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解説記事2025年01月13日 未公開判決事例紹介 住民税の特別徴収を巡る税理士損害賠償事件(2025年1月13日号・№1058)

未公開判決事例紹介
住民税の特別徴収を巡る税理士損害賠償事件
東京地裁、会社の請求を一部認容

 本誌1056号40頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇原告(会社)の従業員の住民税の特別徴収手続を行わなかったとして、税理士(被告)に対し、債務不履行に基づく損害賠償として9万円余りを求めた事件。東京地方裁判所(伊藤吾朗裁判官)は令和6年7月3日、令和3年度の給与計算業務についての委託業務の内容は、令和2年度と基本的に同様であり、給与支払報告書の作成・提出を含むものであったことが推認できるとし、原告の請求を一部認めた(令和6年(ワ)第3521号)。

主  文

1 被告は、原告に対し、4万3884円及びこれに対する令和4年8月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の本訴請求を棄却する。
3 被告の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを40分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求の趣旨
1 本訴

 被告は、原告に対し、9万3098円及びうち4万5134円に対する令和4年8月1日から、うち1万6500円に対する同年10月1日から、うち2万4149円に対する同月19日から、うち7315円に対する令和5年1月14日(訴状送達日の翌日)から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は、被告に対し、150万円及びこれに対する令和6年1月12日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、①原告が、税理士である被告に令和3年度年末調整に係る業務を委任していたところ、被告が業務の一部である給与支払報告書(統括表)(以下、単に「給与支払報告書」という。)を提出して行う従業員の住民税の特別徴収の手続を行わなかったため、損害が発生したと主張して、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、9万3098円及びその各一部に対する各請求後の日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴)、②これに対し、被告が、原告に対し、ⅰ)原告による被告従業員への恐喝行為により精神的損害を受けた、ⅱ)原告が事前相談なく契約を解約して他事務所と契約した行為により名誉が毀損されたなどと主張して、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料150万円及びこれに対する不法行為後である令和6年1月12日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める(反訴)事案である。なお、本件については、原告が東京簡易裁判所に本訴を提起し、本訴係属中に被告から反訴が提起された後、民訴法274条1項により当裁判所に移送された。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)
(1)当事者等
 ア 原告は、ゲームメディア運営事業等を業とする株式会社である。
 イ 被告は、税理士事務所を経営する税理士である。
(2)原告と被告は、令和2年5月20日、税務会計に関する継続的役務提供サービス契約(以下「本件税務会計契約」という。)を締結した。当該契約における被告の報酬に対応する受託業務には、給与計算及び年末調整に関連する業務(給与支払報告書等の作成・提出を含む。)等の給与計算業務は含まれていない。(甲1、21)
(3)原告は、令和3年12月27日、被告に対し、本件税務会計契約を同月末限り解約する旨の意思表示をした。
(4)原告は、被告に対し、本件の損害賠償について、次のとおり催告した。
 ア 令和4年6月15日及び同月28日、支払期限を同年7月31日として、計4万5134円(甲12の1・2)
 イ 同年8月3日、支払期限を同年9月30日として、計1万6500円(甲12の3・4)
 ウ 同年10月18日、計2万4149円(甲11の1・2)
2 争点及びこれに対する当事者の主張
 本件の主要な争点は、①令和3年度の年末調整後の給与支払報告書(以下、「令和3年給与支払報告書」という。なお、当該給与支払報告書は令和4年分の住民税に係るものであるが、年末調整の該当年度を基準に記載することとし、同様に、令和2年度の年末調整後に提出する令和3年分の給与支払報告書についても、「令和2年給与支払報告書」という。)の作成・提出業務に係る債務不履行の有無、②原告の損害額、③反訴請求権の有無及び損害額である。
(1)令和3年給与支払報告書の作成・提出業務に係る債務不履行の有無
(原告の主張)

ア 原告は、令和3年12月頃までに、令和3年給与支払報告書の作成、提出を含む給与計算業務を被告に委任したが、被告は、令和3年度の年末調整に係る源泉徴収等の事務は行ったが、年末調整の翌年1月末日が提出期限である令和3年給与支払報告書提出を履行しなかった。給与支払報告書の作成・提出は、令和2年度と同様に、原告が被告に委任した令和3年度の年末調整を含む給与計算業務の委託に含まれる。また、従業員の個人住民税の特別徴収に係る手続には、市区町村への適切な給与支払報告書の提出が必要であるから、給与支払報告書の作成・提出義務には、特別徴収に係る手続を適切に行うことが含まれている。
イ 被告による令和3年給与支払報告書提出の不履行により、原告従業員の住民税を特別徴収とする手続が行われなかった。被告は、令和4年6月9日頃、原告から、特別徴収の手続が行われていない旨の連絡を受けて、原告の同意なく給与支払報告書の提出行為を行ったようであるが、これによっても特別徴収の手続は完了しなかったから、債務の本旨に従った履行がなされたとはいえない。
ウ したがって、被告は、原告に対し、原告従業員の住民税の特別徴収の手続が行われなかったことにつき、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
ア 本件税務会計契約は、①原告の報酬前払の懈怠を理由として、約定により令和3年10月末日に、又は、②原告からの解約により同年12月末日に、契約が終了した。原告主張の令和3年給与支払報告書に係る委任がなされていたとしても、当該委任事務の発生は、本件税務会計契約の存在を前提とするものであるから、同契約が終了した以上、被告はその履行義務を負わない。
イ 被告が受任した原告の令和3年度の給与計算(年末調整を含む。)業務には令和3年給与支払報告書の作成・提出は含まれないから、被告は令和3年給与支払報告書提出等の義務を負わない。なお、被告は、令和2年度については、給与計算業務に加えて、給与支払報告書の作成・提出も受任したが、令和2年度と令和3年度については、受任事務の内容が異なる。
ウ 仮に被告が令和3年給与支払報告書の作成・提出を受任したとしても、原告は当該業務に係る報酬を支払っていないから、被告には同時履行の抗弁権があり、債務不履行責任を負わない。
エ さらに、被告は、原告から従業員の住民税の特別徴収の届出手続がなされていない旨の連絡を受け、令和4年6月9日、給与支払報告書を各自治体に提出したから、被告に債務不履行はない。
(2)原告の損害額
(原告の主張)

 原告は、被告の債務不履行により、以下の損害(合計9万3098円)を被った。
ア 被告への既払報酬 1万2250円
イ 特別徴収の切替に関する確認業務費用 2万2000円
ウ 特別徴収の切替手続個別対応費用 9900円
エ 上記イ・ウの通信費 984円
オ 給与支払報告書再提出費用 1万1000円
カ 給与所得の源泉徴収等の法定調書提出遅れ対応費用 1万1000円
キ 被告への請求等に係る通信費 3810円
ク 弁護士費用 2万2154円
(被告の主張)
 争う。
(3)反訴請求権の有無及び額
(被告の主張)

ア 恐喝行為について
 原告代表者は、令和4年1月頃以降、被告従業員のH(以下「H」という。)に対し、被告が令和3年度の年末調整に係る支払調書を提出しなかったことについて、「仕事をしないのなら弁償しろ」等と何度も電話で激しく述べて、上記Hをして「弁償します。」旨の約束をさせた。
 原告は、原告代表者の上記行為によって生じた被告の精神的損害の賠償義務を負い、これを慰藉するには50万円を下らない。
イ 名誉毀損行為について
 原告は、令和3年12月27日、被告に事前の相談なく、本件税務会計契約をメールでの連絡で解除し、その頃までに他の事務所との間で税務に関する契約をするなどした。
 原告の上記行為は、被告の名誉を棄損する不法行為に該当し、これにより生じた被告の精神的損害を慰藉するには100万円を下らない。
(原告の主張)
 いずれも否認し、争う。

第3 当裁判所の判断
1 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)令和2年度の給与計算・年末調整関連業務について
 ア 被告は、原告から、本件税務会計契約の契約外の業務として、令和2年度の給与計算に係る年末調整に関連する業務(令和2年給与支払報告書の作成・提出を含む。)を受任し、上記業務をいずれも履行した(甲27、28、乙18)。
 イ 令和2年度の給与計算に係る原告被告間の委任関係における委任事務には、年末調整に係る事務処理が含まれており、ここでいう年末調整に係る事務処理には、その料金内のサービスとして令和3年1月提出の令和2年給与支払報告書の作成・提出が含まれていた。また、給与支払報告書の作成・提出について、給与計算業務(年末調整を含む。)とは別に、令和2年給与支払報告書の作成・提出に係る報酬が支払われることもなかった。令和2年度の年末調整関連を含む給与計算業務の報酬額は、従業員1人当たり1か月につき1113円(消費税別。なお、被告における帳簿上の記載は、当初の従業員8名分につき「給与計算料」、その後追加された2名分につき「年末調整一式」であった。)であった。(甲27、28、乙18)
 ウ 原告は、令和3年9月27日頃、被告に対し、令和2年度の年末調整に係る法定調書(給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表。以下「法定調書合計表」という。)の作成・提出を依頼し、被告は、同月28日、これを履行した。被告は、同日、上記事務の報酬として1万2250円を請求し、原告は、同年10月31日、被告にこれを支払った。(甲16、乙4、5、18)
(2)令和3年度の給与計算・年末調整関連業務について
 ア 原告は、被告に対し、令和3年分の給与計算業務を委任し、令和3年2月28日から同年10月31日にかけて、被告の請求に従い、その報酬として計15万7932円(従業員1名当たり1か月1113円×計算対象となる月数を乗じた額に消費税10%を加算した額)を支払った(乙18)。
 イ 原告は、令和3年12月9日、披告の担当者であるY(以下「Y」という。)に対し、複数の自治体から送付を受けた「給与支払報告書(総括表)」等の書類についての対応を問い合わせる旨のメールを送信した。これに対し、Yは、同日、各自治体から届く「給与支払報告書(総括表)」については破棄してよい旨を原告に返信した。(甲24、25、30)
ウ 被告は、令和3年12月27日頃までに、原告からの委任事務として、原告の給与計算に関する年末調整関連業務のうち、源泉徴収票及び源泉徴収簿の作成等の事務を行った(乙8)。
(3)原告は、令和3年12月27日、被告に対し、本件税務会計契約を同月末限り解約する旨を通知し(前提事実(3))、同月支給分(令和4年1月10日まで分)の給与の処理等以外の残務の確認等を求める旨のメールを送信した。
(4)令和3年給与支払報告書の作成等について
 ア 被告は、令和3年給与支払報告書の作成・提出を行っていなかったところ、令和4年6月頃、原告の従業員複数名に各居住自治体から個人住民税の納付書が届いたことから、原告は、同月9日、被告(Y)に対し、給与支払報告書が提出されていないため、従業員の個人住民税が普通徴収に切り替えられている旨を告げるとともに、その対応を行うことを求める旨のメールを送信した(甲14、15)。
 イ Hは、前記アのメールに対し、同日、年末調整後にチェック漏れとなっていたことを謝罪するとともに、給与支払報告書の提出を行った旨を返信し、その後同月14日までにかけて、該当する原告従業員の個人住民税の特別徴収への切替えは早くても同年8月以降になる見込みである旨などを原告に連絡した(甲14)。
ウ 原告は、同月15日、被告(H、Y及び被告)に対し、本件についての対応をこれ以上行わないことを求めるメールを送信した(甲5)。
2 令和3年給与支払報告書の作成・提出業務に係る債務不履行の有無
(1)前記各認定事実によれば、①令和2年度の給与計算に係る委任事務には、給与支払報告書の作成・提出を含む年末調整関連業務が含まれていたこと、②原告は、被告に対し、令和3年度の給与計算業務を委任したこと、③原告被告間の給与計算に係る委任事務の報酬は従業員1人につき月額で定めるものとされていたところ、令和2年度と令和3年度の給与計算に係る報酬額は、従業員1人につき1か月当たりの額として同額であったこと、④被告の担当者であるYは、原告からの問合せに対し、令和3年12月に各自治体から届いた令和3年給与支払報告書について破棄してよい(すなわち、原告による提出は不要である)旨を回答したこと、⑤被告の担当者であるHは、令和4年6月、原告から給与支払報告書の提出がなされていない旨の指摘を受けた際、これが被告側のミスであることを認めて謝罪した上、直ちにその対応に取り掛かったこと、以上の事実が認められる。
(2)そうすると、令和3年度の給与計算業務についての委託業務の内容は、令和2年度と基本的に同様であり、給与支払報告書の作成・提出を含むものであったことが優に推認できる。被告は、令和2年度と令和3年度の給与計算の報酬額等が異なる旨を主張するが、前記認定に反し、採用できず、その他、上記推認を妨げる事情は認められない。なお、証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、被告が公開している給与計算業務の一般的な報酬の定めにおいて、年末調整(源泉徴収票及び源泉徴収簿の作成)業務と給与支払報告書の作成・提出業務の報酬とが別に設定されていることが窺われるが、前記認定のとおり、原告被告間では、令和2年度においてはこれと異なる報酬の合意がなされていることからすれば、前記認定を妨げるものとはいえない。
(3)被告は、本件税務会計契約が、①令和3年10月末日に約定により終了し、又は②令和3年12月末日に原告による解約により終了したから、被告は令和3年給与支払報告書の作成・提出の義務を負わない旨を主張する。
  しかし、被告は、令和3年12月末日限りで本件税務会計契約を解約する旨の原告からのメールに対して特に異議を述べておらず、そもそも同年10月で契約が終了していたと認識していたとは考え難い上、被告は、令和3年12月までは受任事務である年末調整事務(源泉徴収票及び源泉徴収簿の作成等)を現に実施し、同年分の給与計算業務に係る報酬も全額受領していること等に照らせば、被告においても、令和3年10月末日以降も令和3年度の給与計算業務に係る委任関係が存続する旨を認識していたことが明らかである。上記①の被告の主張は採用することができない。
  また、上記②の点についても、原告は、本件税務会計契約を解約する旨のメールにおいて、解約後の残務として令和4年1月10日支給分の給与計算に係る業務が存在することや、その他の残務の有無等について確認する旨を記載しており、これに対して被告からも特段の異議は述べられておらず、発注済みで未履行の業務に係る報酬の精算等に係る協議がなされた形跡もない。そうすると、原告の上記解約の意思表示は、本件税務会計契約を令和3年度限りで終了するとともに、令和4年度以降の給与計算業務等については被告に委任しないことを告知するに留まるものであり、令和3年度の給与計算業務(年末調整関連業務を含む。)のうち未履行の部分を解約するものではないと認めるのが相当であり、被告において、これと異なる認識を有していたとは認められない。したがって、上記②の被告の主張も、令和3年給与支払報告書の作成・提出に係る契約上の履行義務を否定するものとはいえない。
(4)被告は、原告から令和3年給与支払報告書の作成・提出に係る報酬を受領していないとして、同時履行の抗弁権により、被告は債務不履行責任を負わない旨を主張する。
  しかし、前記認定のとおり、原告被告間の令和2年度の給与計算業務の委任契約においては、給与支払報告書の作成は給与計算(年末調整)業務の報酬内の業務とされていたところ、令和2年度と令和3年度の給与計算業務に係る報酬は基本的に同一であることからすれば、令和3年度の給与計算(年末調整)業務の報酬支払により、令和3年給与支払報告書の作成・提出業務に係る報酬も支払済みであったといえる。被告の上記主張は前提を欠き、採用することができない。
(5)さらに、被告は、原告からの連絡を受け、令和4年6月9日に給与支払報告書の提出を行ったから、被告には債務不履行がない旨を主張する。
  しかし、前記認定事実、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、被告(Y)は、原告からの指摘を受けて給与支払報告書の電子提出を行ったものの、その本来の提出期限は令和4年1月31日であった上、上記による提出分についても、住民税の特別徴収の手続に関して不備があるものが含まれていたこと、提出の遅延又は当該不備により、原告の複数の従業員について、住民税の特別徴収の手続が適切に行われない事態が生じたことが認められる。
  そして、税務関係手続に係る文書の作成・提出という委任業務の性質に照らし、原告被告間の委任契約上、その提出を法定の期限内に適切な内容で行うことが債務の内容になっていたと認めるのが相当であるところ、被告において、令和3年給与支払報告書を適切な内容で作成し、法定の提出期限内に提出しなかった以上、債務の本旨に従った履行がなされたものとはいえず、被告は、給与支払報告書の提出の遅滞及びその内容の不備があったことにより原告に損害が生じた損害を賠償する義務を負うこととなる。
3 原告の損害額
(1)被告への既払報酬 認められない。

 原告は、被告への既払報酬額のうち1万2250円が被告の債務不履行による損害であると主張するが、当該報酬は原告被告間の有効な委任契約の対価として支払われたものであり、当該契約の債務不履行によって原告に何らかの損害が発生したとしても、その損害の賠償を受けることができることは別段、本来支払うべき報酬の支払義務を直ちに免れるものではないから、原告において既払報酬額相当の損害が生じたとは認められない。
(2)特別徴収の切替に関する確認業務及び切替手続費用 計3万2884円
 前記認定事実、証拠(甲6、14、15)及び弁論の全趣旨によれば、被告の債務不履行により、原告の従業員の複数名について住民税の特別徴収の手続が適切に行われなかったため、原告において、社会保険労務士法人に委任し、各自治体への確認作業及び特別徴収への切替手続を行い、その報酬(確認業務につき2万2000円、切替手続につき9900円)及び実費(通信費984円)として上記金額を支払った事実が認められ、これらは被告の債務不履行と相当因果関係にあると認められる。
(3)給与支払報告書再提出費用 1万1000円
 前記認定事実、証拠(甲7、15)及び弁論の全趣旨によれば、被告は令和4年6月9日に令和3年給与支払報告書を各自治体に提出したが、その一部に不備があったため、原告において、公認会計士・税理士事務所に委任して令和3年給与支払報告書の作成・提出を行い、その報酬として上記金額を支払った事実が認められ、当該支出は被告の債務不履行と相当因果関係にあると認められる。
(4)給与所得の源泉徴収等の法定調書提出遅れ対応費用 認められない。
 前記認定事実によれば、令和2年度の年末調整に係る法定調書合計表の作成提出については、令和2年度の給与計算(年末調整)業務に含まれておらず、報酬も別途発生していたことが認められるところ、令和2年度と令和3年度の給与計算に係る委託業務の内容や報酬は基本的に同一であると考えられるから、令和3年度の年末調整に係る法定調書合計表の作成・提出業務についても、原告被告間の令和3年度の給与計算(年末調整)業務の委任事務には含まれていなかったと認められる。
 したがって、原告が令和3年度の年末調整に係る法定調書合計表について支出した費用については、令和3年度の給与計算(年末調整)業務の債務不履行と相当因果関係にあるとは認められない。
(5)被告への請求に係る通信費及び弁護士費用 認められない。
 通信費(内容証明郵便)については、原告が任意の選択で行った行為によるものであって、通常生ずべき損害であるとはいえず、本件訴訟追行に要した弁護士費用についても、事案の内容、難易等に照らし、被告の債務不履行と相当因果関係にあるとは認められない。
4 反訴請求権の有無及び額について
(1)恐喝行為について

 被告は、原告代表者のHに対する行為によって精神的損害を被った旨を主張するが、そもそも、被告の主張する事実関係を前提としても、原告代表者の行為によって精神的損害を被るのはHであって被告ではない上、原告代表者において、社会通念上許されないような態様でHに本件の損害賠償を求める言動に及んだ事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
(2)名誉毀損行為について
 被告は、原告による本件税務会計契約の解約や他事務所との契約に係る行為が名誉毀損に当たると主張するが、原告の他事務所への委任が被告の了解を得たものか否かにかかわらず、本件証拠上顕れた原告の上記の行為によって被告の社会的名誉が不当に害されたとは認められず、その他、被告主張の名誉毀損行為を認めるに足りる的確な証拠はない。

第4 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、債務不履行に基づく損害賠償として、前記3の合計4万3884円及びこれに対する請求後(前提事実(4)アの催告期限後)である令和4年8月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被告の反訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第7部
裁判官 伊藤吾朗

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