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民事2024年04月17日 社長の責任、法廷で追及へ 乗客家族「直接問いたい」 「知床観光船事故2年」 提供:共同通信社

 北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人が死亡、行方不明となった事故から、23日で2年となる。運輸安全委員会は昨年9月、「閉鎖が不完全だったハッチから浸水したことが原因」とする報告書を公表したが、海上保安庁などの捜査はなお継続中だ。「法廷で社長を直接問いただしたい」。北海道や千葉県などに住む乗客14人の家族は損害賠償を求め、5月にも提訴する。
 事故は2022年4月23日、半島西側の観光名所「カシュニの滝」沖で発生。これまでに20人の遺体が見つかり、6人が行方不明となった。海保などは昨年も半島沿岸を集中捜索したが、新たな発見には至らなかった。
 北海道帯広市の男性(51)は元妻と7歳だった息子の行方が分からない。訴訟に参加するため24年2月、息子について、法律上亡くなったものとする「認定死亡」の手続きをした。原告となるには「遺族」である必要があったためだ。市から3月末に電話で受理を告げられた。命日は22年4月23日となっていた。
 2人がこの世にいないとはどうしても思えず過ごしてきた。「あくまで書類上のこと」と自らに言い聞かせたが、手続きに踏み切るまで2カ月ほど悩み続けた。
 運航会社「知床遊覧船」の桂田精一(かつらだ・せいいち)社長(60)が乗客家族に真摯(しんし)に向き合っているとは思えず、どうしても聞きたいことがある。「同じ小さな子を持つ親として、どういう気持ちで生活しているのか。本当に責任を感じているのか」と。
 最近よく見る夢がある。補助輪付きの自転車に乗る背中に「待って」と叫ぶが追い付けない。空の上の様子を聞かせてくれる―。息子が離れていく姿ばかりだ。現実を認めなければと思うが、つい内容をスマートフォンにメモしてしまう。
 葬儀は行わない。事故から1年の昨年4月23日に出港地の斜里町ウトロで荒れる海を見て、2人がどれだけ苦しんだのか分かった気がしてつらかった。
 弁護団によると、船の整備や当日の出航判断などで必要な安全策を怠ったと訴え、会社と桂田社長を相手に札幌地裁に提訴する方針。

社長捜査、高いハードル ハッチ浸水「証拠なし」

 運輸安全委員会は昨年9月、知床観光船沈没事故の最終的な調査報告書を公表し、閉鎖が不十分だった船首付近のハッチからの浸水が原因だと指摘した。第1管区海上保安本部(小樽)などは運航会社の桂田精一(かつらだ・せいいち)社長(60)を業務上過失致死容疑で捜査しているが、ある捜査幹部が「本当に50センチ四方のハッチから船が沈むほどの水が入ったのか。報告書の内容はどれも推論だ」と述べるように、ハードルは高い。
 報告書によると、波で船体が揺られてハッチのふたが開き、甲板部に打ち込んだ波が船体内部へと流入した。閉鎖されていなかったことの根拠として、事故の約1週間前に撮影された写真や、2日前の救命訓練参加者の証言を挙げた。しかし捜査幹部は「確実な裏付けとは言えず、証明としては不十分だ」と話す。
 事故3日前には日本小型船舶検査機構(JCI)が船体を検査していた。後に不十分だったとの批判を受け体制が強化されたが、幹部は「ハッチが原因だったとしても、JCIが気付けなかった不具合を社長が見つけることは困難。もし社長に過失があるなら、JCI関係者も責任を問われる」と指摘する。
 事故で死亡した豊田徳幸(とよだ・のりゆき)船長=当時(54)=は当日、同業他社の社員から「(悪天候になるから)行ったら駄目だぞ」と忠告された。しかし桂田氏と打ち合わせ、海が荒れたら引き返す「条件付き運航」で出航したという。その判断の誤りを過失とみる向きもあるが、別の捜査関係者は「同業者の忠告は経験則であり、裁判の証拠にはならない」と否定的だ。
 そもそも船の安全に一義的な責任を負うのは船長だ。運航中に海が荒れたら引き返したり、避難港に寄ったりすることができるのは陸にいた社長ではなく、船長だからだ。
 検察当局は事故の捜査に専従する検事を指名。専門家の協力を得て再現実験を行うなどし、慎重に原因の解明を進める方針だ。

観光客減少、地元に影 コロナ後の回復鈍く

 観光船沈没事故は、地元の北海道斜里町の観光にも暗い影を落としている。町によると、2023年の観光客数は新型コロナウイルス禍前の19年から約3割減った。山内浩彰(やまうち・ひろあき)町長は「事故の影響で、周辺自治体に比べて戻りが明らかに鈍い」と危機感を抱く。
 農業、漁業と並び、観光は町の主要産業の一つだ。特に05年に町の一部を含む知床半島が世界自然遺産に登録されて以降は自然体験が目玉となった。「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没したのも知床岬まで往復するコースの途中だった。
 観光で町を訪れた人は19年に約122万人。コロナ禍の21年には約55万人となったが、行動制限が解除された23年は約86万人と7割まで回復した。だが、道庁によると、道全体では9割近くまで回復しており、知床観光の遅れが目立つ。
 事故後、町内の観光船業者4社は、運航可否を複数社で協議し、判断が分かれた場合は欠航するなどの自主ルールを設けた。しかし採算が取れず1社が24年3月末で廃業した。今季も営業する「ゴジラ岩観光」は独自に救命いかだを購入して対策を強化するが、神尾昇勝(かみお・のりかつ)統括部長は「うちもどうなるか分からない」と気をもむ。
 町は観光客に戻ってきてもらおうと、各アクティビティーの事業主体に任せていた安全策を一元的に管理し、情報発信する仕組みを6月を目標に立ち上げる。山内町長は「安心していただくため、できることは何でもやる」と話している。

旅客船事業、更新制に 国交省、66項目の再発防止

 北海道・知床半島沖の観光船沈没事故では、運航会社の安全管理体制の欠如や、国・関係機関による監査や検査の実効性の問題が指摘された。国土交通省は66項目の再発防止策を掲げ、取り組みを進めている。2023年度末までに35項目を実施済み。24年度からは、悪質業者の排除に向け、小型旅客船の事業許可を更新制にする新制度が始まった。
 国交省は22年4月に有識者委員会を設置。同12月、法令違反をした旅客船事業者への罰則強化や抜き打ちによる監視などの対策を打ち出した。法改正が必要な項目もあり、23年4月に改正海上運送法が成立。小型旅客船の事業許可を原則5年の更新制とする規定は、今年4月から施行された。
 他にも、法令違反をした事業者へ内容に応じて点数を付与し、一定点数に達すると事業停止などの行政処分を科す制度も4月から始まった。小型旅客船や遊漁船の船長に必要な免許を取得する際、事故防止に関する講義と実習を追加し、修了試験も実施する。
 新造船に対し、浸水しても船内に広がらないよう甲板下を仕切る隔壁の取り付け義務化は25年度から実施予定。対応が難しい場合は浸水警報装置など代替設備の設置を求める。救命いかだの搭載を義務付ける方針も固め、詳細を検討している。

KAZU Ⅰ(カズワン)

 運航会社「知床遊覧船」が北海道・知床半島沖の周遊航路に使っていた観光船。長さ12メートル、幅4メートルで定員は65人。1985年に山口県内で造られ、瀬戸内海の定期航路で使われた後、知床遊覧船に所有権が移った。2022年4月23日に沈没し、同29日に水深約120メートルの海底で発見、6月1日に網走港に陸揚げされた。国土交通省は知床遊覧船の事業許可を取り消す行政処分をした。

(2024/04/17)

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