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訴訟・登記2023年03月13日 行政訴訟中の対象処分の変更と係争手続き 執筆者:日置雅晴

 行政訴訟は、原則として行政の行った行政処分の違法性を巡る訴訟です。その取消を求める取消訴訟が中心として制度が構築されていますが、その訴訟物は行政処分単位であるとされています。当事者が行政の許可を求め、行政が不許可処分を行い、これを係争する場合には、その処分が係争中に変更されると言うことは通常起こりません。仮に行政が自ら処分の誤りを認め、不許可処分を変更して改めて許可を下ろした場合には、訴訟の目的が達成されたことになるので、当事者には不利益がありません。
 ところが、多くの開発事業による周辺環境などへの影響を問題視する事案では、行政による事業に関する許可処分に対して周辺住民がその取消訴訟を起こすことが普通です。このような場合、多くの開発事業では、事業の進行に伴い、当初の許可内容を変更する必要が生じ、計画内容が変更されることはよくあることです。そのような場合、すでにでている事業に関する許認可の処分内容が変更されたあらたな許認可が出されたり、制度によっては変更許可がなされたりすることになります。
 このような状況は、当初の許認可を周辺住民などが法的に係争している場合でも変わることはありません。法的係争中だからと言って、許認可の変更手続きを禁止する規定はありません。
 その結果として、法的係争中に対象となる行政処分が変更されることがあり、その場合に係争中の手続きや一旦でた下級審判決などの効力がどうなるかという、悩ましい問題が発生します。
 筆者が比較的多く手がける、都市開発を巡る係争では、建築確認処分や開発許可処分を巡る係争手段が用いられることが多いのですが、係争中に建築計画が変更され変更確認処分が出たり、開発許可に関して変更処分が出たりすることはよくあります。
 このような場合の新たな処分が出たことの係争手続きへの影響については、実は一律に決まっているわけではありません。
 個々の行政処分の根拠法令の許認可制度の仕組みがどうなっているのかや、係争手続きがどのような段階にあるのか、何が変更されたのか等により、個々に判断することが求められます。
 建築確認と開発許可を比べてみても、かなり状況は異なっています。
 建築確認の場合、一部だけの計画変更であっても、新たに変更された建築確認処分がなされた場合、もとの建築確認処分は効力を失い、新たな建築確認処分だけが存在する状況になったとされています。(この考え方自体、法文には明記はなく、裁判所の考え方も変遷してきていますが、現在ではこのような考え方が主流となっています)
 そうなると、もとの係争対象の処分はすでに効力を失っていることから、それを係争する意味はなくなってしまい、請求は却下されるという結論となります。それでは自動的に変更後の確認処分に対する判断をしてもらえるかというと、訴訟物は処分単位なので自動的にはそのような扱いはされません。実務的には、新たな建築確認処分に対する取消訴訟を提起する必要があることとなります。もとの建築確認に存在した違法性は、それが変更確認の中で修正されてしまえば、消滅することとなります。この場合旧処分に対する請求手続きと併合して、訴えの変更による対処が出来るのかどうか、この点も法文に明記はありませんが、実務的には可能という扱いがされています。
 手続き進行中に変更がなされた場合には、このような対処が可能ですが、タイミングによってはかなり悩ましい場合があります。現実に一審の弁論終結後判決までの間に変更確認処分がなされたような事例もあり、そのような場合には仮に勝訴判決が出ても、対象処分は判決時点で消滅していることとなり、大変悩ましい問題です。
 他方で、開発許可の場合には、当初の開発許可を係争中に、計画が変更され変更開発許可が出た場合、こちらは建築確認と違って、当初開発許可は依然として存続し、その上に変更開発許可が乗っかるような法的構造とされているので、当初の計画を巡る係争手続きが却下されることはありません。当初の開発許可に存在した違法性は、当初の開発許可の取消訴訟の中で判断されると言うことになります。他方で、変更開発許可に独自の違法な点があるならば、その違法性は変更開発許可の取消訴訟を提起してその中で争う必要があります。手続き的には当初の取消訴訟と併合して両者に対する判断を求めると言うことになります。当初の開発許可に違法な点があった場合に、それが変更開発許可で解消された場合に、違法であった当初開発許可の違法性が治癒されるといって良いのかどうかは大変悩ましい問題です。
 このように、係争中の行政処分に変更がなされた場合の係争方法は法的にも、当事者の手続き負担という面からも大変やっかいなものとなります。
 最近の区画整理事業を巡る訴訟で、一審が区画整理事業計画を違法と判断した画期的な事例で、高裁が原判決を取り消した事例がありました。(羽村市駅前土地区画整理事業を巡る事件 東京高裁令和4年8月8日判決一部却下一部棄却・原審平成元年2月22日東京地裁判決取消認容)
 いろいろと論点のある事件ですが、控訴中に事業計画が変更されたことから、原審で違法判断がされた事業の資金計画の違法性については控訴審の判断対象外とされ、手続き的な適法性に絞った判断がされています。原告らは変更された事業計画については地裁に別訴を起こし係争を継続中です。
 この事例もまた、係争中の処分内容の変更という問題の一事例です。
 いずれにしても、今の行政訴訟の構造からはそう簡単に解決方法のない悩ましい問題と言えるでしょう。

(2023年2月執筆)

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執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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