を提起した。
第一審判決が本件対象地に対する固定資産税等の非課税は認められないと判示し、Xの請求を棄却したことから、Xが控訴提起した。控訴審における争点は、本件対象地の一部である本件参道空間が宗教施設に該当するかどうかである。
(2)判旨(以下の【】部分は筆者による。以下同じ。)
ア 土地の用途の認定について
「土地について地方税法348条2項の適用の可否を検討するには土地の用途が何であるかを認定する必要があるが、土地の所有権は地盤と地上空間を支配する権能であって、土地の用途は、その地上空間(又は地下地盤)がどのような用途に供されているかによって決まることになる。
地上空間に建物が存在する場合には、当該土地の用途は建物の用途によって決まることになる。」
イ 本件参道空間と本件借地契約の関係について
(ア)「土地所有権の及ぶ範囲のうち、一定範囲の地下や一定範囲の地上に限定した範囲を目的として物権を設定したり、賃借権を設定することは法律上も許されており、実際にも、鉄道会社が所有する高架軌道下の土地について、地盤面とその上部の高架軌道までの空間を目的として賃借権が設定される例は稀ではない。この場合、当該敷地は、立体的にみれば、土地所有権の及ぶ範囲のうち下部空間が建物存続のため、上部空間が高架軌道存続のため使用されていることになり、借地人が支払う賃料は当該下部空間の使用収益の対価として授受されていることになる。」
(イ)「本件借地契約についてみると、本件対象地の上部に本件建物が存在すること、本件対象地を除いた本件土地の面積だけでは、容積率1000%の土地上に容積率面積が2万0620.45㎡の本件建物を適法に建築することができないことに照らせば、本件対象地を含む本件土地全体が、本件建物の敷地として本件借地契約により【A社】に賃貸されていることは明らかである。ただし、これは、平面的にみた場合であって、立体的にみた場合には異なる。賃貸されているのは、本件土地の所有権が及ぶ範囲のうち、本件参道空間を除く部分だけであり、本件参道空間は賃貸されていないということができる。
(ウ)「本件借地契約では、【X】が本件範囲の維持管理の責任を負うことが合意されているだけでなく、本件範囲を参道や宗教行事の開催場所として【X】が無償利用することや、【X】が本件範囲に門扉を設置すること、【A社】は、【X】の宗教的雰囲気と尊厳を損なうような本件建物の利用をしないよう配慮すべきことまでが合意されている。そうすると、本件範囲とは、図面上は平面的に表示されているものの……、本件対象地の地表面だけを意味するのではなく、本件参道空間を意味するものと解され、【A社】は、例えば、本件範囲の上部天井や南北外壁(それらは【A社】の所有に属する構造物である。)に広告物や看板を取り付けたり、本件範囲の地表面に物品を置くなどして、何らかの形で本件範囲を使用すること自体が一切禁止されているものと解される。」
(エ)「借地人である【A社】が本件参道空間の維持管理責任を負わず、かつ、一切の使用収益行為が禁止されていることからすれば、本件参道空間が本件借地契約の対象となっていると認めることは困難であり、本件参道空間は本件借地契約の対象物件から除外されていると認めるのが相当である。
ウ 本件土地に賦課されるべき固定資産税等の額について
(ア)「以上に説示のとおりであって、本件土地の上には、課税用途に供されている空間(本件建物が存在する空間)と非課税用途に供されている空間(宗教施設として使用されている本件参道空間)が混在しており、かつ、後者の空間について賃料は授受されていないということになる。」
(イ)「したがって、本件土地の全部に対し固定資産税等を賦課する本件賦課決定は、課税用途と非課税用途の複数の用途に供されている本件土地のうち、非課税用途(宗教施設の維持)に供されている部分に対してまで固定資産税等を賦課することになるから、当該部分に賦課する限度で地方税法348条2項に反することになる。」
3. 検 討
(1)本判決の特徴
上記2(1)カのとおり、控訴審における争点は、本件参道空間が宗教施設に該当するかどうかである。本判決は、本件参道空間が非課税用途(宗教施設)に供されていることを認めた上で、本件参道空間が本件借地契約の対象から除外されているとし、最終的に、本件賦課決定処分が地方税法348条2項違反であると判示した。
そして、本判決は、本件参道空間が本件借地契約の対象から除外されているかどうかを判断するに際し、本件借地契約について詳細に検討を行っている。このことから、本判決が、冒頭で紹介したファイナイト再保険事件や岡本倶楽部事件と同様に、課税は私法上の法律関係に即して行うべき、という考えに立っていることが見て取れる。
もっとも、原判決(大阪地判令和4年11月17日裁判所ウェブサイト)は、請求棄却判決を下している。原判決と本判決において正反対の結論となったポイントは、どのような点にあったのだろうか。担当裁判官による判断の違い、と言ってしまえばそれまでかもしれないが、判決書から読み取れる範囲で、原審と控訴審におけるXの主張の比較検討という観点から検討してみたい。
(2)原審段階におけるXの主張
ア Xは、原審段階では、主位的主張と予備的主張を展開していた。
主位的主張:本件対象地が地方税法348条2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する…境内地」に該当するか否か
予備的主張:本件対象地のうち、本件建物が存在する部分(本件上空建物部分)と参道として用いられている部分(本件空洞部分及び本件建物不存在区画)を割合的に区分し、参道として用いられている部分を非課税とすべきか否か
イ Xは、この主位的主張、予備的主張いずれにおいても、本件借地契約よりも使用実態を重視すべき、というスタンスであったように思われる(脚注5)。すなわち、Xは、主位的主張において、「『宗教法人法第3条に規定する……境内地』に該当するか否かについては、その使用の実態を社会通念に照らして客観的に判断すべき」、「本件対象地は、典型的な宗教施設として例示される『参道として用いられる土地』(宗教法人法3条3号)であるから、基本的には『宗教法人が専らその本来の用に供する』ものと解すべきである。……本件借地契約によっても本件対象地の参道としての使用の実態は何ら損なわれていない」(下線部は筆者による。以下同じ。)と、本件借地契約の内容よりも使用実態を重視すべき、という主張を行っていた。
また、予備的主張においても、「本件上空建物部分と本件空洞部分は、構造的又は機能的にみて異なる用途に供されていたといえるから、それぞれ別個に地方税法348条2項3号の適用の可否を判断し、本件空洞部分については、参道の部分と一体のものとして、『宗教法人が専らその本来の用に供する』部分に当たる」と、構造的又は機能的という実態を重視すべきという主張をしていた。
ウ これに対して原判決は、XとA社間の私法行為(本件借地契約)を前提とした、又は重視した判断を行っている。すなわち、上記イのXの主位的主張に対しては、「本件借地契約においては、本件対象地を含む【本件土地】全体が借地権の設定範囲として図示されており……、月額賃料も本件対象地を含む【本件土地】全体の坪数から算出されている……一方で、本件対象地を借地権の設定範囲から除く旨の特段の定めは見当たらないから、本件対象地を含む【本件土地】全体について、本件事業者に対して借地権が設定されたと認めるのが相当である」、「また、本件対象地の外観からしても、……本件対象地は、……本件建物の敷地として一体的に使用されていたと認められる。」、「そして、……本件対象地は、その使用実態に照らせば、【X】の境内地(参道)として用いられると同時に、【X】の収益事業である不動産賃貸業のためにも恒常的に使用されているというべきである。」、「以上によれば、本件対象地は、……宗教団体としての主たる目的を実現するための境内地(参道)として使用されていた(本来の用に供していた)だけでなく、【X】の収益事業である不動産賃貸業のためにも使用されていた(不動産賃貸業の用に供していた)と認められ【る。】……したがって、本件対象地は、『宗教法人が専らその本来の用に供する』ものには当たらないというべきである。」と判示している。
また、上記イのXの予備的主張に対しては、「どの範囲を対象として地方税法348条2項3号の適用を検討すべきであるかや、『宗教法人が専らその本来の用に供する』ものか否かは、外形的な使用状況のみによって判断されるべきものではなく、当該土地等の使用権に係る契約の有無やその内容も踏まえて判断されるべきところ、……本件借地契約においては、本件上空建物部分と本件空洞部分とを区別することなく、全体として本件事業者に対して賃貸され、商業施設である本件建物の敷地として使用されているのであり、本件建物存在区画は全体として【X】の不動産賃貸業の用に供する貸付地たる性質を有するというべきであるから、本件上空建物部分と本件空洞部分について別個に地方税法348条2項3号の適用の可否を検討すべきとはいえないし、本件空洞部分が専ら参道として用いられていたものともいえない。【X】の上記主張は、本件借地契約の内容を考慮しない点において前提を誤るもの」と判示している。
エ このように、原審段階におけるXの主張と原判決では、本件借地契約を重視しているかどうか、という点で異なっており、本件借地契約を重視すべき、という原判決の考え方からすれば、当該契約を重視しないXの主張を採用することは難しい、ということになるものと思われる。
(3)控訴審段階におけるXの主張
ア これに対し、Xは、控訴審段階では、「土地の所有権はその地上と地下の双方に及ぶところ、本件借地契約では、【本件土地】のうち本件参道空間が本件借地契約の対象から除外されており、宗教法人である控訴人が本件参道空間を参道として排他的に使用している。そのため、本件借地契約では、土地所有者である控訴人が本件参道空間を維持管理する責任を負うものとされており(本件借地契約11条4項)、本件借地契約の賃料も、本件参道空間が賃貸されていないことを前提として、……合意された」と主張している。
すなわち、Xは、まず、土地の所有権がその土地の上下にも及ぶという民法上の原則(民法207条)を確認し、それを踏まえて本件対象地の一部である本件参道空間が本件借地契約の範囲外である、という主張を展開している。原審段階と異なり、本件借地契約を重視した主張をしているということになるが、ここで重要なのは、本件対象地全体が本件借地契約に係る借地権の範囲外、と主張しているのではなく、その一部である本件参道空間が範囲外と主張している点である。本判決も判示するように、上記2(2)イ(イ)からすれば、本件対象地が平面的には本件借地契約の対象であることは否定し難いように思われる。しかし、Xは、上記2(1)イの契約内容から、XとA社間の真の合意内容を明確にし、本件対象地の上部である本件参道空間は本件借地契約の範囲外、と主張しているのである。
その結果、上記2のとおり、本判決も、本件参道空間が本件借地契約の対象から除外されている、と判示するに至ったものと思われる。
イ 上記1で述べたとおり、租税法が課税対象としているものは、私法によって規律されている納税者の経済活動である。そうだとすれば、課税処分を争う場合、まずは私法関係(契約関係)を見直すことが重要であり、その際に重要な証拠となるのが、やはり契約書である。
もちろん、実務上、当事者間の契約内容が契約書に全て記載されていない場合はあり得るので、契約書だけを確認すればよい、というわけではない(脚注6)。しかし、当事者間で契約書が真正に作成されているのであれば、基本的には、その内容どおりの契約が締結されたといえるはずである(脚注7)。このことからすれば、裁判所を説得するには、「契約書から導かれる真の合意内容は、●●であり、そうすると、この課税処分はおかしい。」など主張するのがよいといえよう。
そして、そのような視点で本件を見てみると、本件借地契約に係る契約書を検討し、XとA社間においては、本件参道空間を本件借地契約の対象外としていたという真の合意内容を把握した上で争点設定をし、そして、それに沿う主張立証をして高裁の担当裁判官を説得できたことがXの逆転勝訴という結論に繋がったと思われる。
4. まとめ
税務訴訟においては、課税処分の適法性は、課税庁側に主張立証責任があるとされている(侵害処分・授益処分説)。したがって、課税の前提となる私法関係(契約関係)についても、課税庁に主張立証責任があることになる。
しかし、当然のことではあるが、課税庁は契約当事者ではない以上、当事者間の真の合意内容を正しく理解できていないこともあるように思われる。その結果、契約内容を当事者の真の合意内容とは異なる形で解釈し、課税処分を課してくる場合があり得るから、契約当事者である納税者としては、契約内容についてしっかりと主張立証することが重要といえる。
では、契約内容を正しく伝えることは、訴訟段階においてのみ重要なのだろうか。この点について、本判決の事案である地方税(固定資産税)からは少しずれるが、国税に関する課税処分を前提に、簡単に触れることとしたい。
(1)審査請求段階において
国税に係る税務訴訟の場合、訴訟提起に先立って国税不服審判所(以下「審判所」という。)に審査請求を申し立てる必要がある(国税通則法115条、不服申立前置主義。なお、地方税においても、不服申立前置主義が採用されている(地方税法19条の12)。)。
この点、審判所の取消裁決を見てみると、大半が事実認定の誤りを理由にしたものであり、法令解釈の誤りを理由にしたものはごく僅かである(脚注8)。このことからすれば、審判所においては、事実認定の誤りで取り消される可能性の方が、法令解釈の誤りで取り消される可能性よりも格段に高いということができる。
したがって、審判所段階においても、私法関係(契約関係)についてしっかりと主張立証し、課税処分の前提である事実認定が誤っていることを伝えることは非常に重要といえよう。
なお、「裁決は、関係行政庁を拘束する。」(国税通則法102条1項)とされている以上、原処分庁(税務署長や国税局長)は、取消裁決を争う術を持っていない。つまり、審判所が取消裁決を出せば、紛争の早期解決に繋がるのであるから、その点からしても、審判所段階で積極的に取消しを求める意義は大きいと考える。
(2)税務調査段階において
上記(1)のとおり、審判所において取消裁決が出ることは、紛争の早期解決に繋がるのは間違いないが、それは、あくまで取消訴訟との比較においてであり、一度課税処分(更正処分)が課されると、やはり取り消されるまでには相当の時間を要することとなる。
そうすると、そもそも、課税処分が課されないようにすることが重要であり、具体的には、税務調査段階においても私法関係(契約関係)について正しく主張立証を行うことが重要と考える。
すなわち、課税当局側は、課税処分を課すに当たっては、法的視点を踏まえた調査・審理を行うのが通常である。その結果、調査・審理段階で、審査請求や訴訟段階で取り消される可能性がある、と判断すれば、そもそも課税処分を課さない、という結論に至る可能性が高い(脚注9)。
このように考えた場合、税務調査段階においても、課税当局による契約内容の理解に誤りがあるのであれば、納税者側においてその点を質すべく主張立証し、課税処分を断念してもらうことが重要といえる。
(3)最後に
本判決により、税務訴訟における契約内容を含めた事実関係の丁寧な確認及びそれを踏まえた争点設定の重要性が改めて明らかになったといえる。ただ、そもそも課税処分を課されないようにする、又は課された課税処分について審判所段階で取り消してもらうといった紛争の早期解決を考えると、事実関係や契約関係を踏まえた主張立証や争点設定は、税務調査段階や審査請求段階においても重要である。
つまりは、どのような場面であれ、「課税は、私法上の法律関係に即して行われるべき」という大前提を踏まえた主張立証をすることが肝要といえよう。
脚注
1 金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)129頁、佐藤修二編著『対話でわかる租税「法律家」入門』(中央経済社、2024年)36頁
2 岡本倶楽部事件について、本稿の観点からの検討については、佐藤編・前掲注1・41頁以下参照
3 通常、主張立証とは、主張立証責任を負う者が行うものを意味するが(後記4参照)、本稿では、反論や反証を含めて広く「主張立証」と呼ぶこととする。
4 本判決は、地方税法348条2項3号該当性が争いとなったケースといえるが、本稿では、紙幅の関係上、この点について深く立ち入る余裕がないことをご了承願いたい。
5 Xは、契約内容についても主張しているので、原審の整理の結果、契約内容よりも使用実態に関する部分が強調されている、というのが正解かもしれない。
6 岡本倶楽部事件は、正にそのような事件であるし(佐藤編著・前掲注1・41頁以下参照)、近時でも、東京地判令和4年2月1日裁判所ウェブサイトなどがある(なお、当該裁判例については、拙稿・本誌1002号(2023年11月6日号)13頁を参照されたい。)。
7 民事裁判実務上、契約書は、成立に争いがなければ、特段の事情がない限り、その記載どおりの法律行為がされたと認められる(処分証書の法理。最判昭和45年11月26日最高裁判所裁判集民事101号565頁等参照)。
8 詳細については、佐藤編・前掲注1・130頁参照
9 詳細については、佐藤編・前掲注1・144頁以下参照
向笠太郎 (むかさ たろう)
2009年上智大学法科大学院修了。10年弁護士登録。18年から22年まで東京国税不服審判所において任期付公務員(国税審判官)として勤務し、現在は、弁護士法人日本クレアス法律事務所所属。最近の著書として、『要件事実で構成する相続税法』(中央経済社、2023年)、『対話でわかる租税「法律家」入門』(中央経済社、2024年)(いずれも共著)がある。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.