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企業法務2022年04月27日 デジタルプラットフォーム取引透明化法の制定 ~特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律~   令和2年6月3日公布 法律第38号 法案の解説と国会審議 執筆者:木村歩

1.法案の提出と成立

 近年の情報通信技術の発達などにより、いわゆるオンラインモールやアプリストアなどのデジタルプラットフォームは、日常生活において広く一般的なものとして浸透してきている。一方で、公正取引委員会の実態調査などから、規約の変更、取引拒絶の理由、データの利用等について不透明さがあり、取引先の予見可能性が極めて低くなっているという問題や、取引先の意見に対する手続や体制が不十分であるなどの手続面での公正さに関する問題があるとされ、こうした問題が、公正な競争を阻害する行為の原因ともなっているとの課題も見えてきたところであった。
 令和元年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、データ市場のルール整備を図ることが示され、これを受け、同年9月に「デジタル市場競争本部」及び「デジタル市場競争会議」が設置された。同会議においては、有識者からの意見聴取等を経て、同年12月に「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)の方向性」が示された。
 この“方向性”については、パブリックコメントを経た後、令和2年の通常国会に法案が提出され(第201回国会閣法第23号)、衆・参の審議を経て、第201回国会中のうちに原案どおり可決され、成立した。

2.法律の概要

【基本理念】
〇 デジタルプラットフォーム提供者が透明性及び公正性の向上のための取組を自主的かつ積極的に行うことを基本とし、国の関与や規制は必要最小限のものとすることを規定。
※ 規制の大枠を法律で定めつつ、詳細を事業者の自主的取組に委ねる「共同規制」の規制手法を採用。
【規制の対象】
〇 デジタルプラットフォームのうち、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象とする。
【特定デジタルプラットフォーム提供者の役割】
〇 特定デジタルプラットフォーム提供者が、取引条件等の情報の開示及び自主的な手続・体制の整備を行い、実施した措置や事業の概要について、毎年度、自己評価を付した報告書を提出。
※ 利用者に対する取引条件変更時の事前通知や苦情・紛争処理のための自主的な体制整備などを義務付け。
【行政庁の役割】
〇 報告書等をもとにプラットフォームの運営状況のレビューを行い、報告書の概要とともに評価の結果を公表。その際、取引先事業者や消費者、学識者等の意見も聴取し、関係者間での課題共有や相互理解を促す。
〇 独占禁止法違反のおそれがあると認められる事案を把握した場合、経済産業大臣は公正取引委員会に対し、同法に基づく対処を要請。
※ 本法律の規律は内外の別を問わず適用。海外事業者にも適用が行われている独禁法の例等も参考に、公示送達の手続を整備。

3.国会論議の概要

 ここでは、国会での委員会審議の中から今後の解釈運用・将来的な制度改正に関わり得る主な質疑を幾つか紹介することとしたい。なお、紹介する質問と答弁(担当大臣、経済産業省職員の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。
【総論】
○ 共同規制の手法を採用する理由について
→ 共同規制とは、規律の大まかな枠組みを政府が示しながら、事業者も自主的な取組を一定程度委ねながら、規制の目的を達成するというもので、EUや米国など海外でもこのデジタルの分野で導入をされている。
→ デジタルプラットフォームというビジネスモデルそのものがまだ新しく日進月歩のもので、その知見・情報は圧倒的にデジタルプラットフォームを運営している事業者が持っており、イノベーションを起こしている側に情報が集中している。まずは、政府が一方的にルールを画一的に決めるのではなく、事業者側から情報を出しながら、自分たちの取組を明示していくというやり方が必要。まさに自主性を尊重するということが必要というのが一面。
  他方、特定デジタルプラットフォームとして指定されるような業態においては、物によっては、例えば独占禁止法の措置請求につながっていくようなものもあるため、一定の事前規制が必要で、条件の開示、取引条件の開示を求めることによって透明性、公正性を高めることも必要。
  まずは事業者に自主的に行っていただきながら、最低限の関与、規律とすることによって、イノベーションと取引の公正性、透明性の確保の両立を図りたい。
○ 事前規制を導入する理由について
→ デジタルプラットフォームの公正かつ自由な競争を実現するためには、独占禁止法で対処すべき問題、つまり、優越的な地位を濫用したような事態に対応するといういわゆる事後規制に加えて、規約の変更や取引拒絶の理由の開示などについて不透明さがある点が指摘されていることから、これは事後的には対応できない・しにくい問題であるということで、取引の透明性や公正性の問題についても、事前規制として対応すべきだという判断に至った。
【規律の対象】
○ 規律の対象についての考え方について
→ なぜデジタルプラットフォームという業態に着目して透明性や公正性を高める必要があるのかについては、デジタルプラットフォームはいわゆるネットワーク効果が働きやすい、つまり多くの人が使えば使うほど便利になるため、一旦大きくなり始めるとどんどん大きくなるということがあり、結果として、それを利用する者から見ると、今利用しているデジタルプラットフォーム以外に切り替えることが非常に難しいという、いわゆるロックインのような効果が働いているというのが大きな背景にある。
  こうした背景から、特定デジタルプラットフォームとして指定をして規律を導入するものについては、このようなことが性格上存在して、かつ、それが実態で確認されていることが必要。
○ 規律の対象とするデジタルプラットフォームについて
→ 当面は、公正取引委員会等による実態調査で取引実態上の課題が明らかとなっている大規模なオンラインモールやアプリストアを対象とする。
○ いわゆるギグワーカー(※)が対象かどうかについて
→ 仕事と個人のマッチングを行うデジタルプラットフォームを対象とすることは予定していない。
 (※)インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負う形で働く個人
○ 海外のデジタルプラットフォーム提供者が対象かどうかについて
→ 本法案は、日本市場における取引の保護を目的としているものであるため、日本市場向けにデジタルプラットフォームを提供している事業者であれば、その所在地が国内であるか国外かを問わず、内外無差別で適用される。
○ 海外のデジタルプラットフォーム提供者に対する法執行の実効性について
→ 情報開示義務違反に対する措置命令や報告徴収命令について公示送達の規定、すなわち海外に所在をしていても法的に有効ならしめるための規定を設け、国外の事業者に対しても法執行を可能としている。
○ デジタルプラットフォーム自体の提供者は外国法人で、日本法人はその委託を受けて一部事業を切り出している場合、行政に対して直接的に義務を負うのは誰かについて
→ この法案では実質主義を重視。日本国内の出店者と利用者をつなぐ場を提供しているものであれば、外国法人が提供しているのか、日本の法人が提供しているのか、その国内外を問わず、サービスを提供する主体を全て捉えて規律の対象としている。
  例えば、特定デジタルプラットフォームの提供を外国法人と日本の法人で一部ずつ分担するような形態については、両者を義務の対象とする。
○ 国内代理人の選任の義務付けについて
→ 国内代理人の選任を義務付けることにすると、海外の事業者に対する命令等の行政処分は国外の本社に対してではなく、常にこの国内代理人に対して行うことになると理解。
  他方、グローバルに運営されるデジタルプラットフォームの取引慣行の是正を求めるためには、サービスの提供主体である国外の本社を命令等の直接の相手とすることが適切であると考えられ、また、同じく公正かつ自由な競争の促進を目的とする独占禁止法においても同様の仕組みが取られていることなどから、本法案では、国内代理人の選任を義務付けるのではなく、国外の事業者に対して命令等の処分を直接行うための方法である公示送達の規定を置くこととしている。
○ 直販の形式のものは対象かどうかについて
→ 直接的にその消費者に対して自らが在庫のリスクを抱えて提供するようないわゆる直販の形式については、基本的には業態としては、例えばスーパーマーケットのような既存の小売業者と業態としては変わらないという観点から、本法案に言うデジタルプラットフォームには含まれていない。
  ただ、形式上直販の形を取っている場合でも、例えば取引先事業者から委託を受けて、実質上、多面市場を形成しているようなものについてはデジタルプラットフォームに当たる。
  また、デジタルプラットフォームに直接当たらない直販形式を採用しているような場合であっても、例えば同じ事業者が、直販と多面市場を両方兼ねた市場を運営される場合に、両面市場で得た販売データを直販に使っているようなときは、この法案に基づいて、データの内容や取得、使用の条件をその直販の部分も含めて取引先事業者に開示する必要がある。
○ デジタル広告市場を規律の対象とすることについて
→ 検索やSNSを使い、なおかつデジタル広告というのをその上で展開しているようなものをどう捉えるかに関しては、検索やSNS自体については、本法案のデジタルプラットフォームの一般的な定義に入っている。
  その理解の下で、それらについて取引実態がどうなっているかということについては、公正取引委員会による実態調査などが行われているところであり、今まさにデジタル市場競争会議において競争状況の評価のための検討が行われているところ。
【「特定」でないデジタルプラットフォーム提供者について】
○ 「特定」でないデジタルプラットフォームの提供者について
→ 特定デジタルプラットフォーム事業者の積極的な取組をいわばベストプラクティスとして評価し、公表することも想定しており、そうしたベストプラクティスを参考としながら、直接的に罰則付きの規律のようなものの対象とならないような小規模なデジタルプラットフォーム事業者も含めて、自発的に取引の透明化や公正化のための取組が行われるようになることは大変望ましい。
【情報の開示】
○ 検索順位の表示に関する透明性の確保について
→ 本法案では、特定デジタルプラットフォーム提供者に対して、検索等によって商品等の情報に順位を付けて表示する場合には、その順位を決定するために用いられる主要な事項、要するに、主にどういう要素でその検索順位が決まるのかということについて情報開示を求めている。
  この違反に対しては、勧告や命令あるいは公表といった行政措置を定めている。
○ 手数料の設定について
→ 一般論として、民間企業がその自らのサービスの内容や料金を決めることそのものは自由であるため、手数料の設定自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない旨が公正取引委員会の実態調査の報告書にも記載されている。
  本法案でも、例えば手数料の額、率、そのものについて一律に規律を及ぼすことは適切ではないと考えており、そうした事項は含まれていない。
  他方で、デジタルプラットフォームの取引の透明性や公正性を確保する観点から、手数料などのサービスの提供条件が分かりやすく示されることは重要である。したがって、法案では、手数料を含む特定デジタルプラットフォームの提供条件について、その条件を変更する場合、簡単に言えば手数料や手数料率を引き上げる場合については事前通知が必要である、あるいはその開示方法について規定を設けている。
  そのほか、例えば、決済サービスなどのその事業者が提供している別のサービスを有償で使うことを要求する場合については、その決済サービスのような有償サービスの内容、また、なぜそれを利用しなければならないかという理由を開示することを求めている。
○ 開示の具体的な時期等について
→ 本法案では、行うべき開示の内容だけではなく、その方法あるいはタイミングについても規定を行うということにしている。特に、例えば契約にない作業の要請や、デジタルプラットフォームの事業の提供の一部の拒絶といった行為については、取引先事業者の利益を損なうおそれがあるため、その行為を行うときまで、例えば一部の拒絶をするのであれば、そのときまでにその内容と、それがなぜなのかという理由を開示することを求めるということにしている。
  さらに、契約の変更や、提供の全部の拒絶、つまり取引を全体として全く中断してしまうといったような行為については、特にその取引先事業者に与える影響が大きいということから、その内容及びその判断に至った理由を、行為を行う日より一定期間前までに開示することを義務付け、その期間については下位法令で定めることとしている。
【禁止事項】
○ “方向性”にあった禁止事項が規定されていない理由について
→ 特定の行為を禁止する規定は、デジタル市場競争会議において法案の検討内容に盛り込んでいたところであるが、法案の概要について意見公募をしたところ、イノベーションの阻害の懸念、独占禁止法執行との二重行政の懸念といった理由から、特定の行為の禁止規定を設けることについては強い懸念の声が寄せられた。これを受け、ワーキンググループ等での議論を踏まえ、デジタル市場競争会議において、特定の行為の禁止規定は設けないことを決定。
【公正取引委員会への措置要求】
○ 公正取引委員会への措置要求の例について
→ 参考例として、建設業法第42条に「公正取引委員会への措置請求等」という規定があり、国土交通大臣が公正取引委員会への措置の請求できる旨が規定されている。なお、これまで建設大臣・国土交通大臣がこの措置請求を行った事例はない。
○ 公正取引委員会への措置要求の具体的な体制等について
→ デジタルプラットフォームという業態は、そのこと自身が非常に新しいものであり、また、そのようなデジタルプラットフォームについて調査・監視し、本法案を執行するためには、専門性のある人員が必要。
  経済産業省では、商務情報政策局の下に既にデジタル取引環境整備室があり、また、法案が成立し施行された暁には、予算措置なども活用・充実をして、デジタル技術に詳しい人材や独占禁止法の運用に詳しい弁護士などの専門的な知見を有する外部人材を任用し、さらに、デジタルプラットフォームの取引先事業者の意見の窓口を設置。国際的な連携も必要なため、EU当局との執行に関する知見の交換などを取り上げる予定。
  公正取引委員会においても、本法案あるいはデジタルプラットフォームに関連する部署が設けられる予定。
【罰金など】
○ 違反への抑止の効果について
→ 本法案では、特定デジタルプラットフォーム事業者が取引条件等の開示義務違反に対する措置命令に従わなかった場合など、罰金を科すこととしている。
  他方で、罰金だけでなく、デジタルプラットフォームの運営状況を評価、公表する仕組みや、公正取引委員会に対処を要請する仕組みを設けており、これらのさまざまな措置を組み合わせて、総合的に法案の抑止効果を担保していると考えている。
【評価・モニタリング】
○ デジタルプラットフォームを利用している中小企業の懸念をどう集約し、評価するかについて
→ 取引状況の評価の運用に当たっては、中小企業やベンチャーの関係団体に対してヒアリングを行うなど、バランスの取れた評価、中小企業などの意見も踏まえた評価を行う。
  それに加えて、定期的な評価のヒアリング以外にも、例えば特定デジタルプラットフォーム事業者による違反行為の疑いがある場合には、それを知った取引先事業者の側から随時経済産業大臣に対してその事実を申し出ることができる旨を規定。その際、その情報を提供した事業者に対して特定デジタルプラットフォーム事業者が不利益な取扱いを禁止する旨も規定。
  このような各種の措置を通じて、現場のビジネスの実態や課題を最も把握している中小企業などの意見を十分に吸い上げ、この法案の運用を図る。

4.その後について

本法は、2021年2月1日に施行された。規制対象となる事業区分や規模は政令において定められており、大規模なオンラインモールとアプリストアが対象となっている。同年4月1日には、それぞれについて具体的な事業者の指定が行われた。
法案の国会審議において指摘があったデジタル広告市場については、2021年4月27日にデジタル競争会議が「デジタル広告市場の競争評価最終報告」を公表し、デジタル広告を本法の規制対象に追加するなど必要なルール整備を進める方針が示されている。
また、法案の可決の際、衆・参の経済産業委員会においてなされた附帯決議には、本法に基づき経済産業大臣が特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価を行うに当たっては、関係者の意見を聴いて利用者の保護を図ること等が盛り込まれていた。この点については、2021年12月24日に、当該評価に向けて、「デジタルプラットフォーム透明性・公正性に関するモニタリング会合」の初回会合が開催されている。
今後、これらの動きについても注目される。
(2022年4月執筆)
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