解説記事2025年02月10日 未公開判決事例紹介 換地処分に係る収益の計上時期を巡る裁判(2025年2月10日号・№1062)
未公開判決事例紹介
換地処分に係る収益の計上時期を巡る裁判
東京地裁、公告翌日に計上すべきと判断
本誌1050号17頁で紹介した法人税額等の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇換地処分に係る収益の計上時期が争われた事件。東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和6年10月29日、換地処分に係る収益の額は、換地処分の公告があった日の翌日の属する事業年度の益金に算入すべきとして、原告の請求を棄却した(令和5年(行ウ)第55号)。
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 T税務署長が、令和3年2月26日付けで原告に対してした平成28年6月1日から平成29年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額1億3080万8025円及び納付すべき税額2867万3000円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 T税務署長が、令和3年2月26日付けで原告に対してした平成28年6月1日から平成29年5月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分のうち、課税標準法人税額2899万6000円及び納付すべき税額127万5800円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
原告は、平成28年6月1日から平成29年5月31日までの事業年度又は課税事業年度(以下、事業年度及び課税事業年度を特に区別することなく「平成29年5月期」といい、他の事業年度及び課税事業年度についても同様に表記する。)の法人税及び地方法人税(以下、併せて「法人税等」という。)の申告をしたところ、処分行政庁から、原告が所有する別表1「従前の宅地」欄記載の合計23筆の土地(以下、併せて「本件各従前地」という。)についての換地処分(以下「本件換地処分」という。)に係る収益の額は、原告の平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきであるとして、法人税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは、別紙記載のとおりである。なお、同別紙において用いる略称は、以下の本文においても用いることがある。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実)
(1)原告
原告は、不動産の賃貸分譲及び管理等を目的とする株式会社である。
(2)本件換地処分に至る経緯
ア さいたま都市計画事業◆◆◆◆特定土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)は、独立行政法人都市再生機構(以下「都市再生機構」という。)を施行者として、平成13年3月に事業計画の認可を受けた事業である。
イ A株式会社(以下「A社」という。)は、本件事業の施行地区内に本件各従前地を所有していたところ、そのうち別表1・順号12及び14の各土地(以下「本件各清算土地」という。)につき、平成17年9月13日付けで、都市再生機構に対し、「換地不交付申出書」を提出して、換地計画において換地を定めないことの申出(整理法90条)をした。
ウ 原告は、平成27年3月13日、A社との間で、原告を吸収分割承継会社、A社を吸収分割会社とし、効力発生日を同年5月1日とする吸収分割契約を締結し、同日、同契約に基づき、A社から本件各従前地を含む資産等を承継した。
エ 埼玉県知事は、平成28年10月13日、本件事業に係る換地計画(以下「本件換地計画」という。)を認可した。
オ 都市再生機構は、平成28年11月1日付けで、原告に対し、本件換地処分に係る換地処分通知書を送付した。
本件換地処分は、本件換地計画において定められたとおり、本件各従前地(ただし、本件各清算土地を除く。)についての換地処分後の土地を別表1「換地処分後の土地(換地)」欄記載の各土地(以下、併せて「本件各換地」という。)とし、本件各清算土地については換地を定めないとするものである。
カ 埼玉県知事は、平成29年2月17日、本件事業に係る換地処分(本件換地処分を含む。)の公告をした。
本件各従前地(ただし、本件各清算土地を除く。)について、同月18日に本件換地処分の効果が発生したことを登記原因として、表題部の登記事項が抹消された上、本件各換地の地番等の記録(登記)がされた。
また、本件各清算土地について、同月20日、本件換地処分により換地が定められなかったことを登記原因として、登記が閉鎖された。
キ 都市再生機構は、原告に対し、平成29年8月25日付けで、整理法94条に基づき交付される清算金の金額等を通知したが、原告が、上記清算金の受領に必要な手続を執らなかったことから、平成30年3月20日、上記清算金を供託し、同月23日付けで、原告に対し、「交付清算金の供託について」と題する書面等とともに、公共事業用資産の買取り等証明書及び清算金証明書(乙6。以下、併せて「本件各証明書」という。)を送付した。
(3)本件換地処分に関する原告の経理処理及び確定申告
ア 平成29年5月期
(ア)原告は、平成29年5月期においては、本件換地処分に関し、後記イ(ア)のような経理処理をせず、その終了の日において、本件各従前地を引き続き保有しているものとして固定資産に計上していた。
(イ)原告は、平成29年5月期の法人税について、法定申告期限までに、別表2の「確定申告」欄に記載のとおり、確定申告をしたところ、その際、本件換地処分に係る収益の額(①本件各換地の権利価額と交付されるべき清算金(以下「交付清算金」という。)の額の合計額、②本件各換地の権利価額と徴収されるべき清算金(以下「徴収清算金」という。)の額の差額又は③本件各清算土地に係る交付清算金の額のうち、本件各従前地の本件換地処分の直前の帳簿価格を超える部分の合計額(20億2302万6778円)をいう。以下同じ。)を所得の金額の計算上益金の額に算入しなかった。
また、原告は、平成29年5月期の地方法人税について、法定申告期限までに、別表3の「確定申告」欄に記載のとおり、確定申告(以下、上記法人税の確定申告と併せて「本件各確定申告」という。)をした。
イ 平成30年5月期
(ア)原告は、本件換地処分に関し、平成30年5月31日付けで、以下の仕訳による会計伝票を作成した。
上記の「固定資産売却益」勘定(貸方)に計上された金額(6464万0589円)は、本件換地処分に係る収益の額(合計20億2302万6778円)から、原告が後記 (イ)の確定申告において、措置法65条1項に基づき交換取得資産の帳簿価額を損金経理により減額したとして記載した金額(合計19億5838万6189円。以下「圧縮額」という。)を減算した後の金額と一致する。
(イ)原告は、平成30年5月期の法人税について、上記(ア)の経理処理を前提に、上記(ア)の「固定資産売却益」勘定への計上額を、所得の金額の計算上益金の額に算入して確定申告をした。
(4)本件訴訟に至る経緯
ア 処分行政庁は、令和3年2月26日付けで、本件換地処分に係る収益の額を、原告の平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきであるなどとして、本件各処分をした。
本件各処分のうち、法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分の通知書(以下「本件法人税更正処分等通知書」という。甲6)には、更正の理由につき、「土地譲渡益計上漏れ」として、本件各従前地について、「換地処分(中略)が施行され、平成29年2月17日付の(中略)本件換地処分に係る公告により、平成29年2月18日付で本件換地処分による変更登記が行われていますので、平成29年2月18日に従前の土地に存する権利が次表の「換地処分後の土地」欄の土地37筆の土地に移転するか、又は消滅することになります。よって、本件換地処分による収益の額は、当事業年度の益金の額に算入すべきものである(以下略)」などの記載があり、上記次表として、本件各従前地及び本件各換地の帳簿価額及び権利価額並びに清算金の額に係る一覧表(別表1(ただし、「益金算入額」欄を除く。)と同内容のもの。)が掲げられている。
また、地方法人税の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分の通知書(甲7)には、更正の理由につき、平成29年5月期の法人税の更正に伴い、地方法人税の額を再計算した旨の記載がある。
イ 原告は、令和3年5月21日付け及び同月25日付けで、処分行政庁に対し、本件各処分の全部又は一部の取消しを求めて再調査の請求をしたが、処分行政庁から、同年8月5日付けで、原告の再調査の請求をいずれも棄却する旨の決定を受けた。
ウ 原告は、令和3年9月10日、国税不服審判所長に対し、本件各処分の全部の取消しを求めて審査請求をしたが、国税不服審判所長から、令和4年8月8日付けで、原告の上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を受けた。
エ 原告は、令和5年2月10日、本件訴訟を提起した。
3 本件各処分の根拠及び計算について
被告の主張する原告の平成29年5月期の法人税に係る所得金額及び納付すべき税額並びに地方法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき税額は、別表4及び5のとおりであって、本件各更正処分における額を上回り、また、被告の主張する本件各更正処分を前提とする過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における額と同額である。原告は、後記4において争点となっている点を除き、これを争うことを明らかにしない。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件換地処分に係る収益の額を平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきか否か)について
(被告の主張)
換地処分は、法人税法22条2項の「取引」に当たり、本件換地処分に係る収益の額は、同項が規定する「益金」に該当し(このことは、原告自身、平成30年5月期の法人税の確定申告において、本件換地処分による収益の額(ただし、圧縮額を減算した額)を益金の額に算入したことからも明らかである。)、原告の平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきである。
(原告の主張)
換地処分は、法人税法22条2項の「譲渡」に当たらず、「取引」にも当たらないから、本件換地処分に係る収益の額は、同項が規定する「益金」に該当しない。したがって、本件換地処分に係る収益の額は、原告の平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきものとはいえない。
(2)争点2(本件各処分の理由付記に不備があるか否か(本件法人税更正処分等通知書における理由付記に不備があるか否か))について
(原告の主張)
本件法人税更正処分等通知書に記載された本件法人税更正処分の理由は、①原告の平成29年5月期の帳簿においては本件各従前地を固定資産に計上していたにもかかわらず、その根拠につき帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に示すことなく、帳簿の記載内容を否認したものであり、②課税要件を定めた法人税法上の根拠条文の摘示がなく、③換地処分が「譲渡」に当たる理由の説明や譲渡先等の記載もない。したがって、本件法人税更正処分等通知書における理由付記に不備があり、そうである以上、本件各処分のうち本件法人税更正処分を前提としてされたその余の処分も、理由付記に不備があるから、本件各処分はいずれも違法であるというべきである。
(被告の主張)
本件法人税更正処分等通知書には、判断の基礎となる本件換地処分に係る収益の額及びその計上の時期に関する事実関係と法の適用結果が記載されており、理由付記として欠けるところはない。
したがって、本件各処分が理由付記に不備があるものとして違法であるとはいえない。
(3)争点3(本件各処分が信義則に反するか否か)について
(原告の主張)
原告(A社)は、都市再生機構からの求めに応じて換地不交付申出書を提出するなどして円滑な換地処分に協力したにもかかわらず、都市再生機構の担当者は、清算金等の額について誠実な対応をしなかった。また、原告は、本件各証明書が交付された日を含む事業年度である平成30年5月期に本件換地処分に係る固定資産売却益を計上しており、かかる経理処理は、公的見解として十分信頼に足る本件各証明書の記載に従ったものである。本件各処分は、これらの事情があるにもかかわらずされたものであり、信義則に反する。
(被告の主張)
租税法律関係においては、その性質上、信義則の法理が適用される場面を限定的に解すべきであるところ、原告が主張する事情は、課税処分について信義則の法理が適用される特別な事情に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件換地処分に係る収益の額を平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきか否か)について
(1)法人税法22条2項の「益金」の意義
ア 法人税法は、5条において、各事業年度の所得を法人税の課税の対象とし、22条1項において、かかる所得の金額は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と定めている。そして、同条2項は、当該事業年度の「益金」に算入すべきものとして、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」を挙げているところ、同項は、資本等取引以外において実現した収益を全て益金の額に算入すべきものとする趣旨の規定と解されるから、同項に規定する「取引」は、法人の所得を構成する純資産の増加をもたらす原因となるべき一切の事実を意味するものと解される。
イ 前記アのような「益金」の額に算入すべき当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(法人税法22条4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる(最高裁判所平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)。
(2)本件換地処分に係る収益の額及びその計上時期
ア(ア)土地区画整理事業の施行者は、施行地区内の宅地について換地処分を行うため、換地計画を定めなければならず(整理法86条1項)、換地計画においては、換地設計、各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細等を定めなければならず(整理法87条1項)、換地等を定め、又は定めない場合において、不均衡が生ずると認められるときは、従前の宅地(以下「従前地」という。)等及び換地等の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、金銭により清算するものとされ、また、換地計画においてその額を定めるものとされている(整理法94条)。
(イ)土地区画整理事業において、換地処分が行われてその旨の公告がされると、換地計画において定められた換地は、その公告があった日の翌日から従前地とみなされ、換地計画において換地を定めなかった従前地について存する権利は、その公告があった日が終了した時において消滅するものとされている(整埋法104条1項)。そして、清算金は、上記の公告があった日の翌日において確定し、従前地の所有者等は、その請求権を得、又は納付義務を負うこととなる(同条8項、整理法110条1項)。
イ 前記アの各規定に照らせば、従前地を所有する法人においては、換地処分により、換地が定められた場合における換地の権利価額と交付清算金の額の合計額若しくは換地の権利価額と徴収清算金の額との差額又は換地が定められなかった場合における交付清算金の額が、当該従前地の換地処分の直前の帳簿価額を上回る場合には、その上回る部分(以下、この部分の額を「換地処分に係る収益の額」という。)について、純資産の額が増加することとなる。そうすると、かかる純資産の増加をもたらす換地処分は、法人税法22条2項の「取引」に当たり、換地処分に係る収益の額は、同項に規定する収益の額として、所得の金額の計算上「益金」の額に算入すべきこととなる。
そして、前記アのとおり、換地は、換地処分の公告があった日の翌日に従前地とみなされ、清算金も、同日に確定し、従前地の所有者等は、その請求権を得、又は納付義務を負うことになるのであるから、換地処分に係る収益の額は、換地処分の公告があった日の翌日を含む事業年度において法人の収益の額に計上されるべきものであると解される。
(3)原告の主張について
ア 原告は、整理法104条1項が換地は従前地とみなされる旨を規定していることからすれば、換地処分は、実体的権利変動を生じさせるものではないから、「取引」(法人税法22条2項)には当たらない旨を主張するが、これまで説示したところに照らし、採用することができない。
イ 原告は、措置法33条の3第1項、65条1項及び65条の2の各規定は、換地処分に係る収益の額は課税対象にならないとの理解を前提としている旨を主張するものと解される。
しかし、まず、措置法33条の3第1項は、個人の有する土地等につき土地区画整理事業等が施行された場合において、当該土地等に係る換地処分により土地等を取得したとき等における課税(所得税)の特例を定めた規定であり、法人税に係る規定ではない。
次に、措置法65条1項は、法人の有する土地等につき土地区画整理事業が施行された場合等において、当該法人が換地処分等により取得した土地等の権利価額から当該換地処分等により譲渡した土地等の譲渡直前の帳簿価額を控除した残額の範囲内で取得した土地等の帳簿価額を損金経理により減額したときは、その減額した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨(圧縮記帳の特例)を定めた規定であって、法人の換地処分に係る収益の額が法人税法上益金の額に算入すべきものであることを前提に、上記の限度で損金に算入することを認めた規定であると解される。
そして、措置法65条の2は、2項において、法人の有する土地等につき土地区画整理事業が施行され、当該土地等に係る換地処分により土地等とともに清算金を取得した場合等に、当該法人が当該事業年度のうち同一の年に属する期間中に収用換地等により譲渡した資産のいずれについても措置法64条から65条までの規定の適用を受けないときであること等を要件とする損金算入の特例(特別控除の特例)を規定しており、同条1項と同様に、法人の換地処分に係る収益の額が法人税法上益金の額に算入されることを前提としていると解される。原告が指摘する措置法65条の2第1項の文言(「前条1項3号から6号までに掲げる場合に該当する換地処分等により譲渡した資産のうち当該換地処分等により取得した資産の価額に対応する部分として政令で定める部分(中略)を除く。次項及び7項において同じ。」という文言)も、措置法65条の2第2項との関係では、要するに、上記部分につき措置法65条1項の規定による圧縮記帳の特例の適用を受けた場合等にも措置法65条の2第2項による特別控除の特例の適用を受けることができる旨を規定したものにすぎず、法人の換地処分に係る収益の額が法人税法上益金の額に算入されることを前提とすることに変わりはない。
したがって、措置法の上記各規定は、換地処分に係る収益の額を法人税の課税対象としないとの理解を前提とするものではなく、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって理由がない。
(4)小括
以上からすれば、本件換地処分に係る収益の額は、原告の平成29年5月期における収益の額として所得の金額の計算上益金の額に算入すべきである。
2 争点2(本件各処分の理由付記に不備があるか否か(本件法人税更正処分等通知書における理由付記に不備があるか否か))について
(1)法人税法130条2項が、青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきである。したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要すると解される(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁、最高裁判所昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁参照)。
(2)これを本件についてみると、本件各確定申告は、青色申告であるところ(乙15)、本件法人税更正処分等通知書には、前記前提事実(4)アのとおり、本件法人税更正処分の理由として、本件換地処分に係る収益の額が、法人税法22条2項の「益金」に当たるものとして、平成29年5月期の法人税の課税標準額に算入されたこと、及びその根拠となる具体的な事実関係が示されているものといえるから、前記(1)のような理由付記の趣旨に照らし、上記処分の理由付記に不備があるということはできない。
(3)原告は、本件各更正処分は、本件各従前地を固定資産に計上していた原告の帳簿の記載内容を否認するものであるから、その根拠を帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示する必要があったにもかかわらず、本件法人税更正処分等通知書にはかかる記載がなく、根拠規定の摘示や、換地処分が「譲渡」に当たる理由の説明や譲渡先等の記載もない旨を主張する。
しかし、前記前提事実(4)アの本件法人税更正処分等通知書の記載内容に照らせば、本件法人税更正処分は、本件換地処分が法人税法22条2項の「取引」に当たり、本件換地処分に係る収益の額が同項の「益金」に当たるものとして、同項を根拠規定としてされたものであることは十分に了知し得る。また、同通知書には、処分行政庁が、同項により本件換地処分に係る収益の額を原告の平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入した根拠となる事実関係について、平成29年2月に本件換地処分に係る公告及び変更登記がされた事実、本件各従前地及び本件各換地の帳簿価額及び権利価額並びに清算金の額等が記載されており、原告の帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に理由が示されているといえる。前記(1)のような理由付記の趣旨に照らし、本件法人税更正処分等通知書の記載以上に、換地処分が同項の「取引」に当たる理由を示す必要があるということまではできない。そうすると、原告の上記主張は採用することができない。
(4)したがって、本件法人税更正処分等通知書における理由付記に不備がある旨をいう原告の主張は採用することができず、この主張を前提に、本件各処分のいずれについても理由付記に不備がある旨をいう原告の主張も採用することができない。
3 争点3(本件各処分が信義則に反するか否か)について
原告は、①都市再生機構の担当者が清算金等の額について誠実な対応をしなかったことや、②原告が本件各証明書を交付された日を含む事業年度である平成30年5月期に本件換地処分に係る固定資産売却益を計上したことから、本件各処分が信義則に反する旨を主張する。
しかし、上記①は、原告と都市再生機構との間の事情をもって本件各処分が信義則に反するということはできず、また、上記②については、本件各証明書には、「買取り等の年月日」は平成29年2月18日である旨が記載されているのであって(乙6)、本件各処分において、本件換地処分に係る収益の額を平成29年5月期の所得の金額の計算上益金の額に算入したことが、本件各証明書の表示に反するものとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。
4 本件各処分の適法性について
以上によれば、本件各処分は適法である。
第4 結論
よって、原告の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 鎌野真敬
裁判官 志村由貴
裁判官 都築健太郎
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