カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

相続・遺言2019年12月19日 民事信託こぼれ話 第2話(前編) 金融機関から見た信託口口座開設の論点 民事信託特集 執筆者:澁井和夫

 民事信託の実績が増えるにしたがって、信託財産の管理上必要になる預金口座(信託口口座)の開設について、金融機関の対応がまちまちであることが話題になっています。
 本稿では、あくまで私見であることを前提として、信託口口座開設をめぐる問題について記述したいと思います。

1.預金保険の取扱い

 信託口口開設の要件について、これを取り扱う金融機関の見解はいろいろであり、金融機関共通の統一された事務基準はありません。
 ただし、預金保険の取扱いにおいては、預金者の名義を拠り所として名寄せが行われるので、信託受託者として開設する預金口座は、口座名義人の固有の口座と名寄せされる点はどの金融機関にも共通した取扱いです。要するに、ヒトで管理するので、信託受託者の信託口口座も固有の口座も同一人の名義の口座なので、分別して2人分とはせず、あくまで1人分として把握されます。先ず、この点を記述します。
 
 例えば、民事信託で、親(以下「甲」とする。)の金銭1千万円を息子(以下「乙」とする。)が信託財産として引き受けて、「信託受託者 乙」の名義で、乙が日頃から取引のあるA銀行に開設した信託口普通預金に入金するとします。
この時、乙は、自分の固有の財産として、A銀行の普通預金口座に5百万円の残高があったとすると、「信託受託者 乙」口座の1千万円と乙の固有の口座の5百万円は名寄せされ、預金保険の取扱い上、乙の普通預金1千5百万円と認識されることになります。
 
 細かいことは省くとして、預金保険は、預金者を保護するための保険で、保険料はA銀行が負担して、乙名義につき1千万円まで、万一A銀行が破綻した場合に保険適用により、払出しに応じる制度です。
 つまり、このケースの場合、「信託受託者 乙」名義と乙名義の合計1千5百万円の預金について、5百万円はそっくり返還されるかどうか極めて不透明であり、実損が生じるおそれが大きいことになります。
 もしも実損が生じた場合、これを信託財産が負担するのか、乙の固有の財産で負担するのか、争点になるおそれがあります。
 信託法上、信託受託者には善管注意義務がありますので、このような事態が生じた場合、過失責任は免れないかもしれません。
 信託財産は、ご存じのとおり、独立性を有し、委託者から信託された後は委託者のモノではなくなり、と言って、受託者は他人の財産を引き受けているのですから、受託者のモノでもなく、受益者は受託者に対し信託債権を有していますが、信託財産そのものは受益者のモノでもないのです。
 しかし、信託財産を取り扱う様々な実務の中で、ともかく信託財産を「誰かのモノ」として認識しないと物事が進まなくなりますから、それぞれの分野で、いわば「割切り」をして取り扱うことになります。預金保険の取扱いもそのひとつと言ってよいでしょう。

 では、上掲のケースで、信託口預金が全額保護される方法はあるのでしょうか。預金保険に詳しい方なら、その方法をご存じでしょう。全額保護される方法はあります。それは、「全額保護されることが認められている預金」である「決済用預金」口座として設定する方法です。「決済用預金」とは、次のすべてを満たす預金です。
①決済サービスを提供できる。
②預金者が払戻しをいつでも請求できる。
③利息が付かない。
 「当座預金」、「利息のつかない普通預金」などが「決済用預金」に該当します。信託口口座の預金を、これらの種類で開設すれば、預金は全額保護されます。

 それでは、世田谷信用金庫では民事信託の信託口口座を設定する場合、「決済用預金」とすることを要件としているかと言うと、していません。現在の金融経済環境下においては、普通預金口座による開設に応じています。これは、実務的な取扱いの便宜性を考えれば、お客様にもっとも馴染みのある普通預金でよいと考えているからです。

 ただし、信託受託者の信託財産管理に関するコンプライアンスを第一義とした場合、信託受託者の立場からすると、ほんのわずかかもしれませんが、ゼロとは断言できない金融機関破綻によるリスクを信託当初から回避するため、利息は付かないが、決済用預金による口座開設をすべきだとの考え方もあると思われます。これは、信託財産の保護の観点が最も重要ですが、最終的な実損負担が信託受託者の固有の財産にも及ぶリスクを回避する観点もあります。

 いずれにしても、預金保険の取扱いについて、信託口普通預金口座と受託者固有の預金口座は名寄せされる取扱いであることは、金融機関としても説明すべきでしょう。
 また、信託受託者の信託財産管理上、信託契約の条文の中で、信託口の開設手続に具体的に触れて記載しておくこともよいかもしれません。信託契約では、信託財産の分別管理の方法について規定するのが一般的ですから、そこで具体的に記載する方法もあると思われます。

【参考】信託法の関連条文
(受託者の注意義務)
第29条 受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない。
 2  受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良なる管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。

 次回は、「信託口であることを金融機関に告げずに口座開設した場合」の留意点、「信託口口開設時の金融機関の関心事」について解説します。

(2019年12月執筆)

執筆者

澁井 和夫しぶい かずお

世田谷信用金庫常勤顧問

略歴・経歴

三井信託銀行(株)(現・三井住友信託銀行(株))入社後、不動産開発部長兼不動産鑑定部長を最後に退社、その後㈱鑑定法人エイ・スクエアを設立し、取締役副社長を務め、(社)日本不動産鑑定協会(現公益法人日本不動産鑑定士協会連合会)主任研究員を経て、世田谷信用金庫常勤顧問に至る。 世田谷信用金庫では、2007年6月のコンサルティング・プラザ玉川(最寄駅:東急田園都市線「二子玉川駅」)開設を機に、信託・不動産に精通するスタッフを投入して、高齢者の不動産を主とした資産の管理に、信託スキームを提案するコンサルティング業務を手がけるなど、金融界における民事信託の先駆者でもある。
不動産鑑定士、資産評価政策学会理事。

執筆者の記事

この記事に関連するキーワード

関連カテゴリから探す

  • 書籍以外の商品
  • 法苑
  • 裁判官検索