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企業法務2013年01月25日 退職金規程の不備からくる紛争 執筆者:浅井隆

 私どもは、仕事の性質上、使用者の方々から日常的に労働相談を受けますが、最近多いのは、
 「退職した元社員から未払賃金を請求されたが、どう対応したらよいか」
 「問題社員がいるので辞めてもらいたいが、どうしたらよいか」
というものです。
 ここ10年、労働組合絡みの集団的労使紛争は増えていませんが、個別労働紛争は、労働者の個別意識の高まりもあって飛躍的に増えています。その典型が未払賃金を巡る問題です。また、中国、韓国等東アジアの企業との国際競争が激しくなる中で、競争を勝ち抜くために、企業としては社員にそれまでより高い仕事のレベルを求めるようになり、その結果、基準を満たさない社員等、いわゆる問題社員が増え、それに伴う紛争も出てきています。
 このような相談を受けると、まずは、その相談者である企業から就業規則等の規程類(賃金規程、退職金規程その他)を取り寄せ、相談者の言い分が通るかを確認します。
 未払賃金の問題は、多くの場合退職した元社員からの請求からです(在職中、未払賃金を請求する勇気ある社員はいません。)。その未払賃金の中に未払退職金が入っていたりします。例えば、
 「(退職金規程はないが)退職金を支払う慣行はあるので請求したい」
 「自己都合退職で計算されたが、今回は会社から退職勧奨されたので会社都合退職のはず、差額を請求したい」
というものです。こういう問題は、退職金規程が整備され、かつ適切に運用されていれば発生しえない問題です。相談を受けた私どもは、「慣行」については、支払実績とそれにルール性を見出せるか調査し、相談者の言い分が通るか見極めます。自己都合、会社都合については、退職金規程の書き分けとそれまでの同種・類似事案の支払いの仕方を確認します。
 また、問題社員対応の相談には、当該社員の在職中の問題行動を時系列で整理し、行動を特定(具体化)してその問題度で解雇可能か(労働契約法16条:解雇権濫用法理、同15条:懲戒権濫用法理)を分析しますが、仮に、解雇する場合、退職金は出るのか(支給制限条項の確認)、出るとしてどのような計算でいくら出るのか、を算出します。
 退職金の有無や金額までを相談者に事前に確認するのは、問題社員が退職勧奨に応じずに(あるいはそれをせずに)解雇したとき、退職金も出ないとなると「窮鼠猫をかむ」状態になって労働紛争になる可能性が高まるので、それを事前に予測し、予防するためです。
 そのような確認の中で気付くのは、やはり相談者側の退職金規程の不備です。
 つまり、退職金の支給制限条項がない、あっても「懲戒解雇をした場合」しか規定されていない、ということです。
 支給制限条項に不備がある場合、例えば、懲戒解雇しようとして調査を始めたら退職届が提出されたという場合は、2週間(民法627条1項参照)で退職となるので、懲戒手続が間に合わないという致命的結果を招くことになります。
 私どもが、今回、「退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集」を本にまとめるべく裁判例を調べたところ、退職金・退職年金をめぐる紛争は過去1200件強ありました。
 退職金は、未払賃金の中でも金額が多額になるので、紛争になりやすいのです。
 ここ10年の個別労働紛争の急増は冒頭にお話したとおりですが、退職金規程に不備がある企業は、これまで以上に紛争にさらされます。
 ということで、読者の皆様には、紛争にさらされる前に、退職金規程に不備がないか確認されることをおすすめします。

(2013年1月執筆)

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