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企業法務2014年05月09日 労使関係の国際化と人事制度の見直し 執筆者:浅井隆

 日本の「国際化」が叫ばれて久しいですが、その中でも労使関係が「国際化」するということがどういうことかを、最近仕事をしながら実感しているところです。それは、使用者の方では、多国籍企業化しないと競争に勝てず、かつその多国籍化した企業では、アジアとかヨーロッパとかの地域(リージョン)を単位にして事業戦略を構築する流れになる、ということであり、労働者の方では、その多国籍化した企業の他国法人の労働者、さらには、同業他企業の労働者と競争を求められる、ということです。その結果、わが国の労働者に競争力がないと、他国の労働者に職を奪われ、失職することになります。その延長線上に、日本の企業の競争力までが低下し、それによって大幅な組織の縮小さらには解散となったりします。
 使用者側の弁護士として、このような実感を日々体感しているわけですが、日本国民の1人として、このような事態はとても残念で、悔しい思いです。
 もちろん、日本の労使ともどもの競争力の低下の原因は、高い法人税、累進性の高い所得税等といった高い税負担等、国の政策によるところもあり、どうしようもないことでもありますが、他方で、企業自体が人事労務政策を旧態依然とし、労働者もそれに甘えている。つまり、年功型の人事政策・賃金制度によって、能力にかかわらず加齢によって高い役職と賃金が与えられ、かつ、それに慣らされてしまった労働者は、それを当然のことと考え、自己の能力を向上することをせず、ますます個々の労働者の実力が、諸外国の能力ある労働者に敗け、そういった労働者を多く雇用する外国の企業に日本の企業が敗けてしまうのです。
 「国際化」はボーダレス化をもたらし、世界的な通信手段の変化(IT化)と相まって、企業も労働者も、国境を軽々越えてしまいます。つまり、他国の企業、他国の労働者と競争を求められる現状となっています。
 こういった現状の下で、使用者側の弁護士として考えるのは、日本の労使が強靭な力をつけ、国際競争力を持ち続けるためにどうすべきか、です。とはいえ、やみくもにドライな能力主義・成果主義を採っても、当該企業の文化・理念に合わなければ、うまくいかないでしょう。
 しかし、これまで年功型の人事政策・(賃金制度も含めた)人事制度は、日本の文化や国民性が「国際化」に伴って変化しつつある状況で、これを維持する必然性はなくなりつつあると思います。
 その1つに、私傷病休職制度があります。いかに傷や病気が原因でも、長期に亘って働けない状態となった労働者に対し、ある程度面倒をみるが、その面倒をみる期間が経過したら円満に退職してもらうのはやむを得ないことと思います。これまでは、多くの日本の企業では、主治医の復職可能である旨の診断書が提出されたら、それをそのまま認め、その後再発してもまた休職を認める、ということをやってきましたが、健康で働いている多くの労働者の働きで雇用が維持される以上、それが繰り返されるのでは、その健康で働く多くの労働者のモチベーションも低下しかねません。当該企業の定める休職期間だけでは健康が回復しない労働者がかわいそう、と思うこともありますが、そこから先は企業が行う領域ではなく、国や地方公共団体が国民の税金で行うべきことと思います。
 このように、私傷病休職制度の設計にしても運用にしても、時代の変化の中で改めて、当該企業の制度として機能しているかをよく考えることは、企業が永続する上で、とても大切なことだと考えます。
 このような思いを抱きながら、「最新裁判例にみる 職場復帰・復職トラブル予防のポイント」を編集しました。もし、ご興味をお持ちいただけるのであれば、幸いに存じます。

(2014年5月執筆)

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