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民事2021年12月10日 特別対談企画 生活の知恵としての信託
「信託をしてもしなくても大切で必要な事」とは-不動産管理・仲介会社のあり方を通して考える(中編)- 生活の知恵としての信託 対談者:桜木良平 藤本学 江口尚輝 蓮把孝治 内山真太郎 二宮政文 石垣雄一郎

西鉄不動産株式会社
 代表取締役社長 桜木良平
 賃貸事業部長 藤本学
 賃貸事業部 営業課長 江口尚輝
 賃貸事業部 管理課長 蓮把孝治
 賃貸事業部 管理課 受託担当係長 内山真太郎
 賃貸事業部 管理課 第1ユニット主任 二宮政文
信託ナビゲーター・税理士 石垣雄一郎

 以下、前編(https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1770072/)に続き、本稿では「不動産管理・仲介会社」のあり方を通して「信託をしてもしなくても大切で必要な事」の中編をお届けします。ここでは受託者が信託をするときに信託法28条1号に定める第三者(本稿では不動産管理・仲介会社)に対し、どのような信託事務の処理(本稿では不動産管理・仲介業務)を期待し得るかという問題意識をもって対談を進めます。

12 不動産価値を損なっていたケース

石垣 管理業務受注後、築年数の新しい物件でありながら、それまでの管理に問題があり、不動産価値を損なっていたようなケースがありましたら、ご紹介していただけますか?

ケース①遠隔地在住のオーナーの目が届いていなかったケース
二宮 はい。オーナーは遠隔地在住のため、あまり物件を見ることができず、前任の管理会社からの月次管理レポートだけでは十分な現状把握ができなかったケースをご紹介します。次のような新築物件について、管理業務受託後、定期巡回による現地確認と、聞き取り調査でわかったことがありました。

【物件特性】
 ・地下鉄、JRのダブルアクセスで都心へのアクセスが良好
 ・周辺は大学、大学病院、県庁、県警、大手飲料メーカー、ガス会社、物流倉庫等が存在する風情のある街並み
 ・構造・間取:鉄筋コンクリート5階建 各戸1LDK
 ・築年数が浅く、デザイン性に優れスタイリッシュな印象
 ・南北両面バルコニーがあり内廊下
 ・平置の駐車場有
 ・エレベーター有、オートロック有、宅配ボックス有
 ・屋内バイク置場がある

石垣 立地条件の良好な新築物件のようですが、現地の調査で何がわかったのでしょうか?

二宮 現地確認を行い、ヒアリングを実施したところ、入居者の不安や不満をもたらす次のような状況であることがわかりました。

【最初の巡回でわかったこと】
 ・共用階段での喫煙や建物内外・隣接地へのタバコのポイ捨て
 ・バイク置き場の私物化(
 ・宅配ボックスが利用出来ない状態(下記【ひと口メモ➁】参照)
 ・道を隔てた神社からの落ち葉、花粉による汚損、多数のカラスの存在
 ・ゴミ出しのマナー違反

 バイク置場に無断でバイク以外のタイヤや段ボールなどを用途とは違う使い方をしていた。

二宮 管理が始まってみると、短期間のうちに、入居者満足度の低下によるものと考えられる解約が目立ち、当社が行っている解約時アンケートにもマナー違反に関する指摘が出始めたことで、実際にこれらの問題が解約に繋がっていることが明らかとなりました。

【ひと口メモ➁】最近の宅配ボックス事情
   最近は宅配ニーズの高まりからボックス数以上の荷物が配達され、満杯状態になっており、ボックス数がニーズに追いついていないところがあります。ボックス数が足りなくなる原因には、入居者の手違いによりロックをかけたままボックスを閉めてしまうこともありますし、入居者がボックスを物置代わりに使うマナー違反によるものもあります。いずれにしても、トラブルの原因となり、入居者の住環境に影響することでもありますので、今や管理会社にとっては巡回時の重要な点検項目となっています。
【具体的改善の取り組み】
 ・喫煙マナーの注意喚起(複数回実施)
 ・清掃会社との連携によるマナー違反者の情報取得
 ・巡回の頻度を高め、随時タバコの吸い殻の回収と清掃の実施
 ・バイク置き場の私物化に対する入居者への注意喚起(注)(複数回実施)
 ・宅配ボックスの利用チェック(小さな小窓から利用状況を随時確認)
 ・枯れ葉が落ちる時期を考慮し、季節に応じた細かな清掃内容の指示、実施

 この場合の注意喚起とは、掲示板への注意文の掲示や敷地内該当エリアや物に張り紙を行う。入居者が特定されているときは、直接連絡を入れることをいう。

【改善結果】
 注意喚起を続けた結果、いずれも自主的に退去されたことでタバコの吸い殻が無くなり、バイク置き場の私物化も改善された。

【今後について】
 ・当社スタッフの巡回および清掃会社との連携強化により、小さな異変を見逃さずに、共有、改善を行う。
 ・解約理由や入居中の要望についてのヒアリングを行い、入居者満足向上に努め、一定の入居年数を確保できるよう努める。
 ・近隣に競合物件が多いため、常に競合物件を調査、把握し的確な募集提案に生かす。
 ・利用頻度の低いバイク置場については、有効活用策としてシェアサイクル等の提案を行う。

二宮 上記ケース①に関連して、入居希望者に、物件の顔とも言えるエントランスを含め共用部が汚れ、古い掲示物が残され、郵便物が散乱し、適切な修繕がなされていない建物をご案内することがあります。こうした建物では入居者が決まりにくく、退去者も出やすくなります。入居率を高めるにあたって、共用部の美観の維持がされていなければ入居希望者の案内時の印象で候補物件からはずされてしまうおそれがあります。入居者が共同で利用する宅配ボックス、駐輪場などの使い方については不満が生じやすく、改善の徹底が図りにくい難しさがあります。そのため、管理会社が早期発見により掲示文等により改善を促すことで入居者との信頼関係を構築できれば、早期解約の防止に繋がります。アンケートや聞き取り調査を実施することで入居者からの声を集約しオーナーと共有することで満足が低下している部分をピンポイントで改善することができます。入居者のマナー違反が起きた場合は、管理会社が率先して解決を図ることが大切です。事実関係を確認したうえで直接注意を行うなど管理会社がしっかりとした対応をしませんと、入居者間同士のトラブルに発展する場合や、オーナーに直接不満をぶつけることになる場合が生じるからです。騒音、ごみ出し、駐輪マナーなど共同生活にかかわるルールをしっかり作り、きちんと守れる入居者のいる物件にすることが私たちの仕事です。

石垣 上記【改善結果】に至るプロセスの中に地道なプロの仕事(※12)があるようです。ケース①のオーナーは遠隔地在住とのことですが、反対にオーナーは地元在住で子どもは遠隔地に居住していることがあるかもしれません。そうした親子が信託(遠隔地の子どもが受託者となる信託)をするときに、どのような不動産管理・仲介会社に依頼すべきかのヒントになるようなケースです。よろしければ、この他に不動産価値を損なっていたケースもご紹介していただけますか?

※12 個人的な印象ですが、不動産管理・仲介会社は専門家として「善管注意義務をどう捉え、履行すべきか」を常に自問自答し、提供する業務品質をより高い水準で均質化させようとする意志をもっているかどうかでその行動、そして、もたらす成果に大きな違いが顕れているように思います(例えば前編3①参照)。
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1770072/

二宮 その他は、例えば次のケース➁からケース⑤までのようなケースをあげることができます。

ケース➁法定要件を欠いたケース
 法定点検の未実施や指摘箇所の放置、違法な増改修など法定要件を欠いた場合は不動産の価値を落とす要因となります。消防設備点検の指摘箇所を放置した結果、避難ハッチ、放水口格納箱の改修が後手に回っていました。建物を適法な状態に保つことはオーナーの義務ですが、オーナーは売買の仲介をした前管理会社からこの事実を知らされていませんでした。もしこのケースで人身事故が起きていたら、いくら立地がよく満室稼働でも大きく価値を落としていたことになります。

ケース③計画的に修繕が行われていないケース
 日頃より保全が出来ている建物とそうでない建物では不動産の価値に大きな差が生じます。また、修繕履歴の有無や計画修繕は売却など第三者に引き継ぐ際に大きな安心感を与え価値を生み出します。逆に、目先の費用を渋って劣化が進んでしまい、後々多額の修繕費用がかかってしまう場合もあります。修繕工事を行ってもその工事費用全てが売買価格に転嫁できるとは限りませんが、建物を社会資本と考え、環境への配慮等SDGsの観点からも計画的な修繕が必要です。築年数の経過と共に修繕費用が多くなり収支を圧迫します。あらかじめ賃料の一部を長期修繕計画に従い計画的に積立てることが大事です。

ケース④入居者満足が低下するケース
 賃貸物件の運営にあたっては、入居者満足が不動産価値に大きな影響を与えるため、日頃より入居者の声に真摯に耳を傾け対応することが大事になります。違法駐車・駐輪、ペット飼育のマナー違反、共用部への私物の放置、騒音、異臭、ゴミ出しマナー違反などは日常的に発生する可能性があります。小さな不満がやがて退去に繋がるため、管理会社には入居者が安心して相談できる窓口が必要です。

ケース⑤相場感と乖離した家賃設定がなされているケース
 新たに購入された入居者付きの賃貸不動産のレントロールを見ると相場より高くなっていることがあります。本来は相場に置き換えた賃料収入で計算した投資利回りで考慮した購入をすべきです。しかし、実際には現実の高い賃料収入に基づき購入してしまったケースがあります。購入にあたってはマーケットを十分に把握し、相場に相応した適切な賃料による購入・運営をめざすことが適切な不動産価値を生み出すためには必要です
 特に新築プレミアム(築5年程度)時は高い賃料水準で運営することはできますが、競合物件の存在、設備の劣化などにより徐々に賃料は下がっていくことに注意しなければなりません。

江口 今後はオーナーの高齢化が進み、賃貸経営へ思うように関与できなくなるなど、判断が遅れオーナーリスクが高まる案件が増加してくることになり、新たに信託を当社提案の選択肢に入れておく必要性を感じています。

石垣 信託契約を締結するに際して「受託者となるべき者」(※13)は、信託前に上記①から④のように信託財産となる不動産の状況を把握し、信託後に実施しなければならない事項を明確にしておく必要があります(to-doの明確化)。この観点からすると不動産関係の専門家には信託前に「受託者となるべき者」を支援するコンサルティング業務の実施機会があるものと思われます。

※13 受託者は、信託契約締結前は「受託者となるべき者」といい、委託者は「委託者となるべき者」といいます(信託法4条1項参照)。なお、受益者は「受益者となるべき者」(信託法88条1項)といいます。
江口 尚輝
賃貸事業部 営業課長
2008年 西鉄不動産株式会社 入社
     前職は司法書士事務所勤務、西鉄不動産入社後は賃貸管理・賃貸仲介を経験し現職

13 オーナーの意向によってもたらされる管理物件の問題点

石垣 御社が管理業務を受注後、管理物件の問題点を把握し、オーナーに対して改善提案を実施しても、オーナーに何らかの事情や理由があって、その提案を受け入れてもらえないことがあるのではないでしょうか。その中から、教訓とすべきケースがあれば、教えていただけますか?

蓮把 はい。では、次の4つのケースをご紹介させていただきます。

ケース①工事の先延ばし1
 屋上防水工事の提案を行ったが、費用がかかることから実施が先延ばしになり、集中豪雨が発生した際に、複数住戸で雨漏りが発生し被害が拡大してしまった。

ケース②工事の先延ばし2
 搭屋部分のエレベーター機械室の扉、枠の塗装を提案していたが、長期間、実施の意思決定をいただけず、開閉できなくなるくらい腐食が進んでしまった。その結果、三方枠と扉を交換せざるを得なくなり、高額な修繕費を負担しなければならなくなった。

ケース③火災保険の未加入
 オーナーの火災保険が無保険となっているため、火災保険の加入を提案していたが、加入の判断をいただけず、未加入の状態が続いていた。そんな中、漏水事故が発生し、オーナー個人で賠償すべき費用負担が大きくなった。

ケース④空室期間が長期化したケース
 空室募集時に、当社が提案した募集家賃ではなく、オーナーが希望する高めの家賃で募集を続けた結果、空室期間が1年以上にわたった。当社が提案した募集家賃に変更してからは、3週間ほどで変更対象の空室4戸全てに対し申込が入った(うち1戸が1年3カ月の空室)。立地条件、物件の築年数・設備等に照らして相場に合わせた家賃設定ができていなかったことで、空室期間が長引き、結果的にオーナーの収入に大きな影響が出てしまった。

石垣 上記のような課題を抱えたオーナーは、全国に少なからずいるはずです(※14)。民事信託を実施できる条件が整っているオーナーであれば、「受託者となるべき者」(例えば子)の登場により、問題が発生する前に解決を図る道が開ける可能性があるものと思われます。

※14 不動産管理・仲介会社の顧客であるオーナーが高齢化し、物件が老朽化している場合の信託の導入法については拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース③P115参照
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

14 需給動向の調べ方・役立て方

石垣 不動産市場における入居者の動向は顧客(オーナー)の判断や意思決定に欠かせない情報です。御社はこの情報をどのように把握されるのですか?

二宮 最新の情報は、お部屋探しを行う賃貸斡旋の部署(賃貸仲介店舗)から入居者ニーズを細かくヒアリングします。斡旋部署の担当者は常に入居希望者と接しているため、世代や性別毎の各顧客(入居希望者)が好むエリア、家賃、間取り、設備等に関する最新の情報を持っています。この情報に、管理物件での入居者アンケートや解約時のアンケートの情報を加えます。そして、これらの情報を総合して、入居者が居住環境に快適性を感じられるよう内装・設備工事等の内容を検討し、費用対効果が見込めるようにしてオーナーに提案をしています。この情報を設備工事・更新、内装・デザイン、新築、リノベーション等に役立てます。

石垣 仲介部門と管理部門がもつ市場の情報収集機能とフィードバック機能をしっかりと生かし、オーナーの不動産経営に役立とうとする会社の姿勢が伝わってきます。ところで、需給動向に合わせて募集賃料を高い方へ変更することはあるのですか?

二宮 はい、あります。需給状況を賃料に反映させ、相場形成に努めます。特に繁忙期は入居希望者が多く、1週間単位で状況が変化しますので、当社賃貸仲介店舗と連携をとって状況把握に努め、単に空室を埋めるというだけでなく、市場動向に合わせ、適切な賃料で入居していただくことを心がけています

石垣 その方法に賛同します。なぜならば、賃貸不動産は、市場性のある「商品」であり、貸すにしても、売るにしても、日常から市場性のある「商品」に仕立てる取り組みをする必要があるからです。

15 募集賃料の設定根拠と募集方法

① 募集賃料の設定根拠
石垣 募集賃料の設定には一定の合理的根拠が必要かと思われます。御社では、管理物件と自社物件の募集賃料は、どのような根拠に基いて導き出されているのですか?

二宮 当社では住居系不動産市場の情報源として管理物件、所有物件(※15)、そして、当社賃貸仲介店舗(入居者向け店舗)の3つがあります。当社が募集賃料を設定するときは、この3つの情報源を活用します。直近の市場の動きは、入居者向けに対面営業をして、最前線で様々な情報にふれる機会が多い賃貸仲介店舗に担当者がおりますので、そこで聞き取りをして、必要な情報を収集します。

石垣 ネット情報だけではわからない生きた情報を活用して募集賃料の設定をされていることがわかります。

※15 当社は福岡市内の中心地や西鉄大牟田線沿線の各所に、区分所有マンション(再販用)、賃貸マンション、賃貸アパート、自立支援型高齢者向け賃貸住宅、テナント用物件、戸建、立体駐車場・月極駐車場・寮等を所有しています。直近は主に所有資産への設備投資に注力しています。ここから得られる安定的収益が会社の経営基盤を支えています。

② 募集方法
石垣 御社の入居者募集方法を教えていただけますか?

二宮 入居者を募集する場合(※16)(下記【ひと口メモ③】参照)は、当社の賃貸仲介店舗だけの募集は行わず、不動産会社間のネットワークを活用し、1日でも早い成約を目指します。当社が直接入居者の仲介業務をする場合は、法人からの依頼が多いのが特徴です。安定して入居者の紹介ができるよう法人との提携には注力しております。

石垣 最近はネットだけで募集する会社が多いようですが、直情報で安定的需要を見込める法人との提携はオーナーに安心感をもたらします。法人との提携は、管理物件の入居者属性・管理運用のソフト面と管理物件のグレード等のハード面のクオリティーに影響し、そのことが不動産価値を高める結果につながることがあるように思われます。

※16 入居希望者向けに360°VRカメラやモデル家具を使い、物件の魅力を丁寧に伝えることで早期満室を実現します(下記ヴァーチャルホームステージングURL参照)。
https://terior.lastmile-works.com/mypage/dashboards/comparison_slider/MjA0MzVCRUQ5ODVCNTlCQTY3OTIzNEFBRjg2MTg1Mzc2Qg==
【ひと口メモ③】時間の有効活用をもたらすヴァーチャルホームステージング
    これまでのお部屋探しは来店し、希望条件をもとに提示された物件を内見するという流れが一般的で、パンフレット上と実物のミスマッチも多くお客様も営業担当者にとっても時間を有効活用出来ていないという実態がありました。
 ところが、ヴァーチャルホームステージングを活用することで、内見前に事前確認をすることができ、現地でのミスマッチが減り、時間の有効活用ができるようになりました。また、急な転勤に伴うお部屋探しの際もヴァーチャルホームステージングを活用することで来店、内見なしで物件決定まで至ることもできますので時間制限の多い転勤者の方々にも喜ばれています。
 今後も斡旋のみならず、賃貸管理の面でも活用が期待できますので積極的な導入を考えております。

16 不動産価値に影響する入居者属性ならびにその審査および入居前の対応

石垣 賃貸物件の一部入居者がルールやマナーを守らずに、他の入居者に迷惑をかけてトラブルを引き起こしてしまう例(前記12参照)では入居者の属性が賃貸不動産の価値を落としているのではないかと懸念されます。この点について、御社はどのような方針で、入居者の審査をされているのでしょうか?

二宮 当然のことながら、空室が埋まるのならばどのような入居者でもよいというわけではありません。入居後に近隣トラブルや滞納などが発生すると、物件の価値を下げてしまいます。入居者審査は、当社が行い、最終的には必ずオーナーの承諾をいただきます。家賃の支払い能力については家賃保証会社の審査がございますが、これに加え、入居審査の際、特に転居理由、管理物件を選んで頂いた理由を伺うことにしています。どのような理由でこの物件を選ばれたのかを伺うことで、本当に納得し決めて頂けたのかを確認し、入居者と物件のミスマッチをできるだけ無くすよう努めています。ミスマッチがあると、早期解約、入居後のクレームまたは近隣入居者様からのクレームが起こる可能性が高まるからです。また、仲介会社からのヒアリング、ご本人、保証人確認の際など質問を交えながら審査を進める中で、申込内容に矛盾がある場合もあります。その中には、申込内容を偽って住居用物件を店舗として利用しようとされていると疑われるケースもあります。速やかに客付けを行うこととトラブルを100%予防することを両立させるのは難しいですが、まずは入口の部分でチェックを行っています。

石垣 御社はひと手間かかるとしても、入居者と物件のミスマッチ確認を意識して実施されている点は、オーナーの安心材料となり、信頼感を高めることになります。そして、同業他社の参考にもなるのではないでしょうか。

17 入居中の対応

石垣 賃貸契約期間中、御社に対して入居者から様々な相談・要望等があるかと思われます。これに対し、御社はどのような考え方に基づきご対応をされているのでしょうか?

二宮 入居者から相談等を受けた際、速やかに対応の方向性を定め、入居者、オーナーに安心して頂ける対応ができるよう心がけております。中でも、居住者や通行人の危険に関わるような相談があった場合は、その対応を最優先と位置づけ、関係各所と連携を図り速やかな対応に当たります。その中には、生命にかかわる緊急時もありオーナーに対し事後報告となるケースがあります。最近の例をあげますと、遠隔地に住むオーナーは、前の管理会社から何の指摘も受けていませんでしたが、建物敷地内のマンホールに劣化による割れが生じ、人が転落・落下する危険性が発生したことがありました。その際は、まずはカラーコーンを設置し、通行する方に危険が及ばないように対処したうえで、オーナーへの報告、修繕工事の手配と入居者への破損状況・対応見通しのお知らせを並行して行いました。結果、けが人をだすことなく交換に至りました。このケースのような突発的な対応もありますが、そうなる前に防げるよう日頃より建物目視点検、入居者アンケートを実施することで、状況をオーナーと共有して、入居者に長く住んで頂ける環境整備を行うことが重要と考えています。私ども管理会社は巡回を行っておりますが、実際にお住まいの入居者の皆様のほうが多くの情報をお持ちです。「雨の日になるとどこそこに水がたまる」「夜になると共用廊下がとても暗い」「最近エントランスのドアの閉まりが少し遅くなった気がする」などといった修繕を検討すべき箇所の情報を聞き出すのにアンケートは非常に有効です。また、併せて今後の募集や現入居者の満足度向上のため専有部・共用部の設備に関する要望を洗い出してオーナーへ提案することがアンケートをとるメリットであると言えます。

石垣 その考え方からは、日頃から入居者に対して「何かあったら対応します。」という姿勢ではなく、「今、何かお困り事はありませんか?」という姿勢で向き合う積極性を感じます。それが行動にあらわれているように感じます。御社の実践は、入居者とオーナーの関係性をより良くするための不動産管理・仲介会社のあり方と、オーナーはどのような基準で不動産管理・仲介会社を選択すべきかを併せて示唆している気がします。

18 空室期間を短くするために

石垣 入居者が退去予告された時から退去時までの間に心がけておられることは何でしょうか?

蓮把 入居率をより向上させるために提案できるポイントがないか、必要に応じて、通常の巡回担当・物件担当以外の者(前記6参照)が同行して物件を見せていただきます。

二宮 通常は建物の立地、入居者の属性、入居期間などを考慮して募集のタイミングを決め、工事の手配等を行います。滞りなく退去していただいたうえで、速やかに原状回復工事に入り、速やかに工事を終えることで、お金を生まない期間をできる限り短くすることを心がけています。例えば入退去の多い3月下旬における入居者の入替対応は1日の遅れによる機会損失がオーナーの賃料収益に大きな影響を与えますので、特に協力会社との連絡を密にし、機会損失を無くす努力を行っています。

藤本 これとは別の観点から、原状回復の方針や住設機器の更新サイクルの目安をオーナーと事前に共有することで、判断のスピードを上げ、協力会社とともに稼働率の最大化をめざしています。住設機器の更新サイクルについては、公のデータに、当社の実績、物件ごとの特性をふまえて提案します。充足状況、近隣、物件の仕様を参考に、事例を示しつつ、ご理解をいただけるよう努めています。

石垣 空室期間を短くするという課題の中にオーナーにとって価値のあることをギュッと詰め込んだ取り組みをされていることを感じます。つまり、入居率向上のヒントを見つけるために物件を注意深く観察すること(通常の巡回担当・物件担当以外の者の物件同行)、原状回復を段取り良く行うこと(機会損失を無くす努力)、また、物件競争力を高める投資を迅速に行うため合理的根拠をオーナーと共有すること(オーナーの賃貸経営を支える取り組み)です。

藤本 学
賃貸事業部長
1986年 株式会社リクルートコスモス(現 コスモスイニシア)入社
1991年 株式会社コスモスライフ(現 大和ライフネクスト) 転籍
     建築施設管理部 部長、横浜支社長、九州支社長などを歴任
2019年 大和コスモスコンストラクション株式会社 営業部 部長(出向)
2020年 西鉄不動産株式会社 入社

19 協力会社への発注施策と業務品質について

石垣 オーナーの不動産価値を向上させる観点から協力会社とは日頃からどのような関係作りをされているのですか?

藤本 まず、私たちは、協力会社を「業者」とか、「下請け」でなく、「同じ思いをもって業務に取り組むパートナー」と捉えています。そのうえで、発注業務毎に協力会社の業務遂行状況を把握し、定期的に評価を行います。評価結果に応じて、翌年の発注量を変えていきます。評価の高かった会社の発注量は伸ばし、課題があった会社は是正が進むまでは、発注量を抑制します。協力会社は積極的に増やしていき、当社の考え方に賛同していただける会社と共に伸びていけるような取引関係を大きくしていきたいと考えています。

石垣 協力会社の業務品質が維持、向上されるために御社は何か取り組まれていることはありますか?

藤本 はい、最近、取り組み始めたことでは、主要取引先には、年に1回は直接訪問し、事務所の雰囲気や、社内・資材置き場の片付けの状況を確認するようにしています。作業の品質は、そうした点に現れやすいので、その点をチェックしている旨を各社にお伝えすることで、お客様への挨拶やマナー、現場での資材の置き方や作業の品質に影響を与えると考えています。

石垣 管理物件のオーナーとの面談による打合せが必要な場合は、協力会社の方は同席されるのですか?

藤本 そうするようにしています。オーナーとの打合せに協力会社の皆さんも同席していただくことで、オーナーが気になっている点や、当社が気を付けている点を感じとっていただけるように、話し方を意識しています。

石垣 オーナーから見れば、御社と協力会社の間に大きな区別はなく、御社そのものでしょうから、おっしゃるように協力会社は同じ思いをもって業務に取り組む「パートナー」であることは必定といえます。御社の思い、具体的な取り組みが業務品質の維持・向上と顧客満足につながることを期待しています。

20 自社所有物件での実証実験による顧客への提案

石垣 御社が賃貸物件を所有する意義は、ひとつは経済環境の変化に対する安全装置として安定的収益確保をめざすこと(※17)、もうひとつは管理業務に生かせることがあるのではないかと思われます。その点を教えていただけますか?

蓮把 はい。オーナーの皆様に何らかの提案をした場合に、実績を聞かれることがあります。効果の見込める取り組みを希望されるのは、自然なことですので、それに対して、賃貸不動産を所有していることで具体例でお答えすることができるという利点があります。

石垣 その一部をご紹介していただけますか?

蓮把 ハード面でいいますと、パック商品として紹介できるよう自社物件で専有部のデザインリフォームを企画・実施(※18)したり、IoTの広がりに伴い、その中からオートロックでも置き配ができるサービスやスマートロックなど、入居者の満足につながることを意図して積極的に導入している事例があります。新しい取り組みの場合、想定していなかった問題が起きたり、あるいは納期が長くかかったり、ということがあります。私たちから提案して、熟考のうえ、せっかくオーナーが承諾してくださったのに問題があっては申し訳ありませんので、全てというわけにはいきませんが、試験を行い、自信と実感をもってご提案できるよう努めています。また、ソフト面では、例えばデザインリフォームやスマートロック設置でどれくらい家賃が上げられるか、を試すことができます。それ以外にも、カーシェアや駐車場シェアサービスの導入など空きスペースの有効活用策についても実際にオーナー目線で試しながら、より良いものを提案・紹介していけるよう取り組んでおります。

石垣 御社の取り組みはオーナーの賃貸経営を先読みして対応するという点から興味深いです。

※17 主に不動産賃貸事業以外の事業を営む会社(または経営者個人)が景気変動リスクからその身を守る安全装置として賃貸不動産を所有するケースがあります(拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース➁参照https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046)。
※18 デザインリフォームの具体例
https://spacely.co.jp/fudousan_nnr/200004-402

21 エリアの不動産市場特性を考慮した新築・建替えとdue diligence

石垣 オーナーの新築・建替えを支援する御社は、その支援について何が自社の強みとお考えでしょうか?

江口 新築・建替えにあたっては、建設予定地の立地評価と市場分析を行い、入居者の主要ターゲットをどこに置くか、間取りや設備等の基本プランやグレードはどうすべきか、競合物件との差別化をどう図るべきかを検証します。ここで検証した結果を建物プランとしてまとめ、工程会議の中で提案していきます。当社は不動産管理・仲介会社であり、かつ自社所有物件で賃貸経営を行っていることから、オーナーが長期的に安定した賃貸経営が行えることを重要視しています。長期的に安定した賃貸経営を実現するために当社が行えるサポートの強みとして、次のことがあげられます。

① 日頃からターゲットとなる入居者と接しているため、精度の高い入居者ニーズを把握している。したがって、入居者の獲得が容易になるようなプランニングや住設機器選定の提案が可能。
② 建物の日常管理で得た情報から、将来的にクレームやトラブルにつながりそうなプランニングや、設備機器、各種の仕様についての情報提供とともに、改善提案が可能。
③ 地元のエリア毎の特性を熟知したスタッフが、立地条件にあった用途(住居・事務所・店舗・高齢者施設等々)の提案が可能。
④ 自社所有物件で培ったノウハウ、例えば長期修繕計画に則った適正な建物の維持管理や試験的に実践して効果を得た成功事例等、オーナーの立場に立った提案が可能。

江口 仮に、オーナーが建物プランを指定する場合は、基本的に指定されたプランの実現を優先します。ただし、不動産管理会社・仲介会社として培ったノウハウから、オーナーが指定するプランでは明らかに収益性が悪化すると判断した場合は、プランの見直しを提案します。当社の立場は、ゼネコンやハウスメーカーの立場とは異なり、オーナーの希望する間取りや仕様が、入居者ニーズに合っているかどうかを判断し、必要に応じた変更の提案を行います。まずはオーナーの要望を尊重しますが、立地条件や入居者ニーズが反映された市場性を優先させる方が、結果的にオーナーのメリットとなると考えています。

石垣 そのお話を伺いますと、市場調査や建物診断を行うdue diligence(デューディリジェンス:適正評価手続)とconstruction management(コンストラクション・マネジメント:CM)(※19)の重要性を改めて感じます。日本の社会では、投資のプロでない人が自らコストを負担してこれらの業務を発注し実施しているケースは、ごく一部に限られているのではないでしょうか(※20)。これまでに不動産投資に関連し社会問題化した事件は、これらを実施していないことに基因しているものが少なくないとみられます。私は、御社のような顧客から信頼され、一定のエリア内で市場掌握力のある会社こそがdue diligenceやconstruction managementを社会に定着させる先導的な役割を果たしていただきたいと願っております。これらはいずれも「信託をしてもしなくても大切で必要な事」と考えているからです。

※19 コンストラクション・マネージャーがオーナーの立場でその利益のため設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行うものをいいます(CM方式活用ガイドライン(中間とりまとめ)国土交通種参照)。
https://www.mlit.go.jp/pubcom/01/pubcom59/pubcomt59.pdf
※20 信託前に不動産の市場調査を実施し、土地活用の方針を決めたうえで、不動産市場を見据え、受託者が達成すべき信託の目的を定めたケースは拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース①参照。
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

 以上で中編を終了し、次の後編へ続きます。対談に登場される西鉄不動産の方々は、各編のいずれに登場されるかにかかわらず、全編にわたって氏名を掲載しています。

(2021年10月 対談)

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執筆者

石垣 雄一郎いしがき ゆういちろう

税理士、信託ナビゲーター

略歴・経歴

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)の取締役を経て、現在は、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

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