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解説記事2025年03月17日 第2特集 Q&Aで読むサステナビリティ開示基準(2025年3月17日号・№1067)

第2特集
公開草案からの変更点は?
Q&Aで読むサステナビリティ開示基準


 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は3月5日、3本のSSBJ基準(「サステナビリティ開示基準の適用」「一般開示基準」「気候関連開示基準」)を公表した(公表日以後終了する年次報告期間から適用可)。開発に当たっては、原則としてIFRSサステナビリティ開示基準の要求事項をすべて取り入れるとした上で、相応の理由が認められる場合には、IFRSサステナビリティ開示基準の要求事項にサステナビリティ開示基準独自の取扱いを追加し選択することも認めている。本特集では、2024年3月に公表された公開草案からの変更点などを中心にQ&A形式で解説する。


プライム上場企業以外でも適用可
Q

 SSBJ基準の適用対象企業について教えてください。プライム上場企業以外でも適用することができますか。
A
 SSBJ基準では、特に適用対象企業を定めていないが、プライム上場企業が適用することを想定して開発が行われている。ただし、金融商品取引法以外の法令の定めに基づきSSBJ基準に従った開示を行う場合や、任意でSSBJ基準に従った開示を行う場合にも適用することができるようにしている。とはいってもSSBJ基準は、基本的にプライム上場企業以外の企業における固有のニーズや課題などを考慮して開発されたものではない点に留意したい。
 なお、金融商品取引法に基づく法定開示におけるSSBJ基準の適用対象企業は、現在検討を行っている金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」で決定される。現時点では、まずは、2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業から適用される方向となっている。


今後、SSBJ基準も個別の告示指定の方向
Q

 SSBJ基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)が開発する会計基準等と同様、法的に担保された基準という理解でよいですか。
A
 現時点では法的に担保された枠組みはないが、今後、SSBJが開発する開示基準についても、ASBJの会計基準等と同様、個別の告示指定が行われる方向となっている。


IFRS任意適用でもSSBJ基準の適用は必須
Q

 IFRSを任意適用しているため、SSBJ基準ではなく、ISSB基準を適用したいと考えています。可能ですか。
A
 SSBJ基準は、関連する財務諸表が準拠する会計基準に関係なく、適用しなければならないとされている(適用基準第3項)。したがって、IFRSを任意適用していても、SSBJ基準を適用しなければならない。ただし、SSBJ基準独自の選択肢を適用しなければ、内容的にはISSB基準と同様のものとなっている。


具体的な定めがない場合は一般開示基準を適用
Q

 3本のSSBJ基準が公表されましたが、例えば、人的資本や生物多様性に関する定めに関連する場合にはどの基準を適用すればよいのですか。
A
 具体的な定めがない場合は、一般開示基準を適用することになる。


気候基準にSSBJ基準独自の選択肢を追加
Q

 SSBJ基準は、IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)との整合性を図った上で、相当の理由が認められる場合には、SSBJ基準独自の取扱いを追加し、選択適用することを認めているとのことですが、追加部分はどの項目になりますか。
A
 以下の気候基準の5項目については、SSBJ基準独自の選択肢を追加している。
 なお、SSBJは、SSBJ独自の取扱いを選択しなければ、ISSB基準に準拠したことになることを意図して基準開発を行っている。ただし、SSBJ基準独自の取扱いを選択した場合であっても、それが直ちにISSB基準に準拠しないことにはならないとしている。

・スコープ2温室効果ガス排出について、ISSB基準で要求している契約証書に関する情報に代えて、マーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出量を開示することができる。
・気候関連の移行リスク、気候関連の物理的リスク及び気候関連の機会に関連して、資産又は事業活動の数値及びパーセンテージに代えて、資産又は事業活動の規模に関する情報を開示することができる。
・報酬関連の評価項目が役員報酬に組み込まれているもののその他の評価項目と結びついて役員報酬に組み込まれており、気候関連の評価項目に係る部分を区分して識別できない場合、気候関連の評価項目を含む評価項目全体について開示することができる。
・ファイナンスド・エミッションに関する資産運用に関する活動、商業銀行に関する活動及び保険に関する活動について、基準の定義を用いることができる。
・GICSを使用する定めを含めた上で、当面の間、産業別に分解したファイナンスド・エミッション等の開示をしないことができる。

SSBJ基準の追加項目に関する情報は開示の過程で入手可能
Q

 SSBJ基準には、ISSB基準にはない定めが一部追加されて定められているとのことですが、具体的にはどのような項目がありますか。
A
 SSBJでは、基本的な開発方針として、SSBJ基準を適用して開示される情報が国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとしている。その上で、ISSB基準にはない定めであっても、必要と認められる場合には、SSBJ基準の中にISSB基準の要求事項を追加した定めを置いている。
 例えば、適用基準では、指標の表示単位に関する定めのほか、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日及び承認した機関又は個人の名称の開示を求めている。この点、ISSB基準では、IFRSで定められていることから規定されていないが、日本の場合には会計基準にも定めがないため、追加されている。
 また、気候基準では、温室効果ガス排出の表示単位に関する定めのほか、①GHGプロトコルとは異なる方法により測定することを選択し、かつ、当該方法により測定した温室効果ガス排出量に重要性がある場合、GHGプロトコルにより測定した排出量と、GHGプロトコルとは異なる方法により測定した排出量の内訳の開示、②スコープ3温室効果ガス排出のカテゴリー別の内訳の開示などが求められている。
 ただし、追加された項目については、開示を行う過程で入手する情報に基づき作成可能なものであり、改めて入手しなければならない情報ではない。


後発事象の取扱いは公開草案から変更なし
Q

 後発事象の取扱いに関しては、何か変更点はありますか。
A
 後発事象の取扱いは、公開草案からの変更点はない。①公表承認日までに報告期間の末日現在で存在していた情報について情報を入手した場合、当該状況に関連する開示を更新する、②公表承認日までに発生する取引、その他の事象及び状況に関する情報について、当該情報を開示しないことにより主要な利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込み得る場合、開示することになる。
 公開草案公表後の審議では、会社法監査報告書日後、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日までの期間に関しては、財務諸表の修正を行う必要がある事象に関連する情報(財務諸表に関連する後発事象に関する情報)を入手した場合と、財務諸表の修正を行う必要がある事象に関連しない情報(財務諸表に関連しない後発事象に関する情報)を入手した場合の2つについて、サステナビリティ関連財務開示における対応を示し、サステナビリティ開示実務対応基準として開発することが検討されたが、日本特有の取扱いを定める基準を開発することで、ISSB基準との間にかい離が生じることを懸念する意見なども踏まえ、見送られることになった(本誌1050号参照)。


温室効果ガス排出量の算定期間と開示の報告期間を合わせることに
Q

 SSBJは昨年11月に「指標の報告のための算定期間に関する再提案」を公表しています。結果的には、温室効果ガス排出量の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間との間に差異が生じる場合には、合理的な方法により期間調整を行い、サステナビリティ関連財務開示の報告期間に合わせることになっています。どのような経緯があったのでしょうか。
A
 指標の報告のための算定期間に関しては、昨年3月に公表された公開草案から最も大きく変更となった項目となる。
 ISSB基準では、原則としてGHGプロトコルに従い温室効果ガス排出を測定することが要求されているが、法域の当局又は企業が上場する取引所が、企業の温室効果ガス排出を測定する上で異なる方法を要求している場合には、その異なる方法を用いることができるとされている。日本でいえば、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)が該当することになる。ここで問題となるのが、GHGプロトコルとは異なる方法を用いる場合、温室効果ガス排出量の算定期間は法令で定められているため、サステナビリティ関連財務開示の報告期間と一致しない場合があることだ。
 この点、算定期間を一致させるのか、あるいは差異があることを容認するのか、SSBJの審議でも意見が分かれたが、昨年3月公表の公開草案では、追加コストを減らす観点から、すでに当局に提出した温対法に基づく温室効果ガス排出量のデータのうち、直近のデータを用いることとした上で、温室効果ガス排出量の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間の差異が1年を超える場合には追加の開示を求めることが提案された。
 しかし、この提案に対しては、サステナビリティ関連財務開示の報告期間と温室効果ガス排出量の算定期間に差異が生じることにより、関連情報のつながりが希薄となり、情報の有用性が低下する可能性に対する強い懸念が寄せられたことから、昨年11月に再提案を公表。期間の一致を要求することにより情報の有用性が高まることや、逆に期間の一致を要求しない場合には、ISSB基準と整合していないと受け止められる可能性があるなどの理由から、算定期間と報告期間との間に差異が生じる場合には、合理的な方法により期間調整を行い、サステナビリティ関連財務開示の報告期間に合わせることになっている。


GICS以外の産業分類システムの使用を容認へ
Q

 昨年の3月の公開草案では、ファイナンスド・エミッションに関する追加的な情報の開示において、「商業銀行活動」及び「保険産業に関する金融活動」に参加する企業に対し、世界産業分類基準(GICS)に基づき産業別に開示することとされていましたが、当面の間、開示をしないことができるとの取扱いに変更となっています。なぜですか。
A
 GICSコードでの分類・開示を行うにあたっては、特定の民間企業からライセンス料の支払を求められる可能性があり、SSBJが特定の民間企業からライセンス料の支払を義務付けることは適切ではないことから、公開草案の提案を変更し、当面の間、産業別に分解したファイナンスド・エミッション等の開示をしないことができるとの取扱いが講じられることになった。ただし、影響を受ける企業は、①任意でSSBJ基準に従った開示を行うことを選択し、②商業銀行又は保険に関する活動を行い、③初年度の経過措置(開示の免除)を適用しないことを選択する企業のみであることから、ほとんどの企業に影響はないとされている。
 なお、2025年1月開催のISSBボード会議では、GICSについてはGICS以外の産業分類システムを使用することを認めることを提案することが暫定決定されており、今後、公開草案を公表し、2025年中にも決定される方向となっている。


温室効果ガス排出の絶対総量の合計値の開示などが公開草案から変更
Q

 他に昨年3月に公表された公開草案から変更された点はありますか。
A
 公開草案に対して一番意見が多かったのは、IFRS S2号「気候関連開示」では求められていないスコープ1、スコープ2及びスコープ3の温室効果ガスの排出の絶対総量の合計値の開示だ(気候基準案第49項)。この提案に対しては、SSBJ基準独自の取扱いであり、ISSB基準と異なる要求事項を追加すると、開示される情報の比較可能性が低下する可能性があるなど、財務諸表作成者を中心に反対するコメントが多く寄せられたことから、SSBJでは、公開草案の提案を変更し、スコープ1、スコープ2及びスコープ3の温室効果ガス排出の絶対総量の合計値の開示を求めないこととしている。なお、合計値は、SSBJ基準においてもスコープ1、スコープ2及びスコープ3の温室効果ガス排出の絶対総量の開示を求めているため、財務諸表利用者においても算定可能であるとしている。
 その他では、「ガイダンスの情報源の適用可能性を考慮する際の文書化」(適用基準案BC80項及び気候基準案BC50項)、「レジリエンスの評価の頻度」(一般基準案第26項)、「同じ目的において複数の内部炭素価格を用いる場合及び複数の目的で内部炭素価格を用いる場合の取扱い」(気候基準案第85項、第86項)についても規定が削除されている。いずれもISSB基準に追加することを提案していたものである。


仮に補足文書の内容に従わない場合もSSBJ基準に準拠表明可
Q

 ISSBより公表された教育的資料等は、今後、SSBJにおいて補足文書として公表されるとのことですが、SSBJ基準と同様、適用することが求められますか。
A
 SSBJは、ISSBにより教育的資料等が公表された場合、SSBJ基準の適用に当たり参考にできるように、SSBJの承認を得た上で、補足文書として公表することとしている。例えば、ISSBがこれまでに公表した「気候関連のリスク及び機会の自然及び社会的側面」などが候補となりそうだ。なお、補足文書は、SSBJ基準を構成しないため、仮に補足文書の内容に従わない場合であっても、SSBJ基準に準拠している旨を表明することができる。


関係者からの質問の多い項目をSSBJハンドブックで解説
Q

 今後、公表される予定のSSBJハンドブックとは具体的にどのようなものですか。
A
 SSBJハンドブックは、SSBJ事務局がSSBJ基準を利用する際の便宜を考慮して作成する解説のこと。SSBJの審議を経ずに公表するものであり、SSBJ基準を構成しないため、SSBJハンドブックの内容に従わない場合であっても、SSBJ基準に準拠している旨を表明することができる。
 SSBJハンドブックの内容は、これまでSSBJに寄せられた質問など、関係者のニーズが高いものを中心に、今後、公表していくとしている。現時点では、公開草案からの変更点や、SSBJ基準の用語集のほか、温室効果ガス排出量の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間との間に差異が生じる場合における期間調整の合理的な方法などが検討されているようだ。なお、SSBJによれば、今年3月中には1本目のSSBJハンドブックを公表したいとしている。


SSBJ基準の適用が困難な場合はSSBJにその旨を提起
Q

 SSBJ基準の適用が実務上困難な場合はどのような対応が考えられますか。
A
 SSBJ基準における定めが明確であるものの、これに従った開示を行うことが実務上困難な場合がある場合、その旨を関係者がSSBJに提起した場合には、SSBJにおいて別途の対応を図るか否かの判断を行うとしている。ASBJが収益認識会計基準やリース会計基準を公表した際にとった対応と同様である。
 なお、収益認識会計基準の適用の際には、電気事業連合会等より、決算月に実施した検針日から決算日までに生じた収益の見積りが実務的に困難であるとの理由で、廃止された検針日基準を代替的な取扱いとして認めて欲しいとの提案を受け、検討を行った経緯がある。


国内外の開示実務をモニタリングし開示のバラつきを防止
Q

 SSBJは、SSBJ基準適用後も国内外の開示実務をモニタリングするとのことですが、なぜですか。
A
 SSBJ基準は開示の基準であるため、ISSB基準を適用して開示される情報との間で大きく異なる可能性が少なからずある。内容や分量など、どこまで詳細に開示するかは国によって変わるからだ。
 このため、SSBJ基準の適用後も国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとなるように、SSBJでは、国内外の開示実務をモニタリングし、必要に応じて、SSBJ基準の定めを修正することを検討するとしている。

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