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解説記事2024年10月07日 未公開判決事例紹介 代償財産の相続開始時の時価への修正に合理性あり(2024年10月7日号・№1046)

未公開判決事例紹介
代償財産の相続開始時の時価への修正に合理性あり
相続人合意の遺産分割割合とすべきとの請求を棄却

 本誌1030号40頁で紹介した相続税更正処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇相続税の計算において、代償分割が行われた場合の課税価格が争われた事件。東京地方裁判所(品田幸男裁判長)は令和6年5月23日、相続税の負担割合は、相続人間の合意による遺産分割の割合とすべきとの原告の主張を斥けた(令和4年(行ウ)第379号)。東京地裁は、代償財産の価額の相続開始時の時価への修正、及びその計算について定めた相続税法基本通達の各規定には合理性があり、相続税法の規定に従って算出した相続税の課税価格の割合と、相続人間の合意による遺産分割の割合が異なることは、遺産分割制度と相続税制に係る法の規定が相違することから当然に予定された帰結であるとの考えを示した。

主  文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 X税務署長が令和2年2月27日付けで原告に対してした被相続人Yの平成17年8月23日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし、令和2年9月29日付け再調査決定及び令和4年2月1日付け裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち、課税価格1億8078万2000円、納付すべき税額4711万7100円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要
 被相続人Y(平成17年8月23日死亡。以下「亡Y」という。)の相続人ら(原告の母を含む。)は、亡Yの相続につき、亡Yの遺産の一部が未分割であるとして相続税の申告をしたが、その後、同相続人ら(ただし、原告の母がその間に死亡したため、その相続人ら(原告を含む。)が権利義務を承継した。)の間で遺産分割調停が成立した。
 上記遺産分割調停の成立を受けて、亡Yの相続人ら(原告の母の相続人らを除く。)は、相続税法32条1号(平成18年法律第10号による改正前のもの)の規定に基づき、更正の請求をした。X税務署長は、同更正の請求に対して減額の更正処分をし、また、原告に対し、同法35条3項(平成18年法律第10号による改正前のもの)の規定に基づき、増額の更正処分をした。
 本件は、原告が、上記増額の更正処分を不服として、同処分(再調査決定及び裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
 別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである(なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。)。
2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者等

 別図相続関係図記載のとおりである。
(2)亡Yの相続開始、一部の遺産についての遺産分割成立、相続税の申告等
ア 亡Yは、平成17年8月23日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。同日時点における亡Yの相続人は以下のとおりであった(以下「亡Y相続人ら」という。)。
 (ア)A(長女。平成23年4月15日死亡。以下「亡A」という。)
 (イ)B(長男。以下「B」という。)
 (ウ)C(Bの妻であり、亡Yの養子。以下、同人及びBを併せて「Bら」という。)
 (エ)D(二男。以下「D」という。)
イ 亡Aは、平成18年4月26日、横浜家庭裁判所に対し、亡Yに係る遺産分割について、Bら及びDを相手方とする遺産分割調停の申立て(以下「遺産分割調停申立事件」という。)をした。
  亡Y相続人らは、平成18年6月21日、本件相続に係る相続財産のうち、別表4の順号1及び2の土地を4分の1ずつ取得する旨及び別表6の順号1の出資金をBが取得する旨の遺産分割協議を成立させた(以下「一部遺産分割協議成立」といい、遺産分割協議が成立しなかったその余の遺産を「未分割遺産」という。)。
 (乙1、8)
ウ 亡Y相続人らは、平成18年6月21日、X税務署長に対し、一部遺産分割協議成立の内容を踏まえ、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の期限内申告をした(以下、同申告に係る申告書を「本件申告書」という。)。
  亡Y相続人らは、その際、未分割遺産について、相続税法55条(平成23年法律第114号による改正前のもの)の規定に基づき、各相続人が民法の規定による法定相続分である各4分の1の割合に従って当該財産を取得したものとして、その課税価格を計算した。
 (乙1)
エ 亡Aは、平成19年6月25日、X税務署長に対し、相続財産の評価額に誤りがあったとして、本件相続税の更正の請求をした(乙2)。
  X税務署長は、平成19年9月28日付けで、上記更正の請求の一部を認め、亡Aに課されるべき本件相続税の額を別表「課税処分等の経緯」の順号3「納付すべき税額」欄のとおりの金額とする旨の更正処分(以下「本件第一次更正処分」という。)をした(乙3)。
オ 遺産分割調停申立事件は、平成21年6月22日、審判に移行した(乙9。以下「別件審判手続」という。)。
(3)亡Aの死亡、未分割遺産についての遺産分割協議の成立等
ア 亡Aは、平成23年4月15日に死亡した。同日時点における亡Aの相続人は以下のとおりであった(以下「亡A相続人ら」という。)。
 (ア)原告(長男)
 (イ)E(長女。以下「E」という。)
 (ウ)F(二女。平成30年12月23日死亡。以下「亡F」という。)
  亡Aは、生前、平成22年4月27日付けで、原告の相続分を12分の5、Eの相続分を12分の3、亡Fの相続分を12分の4に指定する旨の遺言書を作成していた(乙10)。
イ 亡A相続人らは、平成23年11月30日、横浜家庭裁判所に対し、別件審判手続を受継する旨の申立てをした(乙11)。
ウ(ア)横浜家庭裁判所は、平成30年11月7日、別件審判手続を中止して調停に付し、他の関連調停事件と併合した(以下、これらを併せて「本件調停事件」という。)。同日、本件調停事件につき、Bら、D及び亡A相続人らの間で、別紙2「調停条項」(以下「本件調停条項」という。)のとおりの調停が成立し(以下「本件調停成立」という。)、これにより未分割遺産の分割が確定した。なお、本件調停条項における各金額は、調停中に実施した鑑定額又は売却額を基に計算されたものであった。
 (甲1、2、乙18)
 (イ)本件調停条項の概要は、以下のとおりである(甲1)。
  a 亡Yの遺産のうち、本件調停条項の別紙遺産目録I記載1(3)から(7)までの各土地及び同目録記載2(11)の建物(以下、これらを併せて「W町不動産」という。)は原告が取得し、その余の不動産については、本件調停条項に定めた内容に従い、Bら及びDがそれぞれ取得する。
  b Bらは、本件調停条項3(2)、(3)、(4)及び(6)の遺産取得の代償として、連帯して、①Eに対し3354万7050円、②亡Fに対し4472万9399円、③原告に対し4666万4544円(①~③の合計1億2494万0993円)を支払う(本件調停条項4~6。以下、Bらが支払うべき上記代償財産を「Bら代償財産」という。)。
  c Dは、本件調停条項3(5)及び(6)の遺産取得の代償として、①Eに対し1735万0932円、②亡Fに対し2313万4576円、③原告に対し2413万5456円(①~③の合計6462万0964円)を支払う(本件調停条項7~9。以下、Dが支払うべき上記代償財産を「D代償財産」といい、Bら代償財産と併せて「本件代償財産」という。)。
エ 亡Fは、平成30年12月23日に死亡した。
  亡Fは、生前、平成28年9月23日付けで、一切の財産をEに相続させる旨の遺言公正証書を作成していたため(乙12)、亡Aに係る権利及び義務の承継割合は、原告が12分の5、Eが12分の7となった。
(4)本件調停成立後の本件相続税の更正処分
ア Bら及びDは、平成31年3月5日、X税務署長に対し、本件調停成立によって、亡Yの遺産のうち未分割であった部分の分割が確定したとして、相続税法32条1号(平成18年法律第10号による改正前のもの)の規定に基づき、本件相続税の更正の請求をした。
  X税務署長は、令和元年12月24日付けで、上記各更正の請求の一部を認める更正処分をした。
イ X税務署長は、令和2年2月27日付けで、原告に対し、相続税法35条3項(平成18年法律第10号による改正前のもの)の規定に基づき、本件相続税の更正処分をした(以下「本件更正処分」という。)。
  本件更正処分は、亡Aに課されるべき本件相続税の額を別表「課税処分等の経緯」の順号4「納付すべき税額」欄のとおりの金額とし、国税通則法5条1項及び2項の規定により、原告がその納付義務の一部を承継したとするものであった。(乙4)
(5)再調査の請求
ア 原告は、令和2年5月22日、X税務署長に対し、本件更正処分の取消しを求めて再調査の請求をした(乙5の1)。
イ 別件審判手続及び本件調停事件においてBら及びDの代理人を務めた弁護士は、令和2年8月21日、再調査審理庁の担当職員に対し、本件調停条項における本件代償財産の金額を決定した経緯等につき、概要、以下のとおり申述した。なお、同弁護士は、本件調停成立前に、原告に対し、同申述と整合する内容が記載された書面を交付していた。(甲2、乙13)
 (ア)一部遺産分割協議成立の対象となった物件については、上記弁護士が関与する前に既に精算されていたもので詳細は分からないが、本件調停時の金額の計算上、売買額及び鑑定額を確認し、計算した。
 (イ)原告が、W町不動産の鑑定額が高すぎると主張したため、鑑定額と原告主張額との中間額で合意することとなり、そこから債務額を差し引いた金額は8719万8514円となった。
 (ウ)本件調停事件を担当した裁判官に対し、対象財産の総額を11億0790万1393円(うち不動産10億4649万6344円、預貯金1450万5049円、Bらへの生前贈与合計3510万円、Dへの生前贈与1180万円)として提出し、本件調停成立に至った。
 (エ)上記(ウ)の対象財産総額の4分の1は2億7697万5348円であり、W町不動産の金額を差し引くと、本件代償財産の価額(1億8956万1957円)と一致する。
ウ X税務署長は、令和2年9月29日付けで、亡Aに課されるべき本件相続税の額を別表「課税処分等の経緯」の順号6「納付すべき税額」欄のとおりの金額とし、本件更正処分の一部を取り消す旨の再調査決定をした(以下「本件再調査決定」という。甲3、乙6)。
(6)審査請求
ア 原告は、令和2年10月30日、国税不服審判所長に対し、本件更正処分(ただし、同年9月29日付け再調査決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めて審査請求をした(乙7)。
イ 国税不服審判所長は、令和4年2月1日付けで、亡Aに課されるべき本件相続税の額を別表「課税処分等の経緯」の順号8「納付すべき税額」欄のとおりの金額とし、本件更正処分の一部を取り消す旨の裁決をした(甲4。以下「本件裁決」という。)。
(7)本件訴訟の提起等
ア 原告は、令和4年8月2日、本件更正処分(本件再調査決定及び本件裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)の取消しを求め、本件訴訟を提起した。
イ 原告は、令和5年7月18日付けの「請求の趣旨変更申立書」において、本件訴訟において求める取消しの対象を、本件更正処分(本件再調査決定及び本件裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち本件第一次更正処分における課税価格及び納付すべき税額を超える部分に変更した。(当裁判所に顕著な事実)
3 課税の根拠及び計算に係る被告の主張
 課税の根拠及び計算に係る被告の主張は、別紙3のとおりである。
4 争点と争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、本件相続税の課税価格に算入すべき代償財産の価額である。
(被告の主張)
(1)平成30年11月7日の本件調停成立をもって本件相続に係る遺産分割がされたことにより、亡A相続人らは、本件相続により取得した現物の財産の価額に加えて、Bら及びDから交付を受けた本件代償財産の価額を加えた価額が課税価格として計算されることになるところ、本件代償財産の価額については、これを本件相続開始時の時価に引き直す必要がある。
  そして、本件代償財産の本件相続開始時の時価は、本件各通達の定めにより算定するのが相当であるところ、本件においては、Bら及びDが負担する代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定された上で、当該財産の代償分割時における通常の取引価格を基として決定されていることから、本件代償財産の価額は、Bら及びDが負担する代償債務の額につきそれぞれ本件通達11の2−10(2)に従って計算した代償財産の価額を合計したものとなり、これは、別表14の順号4の「合計」欄の金額となる。
(2)原告は、本件における本件通達11の2−10(2)の適用に誤りがある旨を主張するが、以下のとおりいずれも理由がない。
ア 原告は、亡A相続人らが納付すべき税額の按分割合が約30%であり、遺産分割協議において亡A相続人らが取得した相続財産が亡Yの遺産全体に占める割合(4分の1)を超えることを問題視する。
  しかし、相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得した全ての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて計算する(相続税法17条)ものであり、共同相続の場合に各相続人が負担すべき相続税額は、各人の課税価格の割合を基礎に算定されるというのが現行の相続税法の規定である。
  遺産分割制度と相続税制の相違から、遺産分割が民法の規定する法定相続分に従ってなされたとしても、対象となった財産の範囲、財産の評価時点及び評価方法等の相違によって、各相続人間の相続税額が法定相続分どおりになるとは限らず、このような不均衡は法の予定するものである。
  原告の上記主張は、遺産分割による共同相続人ごとの取得割合が等しい場合には、共同相続人ごとに負担すべき相続税額も等しくなるべきとするものであり、相続税法の規定を無視した独自の見解である。
イ 原告は、具体的相続分を超えない財産を取得した者が取得した財産も代償分割の対象となることを前提に、本件通達11の2−10(2)の適用に誤りがある旨を主張する。
  本件通達11の2−10(2)による計算の趣旨は、代償財産の額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時における通常の取引価額を基にして決定されている場合に、代償分割の原因となった財産の相続開始時と代償分割の時の通常の取引価額の割合に従って代償財産の価額を相続税評価額に引き直すというものであり、具体的相続分と異なる相続税額とならないようにするための調整を目的とするものではない。代償分割は、遺産の中の特定の財産について、現物分割の方法によることが不相当である等の事情が存在する場合に、相続の一人又は数人に具体的相続分を超えて当該財産を現物で取得させ、その相続人に対して、現物では具体的相続分に満たない遺産しか取得しない相続人に、その不足分に相当する債務を負担させる分割方法なのであるから、通常、具体的相続分を超える現物財産を取得した相続人以外の相続人が取得した財産が、代償分割の対象となることはあり得ない。
  本件相続により亡Aが取得した財産の価額は、相続税評価額ベースで全体の約15%程度、通常の取引価額ベースで全体の約8%程度であるから、いずれにせよ、亡Aがその具体的相続分である4分の1を超えて相続財産を取得したとはいえず、代償分割の性質に照らして、亡Aが取得した財産が代償分割の対象となることはあり得ない。また、実際、本件調停条項や甲2の表に亡Aが代償債務を負う旨の記載もないから、亡Aの相続人である原告はBら及びDに対して代償債務を負っておらず、そのため、亡A相続人らがBら及びDに交付すべき代償財産は存在しない。
(原告の主張)
 本件における本件通達11の2−10(2)の適用には、以下のとおり誤りがある。
(1)代償分割を行った場合の相続税割合においては、相続人間の合意による遺産分割の割合が尊重されるべきであり、同割合を前提に代償金を算定した場合(代償金によって相続割合が変わらない場合)には、本件通達11の2−10(2)による調整計算をせず、相続割合(相続分)に応じて相続税額を計算すべきである。
  本件において、亡Aにおいて納付すべき相続税の按分割合は約30%となっており、遺産分割協議において亡Aの取得分を4分の1(25%)としたことと比して、明らかに高くなっている。
  本件のように、遺産総額が多額であり、遺産分割の合意成立までに長期間を要した事案の場合、合意成立をもって相続税に関する紛争予防の要請が生じているにもかかわらず、課税額に不均衡が生じると紛争の再燃を招くことになる。また、遺産分割調停中に、今後課される相続税について検討されないこともあるから、そのことによって一部の相続人が不利益を受けるのは不合理である。
(2)仮に本件において本件通達11の2−10(2)による調整計算をするのであれば、その調整対象には、具体的相続分を超えない財産を取得した者が取得した財産も含まれるべきであるから、原告が亡Aの相続人として取得したW町不動産についても、上記通達が適用されるべきである。
  本件通達11の2−10(2)が定められた趣旨は、代償分割となった財産を現物で取得した者とその財産の代償金を取得した者との間で、代償金が財産の相続税評価額ではなく時価によって定められた場合、両者の間で相続税の課税価格に差異が生じることを回避することにある。
  亡A相続人らは本件代償財産を各自受け取ったほか、原告はW町不動産を現物取得したものであるが、本件代償財産に代えてBら及びDが取得した不動産と、W町不動産では、相続開始時の時価と遺産分割時の評価額との増減比率が異なっているため、本件代償財産のみに調整計算を施すことでは、亡Y相続人ら間の課税の公平が図れない結果となる。
  したがって、W町不動産についても本件通達11の2−10(2)が適用されるべきである。

第3 当裁判所の判断
1 本件各通達の合理性の有無等
(1)相続税の課税の仕組み

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続により財産を取得した者については、当該相続により取得した財産の価額の合計額が相続税の課税価格となり(相続税法11条の2)、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除くほか、当該財産の取得の時における時価によることとなる(同法22条)。相続税の課税は、同一の被相続人から相続により財産を取得した相続人について、それぞれ、取得した財産の価額(相続開始時の時価。同条)に関し、債務控除(同法13条)及び相続開始前3年以内に贈与があった場合の当該贈与により取得した財産の価額の相続税の課税価格への加算(同法19条)をして各相続人に係る相続税の課税価格を算出し、各課税価格を合計した上で、各相続人が法定相続分に応じて財産を取得したものとした場合におけるその各取得金額に、相続税の税率を乗じて得た額を合計して相続税の総額を算出し、その後、相続税の総額に対して、上記の課税価格の合計額に各相続人に係る上記の課税価格の金額が占める割合を乗じて、各相続人ごとの相続税額を算出するという仕組みが採られている(同法16条、17条参照)。
(2)代償分割について
 代償分割は、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対して代償財産を交付する債務を負担させて、現物の分割に代える旨の遺産の分割の方法である(家事事件手続法195条参照)。
 代償財産を評価するに当たっては、代償分割の時における代償財産の価額と、その分割が効力を生ずる相続開始の時(民法909条参照)における当該代償財産の価額とが異なる場合は、当該代償財産の価額を相続開始の時の時価に修正する必要がある(相続税法22条)。上記(1)の相続税法上の相続税算出の仕組みからすると、当該代償財産の価額が修正されることにより、相続税の総額及び相続人間の相続税の割合が変動することとなる。
(3)本件各通達の合理性の有無について
 代償財産の価額を相続開始の時の時価に修正するため、①本件通達11の2−9は、代償分割が行われた場合の課税価格の計算につき、代償財産の交付を受けた者については相続により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額とし、代償財産の交付をした者については相続により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額とすることとし、②本件通達11の2−10は、上記代償財産の価額は代償債務の額の相続開始の時における金額によるものとした上で、本件通達11の2−10(2)において、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているときは、代償債務の額に、「代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額」が「代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額」に占める割合を乗じて計算した金額とすることとしているところ、本件各通達のこのような計算方法には、相応の合理性があるものというべきである。
2 課税価格に算入すべき代償金の額
 前提事実(3)ウ及び(5)イのとおり、Bらは、本件調停条項3(2)、(3)、(4)及び(6)の遺産取得の代償としてBら代償財産を支払うこととなり(本件調停条項4~6)、Dは、本件調停条項3(5)及び(6)の遺産取得の代償としてD代償財産を支払うこととなったものであり(本件調停条項7~9)、また、本件調停条項は、売買額及び鑑定額を基にした合意がされたものであるから、本件調停条項に定められた代償債務の額は、「代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき」に該当するので、本件通達11の2−10(2)の定めに基づき、本件相続開始の時における代償債務の金額を算定するのが相当である。
 また、前提事実(5)イによれば、本件調停成立に当たっては、Bら及びD並びに亡A相続人らの間で、代償分割の対象となる財産には特別受益(生前贈与)が含まれる旨及び代償分割の対象となる財産の価額の算定の際に、当該代償分割の対象となる財産について引き受けた債務額を控除して調整する旨の合意があったと認められる。
 上記を前提に、本件通達11の2−10(2)の定めに基づき算定した本件相続税の課税価格に算入すべき代償財産の価額は、別表14の順号4の各金額と同額となる。
3 原告の主張について
 原告の主張は、要するに、①相続人間の合意による遺産分割の割合がある場合には同割合をもって相続税の負担割合とするべきであるから、本件通達11の2−10(2)を適用するのは相当ではない、②仮に本件に同通達を適用するのであれば、相続人間の課税の公平を図るためにW町不動産についても同通達を適用するべきであるというものである。
(1)上記①について
 相続税法17条は、相続人が複数いる場合の各人の相続税の負担割合を、相続税の課税価格の合計額に占める各人の相続税の課税価格の割合とする旨を定め、また、同法22条は、相続により取得した財産の価額は、相続時の時価による旨を定める。
 本件において、本件調停成立によりBら、D及び亡A相続人らが取得した財産及び債務等の相続時の時価(別表1の順号1~11)を前提とすると、亡Aの課税価格が本件相続税の課税価格に占める割合は約30%(別表1の順号15参照)となり、遺産分割協議において亡Aが取得した相続財産が亡Yの遺産全体に占める割合(25%。前提事実(3)ウ、(5)イ)を超えることとなる。
 これは、遺産分割制度と相続税制に係る法の規定が相違することから当然に予定された帰結であるから、相続税法の規定に従って算出した相続税の課税価格の割合と、相続人間の合意による遺産分割の割合が異なることをもって、本件更正処分(本件再調査決定及び本件裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)の違法性を根拠付ける事情に該当するとはいえない。
 したがって、原告の上記①の主張を採用することはできない。
(2)上記②について
ア 本件各通達は、代償分割が行われた場合の課税価格の計算及び代償財産の価額について定めたものであり、上記1で説示したとおり、このような計算方法には相応の合理性があるものというべきである。
  また、上記1(2)で説示したとおり、代償分割が、遺産の中の特定の財産について現物分割の方法によることが不相当である等の事情が存する場合に、具体的相続分を超える部分に相当する債務を負担させることにより、具体的相続分を超える現物分割を認めるという分割方法であることからすると、代償分割の対象となる財産は、具体的相続分を超える現物を取得した相続人の取得した物件に限られると解するのが相当である。
  したがって、W町不動産は、本件通達11の2−10(2)の対象には該当せず、同通達を適用することはできない。
イ 原告は、W町不動産と、Bら及びDが本件代償財産を負担することで取得した不動産について、相続開始時の時価と遺産分割時の評価額との増減比率が異なっているため、後者にのみ本件通達11の2−10(2)を適用することでは亡Y相続人ら間の課税の公平が図れないと主張する。
 (ア)上記アで説示したとおりの代償分割の性質からすると、通常、具体的相続分を超える現物財産を取得した相続人以外の相続人が取得した財産が代償分割の対象となる財産となることはない。
  本件相続で亡A又は亡A相続人らが取得した財産の価額は、相続開始時の時価を基準とすると全体の約15%、遺産分割時の評価額を基準とすると全体の約8%程度であるから(甲2、4、別表15の(1)及び(2))、亡A又は亡A相続人らが、亡Aの具体的相続分である4分の1(25%)を超える相続財産を取得したとは認められない。
  したがって、亡A又は亡A相続人らが取得した財産は、代償分割の対象となる財産とはならない。
 (イ)なお、原告の主張は、本件代償財産の算定に当たっては、Bら又はDが取得する財産の遺産分割時の評価額から、原告が取得するW町不動産の遺産分割時の評価額を控除していることから、相続開始時における代償金の価額を算定するに際しては、Bら又はDが取得する財産の相続開始時の時価と遺産分割時の評価額との増減比率だけでなく、原告が取得するW町不動産の相続開始時の時価と遺産分割時の評価額との増減比率も考慮しなければ、相続人間の課税が公平にならないという趣旨とも解される。
  しかし、上記1で説示したとおり、本件通達11の2−9及び本件通達11の2−10(2)は、相続税の課税の枠組み(上記1(1))のうち、取得した財産の価額の評価の一環として、代償財産の価額を相続開始の時の時価に修正するための算定方法を定めたものであり、その評価の内容によって、相続税の総額及び各相続人が負担するべき相続税の割合が変動することは当然に予定されている(上記1(2))ところ、上記1(3)のとおり、本件通達11の2−10(2)の計算方法には相応の合理性があるから、その適用によって相続人間の課税の公平が著しく害されるような特段の事情がない限り、上記通達を適用することが違法になるとは解されない。
  そして、本件において本件各通達を適用することにより算出される、亡A相続人らが負担する本件相続の課税割合は、上記(1)のとおり約30%にとどまり、原告の上記②の主張を考慮しても、上記通達の適用によって相続人間の課税の公平が著しく害されるような特段の事情があるとはいえない。
 (ウ)したがって、原告の上記②の主張は、本件更正処分(本件再調査決定及び本件裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)の違法性を根拠付ける事情に該当するものではない。
4 まとめ
 上記で説示したところ及び弁論の全趣旨によれば、本件更正処分(本件再調査決定及び本件裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)は、別紙3「課税の根拠及び計算に係る被告の主張」のとおり、いずれも適法なものと認められる。

第4 結論
 したがって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 品田幸男
裁判官横井靖世は転補につき、裁判官彦田まり恵は差支えにつき、いずれも署名押印することができない。
裁判長裁判官 品田幸男

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