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厚生・労働2013年09月20日 介護保険法改正の論点(予防給付の見直し)について 執筆者:石田光広

 我が国の高齢化は急速に進展しており、社会保障審議会介護保険部会では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となって医療・介護ニーズがピークとなる平成37年度(2025年度)に照準を合わせた介護保険法改正の議論が本格化している。
 今回の改正では、給付範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るための「地域支援事業の見直しと併せた地域の実情に応じた要支援者への支援の見直し」が関係者からの関心を集めており、そのなかでも「予防給付の見直し」は、要支援者が現に受給しているサービスが変更されるため、大きな議論となっている。

 社会保障審議会介護保険部会での議論の内容は、およそ次のようなものである。
 現在の予防給付は、サービスの種類・内容・運営基準・単価を全国一律で国が定めているが、要支援者は、生活支援ニーズが高く、その内容は見守り、配食、外出支援、買い物など多様なサービスが求められている。一方で、そういった軽度者の多様なニーズへの対応を家族や地域に頼ることが難しい社会状況になっているため、市町村が中心となって、地域での多様な生活支援の基盤を進めることとあわせて、サービス提供の在り方についてもより効率的なものにしていく必要がある。また、中長期的に介護保険料の上昇が見込まれ、介護保険制度の持続性を確保していくことも求められる中では、要支援者に対するサービス給付を効果的・効率的なものにしていく必要があるのではないか、というものである。
 つまり中心となる論点は、介護保険給付である予防給付を地域支援事業へ移行することである。具体的には、介護度が軽度である要支援者に対する予防給付について、市町村主体の地域支援事業の形式に見直し、全国一律のサービスの種類・内容・運営基準・単価等によるものではなく、市町村の判断でボランティア、NPO、民間企業、社会福祉法人等の地域資源を効果的に活用できるようにしていく、というものである。

 地域支援事業は、介護保険給付ではなく市町村事業であり、国からの財源の性格はこれまでの「市町村への負担金」から「助成を目的とする交付金」へと変更されることになるため、財政状況が厳しい市町村では地域支援事業が必要十分に実施されないなどのサービス面での地域格差が生じるのではないか、との心配の声もある。
 また、介護保険制度は、すでに被保険者の情報がデータ化されており、それを利用して被保険者の予後を予測できるため、要支援者を早い段階で把握し、将来要介護状態になる可能性のある高齢者への対策を可能とするメリットもある。しかし、保険給付でなくなった場合、こうした全国一律の調査で要支援者の状態を把握できる仕組みは維持されない可能性もある。
 さらに、地域支援事業化された場合には現行の「介護予防・日常生活総合事業」が主な受け皿事業になるものとされているが、実はあまり普及していない。その理由は、通常の介護サービスと比べてサービス単価や事業費が市町村ごとに異なるため、サービスを実施する事業者側にとって事務的に煩雑となり積極的に受託しにくいこと、サービスの質が均一化されていないことが理由に挙げられている。保険給付であれば国の定める介護報酬、運営基準、指導・監査等でサービスの質が全国統一して担保されるが、「介護予防・日常生活総合事業」の場合、市町村ごとの設定となり、その水準は統一されない。
 加えて、市町村側の事務作業に手間がかかることも心配の理由に挙げられる。介護給付であれば、サービス単価は介護報酬として、サービス提供方法は運営基準の中でそれぞれ標準化されているが、「介護予防・日常生活総合事業」では市町村が独自に定めることになるため、相当の事務負担が想定される。
 要支援者本人から見た場合には、市町村と委託契約を結んでいない事業者のサービスを利用できなくなる。例えば、距離的にはずっと近い隣の市町村のデイサービスセンターへ通うことは難しくなってしまう。

 介護サービスを受けている者にとって介護ケアは日常の生活水準そのものである。個別の要支援者にとって関心が高いことは、自分にとって必要なサービスが提供されるかどうかであるし、介護サービス事業者は個別の要支援者に対する日々の介護ケアに最も関心がある。なによりも重要なことは、地域支援事業となった後、市町村が生活支援サービスを含めた新たな介護基盤を構築できるかどうかである。

 さて、介護保険法体系において、変化する介護ケアの質や水準、ましてや要支援者の日常の生活水準を固定的に定義することは困難なことである。このため、法律では書かれない運用面を明確に示した国の通知が非常に重要なのである。こうした通知から制度体系を確認し、適切な介護ケアとなるよう心掛けているのである。現場では常に新しいサービスの開発が求められ、ときに試行されている。介護保険法の見直しは単に実情を踏まえるだけの改正ではなく、間もなくやって来る高齢者介護ニーズのピーク時への備えの視点も持たなければならない。一層のスピード感を持ち、これからの介護サービスの在り方について、市民目線での議論を深めていく必要があると思う。

(2013年9月執筆)

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