民事2018年05月30日 改正民法による時効法改正に関する2,3の感想 執筆者:酒井廣幸
1 平成29年に成立した民法の一部を改正する法律においては、債権法の改正として消滅時効に関する旧規定の多くも改正されたが、平成32年4月1日の施行を前にして、改正についていくつかの疑問点を指摘したい。
2 最初に指摘しておきたいのは、平成18年10月から始まった民法(債権法)改正検討委員会の議論及びその帰結(民法(債権法)改正検討委員会編『債権法改正の基本方針』別冊NBL№126)と、改正法として成立した時効法の改正内容とが著しく類似していることである。前者を入口とし、後者を出口とすると、入口と出口とで、さほどの違いがないことを指摘しうる。このことは、法制審議会民法(債権関係)部会での議論は一体何であったのかという疑問を導く。別言すると、時効法の改正は、民法(債権法)改正検討委員会の帰結の実現を目指して行われたと評価できるのである。
3 第2に、改正された内容の点において、改正法により目指す規律がまず先にありきであって、どう理論構成しているのか、その理論を基礎づける立法事実は何であるのかについての議論がほとんど存在しないことである。このことは、改正法成立後の法務省民事局所属の立法担当官による解説や、民法(債権関係)部会の部会員であった研究者による解説書を見ても十分な説明がない。
4 第3に、旧法に存在した1年から3年の職業別短期消滅期間の規定は、改正法により削除されてしまっているが、削除された旧174条では、給料に係る債権の消滅時効期間を「1年」とし、その特則として労働基準法115条では「2年」と規定していた。しかし、新法により旧174条が削除されてしまっても、労働基準法115条は依然として存続し、削除されていない。施行日までには、何らかの結論を出せば良いとの考えかもしれないが、特別法における他の消滅時効規定が、整備法によって改正されているのにこの点は異常である。法務省も厚生労働省に遠慮している事態が浮かび上がっている。
5 第4として、今回の改正民法に対する国会の質疑をみていると、一定の分野、例えば保証のような事項に関心が集中して、傍観者からみていても、甚だ心もとない。利害対立の程度が深刻ではないからであろうと思われる。法律とは所詮こんな感じで成立するものであると言ってしまえばそれまでのことであるけれども。
6 法制審議会での議論や国会での審議を経ても、法律とは所詮隙間だらけのものであるから、足らない部分は今後の解釈論で補充すれば済むといえないこともないが、今後の解釈論においては、消滅時効制度における明確な考え方の提示が求められている。
(2018年5月執筆)
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