解説記事2024年12月23日 第2特集 公認会計士の登録の拒否が違法になる場合とは(2024年12月23日号・№1056)
第2特集
東京高裁、会計士協会の裁量権の範囲を逸脱したとはいえず
公認会計士の登録の拒否が違法になる場合とは
公認会計士の登録を拒否された控訴人が日本公認会計士協会(被控訴人)に登録を義務付けるよう求めた裁判で、東京高等裁判所(太田晃詳裁判長)は令和6年12月5日、控訴人を「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当するとした日本公認会計士協会の判断について、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであったとは認められないとし、原審の東京地方裁判所の判決(令和5年(行ウ)第493号)に続き、控訴人の公認会計士名簿への登録の義務付けを求める訴えを却下した(令和6年(行コ)第200号)。
「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当するとして登録拒否
本件は、原告が日本公認会計士協会(被告)に対し、公認会計士開業登録の申請をしたところ、「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当し、「登録を受けることができない者」と認められるとして、その登録を拒否する処分を受けたことから、その取消しを求めるとともに公認会計士名簿への登録の義務付けを求める事案である。原告は、①刑事事件について、懲役刑の執行猶予期間満了から相当期間が経過した、②自己の非違行為に対する真摯な反省をしていることからこそ1億5,286万8,500円もの納税を行い、税理士登録も認められているなどと主張した。なお、事案の経緯は表1のとおりである。
【表1】事案の経緯
・原告は、公認会計士試験に合格し、令和2年6月に実務補習を終了。 |
重大な非違行為だけでなく、職業的自覚がないと判断
原審の東京地裁(篠田賢治裁判長)は、公認会計士法18条の2第二号(現行の同法18条の2第三号)所定の「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当するか否かの判断に当たっては、登録を受けようとする者の過去の行状等の適格性に関わる諸般の事情を総合的に考慮すべきものと解されるところ、その判断は、日本公認会計士協会の合理的な裁量に委ねられていることから、同協会が行った公認会計士の登録を拒否する処分が違法なものと認められるのは、その判断が被告の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合に限られるとした。
この点、東京地裁は、原告は過去に重大な非違行為を行っただけでなく、これに対する反省が表面的なものにとどまり、職業的自覚を深めようとする姿勢に乏しく、法令遵守の意識や公認会計士としての職業的自覚が不十分であって、今後、被告の指導及び監督に服することは期待し難いと評価したことは合理的なものということができるのであって(表2参照)、「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当するとした被告の判断について、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであったとは認められないとの判断を示し、原告の公認会計士名簿への登録の義務付けを求める訴えを却下した。
【表2】裁判所による日本公認会計士協会の拒否処分に係る判断の適否
法人税法違反及び所得税法違反の罪について |
・本件刑事事件の量刑は懲役2年6月及び罰金1,800万円に処し、4年間その懲役刑の執行を猶予するというものであって、決して軽いものではないこと、その量刑理由において健全な納税意識の欠如が指摘されていること、原告が違反した法人税法及び所得税法が公認会計士の業務に密接に関わる法律であることも考慮すると、被告が「公認会計士の信用を害するおそれがある者」に該当するか否かの判断において、法人税法違反の罪及び所得税法違反の罪に該当する原告の各行為を重大な非違行為と評価したことには、合理性が認められる。 ・刑事事件判決が平成25年9月2日の上告棄却決定によって確定し、同判決において宣告された懲役刑は、令和4年9月26日の拒否処分の時点で、4年間の執行猶予期間の満了日から5年が経過していたところ、禁錮以上の刑に処せられた者であって、執行猶予期間の満了から3年を経過しないものであることを公認会計士の欠格事由としていることに照らすと、執行猶予期間の満了から5年が経過した程度では、法人税法違反の罪及び所得税法違反の罪に該当する原告の各行為に対する評価を変更するに十分なものといえず、原告に重大な非違行為があるとした評価の合理性を左右するものではない。 |
非違行為に対する反省について |
・原告は、①刑事事件に関し、法人税法違反については公認会計士であったNらが適切な会計処理を行っていなかったことが本質であるから無罪である、②所得税法違反についても二重帳簿の作成や金員の秘匿などは行っておらず、所得税の申告をしなかったにすぎないから無罪である、③拒否処分を適法と認めるなどとした前訴の一審判決に対して控訴をした理由について、同判決の理由の全部が不服であると説明していることなどが認められる。原告は、自己の行動の適否や刑事事件に至った原因を、第三者的視点も交えるなどしながら真摯に振り返った上、今後、公認会計士としての行動を行う場合に職務内容をどのように適切なものとしていくかなどにつき職業的自覚を深めようとする姿勢は乏しいといわざるを得ないから、被告が非違行為に対する原告の反省は表面的なものにとどまり、原告の法令遵守の意識や公認会計士としての職業的自覚が不十分であると評価したことには、合理性が認められる。 |
未納所得税等を完納した理由及び資金調達の方法について |
・被告が、登録申請を審査するに当たり、1億5,286万8,500円という著しく多額の借入について、貸主と原告との間に不適切な関係は存在しないか、無理な返済計画によって原告の資金状態が悪化し、破産手続開始に至るおそれはないか等の観点から、借入れに係る金銭消費貸借契約の具体的内容に関心を有するのは、公認会計士が常に品位を保持し、独立した立場において公正かつ誠実にその業務を行わなければならないとされていることに照らして十分に理由のあることといえ、原告が、個人情報及び営業上の秘密に該当するとの理由で、貸主の氏名及び詳細な属性、担保の設定などに関する資料の提供を拒んでいることを踏まえ、被告が、原告について、今後、被告の指導及び監督に服することを期待し難いと評価したことには合理性が認められる。 |
税理士登録の審査をしたのは被告にあらず
なお、原告は、税理士登録は認められていると主張したが、原告の税理士登録を審査したのは被告ではないから、同登録が認められたことは被告の評価の合理性を左右するものではないとしている。
公認会計士の信用を害するおそれの内容を具体的に列挙することは困難
東京高裁でも、原審の東京地裁の判決を引用しつつ、控訴人の公認会計士名簿への登録の義務付けを求める訴えを却下している。
控訴人は、控訴審において、多額の未納税額の納付を行い、相応の収入を得ているのは、控訴人を信用する人間が具体的に複数存在するからであり、控訴人の社会的信用の存在を具体的に基礎付ける事実があると主張したが、東京高裁は、控訴人が借入れに係る具体的な事情を日本公認会計士協会に対して明らかにすることを拒んでいるという事情の下では、これを直ちに有利に斟酌することはできないとした。
また、控訴人は、公認会計士法18条の2第二号(現行の同法18条の2第三号)に規定する登録拒否の事由である「公認会計士の信用を害するおそれがある者」との文言は、その解釈基準が明確でなければ曖昧不明確で憲法に反するし、このような事由をもって登録を拒否することは、憲法が保障する公認会計士業の選択の事由への制限として許容される限度内の誓約を超えた規制であるなどと主張したが、東京高裁は、法が「公認会計士の信用を害するおそれがある者」の登録を拒否するものとしていることについては、必要性と合理性が認められるところ、公認会計士の職域の広さからして、公認会計士の信用を害するおそれの内容を具体的に列挙することは困難であり、その判断につき、日本公認会計士協会の合理的な裁量に委ねられているとした。
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