一般2005年05月06日 信頼できる中国人パートナーを得る 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗
1 <発展のスピード>
誰の眼から見ても中国の経済発展は急速である。日本人が中国に行くとタクシーの運転だけでなく、あらゆる人・モノの猛スピードに戸惑う。ほんの数年前に密集した古色蒼然とした長屋民家、北京の四合院や上海の里弄(リーロン)が有無を言わせず解体され、竹の足場で超高層のビジネスセンターが次々に新築されていった。いま社会インフラのハード面からは、中国の経済力が、日本との差を着実に縮めつつあると言えよう。他方ソフト面では人治国家から法治国家へ、まさに古い制度と新しい制度が併存しつつ、矛盾を孕みつつ中国ビジネスの近代化が進んでいるのだ。従って、中国でビジネスを展開するとき、危機管理・リスクマネジメントの視点は常に重要だ。
2 <鉄道の旅>
東北三省には、これからの中国の経済発展の潜在能力とインフラ環境など投資条件が着実に整いつつある。我々は2004年10月15日から19日まで東北三省を旅した。まずは、戦前多くの日本人が満鉄アジア号から見た真っ赤に沈む夕日を再確認すべく、アールヌーボー建築が有名なハルピンから鉄道の旅である。ハルピンから長春(旧新京)を経由し瀋陽(旧奉天)への普通快速列車は、グリーン車(軟座)でなく、上海への出稼ぎ帰省ラッシュで混雑する硬座指定席に乗車した。停車駅では下車する前に乗車する客で押し合いへし合いとなり、ムッとする人いきれの中、我々はトイレに行くにも苦労した。しかし、鉄道の女性服務員は狭い通路を乗客にお構いなしにカップ麺やお菓子を満載したワゴン車で物売りを平然と続ける。また大音声を上げて乗客に輪を作らせて中国版フーテンの寅さんの如く、男性服務員が10元で安い、伸ばしても切れない丈夫な靴下だと実演して売りつける。中国人は「したたかな現実主義者」である。中国人家族は両脇に大きな荷物を抱え、指定席車両に乗り込み、指定券がなくても席が空いてるなら当然に座ってくる。席取りゲームだ。まさにカオスたる中国の経済発展のエネルギーを象徴する。日本の交通法規を無視する「赤信号みんなで渡れば怖くない」との本音を言い得た駄洒落もあるが、中国人は自己リスクで赤信号でもお構いなく横断歩道をわたる。日本人と異なる民族習慣の違いだ。
3 <中国流交渉術>
逆に、指定席券をもった中国人の権利主張はすさまじい。我々を引率する北京の担当主任が、赤ん坊を抱いた若夫婦に善意で指定席を譲ったのがトラブルの元だが、グリーン車に乗っていれば決して味わうことの出来ない貴重な体験をした。中国人若夫婦は途中下車し、新たに乗車してきた4人家族が東京の副理事長に指定席券を突きつける。「娘の席だ、席を空けて立ち退け」と大きな声で父母がまくし立てる。しかし、喧嘩腰の大声に怯んではならない、これからが「中国流交渉術」の始まりだ。北京の主任は喧嘩の仲裁のごとく、冷静に娘さんの指定席券が偽物か、座席番号が間違いないか確認する。そして東京の副理事長の元の席に座っている中国人の若者が無指定券であることを見つけ、そちらの席に移動してもらえるよう丁寧にお母さんにお願いする。言葉の通じない日本人の集団に囲まれて座るより、娘さんも移動する席があれば安心していられる。フッと緊張が解け、座席交渉は円満妥結した。
4 <中国ビジネス必勝法>
まさにこれが一例だ。日本人は、ビジネス契約でトラブルになると中国人の権利主張と譲合いマナーが無い事にカルチャーショックを受け、中国は「法治国家」ではないと中国人嫌いになる。しかし、中国ビジネスの社会は、法治国家になるべく発展段階にある。「共産党独裁+原始資本主義」市場では信頼できる中国人の友人を見つけた日本企業は成功する。彼が日本人の心を代弁し、日本と中国の経済文化の溝を埋めるのだ。逆に合弁企業のパートナーが欲の皮のつっぱった中国人だと失敗に終わる。これが真理だ。
日本語と漢語は違う。ビジネスも同様だ。中国人は同じアジア人でも日本人とは異なるビジネス文化を持つ民族である事実を、日本人ビジネスマンは知るべきだ。まず互いの違いを認識することから、文化摩擦を越えて両国文化にまたがる新しい信頼の和ができる。言葉にせよ契約文書にせよ「形」を見せねばならない。「頭」で考えただけでは「心」が通わず中国人には理解不可能だ。言葉の壁を乗り越えた、優れた中国人パートナーを得たとき日中のサクセスストーリーの輪が広がる。
(2005年4月執筆)
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