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解説記事2024年10月28日 未公開判決事例紹介 破産手続で剰余金の配当、資産の譲渡に該当せず(2024年10月28日号・№1048)

未公開判決事例紹介
破産手続で剰余金の配当、資産の譲渡に該当せず
東京地裁、所得は外国法人の株主への剰余金の配当

 本誌1043号9頁で紹介した所得税等決定処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇債権申立てにより破産手続開始決定を受けた原告が、単独株主であった外国法人に係る剰余金配当手続により生じた所得について、非課税所得に該当するか否かが争われた事件。東京地方裁判所(品田幸男裁判長)は令和6年3月7日、配当所得は外国法人の株主に対する剰余金の配当に係るものであり、資産の譲渡に係る所得には当たらず、非課税所得に該当しないと判断。裁判所は、処分の取消しを求めていた原告の請求を棄却した(令和5年(行ウ)128号)。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 A税務署長が令和4年3月28日付けで原告に対してした令和2年分の所得税及び復興特別所得税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第2 事案の概要
 本件は、債権者申立てにより破産手続開始決定を受けた原告が、同破産手続における換価手続の一環として破産管財人がした、原告が単独株主であった外国法人に係る剰余金配当手続により生じた所得につき、A税務署長から所得税及び復興特別所得税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分を受けたのに対し、上記所得は非課税所得に該当し、仮に非課税所得に該当しないとしても破産管財人が源泉徴収義務又は申告義務を負うものであるから、上記各処分は違法であると主張して、それらの取消しを求める事案である。

1 関係法令の定め
 別紙「関係法令の定め」に記載のとおり。
 なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。
2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者及び関係者等

ア 原告
 原告は、インド共和国の国籍を有する者であるが、平成26年以降、日本国内に住所を有する個人として、所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当する者である。
イ U社
 (ア)××× Limited(以下「U社」という。)は、1998年(平成10年)8月6日に英領ヴァージン諸島に設立された外国法人であり、2000年2月22日、商号を「××× ××× Limited」から現在のものに変更した(乙4、5)。
 (イ)原告は、2000年1月18日、U社の取締役に就任し、同月22日、U社の発行済み株式の全て(1株)を取得し、その単独株主となった(乙6)。
ウ V社
 (ア)××× Limited(以下「V社」といい、U社と併せて「本件各外国法人」という。)は、2005年(平成17年)11月30日に英領ヴァージン諸島に設立された外国法人であり、2006年2月23日、商号を「××× ××× ××× Limited」から現在のものに変更した(乙7、8)。
 (イ)原告は、2005年12月14日、V社の取締役に就任し、同日、V社の発行済み株式の全て(1株)を取得し、その単独株主となった(乙8、9。以下、同株式を、上記イ(イ)のU社の株式と併せて「本件各株式」という。)。
 (ウ)V社は、2021年3月9日、英領ヴァージン諸島の事業会社法の定める手続により解散した(乙10)。
(2)原告の破産手続の開始決定等
ア 原告の債権者である▲▲▲銀行は、平成27年11月11日、東京地方裁判所に対し、原告について破産手続開始を申し立てた。
  東京地方裁判所は、平成28年1月4日、原告について破産手続の開始決定をし(以下、この開始決定に係る破産手続を「本件破産手続」という。)、その破産管財人としてA弁護士を選任した(乙11。以下、同弁護士を「本件破産管財人」という。)。
  本件各株式は、本件破産手続の開始決定により、破産財団に属する財産となった。
イ 本件各株式を換価するための手続
 (ア)U社における剰余金の配当
  a 原告は、2016年4月1日、U社の取締役を退任し、同日、本件破産管財人がU社の取締役に就任した。本件破産管財人は、遅くとも同年7月21日までに、U社の発行済み株式の全て(1株)を取得し、単独株主となった。(乙4)
  b 本件破産管財人は、2020年9月30日付けで、U社の株主として、以下の内容の決議をした(乙12)。
  (a)付議事項
    U社の通常定款の定め等を考慮して、取締役は、単独株主である本件破産管財人への配当金(42億円)を宣言することを意図する。
  (b)決議事項
    配当金は、乙12の書面をもって、U社を代表して承認される。
    取締役は、乙12の書面をもって、上記の決議の目的及び意図を遂行するのに適していると取締役がみなす修正も加えて、配当金の宣言及び支払を容易にするために必要な契約又は文書を締結し引き渡す権限を付与される。
    取締役は、乙12の書面をもって、取締役が絶対の裁量で上記の決議の目的及び意図を遂行するために必要である若しくは望ましいとみなすような、配当金及びこのことにより意図される取引に関連するU社を代表した全ての行為を履行する権限を付与される。
  c 本件破産管財人は、2020年9月30日付けで、U社の取締役として、以下の内容の決議をした。(乙13)
  (a)42億円の配分が、乙13の書面によって、U社と株主との間で同意される方法で、単独株主に支払われる配当金として宣言された。
  (b)配分は、2020年10月2日に株主に支払われることとする。
  d 本件破産管財人は、2020年9月30日、U社の取締役会に対し、①本件破産管財人は、U社の単独株主として、上記cのとおり取締役が決議した配分の宣言について言及する旨及び②配分の宣言に従って本件破産管財人に支払われるべき全ての配当金につき、「破産者◎◎◎◎破産管財人A」名義の◇◇◇銀行新宿通支店の預金口座(以下「本件口座」という。)に振り込む方法により支払うことを求める旨記載した書面を交付した(乙14)。
  e 本件破産管財人は、U社の取締役として、2020年10月2日付け書面により、原告及びその破産管財人である本件破産管財人に対し、①U社は、同年9月30日、U社の株主である本件破産管財人に42億円の配当を払うことを決議した旨、②現在、U社が本件破産管財人に配当を支払う際、所得税法181条に規定する源泉徴収義務が発生するか否かについて税務当局に照会中である旨及び③税務当局が源泉徴収義務があると判断する場合に備えて、上記①の配当額全額ではなく、20.42%の源泉徴収額を控除した残額(33億4236万円)を本件口座に送金する旨を報告した(乙15)。
  f U社は、①2020年10月5日に33億4236万円を、②同年12月17日に8億5764万円をそれぞれ本件口座に振込送金し、本件破産管財人に対して42億円の剰余金の配当をした(乙16〜19の4)。
 (イ)V社における剰余金の配当
  a 原告は、2017年8月22日、V社の取締役を退任し、同日、本件破産管財人がV社の取締役に就任した。
    原告の保有するV社の発行済み株式の全て(1株)は、英領ヴァージン諸島の裁判所の2016年5月26日付け命令により、2017年8月22日、本件破産管財人に譲渡され、本件破産管財人がV社の単独株主となった。
(乙8、9)
  b 本件破産管財人は、2020年9月30日付けで、V社の株主として、以下の内容の決議をした(乙20)。
  (a)付議事項
 V社の通常定款の定めを考慮して、取締役は、単独株主である本件破産管財人に対する50億9973万9305円の剰余金の配当を宣言することを意図する。
  (b)決議事項
    配当金は、乙20の書面をもって、V社を代表して承認される。
    取締役は、乙20の書面をもって、上記の決議の目的及び意図を遂行するのに適していると取締役がみなす修正も加えて、配当金の宣言及び支払を容易にするために必要な契約又は文書を締結し引き渡す権限を付与される。
 取締役は、乙20の書面をもって、取締役が絶対の裁量で上記の決議の目的及び意図を遂行するために必要である若しくは望ましいとみなすような、配当金及びこのことにより意図される取引に関連するV社を代表した全ての行為を履行する権限を付与される。
  c 本件破産管財人は、2020年9月30日付けで、V社の取締役として、以下の内容の決議をした(乙21)。
  (a)付議事項
    V社の通常定款の規定を考慮して、取締役は、単独株主である本件破産管財人に対して50億9973万9305円の剰余金の配当を宣言することを意図する。
  (b)決議事項
    英領ヴァージン諸島事業会社法第175節に従って、取締役は、配当金の全詳細をV社の株主に提供して、配当金の承認のためV社の株主を招待するものとする。
 株主の事前承認に従って、配当金は、乙21の書面をもって、V社を代表して承認される。
    取締役は、乙21の書面をもって、上記の決議の目的及び意図を遂行するのに適していると取締役がみなす修正も加えて、配当金の宣言及び支払を容易にするために必要な契約又は文書を締結し引き渡す権限を付与される。
    取締役は、乙21の書面をもって、取締役が絶対の裁量で上記の決議の目的及び意図を遂行するために必要である若しくは望ましいとみなすような、配当金及びこのことにより意図される取引に関連するV社を代表した全ての行為を履行する権限を付与される。
  d 本件破産管財人は、2020年9月30日、V社の株主として、V社の取締役会に対し、上記cにおける決議の配分の宣言に従って本件破産管財人に支払われるべき全ての配当金につき、本件口座に振り込む方法により支払うことを求めた(乙22)。
  e 本件破産管財人は、V社の取締役として、2020年10月2日付け書面により、原告及びその破産管財人である本件破産管財人に対し、①V社は、同年9月30日、V社の株主である本件破産管財人に50億9973万9305円の剰余金の配当を払うことを決議した旨、②現在、V社が本件破産管財人に配当を支払う際、所得税法181条に規定する源泉徴収義務が発生するか否かについて税務当局に照会中である旨及び③税務当局が源泉徴収義務があると判断する場合に備えて、上記①の配当額全額ではなく、20.42%の源泉徴収額を控除した残額(40億5837万2539円)を本件口座に送金する旨を報告した(乙23)。
  f V社は、①2020年10月5日に40億5837万2539円を、②同年12月17日に10億4136万6766円をそれぞれ本件口座に振込送金し、本件破産管財人に対して50億9973万9305円の剰余金の配当をした(乙16、18、19の1〜4、乙24。以下、上記(ア)fの配当と併せて「本件各配当」という。)。
(3)本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、令和2年分の所得税等の確定申告書の法定申告期限である令和3年4月15日までに、A税務署長に対し、令和2年分の所得税等の確定申告書を提出しなかった。
イ 原告は、令和2年12月31日において、その価額の合計が5000万円を超える国外財産を有していたが、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(令和4年法律第4号による改正前のもの)5条1項所定の提出期限までに、A税務署長に対し、国外財産調書及び同合計表を提出しなかった(甲1、乙25)。
ウ A税務署長は、本件各配当に係る原告の所得の金額が92億9973万9305円であること等に基づき、原告に対し、令和4年3月28日付けで、別表「本件決定処分等の経緯(令和2年分)」の「決定処分等」欄⑨記載の所得税に係る決定処分及び同⑩欄記載の復興特別所得税に係る決定処分並びに同⑫欄記載の無申告加算税賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件決定処分等」という。)をした。
エ 原告は、令和4年4月22日付けで、本件決定処分等の取消しを求めて国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、令和5年2月16日付けで、同審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を受けた。
オ 原告は、令和5年3月18日、本件訴訟を提起した。
3 争点
(1)本件各配当に係る所得の非課税所得該当性(争点1)
(2)本件破産管財人の本件各配当に係る源泉徴収義務の存否(争点2)
(3)本件破産管財人の本件各配当に係る所得の納税義務の有無(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件各配当に係る所得の非課税所得該当性)
(被告の主張)

ア 所得税法9条1項10号は、破産手続等強制換価手続により資産が譲渡された場合であってもその譲渡所得に対しては所得税を課税するという建前を前提としつつ、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における破産手続等強制換価手続による資産の譲渡に係る譲渡所得については、この場合の譲渡が本人の意思に基づかない強制的な譲渡であることや、このような場合には実際問題として課税することが困難であること等の観点から、設けられているものである。そして、同号にいう「資産の譲渡による所得」とは、譲渡所得について規定する同法33条1項にいう「資産の譲渡(中略)による取得」と同様に解するのが相当であるところ、「資産」とは、譲渡性のある財産権を全て含む観念で、動産・不動産はもとより、借地権、無体財産権、許認可によって得た権利や地位等が広く含まれるものであり、また、「譲渡」とは、有償であると無償であるとを問わず所有権その他の権利の移転を含む観念で、売買、交換、競売、公売、収用等が含まれる。
  本件各配当は、本件各外国法人が、株主(本件破産管財人)に対し、その保有株式数に応じて本件各外国法人の金銭を分配した剰余金の配当であるから、本件各配当に係る所得は、文理上、所得税法9条1項10号にいう「資産の譲渡による所得」には当たらない。したがって、本件各配当に係る所得は、同号に規定する非課税所得に該当しない。
イ 本件各配当は、本件各外国法人における剰余金の配当であるから、本件各配当に係る所得は、「法人から受ける剰余金の配当」に係る所得として、所得税法24条1項に規定する配当所得に該当する。
(原告の主張)
 所得税法9条1項10号は、所得を、「強制換価手続による資産の譲渡による所得」と「これに類するものとして政令で定める所得」の2つにつき非課税所得に該当すると規定している。前者にいう「資産」の意義については所得税法や国税徴収法のみによって決するべきではなく、当該強制換価手続が規定する「財産」、すなわち破産手続であれば破産法にいう「資産」に該当する必要がある。
 そして、「資産の譲渡」の意義については、民法売買に固執せず柔軟な考えで捉えることも必要であり、国税徴収法35条2項等による第二次納税義務の発動は差押え、換価の一変形といえるところ、本件においては本件各外国法人が第二次納税義務を負担する可能性もある。破産の強制換価手続における財団の配当資金の組成、確保の手段・手法は、狭義の売買だけではなく、配当財源である資金を得るために柔軟かつ合目的的な処分が行われるが、これらは全て「資産の譲渡」ということができる。その意味で、破産管財人が破産財団の財産である株式を売買しても、剰余金による配当金請求権を行使して支払を得ても、発行会社を清算して残余財産の分配を受けても、これらは破産手続の領域では「資産の譲渡」と捉えることができるのであり、このような破産手続における強制換価手続の概念は、所得税法9条1項10号にも及ぶというべきである。このことは、同号が「強制換価手続による資産の譲渡による所得」という表現であり、「所得税法33条にいう譲渡所得」という表現ではないことからも裏付けられるものである。
 法人税法24条は、株主である内国法人が、他の法人による自己株の取得に当たる取引による株式を譲渡し、対価として金銭その他の財産を取得したときに、取得財産につき資本金等のうち法の定める額を超えるときには、その超える額を配当とみなす旨規定していること(みなし配当)からすれば、税法は、株式の譲渡と当該株式に基づく配当につき、実体的には同じ内実を持っており、その間に本質的な違いはないという立場を採るものといえるから、譲渡所得と配当所得との所得法上の条文が異なることは、同立場に何ら影響するものではない。
 破産財団に所属する財産の換価に基づく利益は、専ら破産債権者に帰属するのであるから、その利益に対する課税を破産者の自由財産の負担とみなすことは、課税の対象となる利益の帰属しない主体に対して課税を行う結果を招くから、個人に関しては、破産財団に所属する財産の換価等に基づく租税等の請求権は財団債権とならないだけでなく、租税等の請求権自体の発生が否定されるものであり、本件各配当についても租税等の請求権自体の発生が否定されるべきである。
(2)争点2(本件破産管財人の本件各配当に係る源泉徴収義務の存否)
(被告の主張)

ア 本件各外国法人における剰余金の配当である本件各配当の「支払をする者」は、本件各外国法人であり、本件破産管財人ではない。また、本件各外国法人は、いずれも英領ヴァージン諸島に設立された外国法人であるから、本件各外国法人における剰余金の配当である本件各配当の支払は、「国内において」行われたものともいえない。
  したがって、本件破産管財人は、文理上、本件各配当に係る所得税法181条1項による所得税の源泉徴収義務を負わない。
イ 措置法9条の2第2項及び措置法施行令4条の5第1項は、国外で代理受領する金融商品取引業者等(支払の取扱者)を源泉徴収者として定めたものである。
  本件破産管財人は、本件破産手続において、その管理処分権を行使し、破産財団に属する財産である本件各外国法人の株式を換価するため、本件各外国法人の単独取締役及び単独株主となった上で、自ら本件各配当に係る手続を行い、本件各配当の支払を受けたものであるから、国内投資家を代理して国外株式の配当等を受領する金融商品取引業者等と同様に、業務として又は業務に関連して、本件各配当の「受領の媒介、取次ぎ又は代理」をしたにすぎない者であるとはいえず、文理上、措置法9条の2第2項に規定する「支払の取扱者」には該当しない。
(原告の主張)
ア 所得税法181条1項は、居住者に対して国内で同法24条1項の支払をする者に対して源泉徴収義務を課している。
  本件のように、破産財団に属する株式について、その換価処分の一つとして破産管財人がその発行会社を解散し、あるいは剰余金配当をしたときの配当主宰者としての行為については、所得税法181条1項の源泉徴収義務が生ずると考えるべきである。
イ 措置法9条の2第1項は、「国内における支払の取扱者で政令で定めるもの」(支払の取扱者)を通じて受け取る場合について定めるものであり、所得税法181条1項の「配当等の支払をする者」が別に国内にあれば、その者に対して源泉徴収義務を課すことで足りるから、措置法の規定は争点2の結論に影響しない。
  また、本件破産管財人は、本件各配当に係る事務の執行と手続書類の作成を国内で行ったものである。
(3)争点3(本件破産管財人の本件各配当に係る所得の納税義務の有無)
(被告の主張)

 非永住者以外の居住者である個人は、納税義務者について規定する所得税法5条1項及び課税所得の範囲について規定する同法7条1項1号により、自身に帰属する全ての所得について所得税の納税義務を負う。
 本件破産手続の開始決定により本件各株式は破産財団に組み入れられたところ、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属するものの、その財産の帰属主体は破産者自身であるから、本件各株式について行われた本件各配当に係る所得は、本件破産手続の開始決定後も引き続き原告に帰属するものである。原告は、所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当する者であるから、原告は、自身に帰属する本件各配当に係る所得について所得税の納税義務を負う。
 一方、本件破産管財人は、本件各配当に係る所得について所得税の納税義務を負う者ではない。
(原告の主張)
ア 納税者の財産が換価・処分され、民法実体法により財産変動があり、対価である収益(所得)が納税者に帰属することから直ちに、当該納税者に当該収益(所得)につき国税の申告納税義務が生じるものではない。
  破産財団の属する財産の換価に伴い破産者につき認識される所得があるときに、この所得に係る租税は、当然に付着する資金流出性の債務であるから、申告納付は、破産財団にとっても破産債権者にとっても重要な関心事であり、これを代表して管理するのは破産管財人以外にはないから、破産管財人の納税義務が肯定されるべきである。
  このことは、最高裁平成2年(行ツ)第98号同4年10月20日第三小法廷判決・集民166号105頁参照(以下「最高裁平成4年判決」という。)が、破産管財人が予納法人税の申告義務を有することを肯定する立場を採っていることとも整合する。
イ 本件各株式の換価による結果は原告に帰属するが、換価に係る対価債権を行使し、引渡し義務を履行するのは本件破産管財人であることからすると、原告に発生した納税義務を履行するのは本件破産管財人であると考えるのが自然であり、原告は、本件破産管財人を排除して納税義務を履行することはできない。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各配当に係る所得の非課税所得該当性)について

(1)所得税法9条1項10号及び所得税法施行令26条は、①資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法2条10号に規定する強制換価手続(破産手続を含む。)による資産の譲渡による所得及び②資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、同号に規定する強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたものについては所得税を課さない旨を規定しているところ、その文言からすれば、所得税を課さないこととされるのは資産の譲渡による所得のみであると解するのが相当である。
  本件各配当に係る所得は、本件各外国法人の株主に対する剰余金の配当に係るものであり、資産の譲渡による所得には当たらないから、所得税法9条1項10号及び所得税法施行令26条の規定する非課税所得には該当しない。
(2)ア 原告は、破産の強制換価手続における財団の配当資金の組成等に向けての柔軟かつ合目的的な処分は全て「資産の譲渡」に該当するから、本件各配当に係る所得は所得税法9条1項10号にいう「資産の譲渡」に係る所得に該当する旨を主張する。
   しかし、租税法は、その性質上、法的安定性の要請が強く働くから、みだりに拡張解釈や類推解釈をすることは許されず、原則として文理解釈によるべきであるところ、所得税法9条1項10号及び所得税法施行令26条が非課税所得として規定しているのは「資産の譲渡による所得」なのであり、本件各配当は、原告の資産(本件各株式等)を、原告以外の第三者に譲渡することにより生じたものとはいえないことからすれば、これが上記「資産の譲渡による所得」に該当すると解することはできない。
   したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
 イ 原告は、法人税法24条所定のみなし配当の制度を根拠に、株式の譲渡と当該株式に基づく配当とは本質的に違いがないとも主張する。
  しかし、法人税法24条は、法人の株主等である内国法人が、当該法人の自己の株式又は出資の取得等により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、当該交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分を超える部分の金額を利益の分配又は剰余金の分配等とみなして、受取配当等の益金不算入の規定の適用を受ける旨を定めるものにすぎず、同法が株式の譲渡と株式に基づく配当とで本質的な違いがないという立場を採っていることの根拠になるものではない。
  したがって、原告の上記主張によって上記アの結論は左右されない。
(3)以上によれば、本件各配当に係る所得は、非課税所得には該当しない。
2 争点2(本件破産管財人の本件各配当に係る源泉徴収義務の存否)について
(1)本件破産管財人が所得税法181条1項所定の源泉徴収義務を負うか否か

ア 所得税法181条1項は、居住者に対し国内において所得税法24条1項に規定する配当等の支払をする者に対して源泉徴収義務を課す旨を規定するところ、前提事実(1)アのとおり、原告は平成26年以降日本国内に住居を有する個人であるから、所得税法2条1項3号にいう「居住者」に該当する。
  しかし、前提事実(2)イのとおり、本件各配当は、本件各外国法人が単独株主に対して国外において発行した株式に係る配当をしたものであり、「国内において」された配当とはいえないから、本件破産管財人は「国内において所得税法24条1項に規定する配当等の支払をする者」には該当しない。
イ 原告は、本件破産管財人がした本件各配当に係る事務の執行と手続書類の作成を国内で行ったものであると主張する。
  しかし、上記アに説示したとおり、本件各配当は、国外において発行された株式に係る配当であるから、その配当の効果自体は国外において生じるものと解するのが相当である。仮にその配当に係る事務の実行と手続書類の作成が国内で行われていたとしても、上記のとおりその配当の効果自体が国外において生じることからすれば、本件各配当に係る事務の執行と手続書類の作成が国内でされたことをもって上記「国内において」の要件を満たすものとはいえず、原告の上記主張を採用することはできない。
(2)本件破産管財人が措置法9条の2第1項所定の源泉徴収義務を負うか否か
 措置法9条の2第1項及び措置法施行令4条の5第1項は、国外において発行された株式の剰余金の配当又は利益の配当に係る所得税法24条1項に規定する配当等(国外において支払われるものに限る。)につき、国内における支払の取扱者(国外株式の配当等の支払を受ける者の当該国外株式の配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理(業務として又は業務に関連して国内においてするものに限る。)をする者)を通じてその交付を受ける場合には、その支払を受けるべき国外株式の配当等について所得税を納める義務があるものとする旨を定める。上記法令は、国外発行の株式が我が国の証券市場又は金融商品取引業者等を通じて取得でき、取得した株式の配当等は、上記の金融商品取引業者等が国外において受領し、送金を受けて国内の投資家に交付するという取引の実態を踏まえ、国外で代理受領する金融商品取引業者等に源泉徴収義務を課すこととしたものである。
 本件破産管財人は、破産手続における換価手続の一環として本件各配当を履行したものにすぎず、金融商品取引業者等には該当しないから、上記法令にいう「国内における支払の取扱者」には該当せず、本件各配当に係る所得の源泉徴収義務を負うものではない。
(3)結論
 以上によれば、本件破産管財人は、本件各配当に係る源泉徴収義務を負うものではない。
3 争点3(本件破産管財人の本件各配当に係る所得の納税義務の有無)について
(1)破産手続開始の決定があった場合でも、破産財団に属する財産の帰属主体は破産者自身であり、裁判所が選任した破産管財人の権限は、その財産の管理及び処分の範囲にとどまるものである(破産法78条1項)。
  そうすると、本件各配当に係る所得は破産者である原告に帰属するところ、原告は所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当する者であるから、同法5条1項に基づき、本件各配当に係る所得につき納税する義務を負うといえる。
(2)ア 原告は、本件破産管財人が本件各配当に係る所得の納税義務を負う旨を主張するが、以下のとおり、同主張を採用することはできない。
   すなわち、所得税法上、個人が年度途中で破産手続開始の決定を受けた場合、所得税の確定申告は、破産財団に属する財産と自由財産の区別をせず、1年間を通じた所得につき確定申告を行うこととされており、また、同法は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法施行令198条及び199条で定める順序によりこれを他の各種所得の金額から控除する旨を規定するところ(同法69条1項)、破産管財人が破産者の同法2条1項21号所定の各種所得や破産者に生じた破産手続開始後の自由財産に属する所得又は損失を把握するための権限について定めた規定は見当たらない。そうすると、法令の枠組み上、破産管財人が破産者の所得税を正確に申告することは困難であるといわざるを得ず、破産管財人に破産者の所得について納税する義務があるということはできない。
   したがって、本件破産管財人は、本件各配当に係る所得につき納税する義務を負わない。
 イ 原告は、本件破産管財人が本件各配当に係る所得の申告義務を有することの根拠として、最高裁平成4年判決が予納法人税につき破産管財人の申告義務を認めていることを挙げるが、同判決は破産法人の清算所得に係る予納法人税に関して判示したものであり、自由財産を引当財産とすることができる個人破産者の場合をこれと同様に解することはできないから、原告の上記主張を採用することはできない。
 ウ 原告は、換価に係る対価債権を行使し、引渡義務を履行する本件破産管財人を排除して納税義務を履行することはできない旨を主張する。
  しかし、破産管財人が破産者の所得を正確に申告することが困難な法令の枠組みとなっていることについては、上記アで説示したとおりである。これに対し、破産法上、破産管財人がする行為のうち裁判所の許可を得る必要があるものについては原則として破産者の意見を聴かなければならず(破産法78条6項、2項)、破産者は破産管財人が裁判所に提出した財産状況報告書、同法153条2項の財産目録及び貸借対照表等を閲覧謄写等することができ(同法11条)、財産状況報告集会や債権者集会における破産管財人の報告を聞くこともできる(同法136条1項、158条、159条)ことからすると、破産者は破産管財人の換価の状況を容易に把握することができるのであり、本件において原告が本件各配当の申告をすることが困難であったと認めるに足りる的確な証拠はないことも併せ考慮すれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(3)以上によれば、本件破産管財人は、本件各配当に係る所得の納税義務を負うものではない。
4 まとめ
 上記1ないし3で説示したところに加え、本件決定処分等が違法であると認めるに足りる証拠ないし事情はない。よって、本件決定処分等は適法である。

第4 結論
 したがって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 品田幸男
裁判官 片瀬 亮
裁判官 横井靖世

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