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税務・会計2016年10月26日 「企業経営からみた税務の重要性~なぜ今、印紙税なのか」出版セミナー講師・鳥飼重和氏インタビュー 聞き手:中根有季子

Q:先生の事務所HPを拝見したところ、先生の信条として「喜神に導かれ、何があっても上り坂」の言葉がありました。この言葉にはどういう意味が込められているのか、改めて教えていただけますか?

─ 人生の師、安岡正篤 ─

もう亡くなった方ですけど、「平成」の年号を名付けたといわれている安岡正篤先生、その方が、私の人生の師だと思っております。安岡先生から直接は教えを受けたことはなく、すべて著書を通して教えを受けたんですが、その教えのエッセンスが「喜神(きしん)」という、喜びの神様を自分の心の中に入れるって、そういう発想だったのです。
安岡先生は、もともと陽明学で有名だといわれているんですけど、その陽明学は王陽明という方が作られたのです。

─ 人生は喜怒哀楽に尽きる ─

その王陽明が、どういうことを言っているかというと、「人生は喜怒哀楽に尽きる」と。人間は感情の動物だ、喜怒哀楽という感情のままに人生を生きたら、人生で何事かを成し得えない。
従って、しっかりした人生を生きるのだったら、喜怒哀楽という感情に流されることなく、人生を望ましい方向に行くように持っていく必要があり、そのために人間修行が必要なんだっていう発想を持っているんですね。
じゃあ望ましい方向とは何かといえば、最終的には喜びや楽しみのある人生という方向に持っていくことだというのです。これが喜神の発想になるわけです。常に喜びを神として尊び、困難があったら、「これを乗り越えれたらもっといいことがあるよ」とか、「これは試練で、これを乗り越えるために私は生まれてきたんじゃないか」とか、困難をチャンスに変えて、喜びにつなげるような発想を身に付ける人間になる、ということです。

─ 冷静に、動じず ─

人間修行の根本は何があっても動じないっていうことです。これが実は教養の基本なんですね。どんな困難や苦境に出会ったとしても、人にどんなに意地悪されたとしても、ビクともしないという動じない心を作るのが人間修行の目的なのです。
先ほど言ったように喜神を尊ぶ人間になれば、どのような困難・苦境に出会っても、心は動じないで、むしろ、困難や苦境をチャンスに変える好機と捉えられるようになる。しかも、人間は、どんな困難や苦境も乗り越える能力がちゃんと備わっているので、心が動じないで、冷静に対処できるときは、困難や苦境を乗り越える知恵も出てくる。その結果、困難や苦境を乗り越えて、自信に満ちた人間に成長でき、自分自身、大きな喜びを得ることになる。つまり、喜神に導かれることで、喜びの心を得られるということです。
喜神というのは、将来の生き方を自分で決める方向性、分かりやすく言えば、人生の羅針盤ということです。最終的に喜神という羅針盤を持てば、必然的に人生は上り坂にならざるを得ない。そういう発想なのです。

Q:弁護士業務を中心に、ご執筆やご講演など様々な活動をされている中で、先生が今一番力を入れていることは何ですか?

─ もし孫子が弁護士だったら ─

分かりやすく言うと、「もし孫子が弁護士だったらどういうことをするだろうか。」という発想で業務の方向性を作っています。
今、大きな変化が襲ってくる時代ですから、経営は非常に苦しいです。それは日本全体の潜在成長率が落ちている点に典型的に表れています。政府としては、その状態を国難と考えて、大企業の方から建て直しを図ろうとしています。その建て直し策が、企業に自助自律を促そうというものです。自助自律の心なくして、成長などあり得ないですから。そのために、東証1部2部の上場企業を中心に、国策として出したのがコーポレートガバナンス・コードというものです。それぐらい日本企業は精神的に元気がなくなって弱りきってるということです。本当のことを言えば、政府に自助自律を言われるようでは、自助自律とは言い難いからです。
自助自律は、本来、経営の根本の精神のはずです。そこで、弁護士として、企業法務をやるなら、個々の事件の処理で、それを何とかする、というだけでは、根本の解決にならない、もっと根本的な点での発想を変えるようなやり方を取り入れて、提言すべきではないか、そうでなくては、会社は根本的に良くならないからです。
根本的に会社を良くするには、我々弁護士が経営者の参謀になる必要があり、その際の参謀のイメージを孫子に求めたということです。

─ 今の弁護士は訴訟中心 ─

常に経営者の側にいて、大局の視点から、経営者に気付いてもらえるコーチングで経営者の能力を引き出してあげられるような側面から、弁護士というものを考えると、経営の参謀として孫子をイメージした方がいいと思ったのです。
今の弁護士の仕事は訴訟などの紛争への対応が中心です。私は税務訴訟だけで200件を遥かに超えて、訴訟漬けでずっとやってきました。今の弁護士もほとんど訴訟中心の発想で、自分の本来の仕事は訴訟だと思っています。その意味では、経営者に近づいて一番経営者に近いところで仕事をしようって発想の人はほとんどいないのです。
経営者に近いところでの仕事は、それは我々の仕事じゃない、それは我々と無関係のコンサルの仕事でしょうと思っています。ところが、本当は、弁護士が経営者の近くにいて仕事をしたら、今までの世の中を変えてしまうくらいの力を経営者に与えることができる、経営者に勝利を予感させる錦の御旗を与えることができるのです。
錦の御旗というのは官軍だから、国家が味方になるのです。その結果、協力者が増えてきて、必然的に勝つ側に回るじゃないですか。そういう立場を作る経営参謀こそ、戦わずに勝つという孫子的な参謀ではないか、と思っているのです。

─ 百戦百勝は無理? ─

戦ったら百戦百勝するのは無理です。訴訟という戦いには、事件の筋があるのです。事件の筋の悪いものはどんな優秀な弁護士が出ても、勝つ確率は低い。訴訟では、百戦百勝は無理です。勝てるかどうかを決めるのは、我々サイドではなく、裁判官次第ですから。
極端な言い方をすれば、「あいつ嫌いだ」と裁判官に思われたら訴訟は負けるのですよ。実際に、裁判官に逆らった途端に負ける筋はいくらでもある。だって裁判官は人間ですから、感情があり、その感情で勝敗を決められるのですから。極端な例ですが、そういう点から、戦いという訴訟の場面では、勝てるとは限らないのです。
行政との関係でも、行政対応は、行政官次第という面があることは確かです。そういうことから考えると、百戦百勝するために法律家が本当に働けるっていうのは、裁判官も、行政官も、手を出してこない段階です。つまり、最初の経営段階だけなのです。
その段階なら、自在に法律を使うことができるので、戦う前に勝利宣言をすることが可能なのです。法律の使い方を知っているのが弁護士ですから、その弁護士の能力を最大限に使えば、経営の段階で、「勝利の宣言をして、誰もかかって来れない状態を創れる」のです。
このように、経営の段階で、法律を自由に使えるような弁護士や税理士を創りたい、ということから、税務調査士、労務調査士という資格制度を作ったのです。
弁護士は経営段階で経営者の参謀となって、先手必勝の戦略提言ができれば、世の中を変えていくという仕事をできるのではないかと思うのです。弁護士の法的思考というのは、それを可能とする戦略的技術なのです。
そのような素晴らしい成果をあげられる法的思考を訴訟だけにしか使ってないのが今の状況ですが、それは弁護士の本当の能力を活かすことにはならないと思ったのです。
なぜそうかというと、裁判官、検察官、弁護士という法曹になるための司法研修を受けて、弁護士になるわけですけど、その研修所の教育というのは最高裁判所の方がやっているわけです。
そのため、研修は、裁判を前提として、裁判における実務の処理の仕方中心なのです。これも重要なのですが、ただ、法的思考という戦略的な技術の持っている応用範囲は広いのに、それを裁判という成果を上げる確率の少ない場面を中心に学ぶことは、もったいない、と思うのです。税務訴訟などは、更正処分を受けて、最後の場として裁判の場に来るのですが、その場では、もう勝ち負けは固められちゃっているのですよ。つまり、法的思考力を有意義に生かす余地が少ないのです。
本来なら、一番最初の経営段階で法的思考を最大限自由に使えますので、この段階で、それ以降の段階である行政段階や裁判段階で、勝利できる体制を万全に創れるのです。そうすれば、百戦百勝できるのです。その結果、戦いを挑まれなくなるので、戦わずして勝つ、ことになるのです。これが、孫子が弁護士であるなら考える方法だと思うのです。

─ 民法の考え方 ─

なぜかというと、民法の基本原理として、契約の自由の原則があって、それを法律家は誰でも最初に習うのですが、これは法律家の基本中の基本的な立場を示す言葉でもあるのです。この基本的な考え方は、本来は、民事に限定せず、刑事だとか行政の底流にも流れている基本的な考え方です。ただ、その考え方の基本は民法で学ぶのです。
民法の考え方って何かっていうと、結論が社会的常識にあっているかどうか、という具体的事案における妥当性を考えるものです。この発想が、リーガルマインドと呼ばれるものです。事案ごとに、こういう結論が望ましいという結論があって、なるべくそこに近づけるように論理と事実関係を組み立てていくっていう話になるのが法律的思考の特徴なのです。争いになれば、最終的には、その発想で、裁判官が結論を出せることになるのです。
その際に、もし、「あいつ嫌い」だとかいう裁判官がいたら、どんな論理、どんな事実関係をしたって勝てないですよ。だって決定的な証拠があったとしても、こいつ嫌いだって思えば、見るに値しないって全然見ないこともできるし、嫌いなやつを負かせる結論を出すために、容易に論理も組み立てられるのですよ。これも法的思考の技術的性質を活用できるからです。裁判官の嫌いだ、という感情による結論を正当化できる技術が法的思考技術なのですよ。
だからそんな裁判官でもいかに勝つか。つまり自分たちにとって最悪の判決を書く裁判官を想定して、戦わずして勝つ、百戦百勝の考え方が基本にあってできあがったのが契約自由の原則なんですよ。ある意味では、契約自由の原則を錦の御旗にして、法的思考という技術を活用した、経営者の思いのままの結論を導き出せる戦略的発想こそ、孫子が弁護士になった時の基本発想になるのです。
これが本来の使い方。そこで一番有名なのがシェイクスピアの書いた「ヴェニスの商人」のエピソードです。ユダヤ人のシャイロックが金貸しとして、「期限までに返済できなかったら自分の肉1ポンド切り取っていい」と書いた契約をするんですが、借主は、事情があって返済できなかった。
そこでシャイロックが「期限が過ぎた」からと、契約書どおりに、借主の肉を切り取るための裁判を始めるわけですね。そして裁判官の結論はどう出たか。
「契約書上、期限までに返済できない場合には、肉1ポンド切り取ると書いてあるから、肉を1ポンド切り取ってかまわない。ただし、血を流していいとは書いてないから、肉を切り取るときに、血を一滴も流さないで切り取れ。」という判決を書いたのです。
契約至上主義だから、契約に書いてないとだめだって言ってね。そしたらそんなのはありえないじゃないですか。それでシャイロックは、諦めて退場するのです。ところが、実は、この判決を言い渡した裁判官は金を借りた人物と密接な関係にある女性だったのです。
つまり、この裁判官は、初めからシャイロックを負けさせるつもりだったということです。
裁判官として、裁判に臨む前から、判決の結論が決まっていたのです。

─ どんな裁判官を相手にしても ─

極端なことを言えば、ある意味では、最悪の場合を考えると、初めから自分を敗訴させようとする裁判官が来るかわからない。そこで、そのような裁判官が来ても、その裁判官に敗訴判決を書かせないような万全な契約書を書くことで対応するのです。そのような契約書を作る場合の基本思想が「契約自由の原則」なのです。
契約自由の原則は、どんなひどい裁判官が相手でもやっつけられるということを作り上げる際の法律家の法的思考技術の使い方の羅針盤になる基本思想なのです。ある意味では、「戦わずして勝つ」という孫子の兵法を平和の時代に実現する戦略的基本思想だともいえます。
ところが司法研修所での教育では、基本的には裁判を前提とする実務発想に立つので、契約自由の原則を羅針盤として、裁判をやらないでも勝利宣言できる戦略発想が育たないことになります。
契約自由の原則は、紛争になった後では、使い勝手がよくないのです。もともと、なぜ紛争が起き、裁判所に行くようになるかっていうと、契約書の書き方が十分じゃなかったからでしょう。つまり、紛争前に、戦わずして勝つという契約自由の原則で万全の態勢を整備できなかったからです。
だから法律家が一番働くべきところは、裁判所が登場しない、一番最初の経営段階なのです。でも、弁護士は、法律を学びながら、その使い方、最も使い勝手の良い段階について、学んでいないのです。実にもったいないことだと思います。
裁判を前提とした法律の使い方の発想から脱却できないのが、今の弁護士の現状です。そこを変えるべきじゃないか、という考え方で、事前対応型の税務実務を目指す「税務調査士」という資格制度を作ったのです。現在では、受講者は弁護士が100人を超え、税理士さんが300人を超えています。
税理士さんは税務調査のことを知りたくて来ているのですが、「そうじゃない、税務調査では手遅れも多いでしょう。税務対応の中核は、税務調査前です、という発想が私の基本発想なのです」ということを強調しています。
経営者のためになるのは、一番最初の経営段階ですね。そこを弁護士・税理士が参謀という立ち位置にする、という参謀発想を広めたい、そう思っているのです。

─ ルールがあって、解釈、それから事実関係 ─

その一番最初の経営段階から弁護士が入ると、最悪の裁判の場合と逆になるのですよ。
弁護士が参謀として考えるのは、次のような発想になります。初めに、経営者が望む結論から入って、その結論を導くために反対論が出てこないようにする仕組みを法的思考という戦略的技術を使って創り上げる、という発想です。法的思考というのは、法的三段論法という法的技術です。

  大前提 解釈(ルールの確定)
  小前提 事実認定(証拠による事実関係の確定)
  結 論 法律の適用の有無(経済効果⇒経営者の求めることの実現)

「事実関係が確定」と「何がルールかの土俵」は、密接な関係があります。
結論は、この両者の関係が決まれば、論理的に、必然的に導かれるものになります。
つまり、経営の段階で、経営者の求める結論を明確にすれば、その結論を導き出すための土俵を創る作業として、証拠による事実関係を確定して、その土俵における有利なルールを確定するようにできます。これを可能にするのが、法的三段論法という法的技術を自由に駆使できる弁護士なのです。
これは経営者の経営目的を出発点としての事実関係の構築という一貫したストーリーになるものになります。この一貫したストーリー性があれば、それが錦の御旗になりますので、それを受け入れ、論理必然的に助力を惜しまなくなるのが裁判官になります。これが「戦わずして勝つ」という孫子の戦略思想になります。
別の言い方をすれば、次のようになります。
まず、経営目的として、こういう結論を出す。その結論を実現するために、事実関係の流れとして、経営目的を実現するストーリー(経営計画)を作らないといけない。そうして事実関係の流れが頭に入ると、法律としてはこういう法律、条文としては条文のこの文言が有利になる、あるいは邪魔になる、この判例が有利になる、あるいは邪魔になるということが分かります。
そこで、有利なものは活用し、不利なものをどける、それにはどうしたらいいかっていうことを構想する。その際、どんな反対論でも鎮圧できるよう作り上げるのですよ。それは、法的思考という技術を自由に使える柔軟な弁護士なら可能です。この法的技術を本来的に持っているのが弁護士なのですが、ほとんどの弁護士は、この技術を柔軟に使う教育を受けてないのです。だから、裁判になって、ある程度事実関係が固まった段階でどうか?という発想しかないので、事前に、どうやったら勝てるかっていう発想をまだ持ってない。
だから、「何で判例になったんですか?」「弁護士が入ってないから判例になったんじゃないですか?」という一番大事で実践的なところが研究されていないのです。
弁護士の役割として、社会が今求めて、日本の国を栄えさせるという形で経営者を支援するのだとしたら、一番最初の経営の段階に、参謀となって、「戦わずして勝つ」という経営戦略を実現するため、法的思考という技術を最大限に活用する必要があるのではないですか、と言いたいのです。
経営では、経営の目的も重要ですが、経営の目的実現のための兵糧の重要性を考えると、やっぱり税金も大事です。そのため、税金がちゃんと分かる弁護士を参謀にする仕組みを作る必要がある。それが、税務調査士の資格を創った柱としてありますね。

Q:先生のメッセージ中にある「企業経営における税務の重要性」というのは、企業マネジメントにおいて実際どの程度認知されていると感じていらっしゃいますか?

─ 企業を永続させるための税務 ─

日本の経営者でも税務の重要性を分かっている人はたくさんいるのですけど、本当の意味で分かってるかどうかになると、わかっていない。
なぜかっていうと、優秀な会社っていうのは意外と税引き後利益を中心にしたキャッシュフローを重視して考えるのですよね。そうすると、税金が軽ければそれだけキャッシュが増える、という考え方なので、租税特別措置法を使って税金を少なくするっていう努力をしているのです。なぜかっていうと、企業ってどんなに環境が悪くてもそれを乗り越えてさらに成長していって存続させなきゃいかん、そのためには、キャッシュをしっかり持っている必要があるとわかっているからです。
日本には長寿企業で100年企業とか200年企業というのが多数あります。
企業を永続させることを非常に重視する考え方を日本人は持っているんです。欧米でもやっぱり長生きをしている企業は、どちらかというと日本的な経営をしてるところが多いですね。

─ 内部留保が大事 ─

最終的にはやっぱりキャッシュなのですよ。一番分かりやすいのは、(リーマンショックのときにそうでしたけれども)景気が悪くなって将来の見通しがなくて不安になると、みんな一番お金を欲しがるんですけど、そのとき金融機関は危険に敏感になって、悪そうな企業からどんどんどんどんお金を引き上げていく。
引き上げられたら企業は行き詰るでしょう。だからそうならないために、内部留保をしっかりしましょうというのが日本的経営の基本にあるわけでね。これ自体、基本的には正しいんですが、内部留保をしっかりするためには、それだけ利益率の高い、税引き後利益がちゃんと残るような経営をするというところに目が行かなかった。
日本企業は、未来に対する投資が非常に弱いのではないかと思います。正直申し上げて。やっぱり安全なところを守って永続はするけど、リスクを取って高い収益率を確保しようという未来戦略の視点で高度な成長をずっと続けるっていう発想はない感じがします。

─ ジョンソン・エンド・ジョンソンをモデルに ─

私がモデルにしたのはジョンソン・エンド・ジョンソンなのです。これ調べてもらったことがあるんですけど、1980年当時1.7ドルで株が買えた。
今の株価はいくらすると思いますか? 
途中に、リーマンショックがあっても、120ドル前後ですよ。
1980年に株を買った人が、今も株を持ってたら配当率どのくらいだと思いますか?
毎年少しずつですけど、50年以上も、連続的に増配をしてるのですよ。今では、200%近い配当率になっています。年金基金の前の理事長が言ってたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンみたいな会社だったら株を預けてあとは口出しを一切しませんと。
このジョンソン・エンド・ジョンソンは日本的な経営なんですよ。
実は、松下幸之助さんと重なるところがあって。松下幸之助さんは自由競争重視の経営者でしょう。自由競争で勝つか否かの基準として、社会的責任を多く果たすほうが勝ち、利益が出て永続できる、という発想なのです。
この社会的責任をいかに果たすか、に経営の焦点を合わせているのです。社会的責任っていうのは人によって言い方が違うのですが、松下幸之助さんの場合は経営理念を重視し、その実現を図ることに社会的責任を置いているのです。元々は、いい電化製品を大量に作って、水道水のように安く日本国民全体に行き渡らすんだという発想ですよね。
そういう経営理念をいかに実現するか、これが社会的責任でしょう。そうしたら、おのずから利益が付いてくる。ただし利益は存続し発展するための条件なので、これも大事。
それをもっと徹底しているのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンなのです。同社には、「我が信条(Our Credo)」という経営理念があるのです。利害関係者を4つに分けて優先順位を付けています。この順位付けも、キャッシュフローから考えているのです。
最終的には社会的責任というのを利害関係者に対して、自分たちがどう負うのかについて、優先順位の順に、1から4までそれぞれの利害関係者に対し、「我々は……責任を負う」という風に書いてあるのです。
お客さんに対する社会的責任を負うことを書いてるのが1番目。2番目は、従業員さんを守る。3番目は、地域社会、今は世界までいってますけど、そういう社会の人たちに責任を負う。そして、最後の4番目に株主に対して責任を負うと書いています。
4番目の株主は、実は最下位なのです。普通アメリカ企業では、株主が1番なのです。そこで、その株主たちの言うことを聞きましょうっていうのが、コーポレートガバナンス・コードになっているのです。
ところが、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、株主が最下位なのです。その理由は、株主は短期的な思考だから、長期的持続的成長を求めるなら、短期的思考の株主の言うことを聞いてたら会社がおかしくなる、だから文句を言わせない、という発想にあります。その代わり、株主には、毎年増配をすれば文句言わないだろうという発想で、それを徹底してやってるんです。
これはキャッシュフローの順番で、キャッシュフロー経営なんですよ。1番目の顧客、2番目の従業員、3番目の社会の人々は、いかに多くのお金を会社に持ってくるかっていうキャッシュの入りの問題として捉えています。
その上で、キャッシュをどう使うかが4番目の問題になります。株主には配当をするのでお金が出る側の方で考える。
総括すれば、次のようになります。
1番目はお客さん。お客さんからお金もらうんですから、お客さんが一番大事ですよ。
2番目は従業員。お客さんにいかにお金を出してもらうかですが、これは従業員次第だから2番目に重要。
3番目は社会の人々。社会に支えられて、そこの信用があるからこそ、つまり、ブランドというと一番分かりやすいですけど、競争優位が築けて、多く稼げます。それで稼いで貯めたお金をどうするかになります。
すぐには、株主に来ないのですよ。一番最初は、将来への投資に使う。設備投資とか研究開発とか、新しい市場開拓みたいなことにお金を使うのです。
その上で内部留保をちゃんと貯めることになります。同社が想定しているのは、実は恐慌で、恐慌があったとしてもこの内部留保で賄えるくらいのお金を貯めるということなんです。
最後に、株主に対して利益を配当するのです。株主が喜ぶくらい利益配当できるんだから、高収益な会社だとわかります。逆に言うと高収益でないと50年連続増配などできないです。つまり、高収益にならない仕事は捨てているのだと思います。
日本にも子会社ありますよね、そこの子会社の経営者の方たちに聞いたのですが、契約きついんですよ。違法なことをやったらすぐ契約切るんです。契約通りなのです。それぐらいしっかりした会社なのです。
私は、同社について、本を書いたことがあるのです。2006年に出版した「豊潤なる企業」という本の中心的なモデルはジョンソン・エンド・ジョンソンで、同社に取材を行っているのです。
その時の社長にインタビューしたことがあります。同社の成長の源泉は何か、という質問に対し、社長の答えは、経営理念を信じる人がいるからですよ、というものでした。
会議で行き詰ると、その会議の一番の主催者が必ず「クレド(Our Credo)、つまり我が信条に戻ろう。答えは必ずそこにあるから」って言うのだそうですよ。
それで、「クレドから本当にいいアイディアが出るんですか?」と聞いたら、「出ないけど、出ることがあるんだ。これがすごいヒット商品になったりするんだ」と言うんですね。
で、宗教っぽいじゃないですか。クレド、クレドばっかり言ってるから新興宗教みたいって話したら、「その通りです、僕も最初違和感持ちましたよ」って言うのです。みんな信じてる人かって聞いたら、「いやいや。ほとんど信じてないよ」と。
「どのくらい信じてるんですか?」って聞いたら、1割から1割5分という答えでした。これが経営幹部になって、その「我が信条」を信じてる。本当にそれで行動しようとしていたら会社は良くなりますよ、と言われました。
そういうのが社会的責任論で、理想的なことを言ってるようですが、よく考えてみると正しいと思います。結局、社会に対してちゃんと責任を果たしてるところは生き延びてるし、収益も伸びるからそちらの方が高収益なのですよ。
そういう意味では社会的責任をいかに果たすかを重視する。そうするとキャッシュフロー経営が現実的なものになっていく気がします。
日本はこのキャッシュフロー経営をやってない企業も多いです。金融を前提として金を借りて成長するっていう経営が多いからです。
アメリカはキャッシュフロー経営だから、経営者の頭には税金が入ってるのですが、日本の経営者は、税金が頭に入ってなくて、税金関係が焦点になっていない財務なのです。
ところがやっと今度政府の方針で、ROEを8%にするとか言い始めたじゃないですか。外国の機関投資家がそれを見て、一定の数字に達しなかったら売る、税引き後利益が高くなったら買いに入るっていう行動を見たから、やっぱり税金を考慮に入れたキャッシュフロー経営をしないとうまくいかないよっていうので作り上げたのが今の政策なのです。
そう考えるとやっぱり税金っていうのは経営の重要な要素として入れてこその財務なのです。したがって、これから財務のチェックの段階で税務を間違いなくやってるのかをチェックする時代に入ると思います。
いずれにしても、高収益の会社をいかに作るか、このためには従業員が一生懸命働いてくれるような環境を作って、それで社会的責任を果たすっていう方向でいく方がいいでしょうというのが、答えじゃないですか。
その意味では、長時間労働問題を解決して、能率のいい、素晴らしいアイディアの出る労働環境をいかに創るかに熱意を持って取り組む必要があります。それと同時に、経営の兵糧である税金を重視する姿勢を確立する必要があります。税務と労務の双方を重視する経営でないと、永続的成長は無理じゃないですか。そう思います。

Q:今後、印紙税についてどういった活動をしていきたいですか?

印紙税法は意外と難しくて、専門家もほとんどいないのです。会社担当者がある程度やっているといっても、未だに分からないという人がほとんどでしょう。
法律の考え方の初歩から入って、難しいことができるようなるには、やっぱり検定みたいにちゃんとテストをすることが必要だと思います。その前提として、印紙税法を講義形式でやろうと思っているのです。
講義をインターネットで行って、講義が終わればテストをして、合格したら次の段階に進めるようにしたいですね。時間をかけてじっくりやれば、恐らく1年半とか2年ぐらいでプロになると思います。このようにして、本当に印紙税の実務ができる人をいかに育てるかというのが最大の課題なので、中途半端に易しくしてやると身に付かないから、検定制度を最大の目標にしています。

Q:弁護士業務の他、ご執筆やご講演など様々な活動をする上で、日頃先生が大切にされていることは何ですか?

私の弁護士としての生き方は一貫しています。それは、次のことに尽きます。
「人がやっていないことをやる」
人のやっていないことをやってきた、ということです。
これからもそういう生き方をするつもりです。そうなると、今の社会常識にないことをやろうとすることになるので、常識重視の多数派から反発があると思います。でも、その反対派も、私を支えてくれている人だと考えています。関心があるから、反発するのですから、無関心な人よりも、ありがたい存在なのです。その意味で、反対派の存在を喜ぶようにしています。
逆にいうと何も反応しない人の方が困りますね。怒るとか、反発するとか、批判するということは、私の行動に対し反応している証拠ですから嬉しい存在ですよ。それはこちらのことを正確に聞いてないし、受け取りたくないという気持ちはあるかも知れないけど、少なくとも関心は持ってるという点では非常にありがたいと思っています。
そういう反発層も含めて関心のある層をいかに増やすかが最大の課題という感じです。

Q:今までも反発されたということはあるのですか?

たくさんありますよ。
だって人のやっていないことをやるので。例えば、僕が弁護士で日本事業承継協会っていう税理士さんの会に入りました。でもそこは税理士しかいないじゃないですか。
最初は「なんで弁護士が?」という反発ですよ。それがある程度いくと、「熱心だね」という風に変わってきて、段々段々お客さんを紹介してくれる人が増えてきた。だから反発層なんですよ、実を言うと。だからそういう意味では、反発には慣れていると言えば、慣れてるのです。

Q:反発を受けたら怯んでしまいそうな気もしますが・・・

やっぱり反発を受けるのは、いやだなと思うことはあります。
例えば、私は、経営的な発想から話をするので、経営理念から話をするのですが、
法務担当者からすれば、条文でどうやってやるのかっていうことを知りたいわけじゃないですか、それが条文も話さないで何でこんなんでセミナーがあるんだ、みたいになって反発を受けたんですよね。気にしなかったのですが。
ところが、そのうちに、「先生は経営者向けの方がいいんじゃないか」って言ってくれる方がいて、他の経営者向けのセミナーをやるようになったらそこがすごく受けて、法務の話をしないで経営理念の話を喜ぶっていう、そういう層だっているんだなと思いました。
逆にいうと、そういう反発を受けたことで自分の新しい道が開けたっていうのがあるのです。何が幸いするかわからない、そういう経験を持ってますね。反発・拒絶は、逆転を生むことも多いのですよ。

Q:逆転するものなんですか?

私の人生、拒絶の人生ですから、拒絶は、全然気にもしませんしね。むしろ、拒絶の後で、逆転が起こると、素晴らしい未来が拓けていく、という経験ばかりしていますよ。
これを、私の弁護士の恩師は、「拒絶の美学」と言ってくれ、称賛してくれました。率直な実感で申し上げます。拒絶は、絶大な財宝を隠すための仮面だと思っています。
拒絶から入ることは、最高の歓迎なのですよ。時間をかけて、拒絶の仮面を取り払うと、そこには、絶大な財宝が見えてくるのです。
拒絶があったから、税理士界で著名な弁護士になりましたし、拒絶があったから、企業法務で、弁護士ランキング入りができるようになったのです。拒絶のない人生は、私には、考えられないですよ。

Q:どんな風に拒絶されたのですか?

久保利英明弁護士という名実ともに、企業法務を作り上げた功労者がいます。その方の弟子になったことで、私は企業法務弁護士として著名になったのですが、最初は、厳しい拒絶から入っている関係でした。久保利先生のセミナーには、多数回、参加していました。
私は弁護士ですから、先生からすれば、同業者です。その同業者である私が、多数回、先生が持っている専門分野の知恵を披露しているのを盗みに行っているようなものです。そこで、私は、仁義を守って謝罪に行かなきゃいかんなと思って、毎回、講義終了後に、先生に「すいません」と言いながら挨拶に行ったのだけど、本当横向かれてました。
先生としては、気分が良くなかったのだと思います。毎回、拒絶に遭っていました。
ところが、幸運にも、先生の講義の際に、私が財布を盗まれたことがきっかけで、拒絶から、一転して、そこまで熱心なのか、と思っていただけるように変わりました。
見事、180度の転換ですね。その後は、先生の弟子に変わり、先生が私の後見人になるようになるのです。ある意味で、企業法務の弁護士になれるようになったのです。
拒絶した人の方が、力がある人だからすごい大きなチャンスをくれるのです。
拒絶する人は結局、調子良く合わせるなんてことしないで、自分の信念を持ってるような人です。そういう人のところに受け入れられるってことはすごく大きいんですよ。その人の周りにはほんとにすごい人がたくさんいるのですから。そこも紹介してもらえるのです。
そういう意味で、私は、拒絶は大歓迎ですね。だから「税務調査士」とか「労務調査士」とかやったんですけど、やっぱり「何で弁護士がそんなことやるんだ、金儲けか」みたいに言われるんです。「そうですよ」とは言ってるんですけど(笑)反発したってしょうがないから。これも、拒絶ですが、この仮面が取り払われる時期はこれから来ると信じていますので、それを楽しみにしています。拒絶は、あとで逆にプラスに転じるだろうっていう思い込みがあるんです。拒絶は大チャンスという確信犯だというわけです。

(2016年10月インタビュー)

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