解説記事2024年05月06日 新会計基準解説 改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」の概要(2024年5月6日号・№1026)
新会計基準解説
改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」の概要
企業会計基準委員会専門研究員 早野真史
Ⅰ はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、2024年3月22日に改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本実務対応報告の概要を紹介する。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。
Ⅱ 本実務対応報告公表の経緯
2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20か国・地域(G20)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において合意が行われたグローバル・ミニマム課税のルールには、所得合算ルール(Income Inclusion Rule(IIR))、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule(UTPR))及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax(QDMTT))がある。このうち、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)において定められたことに対応して、ASBJは、2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「2023年実務対応報告」という。)を公表した。
我が国においては、グローバル・ミニマム課税制度を導入するための法人税法の改正は数年にわたって行われる予定であり、令和6年度税制改正において所得合算ルール(IIR)に係る取扱いの見直しが予定されている。また、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)に係る取扱いについては今後の税制改正での法制化が予定されているものの、国際会計基準審議会(IASB)が2023年5月に公表した「国際的な税制改革−第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正)」(以下「修正IAS第12号」という。)では、所得合算ルール(IIR)のみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)も含めて、第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しないこととしている。このため、ASBJにおいても、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いのみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いが今後法制化された場合のこれらの取扱いも含めたグローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いについて検討を行った。本実務対応報告は、2024年1月24日に公表した公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公表するに至ったものである。
Ⅲ 本実務対応報告の概要
1 会計処理
本実務対応報告は、次の(1)及び(2)に記載した状況を踏まえて、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いのみならず、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする取扱いを継続することとした(本実務対応報告第3項及び第15-5項)。
(1)2023年実務対応報告では、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の会計処理について、次の点が明らかではないと考えられ、また、実務上の負担も想定されるとしていた。
① グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産及び繰延税金負債を見直す必要があるかどうか
② グローバル・ミニマム課税制度に基づく上乗せ税額(多国籍企業グループ等を構成する事業体等について国別に算定された実効税率が基準税率(15%)を下回る場合の国別に集計された純所得に対する基準税率(15%)に至るまでの税額)を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか
③ グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか
この点、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)もグローバル・ミニマム課税を構成するルールであることから、こうした状況は変わらないものと考えられる(本実務対応報告第15-3項)。
(2)IASBが2023年5月に公表した修正IAS第12号では、国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」の要求事項からの一時的な例外として、所得合算ルール(IIR)のみならず、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)も含めて、第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しないこととしている。このため、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことで、当該取扱いが現時点の国際的な会計基準における取扱いと整合することとなる(本実務対応報告第15-4項)。
2 適用時期
令和6年度税制改正において所得合算ルール(IIR)に係る取扱いの見直しが行われる予定であることを踏まえて(脚注2)、当該税制改正により改正される法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算における取扱いを明らかにするため、本実務対応報告は、公表日以後適用することとしている(本実務対応報告第4-2項)。
Ⅳ おわりに
ASBJは本実務対応報告とともに、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)の取扱いを定めた実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表しているため、当該実務対応報告も併せてご確認いただきたい。本稿が本実務対応報告の概要をご理解いただくための一助となれば幸いである。
脚注
1 本実務対応報告の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb-j.jp/jp/practical_solution/y2024/2024-0322_01.html)を参照のこと。
2 本実務対応報告の公表後、2024年3月28日に所得合算ルール(IIR)に係る取扱いの見直しに関する規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第8号)が成立している。
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