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民事2020年08月27日 特別対談企画 生活の知恵としての信託 ~不動産信託(前編)~ スターツ信託株式会社 代表取締役 渡邊貞夫 ✕ スターツ信託株式会社 取締役 鈴木真行 ✕ 信託ナビゲーター・税理士 石垣雄一郎 対談 生活の知恵としての信託 対談者:渡邊貞夫 鈴木真行 石垣雄一郎

【はじめに】

 信託ナビゲーターの石垣雄一郎です。
 前回から始めました「生活の知恵としての信託」シリーズは、信託を社会に広げ、誰もが信託を知ることができ、誰もがその利用を検討する機会に恵まれるよう企画したものです(※1)。本シリーズに登場される方々は、あらかじめその趣旨に賛同していただいた方々です。

 さて、今回は、土地の有効活用、不動産の賃貸経営、資産承継などの不動産信託を手掛けるスターツ信託株式会社・代表取締役・渡邊貞夫様と取締役・鈴木真行様にお話を伺います。 
 お二人は、長年にわたり、建築・不動産仲介・管理をはじめ金融、出版、ホテル、高齢者支援など幅広く事業を展開するスターツグループで営業を含む不動産業務と証券会社のライフ・プランニング業務に従事された後、信託会社に配属され、現在の不動産に関する信託業務に就かれています。不動産実務や証券会社でのコンサルティング営業の現場で顧客と直接に向き合う日々は、そのまま不動産信託に求められる人財育成のプロセスを示しています。言い方を変えれば、お二人が信託会社に至るまでの職務経歴には、不動産信託を行う信託会社の人財に期待される二つの基本的、かつ、重要な要素が含まれています。
 一つは、顧客(委託者)の達成したい「信託の目的」の枠組み作りに必要なOJTが含まれていること、もう一つは、より実践的に「信託の目的」を達成するための財産の管理・運用体制作りおよびその円滑な実行に必要なOJTが含まれていることです。これらは、民事(家族)信託、商事信託を問わず、信託をするときに受託者自らが信託事務の処理をするときだけでなく、その処理の第三者への委託(信託法28条)を含め、受託者に何が求められるかを考えるときの参考になるものといえます。 
 本対談は、まず、スターツ信託株式会社の会社概要を簡単に紹介させていただき、それぞれの職務履歴に関する自己紹介をしていただくところから始めます。

 なお、本対談は、複数回のリモートにより実施しました。対談における法的見解、考え方は、対談当事者個人によるものであり、読者の皆様方およびそのお客様方の個別の案件に対応するものではなく、そのための責任を負うものではありません。また、商品等の勧誘を目的とするものでもありません。

【スターツ信託株式会社の概要】

●スターツ信託株式会社
 2004年12月に改正信託業法が施行され、信託銀行以外でも信託業が営めるようになりました。スターツ信託株式会社(詳細は同社HP(※2)参照)は、住宅系物件で数多くの実績を有するスターツグループ(※3)の一員として、2009年10月に「運用型信託会社」として、信託業に関する内閣総理大臣の免許を取得し、同年12月より営業を開始しました。主な営業エリアは、東京、名古屋、大阪。2020年3月現在、土地信託受託件数は102件で全国1位の実績(信託協会発表の総数を元に同社調査)。

●運用型信託会社 
 日本の信託会社は2020年3月31日現在、25社あり、そのうち9社が「運用型信託会社」、16社が「管理型信託会社」(信託業法2条3項、4項、7条参照)です。自らの裁量で信託された財産の運用・管理を行うことができるのが「運用型信託会社」(内閣総理大臣の免許を受けた者)、委託者等から指図を受けて信託財産の管理のみを行うのが「管理型信託会社」(内閣総理大臣の登録を受けた者)です(信託協会HP参照(※4))。
 なお、「運用型信託会社」(受託者)は、信託事務の処理について裁量権限を有しますが、顧客(委託者)との事前の打ち合わせにより、その権限(※5)内容についての詳細を定め、合意の上、信託契約にその定めを設けることになります。

●信託会社の信託契約の内容の説明と信託契約締結時の書面交付
 運用型、管理型を問わず、信託会社は、信託契約による信託の引受けを行うときは、委託者の保護に支障を生ずることがない場合として内閣府令で定める場合(信託業法施行規則31条)を除き、あらかじめ、委託者に対し信託契約の内容を説明しなければなりません(信託業法25条)。
 また、同じく、信託会社は、信託契約による信託の引受けを行ったときは、書面を委託者に交付しなくても委託者の保護に支障を生ずることがない場合として内閣府令で定める場合(信託業法施行規則32条)を除き、遅滞なく、委託者に対し一定の書面を交付しなければなりません(信託業法26条)。

※2 スターツ信託株式会社・HP
https://trust.starts.co.jp/

※3 スターツコーポレーション株式会社 
https://www.starts.co.jp/company/outline/

※4 信託協会・HP 
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/how/

※5 受託者の権限は、信託契約により制限を加えることができますが、「与えられた権限」は、信託契約の定め(および信託法等の規定)に従い、「受益者のために行使」しなければなりません(信託法2条5項、26条等参照)。

【自己紹介・渡邊代表取締役】

石垣 本日は対談企画にご協力いただきましてありがとうございます。早速ですが、お二方の職務経歴を教えていただきたいと思います。まず、渡邊さんからお願いいたします。

<新卒の配属先は新設部署> 
渡邊 はい。私は1989年に現・スターツコーポレーション㈱(※3)に入社し、最初に配属されたのが資産家を対象に事業用マンション(一棟売り・土地付き建物)を販売する新設部署でした。そこは事業用マンションによる所得対策・相続対策を行う専門部署で、鈴木と一緒に配属されました。

石垣 新設部署は、専門家とも連携してお仕事をされたのですか?

渡邊 はい、資産家と向き合う営業過程で税理士、一級建築士などの専門家と連携して実務経験を積むことによって、不動産コンサルティング力を身につける機会に恵まれました。

<社内FA制度で希望部署へ移動、その後ピタットハウス第1号店の店長へ>
石垣 新設部署でどのくらいの間、働かれたのですか?

渡邊 私は4年勤務しました。その頃からアパート・マンション等建築のことをもっと専門的に学びたいと思うようになり、社内FA宣言の制度を利用し、次は土地活用部署に移り、ここで建築を学びました。

石垣 その部署の仕事内容を教えていただけますか?

渡邊 ハウスメーカーの土地活用営業と同じです。マンション建築、アパート建築をお客さま(土地オーナー)に提案する部署(現・スターツCAM㈱※6)です。設計担当・工事担当との打合せ、入居募集店舗との打合せ、管理会社との打合せを全て一人の営業マンが取りまとめて行きます。建築を学ぶために移動した部署でしたが、一番の収穫は、一人のお客様への入り込み、深い人間関係を築けたことです。

石垣 その当時は、将来、信託会社に所属するとは予想されていなかったかもしれませんが、土地活用の提案から建物の竣工、引き渡し、そして、建物管理まで不動産信託の管理、運用に必要なことをあらかじめ学べる場として、現在のお仕事につながる良い選択をされたと思います。

渡邊 自分でも本当に良かったと思います。また、その当時は、バブルの影響で様々な方々と、多くのケースに出会うことができました。こうしたことがかけがえのない財産となりました。ここでも4年勤めました。

石垣 その後は、どうされたのですか? 

渡邊 千葉市緑区鎌取に開設された総合不動産ショップ・ピタットハウス(pitat.com)第1号店の店長・エリアマネージャーとなりました。このエリアには、先行する強力な競合が1社待ち構えていました。当時の役員からは、これから、この第1号店を契機にピタットハウスの名前を定着させていく、この名前が有名になるよう努力するようにと言われました。

石垣 これから実績を積み、ネームバリューを高めるため、先陣を切る第1号店の店長さんですから、相応のプレッシャーもあったでしょうが、本当に有名になりましたね。千葉の鎌取で、ピタットハウスの看板で、営業展開を試みるところが親会社(※3)の戦略の面白さのように思います。といいますのは、都心部の多数の競合がひしめき合ったエリアでは、数多くのチャンスは生まれにくかったでしょうし、めざすマーケットではなかったかもしれません。しかし、都心部から少し離れたエリアであれば、強力な競争相手が1社いたとしても、店長を中心に現場の創意工夫があれば、競合という自らの質を高めるためのハードルを乗り越え、多くの経験が積めると会社は判断されたのではないかと考えるからです。この点はいかがでしたか?

渡邊 スターツの強みは地域密着によるワンストップサービスの提供です。強力な競争相手がいるエリアの中でも、不動産オーナーの開拓、不動産の売買・賃貸・テナント誘致、建築について、一定の成果を上げることができたのは、私には貴重な経験でした。特に、ロードサイドに店舗を誘致したときは、不動産の仕事には適正相場を作る責任があることを実感しました。

石垣 新市場開拓はそれを担うチーム人財の見きわめ、その選抜が成果に大きく影響することになります。その指名を受けた渡邊さんは、グループ経営が一段と前進、向上を図るときの現場に立ち会われている印象がありますが、次の現場はどちらになりましたか?

<証券会社の設立・立ち上げ>
渡邊 その次は、1999年からスターツ証券(※7)の設立と業務の立ち上げにかかわりました。

石垣 20世紀中の証券会社立上げですが、親会社(※3)はその当時から、あるいは、その前から、バランスシートの左側(簿記でいう借方)、つまり、現預金、不動産等の資産だけでなく、右側(簿記でいう貸方)、つまり、他人資本と自己資本、または、間接資本と直接資本(利益獲得を含む。)を意識した経営を心掛けられていたように感じます。

渡邊 スターツの創業者は金融機関出身ですから、その意識はあったのではないでしょうか。スターツ証券の立ち上げとスターツ信託への着任の際は創業者より、直接、業務の重要性を伝えられました。

石垣 そうですか。その意識は、顧客が賃貸経営をするときにそのまま必要なことですので、不動産コンサルティングをするときには、欠かすことのできない、きわめて重要な視点になると思います。ところで、証券会社の立ち上げ時の状況を教えていただけますか?

渡邊 スターツ証券のスタート時のミッションは「社会にまだ無い不動産証券化商品を世に出す。」ことでした。ちょうどその頃、他業種からの証券業進出が認められるという規制緩和があり、その中での証券会社立ち上げでした。当時、他の証券会社より2名の出向者を迎え、スターツグループからは社長と私の2名が任命されました。国土交通省管轄から金融庁(財務局)管轄へ全く文化の違う世界での会社の立ち上げでした。出向者の尽力もあって、5年はかかると言われた証券会社の設立を1年半ですることができました。

石垣 証券会社設立後はどのようなお仕事をされたのですか?

渡邊 設立後すぐに不動産証券化商品(SPC法(資産の流動化に関する法律)を日本で初めて、公募形式で一般の個人投資家向けに販売をしました。一口100万円、総額3億5000万円の申し込みを2週間で集める、しかも、社長と私の2人だけで。とても大変でしたが、何とかやり遂げることができました。これまでかかわらせて頂いたお客さまとの関係を試されている感じがしました。お客様も初めての商品です。商品の仕組みは勿論ですが、私たちの熱意に投資して頂いたと感じています。今では考えられませんが、その渦中は休みも取れない状況でした。これは自分の仕事の許容量を強制的に広げられた出来事であり、今から振り返ると貴重な体験でした。お陰様でこの体験がお客さまとの深い関係づくりに繋がることになりました。

石垣 悪戦苦闘しながらも、目標を達成し、新たな地平を開拓されたときの達成感、充実感が伝わってくるようです。そのときのSPC法を活用した不動産証券化商品は、DEBT(負債・債務)部分の商品ですか?

渡邊 はい、そうです。DEBTに当たる優先出資証券を購入して頂きました。

石垣 きっとその商品の仕組みには様々な配慮やご苦労が詰まっていることでしょう。「これまでかかわらせて頂いたお客様との関係を試されている感じ」というのは、主に既存のお客さま向けの商品だったのですか?

渡邊 主な対象はそうでした。もちろん、証券会社ですから、一般のお客さまも購入していただける商品でした。

石垣 そのときのお客さまで不動産信託をされた方はおられますか?

渡邊 いらっしゃいます。例えば、ある親子孫の3世代にわたるお客さまは、現在では、子の世代が委託者になって、信託を引き受けさせていただいております。3世代のおつきあいに私自身が立ち会えた喜びを感じています。

<唯一無二の証券会社をめざして>
石垣 証券会社では、初期の不動産証券化商品の発行・販売業務に続き、どのような業務をされたのですか?

渡邊 私たちは既存の証券事業を研究し、その結果、これまでの証券会社の姿を追いかけるのではなく、独自のFP会社をめざすことになりました。資産の金融商品による運用はもちろん、生命保険、火災保険、住宅ローン、遺言、財産コンサル事業(不動産・建築サポート)を行いました。

石垣 この対談前にスターツ証券さんのホームページを拝見しましたが、不動産オーナー向けコンサルティング会社かと思いました。確かにこれまでの証券会社とは違う印象でした。こうした「真の顧客」作りをめざした証券会社ですと、コンサルティングの延長線上に、または、コンサルティングそのものとしての信託がありますから、顧客にとっては信託への理解を深めやすいグループ環境が整っているといえますね。

渡邊 実際のところ、スターツ証券では、任意後見、民事(家族)信託のコンサルティングもしています。民事(家族)信託などの社内研修には鈴木が講師として出向き、業務を支援しています。

石垣 証券会社は、今やグループの強みの一つになっているようですが、当時、新しい事業を立ち上げるときの役所との折衝ではご苦労もあったのではないですか?

渡邊 そうですね。新しい事業を始めようとする度に財務局に申請・説明に参りました。ある時、担当官に「スターツさんは一体どこを目指しているのですか?」と聴かれたことが有ります。関心を持たれたというよりも半ば呆れた様子でした。「お客様の悩みが有る限り、お役立ちメニューを今後も増やして行きます。」と答えた事を覚えています。

石垣 これまでの証券会社とは違うわけですから、そのイメージのないお役人の質問はわかるような気がします。見方を変えれば、その質問は、スターツ証券さんが、それまでになかった新しい姿をめざす証券会社であることを裏付けるエピソードではないでしょうか。その後は、どうされたのですか?

<信託会社への配属>
渡邊 証券会社では営業本部長から内部管理統括責任者(※8)、管理本部長へと従事し、2016年スターツ信託の代表取締役社長に就任しました。信託事業は「お客様へのお役立ちメニューの最終形」と感じています。

石垣 なるほど「最終形」ですか。私は、時間軸で不動産オーナーの一生と財産の承継を考えるとき(※9)、規模の大小にかかわらず、最終的には信託をしないとしても、仮に信託をするとしたならば、どうなるのかという検討をする必要があると考えています。というのは、この検討によって、信託をしていない不動産オーナーは、自らが信託をしたときとの比較ができるようになるからです。信託をするかどうかは顧客の自由ですが、信託を知らないまま、信託をしないと決めるのは、顧客自身の選択肢を狭めるだけで、顧客のためにならないからです。これは民事(家族)信託、商事信託にかかわりません。この文脈で「最終形」という言葉は、違和感なく受け入れられます。

渡邊 今後、私たちは、信頼感をもって信託をしてくださるお客様が一人でも多くなっていただくため、より多くの機会を作っていきたいと考えています。また、不動産と不動産に近い金融畑を20年以上歩いて来たのはグループ内でも異色の経歴で、私と鈴木くらいですので、この強みを周囲の強みとつなぎ合わせ、顧客開拓に生かしていきたいと思っています。

石垣 是非、そうしていただけることを期待しています。

※6 スターツCAM株式会社
https://www.starts-cam.co.jp/

※7 スターツ証券株式会社
https://www.starts-sc.com/

※8 せっかくの機会ですので、簡単に用語の説明をします。内部管理統括責任者とは、次のような役職者です。すなわち、役員や従業員に法令等遵守を徹底させ、営業活動が適正に行われるよう内部管理態勢を整備することや法令等違反があった場合に適正に処理することを責務としている者で、経営のトップ(社長)に法令諸規則等の遵守の観点から意見ができるよう、原則として社長に準じる高位の役員が就任します(「協会員の内部管理責任者等に関する規則(平 4. 3.18)(日本証券業協会)」参照)。

※9 拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース①・P21参照
https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

渡邊貞夫(わたなべ さだお)

生年月日
 1967年2月生

職歴
 平成元年4月 スターツ株式会社(現スターツコーポレーション株式会社)入社
        同社 ユトリアル事業部(事業用不動産販売を担当)
 平成5年4月 同社 一之江店(建設営業を担当)
 平成8年10月 同社 土気店店長
 平成9年1月 同社 鎌取店店長(土気店店長を兼務)
 平成11年11月 スターツ証券株式会社 開設準備
 平成12年6月 同社 取締役就任
 平成24年6月 同社 常務取締役営業本部長就任
 平成25年4月 同社 常務取締役管理本部長就任
 平成27年6月 同社 専務取締役管理本部長就任
 平成28年7月 同社 専務取締役管理本部長退任
 平成28年7月 スターツ信託株式会社 代表取締役社長 
        現在に至る

【自己紹介・鈴木取締役】

<新卒で入社後のキャリア形成>
石垣 お待たせしました。鈴木さん、自己紹介をお願いできますか。 

鈴木 はい。私は1989年に現・スターツコーポレーション㈱に入社し、主力事業である建築受注営業や不動産店舗ピタットハウスの店長、エリアマネージャー等を経験しました。建築受注営業時代には土地活用の基本を徹底的に叩き込まれ、市場調査から事業計画の立案、テナントの誘致、そして、完成後の管理運営までを一貫して行いました。

石垣 その一貫したお仕事には、不動産信託に必要なことが全部含まれているような気がします。民事(家族)信託、商事信託にかかわらず、信託を提案する専門家は、信託契約書を作るときだけでなく、信託前、信託の期間、その後にわたってフォローする姿勢と体制が必要です。民事(家族)信託の現状は、一部で専門家のビジネス・チャンスの側面が殊更に強調して取り上げられ、残念ながら、信託契約書を作成が主たるビジネスの対象となり、中には、信託後に問題を引き起こしていることがあります。鈴木さんがその一貫性のあるお仕事の経験は、当然、現在の信託業務に生かされていると思いますが、委託者の立場からは信託後のフォローに期待と安心がもてますので、信託を社会に広げていく視点からは心強いです。さて、ピタットハウスの店長さん時代に思い出になるお仕事はありましたか?

<信託をしてもしなくても大切なこと>
鈴木 はい。ピタットハウス在籍時には担当エリアにおいて自社管理物件をいかに効率的に運用するかを至上命題とし、空室削減を重視して店舗運営を行いました。結果として担当した埼玉県南東部エリアでは、空室率を大幅に改善することに成功しました。グループ管理会社から特別表彰を受賞したことが思い出されます。

石垣 大家さんにとっては本当に助かる店長さんですね。空室解消は、不動産オーナーにとって、信託をしてもしなくても大切なことです(※10)。同時に、空室解消は、受託者とそれを支える第三者(信託法28条1号、35条参照)次第では不動産オーナーが信託をする意味の一つとなりえます。ところで、その当時、空室が生じていた原因は何だったのでしょうか、また、どのようにして空室率を改善されたのですか?

鈴木 対象は、バブルが崩壊した後、バブル時代に建築されたアパート、マンションで、最寄駅からは少し離れた物件であることが空室原因でした。まず、市場における空き室状況を把握し、次に、管理物件のある地域の同業他社と連携して賃料設定を見直し、さらに、オーナーさまへ募集状況、案内状況を丁寧に説明することに心がけました。これを粘り強く繰り返し続けていく中で空室が解消されていきました。

石垣 それは良いお仕事をされましたね。特に、積極的には案内状況を説明しない不動産管理・仲介会社は、オーナーからすると何もしていないように映ります。行動していなければ、繰り返し案内状況の説明はできませんから、鈴木さんが自らハードルを上げて募集活動を実践されたことが伺い知れます。市場を創るということは別として、今後、市場性のない地域に新規に賃貸不動産が供給されることや、市場性のある地域であってもニーズの乏しい物件が新規に供給されることを避けるには、鈴木さんのご苦労や成果が貴重な教訓になるのではないでしょうか。私は、どのようなケースであれ、「このケースで大切なこと、必要なことは何か」を真剣に考え、把握し、不動産経営を実践してくれる受託者とその支えとなる方々(上記の第三者)の存在なしに信託がうまく機能することはないと考えています(※11)。鈴木さんのこれまでの経歴を伺い、改めてその思いを強くしました。

※10 民事信託では、一般的に、賃貸経営に責任をもって受託者をサポートする不動産管理・仲介会社の存在が欠かせません(拙著「問題解決のための民事信託活用法」(新日本法規刊)第1章・ケース③参照)。

https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100046

※11 信託後に必要な事項には、信託をしなくても、実施すべきこと、判断すべきことがあります。これについては専門知識がなくても、十分に検討可能なことは少なくありません(参考例:前掲書・第1章・ケース6)。専門家に相談する前に考え方を整理しておくことは、専門家からの助言をより適切で有効なものとする条件のように思われます。

鈴木真行(すずき まさゆき)

生年月日
 1966年8月生

職歴
 平成元年4月 スターツ株式会社(現スターツコーポレーション株式会社)入社
        同社 ユトリアル事業部(事業用不動産販売を担当)
 平成3年2月 同社 法人事業部(法人向け仲介業務を担当)
 平成3年7月 同社 習志野店(建築受注営業を担当)
 平成6年4月 同社 幕張本郷店 (同上)
 平成8年4月 同社 新越谷店  (同上)
 平成9年4月 同社 ピタットハウス篠崎店(店長)
 平成10年4月 同社 ピタットハウスせんげん台店(店長)
 平成11年4月 同社 ピタットハウス城北エリアマネージャー就任
 平成14年4月 スターツ証券株式会社 TACS事業部シニアマネージャー
 平成22年4月 スターツ信託株式会社 信託営業第2部長
 平成25年4月 スターツ信託株式会社 営業開発部長
        現在に至る

<証券会社でのコンサルティング営業経験>
石垣 さて、ピタットハウスの店長さんの次はどうされたのですか?

鈴木 2002年4月からスターツ証券㈱に異動しました。主に富裕層のコンサルティングを専門とするTACS事業(※12)に従事しました。

石垣 証券会社では、どのような成果を求められたのですか?

鈴木 主な収益源は保険の販売でした。当時のスターツは地域密着で事業を展開していることから地主さんや中小企業経営者のお客さまが多かったので、スターツ証券では、税務対策と相続事業承継に関連する業務に注力し、在籍7年で約100件の資産管理法人(法人による建物所有)設立のお手伝いをさせていただきました。そこで大修繕にかかる資金を生命保険などで積立てていただきました。

石垣 それは顧客の成果が自らの成果につながるというコンサルティング営業で一番大切な視点に基づく販売成果ですね。生命保険販売後は、どのようなフォローをされたのですか?

鈴木 担当したお客さまには不動産の運用だけではなく、税理士と連携した節税対策や生命保険を利用した納税対策・遺産分割対策などを積極的に提案し、お客さまの相続問題解決に邁進していました。

石垣 改めて保険営業がコンサルティング力を必要とする業務であることがわかります(前回・生命保険信託を参照)。同時に、生きている間と、亡くなった後のことに備えるという意味では信託との共通点を感じます。そのお仕事から得られた教訓のようなものはありましたか?

鈴木 はい。生命保険契約の締結後、お客さまやそのご家族が喜ばれ、安心されるのは、お客さまが入院後、退院された時、または、お客さまがお亡くなりになって、そのご家族が保険金をお受け取りになった時であることを現場感覚として知ることができました。人の健康や生死にかかわる仕事は、このときのためにあることを実感しました。

※12 スターツ証券のTACS事業は下記HPを参照
https://www.starts-sc.com/info/tacs_1.html

<信託会社への配属>
鈴木 そんな中、スターツグループが2009年10月に信託会社を設立。その営業開始に合わせて現在のスターツ信託㈱へ異動しました。建築・不動産部門の出身者が多い中、コンサルティング営業の重要さを提唱し、顧客に寄り添った営業方針を徹底してきました。開業して10年が経過しましたが、受託件数は毎年順調に推移しています。現在は、主に信託契約代理店(信託業法2条9項)である金融機関(地銀・信用金庫)や税理士・司法書士からの紹介案件を通じて不動産信託の更なる普及に努めています。

石垣 現在、鈴木さんは、セミナー講師、グループ企業向け研修講師も務めていらっしゃるようですが、どのようなところでされているのですか?

鈴木 セミナー主催会社からの要請、都銀・地銀・信金といった金融機関、税理士法人などの内部研修、グループ内企業研修で講師を務めさせていただいています。 

石垣 各研修はどのような内容ですか?

鈴木 セミナー会社は、主に士業の方々などの専門家に対する信託関連の専門知識を提供する研修です(※13)。金融機関は、信託会社を紹介したときに生じる可能性のある争族リスク(紹介リスクの排除)、信託をすることによる新規・追加融資の可能性の有無(事業機会の見きわめ)、スターツ信託が受託者として借り換えに応じ、債務(信託財産責任負担債務のこと)を負ってもらえるか(事業機会の増大と融資リスクの軽減)です。税理士法人などでは、その顧客へのコンサルティング実施のために必要なことをレクチャーしています。また、グループ内研修(スターツ証券)は、信託の知識を使って本業でどのようにして営業成果を出すことができるのかを研修しています。スターツ証券では、民事(家族)信託にも取り組んでいますので、商事信託で培った経験を伝え、コンサルティング営業に必要なノウハウの提供をしています。

石垣 信託業務の営業活動をグループ会社の顧客だけに絞るのではなく、複数のチャンネルを作り、展開されることは、信託市場が育成中の市場であることを考えますと、良い方法だと思います。私としては、社会に信託を広げていく「信託の民主化」に取り組んでいただいているようで心強いです。また、鈴木さんは、商事信託と民事(家族)信託の両方にかかわられている日本でも数少ない専門家だと思います。この点に関連して、内閣総理大臣の免許(運用型信託会社)を受けて、定期的に金融庁の監督を受ける信託会社が受託者となる商事信託と、個人(または法人)が受託者となる民事(家族)信託との違いは、簡単に言うと、どこにあると思われますか?

鈴木 「信託の要」である「受託者責任」を長期にわたって全うできるかどうかだと思います。民事(家族)信託は家族だけで完結できるため、一見すると容易にできると思われがちですが、受託者の責任は、民事(家族)信託でも商事信託でも、原則として「無限責任」です。受託者責任がどれほど重いものなのか、信託を組成する際にしっかり説明することが重要だと思います。

石垣 同感です。信託銀行がかつて注力し、撤退した「土地信託」について、御社(借主)が金融機関(貸主)との間で締結する金銭消費貸借契約・抵当権設定契約を、金融機関との間では「無限責任」を負う関係で締結されていると伺いました。この点は「後編」で詳しくお話していただきたいと思います。

※13 直近のセミナーのお知らせ
https://tap-seminar.jp/seminar.php?ctg=11&keyno=1258 

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【信託会社を支える人財】

石垣 信託のプロとして他にどのような方々が在籍してらっしゃるのですか?

鈴木 信託銀行で信託実務をしていた出身者がいます。このメンバーは、特に、信託を引き受けるかどうかを議論する「受託会議」では、法規の解釈・適用を成功体験と失敗体験からアドバイスし、サポートしてくれますので、お陰様で私たちは多くの知見を得ることができています。

石垣 信託を引き受けるかどうかの判断基準、実際に引き受けたケースなどについて、改めて次回で伺いたいと思います。ありがとうございました。

 次回(来月以降を予定)は、信託を引き受けるときの受託基準、その基準により受託した事例、その事例に見られる特徴等をお話ししていただく予定です。

(2020年8月 対談)

執筆者

石垣 雄一郎いしがき ゆういちろう

税理士、信託ナビゲーター

略歴・経歴

税理士資格取得後、不動産会社で17年間上場企業の新規開拓や中小企業、個人不動産オーナー向けの営業や新規プロジェクトの立ち上げ支援業務を担当。ダンコンサルティング(株)の取締役を経て、現在は、不動産や株式を主とした民事信託等の浸透に関するコンサルティング業務に従事しながら全国各地からの依頼で信託の実践や活用に関する講演活動も行っている。民事信託のスキームの提案を実施し、不動産会社等にも顧問として信託の活用法を具体化する支援を行っている。

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